池澤夏樹のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
池澤さんにはこのタイプの本がけっこう多いように思うのですが、写真+小説というスタイルです。
サーフィンの魅力に取り付かれた主人公は、ふだんは日本で仕事をしているけれど、まとまった時間がとれると、休暇をとってハワイに波乗りに行く。
あるときふとした縁で、有名な建築家が建てたという家を訪ねるようになる主人公。そこには出身も年齢もさまざまな、ハワイの魅力に取り付かれた人々が入り浸っていて……
男運がわるくて日本で苦労してきた老婦人が、ハワイに移住してがらっと生き方が変わった……というエピソードがありまして、本筋にはそれほどかかわってこないんですけども、そこがすごく印象に残りました。
池澤夏樹さんって、北海道生まれの方なのですが、沖縄やギリシャやフランスと、これまでいろんなところに移住していらっしゃって、旅にもたくさん出ておられるんだそうです。だから小説にも、色んな土地の魅力があふれていて、読んでいると旅をしたくなります。二泊三日の観光旅行じゃなくて、一ヶ月とか二ヶ月とか、腰をすえてそこの暮らしを体感するような……。
もちろん実際にはしがない小市民である自分には、そこまでやれる思い切りはありませんが…… -
Posted by ブクログ
火山活動についての研究者である主人公の頼子は、日々忙しく研究にいそしむ一方で、仕事と日常の間の折り合いのつけ方に、心の底のほうで疑問を抱いている。
ある日、弟の友人である広告マンが、頼子のもとに、変わった話をもってくる。電話を利用したサービスを企画しているのだという。
その企画の名称は『シェヘラザード』。色々な分野に関する短いエピソードを大量に集めて、利用者がその番号にダイヤルすると、その中からランダムにひとつのストーリーが選ばれて、読み上げられる。
その話のひとつひとつには、意味はありそうであまりない。何が出てくるか分からないことが、価値なのだという。ふとした日常の隙間にダイヤルしてみて、飛び出してきた話が好みに合うかどうかは分からない。人は意味や意義や目的や効率に飽きていると、広告マンは言う……
うーん、一応書いてはみたけれど、この小説に関しては、あらすじを書いてもあまり意味がないのかな、という気もしています。
ストーリーがどうというよりも、そこに載せられたテーマ、思想、生き方や概念、そういうものへの共感や驚きが、この小説のポイントなのかなと思います。
池澤さんの本の魅力のひとつに、その豊富な幅ひろい知識と、独特の澄んだ視点があります。ものごとの見方というか……
……ああ、なんと言ったら伝わるのかな。たとえば鳥や虫や草木、夜空に瞬くはるか遠くの星、火星の赤い砂漠、上空を循環する大気の流れ、火山の内部で起きていることや、熱帯の森に埋もれた古文明の遺跡、木々の闇にひそむもの。
その語られる分野は広く、たとえば自然科学、地球の歴史や天文、気候や風土、文化や芸術、民俗や信仰、戦争や歴史――この世界のありよう、そこに生きるものたちについて、ひどく広いさまざまな視点から、それも抽象的な概念ではなく、肌で感じるものとして、語られている。世界に向き合う姿勢というのか……
うう、書けば書くほど、何か書きたいこととずれていくような気がする。
変な書評になってしまいました。
読む人によって好みは分かれるかもしれないのですが、すごく好きな一冊です。 -
Posted by ブクログ
火山学者の女性が、「電話をかけると物語をひとつ聞かせてくれる」というベンチャー事業に関わりながら、言葉やものがたりへの見方を変えてゆく話。
主題は多分言葉や物語と現実との溝だと思います。
一言でまとめてしまえば、言葉や物語は、重ねれば重ねられるほど、どんどん現実から乖離してゆく。それならば自分の五感を信じよう、という話でした。
言葉にはいつも誤差があって、物語にはいつも脚色がある。
それは確かにそうだろうな、と思います。
けれど結局それは、物語の場合は聞き手側が面白いことを望んでいるからそうなるのであって、物語自体の性質ではないのではないかな、と。そして言葉の含む誤差もまた、オブラートとしての役割を果たしているのだと思います。
なんというか、私たちは同じものを見ていると言う認識をさせること自体がオブラートなのではないかと。実際は私たちは自分の解釈した世界にたった一人で立ち尽くしているけれど、言葉によって共通項を見出していく作業によって、その孤独を埋めているのではないかな、と思います。理論的にではなくて。
だから、きっと、自分のその情景に対する思いが強ければ強いほど、世界と言葉は乖離していくのではないかと。
読みながらそんなことを考えました。
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Posted by ブクログ
カイマナヒラとは、ダイアモンド・ヘッド(ダイアモンド・ヒル)をハワイイ語で発音したものらしい。タイトルからも分かるように、ハワイイの、それも「カイマナヒラの家」を中心としたショートストーリィ。1つ1つが短編のようになっているが、基本はカイマナヒラの家を中心として起こる人間模様を描いている。全体としてのまとまり方と、話ごとのシメ方が妙技ですぐ読めてしまった。
とりあえずこういう雰囲気のある小説を読むと、自分はかなり影響される。ハワイをハワイイと書きたくなるし、サーフィンもやってみたくなるし、浜辺で水平線をいつまでも眺めていたり、水平線に沈む夕日を見たりしたいと思う。馬鹿みたいに単純である。しかしながら、節操がないわけではない、と一応断っておきたい。読んだ小説全てに何かの記述が書いてあったからと言って、必ずしもそれに影響されるわけではなく、むしろ、小説全体を通して感化された時に、それに書いてあるものに呼応するのだ。自分の中に何かを残す、もしくは読んでいる間に心の中に染みいってきて引いていく、そういう小説にこそ、呼応する価値がある。読む小説全てがそういう魅力をもって自分に迫ってくるわけではない。そういう小説に出逢えることは、ささやかな幸せだ。
この小説はまさに、ささやかな幸せを届けてくれる小説だった。一つ一つの話が、穏やかな波のように寄せては引いていく。決して、大きな激しい波ではない。あくまで、穏やかな波だ。そして、寄せるだけではなく、必ず引いていく。ただ、その波は確実に何かを残してくれる。それが、憧れという単純な形として表出したのだ。
読めば、その穏やかな雰囲気と、そこはかとない寂しさが染みいってきて、心の中に静寂が広がる。写真がその効果を増幅していることも疑いない。疲れた時に、ふと静かに読みたい本だ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレワカタケル
日経新聞に連載されていたのは知っていたのですが、単行本になったので一読。
古事記の世界観が入った古代日本の王「ワカタケル」の生涯。
男は剣と弓で世を統べるが、女は予知と呪術でそれを助ける。
そんな中でワカタケルが如何にして王位を継承し、国を統べたのかの物語。
生者の生々しい陰謀・謀殺の背景に巫女や死者である先祖の助言があり、王位についたらついたで豪族の統制、朝鮮半島や中国との関係に心を砕く必要があり、なかなか大変な大王職の様子を知ることができます。
ただ、冒険譚としてはちょっと臨場感が少なく、あまりわくわくはしませんでした。
池澤氏も年を取ったのかな?という印象でした。
竹蔵 -
Posted by ブクログ
森見登美彦さんが竹取物語、宇治拾遺物語を町田康さんが担当しているのがキャラクターを表していて面白い。そして作家さんが各々「俺が書きそう」「編集部から割り当てられただけだけどお笑い担当なんだな」と言っているのが笑えた。
今の若い人の言葉と昔のかしこまった言葉の混ざり具合がおもしろかったです。
→言葉は純粋にやっていくと滅びるんですよね。やっぱり混ぜていかんとね。ただ、混ぜるのもコツがありますね。バンドをやってるとき、よくあったんですよ。各パートでレコーディングした音を最終的にミックスダウンで一つに混ぜるわけですけど、みんな目立ちたいから自分の音量を上げたがる。それでムチャクチャになって全体のバランスを見始めるんです。
ええバランスじゃないとね、なんぼ音上げても聞こえへん。よっしゃあ関西弁でいったろかいと思っても、全部が全部、関西弁やったらうるさくて聞こえへんかもしれん。ミックスするときはバランスをとらなあかんということです。何でも一緒ですよね。
町田さんは『宇治拾遺物語』という原曲を忠実に再現するんじゃなくて、カバー曲を新しくつくって聞かせているんだなって。
→ 仰るとおり、カバーですね。でもメロディーは絶対に変えてません。メロディーとは話の筋です。展開や結末を変えるようなことはしてないです。ムードも変えてません。暗い曲を明るい調子でやったりはしてなくて、もとのムードがより活きるようにやってます。弾き語りの曲にいろんなオケをつけたみたいな感じですね。原文にないことは書かない。原文から聞こえてくる音以外はつけない。だから原文を潰してやろうとか、原文と闘ってやろうとか、そういう意識はまったくなかったです。
このやりとりが心に響いた