Posted by ブクログ
2017年08月15日
雪深い山中のログハウスで愛する妻を野獣に食い殺された動物学者の城島。足首を噛み砕かれ、喉元を鋭い牙で刺され、腹を食い破られるという凄惨な現場写真をみて、その顎力の強さから大型犬の仕業ではないことを悟る。妻はオオカミに殺されたのか… しかしニホンオオカミははるか昔に絶滅しているはず。悲しみを胸の奥深...続きを読むくにしまい、城島は妻を殺した獣の正体を雪上に追う!
ニホンオオカミの詳しい生態と、農業や林業を生業としていた人間との共生関係、そして山を生活の場としていた漂泊民・サンカ。昭和の初期には失われてしまっていたそれらの古き山村の民俗文化を織り交ぜながらも、城島が一本気な行動で謎の獣を追い詰めて行く闘いの描写が非情に骨太で緊迫感があります。
次第に明らかになる獣の正体。その影に見え隠れする自然の摂理を無視した邪な人間の意思。冒険小説としても一級品ですが、ミステリーとしての展開もよく出来ていて一気に物語の世界へ引き込まれていきます。
「新田次郎文学賞」という冠に恥じない名作です。