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江戸時代からの宿場本陣の旧家、一柳家。その婚礼の夜に響き渡った、ただならぬ人の悲鳴と琴の音。離れ座敷では新郎新婦が血まみれになって、惨殺されていた。枕元には、家宝の名琴と三本指の血痕のついた金屏風が残され、一面に降り積もった雪は、離れ座敷を完全な密室にしていた……。アメリカから帰国した金田一耕助の、初登場作品となる表題作ほか、「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」の二編を収録。 カバーイラスト/杉本一文
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Posted by ブクログ
横溝の中でもベスト3に入れたい大好きな作品。もはや何度読んだことか… 何を書いてもネタバレになりかねないので、ここでは名作であるとしか言えません。 「車井戸はなぜ軋る」と「黒猫亭事件」の二作品も収録されてますが、この二作品がまた名作。
久保銀蔵や磯川警部といった金田一耕助シリーズの主要人物達が登場する作品。 久保銀蔵は金田一の支援者で、本陣殺人事件の被害者である花嫁克子の叔父。 私はこの銀蔵氏がとても好きなのだ。彼はこの時代にアメリカへ渡り苦学してカレッジを卒業している。渡航すること自体大変なことだろうに、さらにあちらで働き生活を...続きを読むしながら自力で学校を卒業したのだ。物語の人物だとしても、とても尊敬できる人物である。また、金田一がアメリカにいた頃に彼の学費の面倒をみたり、帰国後も何かと気にかけて援助をしたり、金田一が「おじさん」と呼ぶところを見ても彼と金田一の信頼関係がよく分かる。
金田一耕助が最初に登場した『本陣』をはじめとする初期の三つの事件。 この三つの事件から分かった金田一耕助の来歴はこんな感じ。 ●十九歳で、同窓生の風間俊六(『黒猫亭』に登場)と共に東京に出て大学に通う。 ●1930年代:なんかふらりと渡米してしちゃった。アメリカでは毎日ぶらぶら暮らして危うく麻薬中...続きを読む毒患者となりそうなところを日本人街で起こった殺人事件を見事に解決!それを見た日本人実業家久保銀造(『本陣』の関係者)が耕助のことを気に入り、パトロンになった。この時耕助はアメリカのカレッジの学費を出してもらってる。金田一耕助はアメリカの大学を卒業していた!!もじゃもじゃボサボサよれよれだけどアメリカの大学卒業って、この時代にすごい経歴ですよね。 ●1930年代半ば:日本に帰り、久保銀造から費用をせしめて探偵事務所を開設する。初めは「門前雀羅(もんぜんじゃくら)、事務所には閑古鳥」状態だったけれど、大阪で起きた大事件を見事解決し、日本中にその名前を轟かせ、警察の上層部とも知り合いになる。 ●1937年(昭和12年):24、5歳で『本陣殺人事件』を解決する。この時知り合った磯川常次郎警部とは、今後も岡山県で起きる事件で組むことになる。 『本陣殺人事件』は、「疎開中の横溝正史が、村の人々から聞いた話」という体裁となっている。 ●1940年くらい:召集されて、中国や南洋の戦地を転戦する。(終戦後、そのまま「獄門島」に向かう。) ●1946年(昭和21年) :34、5歳。『獄門島』事件の帰りに、岡山に疎開していた探偵作家・Y(横溝正史)を訪ねる。ここで横溝正史は正式に金田一耕助の記録作家になり、親交が始まる。 『車井戸はなぜ軋る』もこの年の事件。 ●1947年(昭和22年):探偵事務所はもう閉めたらしい。召集時に閉めたのかな。 終戦後、同郷で同窓生の風間俊六と再会する。風間俊六は建築業の親分となり、茶目っ気と男気があり、鋭さも若々しさも持っている男で、金田一耕助は、風間の二号だか三号だか十七号だか…がやっている旅館に住まわせてもらっている。(『黒猫亭事件』) 金田一耕助のパトロンは、久保銀造と、この風間俊六の二人に増えました 笑 なお、金田一耕助が警察と合同捜査できるのは「警察上層部の推薦状」を持っているからということ、そして人を惹きつける性質のためついついみんなが助けてしまうという人柄のため。 金田一耕助の捜査方法は、「警察による足跡捜査や、指紋検出から得た結果を論理的に分類総合して推理する」という方法です。 『本陣殺人事件』 終戦を迎えた横溝正史は「これからは本格小説一本でやっていこう」と決意する。 横溝正史が取り上げたテーマは「日本家屋における密室殺人」。どうやらこれが日本の推理小説初の密室殺人事件のということ。 昭和12年。 江戸時代には宿場の本陣であった一柳家で、40歳で当主で賢蔵氏と、27歳で元女学校の教師の克子の婚礼が行われた。 その明け方に鳴ったまるで引っ掻くような琴の音。そして悲鳴と倒れるような物音。 人々が夫婦の別宅に飛び込むと、そこには惨殺された夫婦の死体があった。 入り口はすべて閉ざされ、庭に積もった雪には足跡もない。 そこへ登場した金田一耕助という探偵。そしてまた琴の音が響き…。 === 動機が、没落する田舎の旧家で代々の気質が組み合わさって起こったかなり特殊なものになっている。それでも当時の閉鎖的な村の因習やら、登場人物たちの気質やらを考えると、この時代の本人たちにしてみたらそうなるしかなかったのか…と思えてしまう。 犯人は密室にするつもりはなかったのに、偶然の出来事と、犯人の心理が大きく動いたたために結果的に密室になった、ということがより劇場的になっている。 『車井戸はなぜ軋る』 K村の名家本位田家は、先代夫婦が車井戸に身を投げたことにより没落を辿っていた。 現当主の庄次郎は名家の跡取りとして鷹揚に育っていた。しかし彼には母親違いで小作人の伍一がいた。 二人は出兵し、庄次郎だけが戻ってきた。だが彼は盲目となり、人が変わったように暴力的な性格となっていた。はたして帰ってきたのは本当に庄次郎なのか。 『黒猫亭事件』 横溝正史は金田一耕助に「”顔のない死体”の推理小説って、だいたいが入れ替わりなんだよね。それだけじゃない”顔のない死体”推理小説が書きたいなあ、なにかいいネタないかい?」と聞いてみた。すると金田一耕助がこんな事件を提供してくれた。 色町の酒場「黒猫」の裏庭で、顔の判別がつかない女の死体が見つかった。「黒猫」の女将のお繁かと思われ、亭主の大伍の行方が捜索される。 だがこの夫婦にはそれぞれ密会の相手がいたらしい。お繁の男は建設業の親分の風間俊六。大伍の囲い女はお艶。 それではこの死体はお艶なのか、お繁なのか?
金田一耕助初登場作品。 元々は東西ミステリーベスト100で1位の『獄門島』を読むつもりでしたがまずはシリーズ第1作を読まねばと思った次第です。 『本陣殺人事件』 終戦後間もない1946年に書かれた作品です。 日本家屋に関する言葉の意味が分からなさすぎて、現場の情景が浮かばず、その都度スマホで画像検...続きを読む索しました。枝折り戸、四つ目垣、格子戸、戸袋、欄間、鴨居…等々。 約200ページの話ですが、金田一耕助が出てくるのは70ページを過ぎたところ。 登場時点(昭和12年の事件)で25、26歳の青年だけど、20歳の頃にアメリカに渡って麻薬常習者になってたという話が出てきて、じっちゃんってそんなファンキーな人だったの!?と驚愕しました。 『金田一少年の事件簿』に漂うおどろおどろしさはじっちゃん譲りなんですね。トリックも思った以上に大掛かりで、これだけの話が戦後間もない時代に既に考えられていたことに驚きました。 (小説を読んだ後に連続ドラマ版(古谷一行主演、1977年)をU-NEXTで観ました。あの大掛かりなトリックが映像だとどう表現されるのかが一番の目的でしたが、見事に原作通りで、家屋等のロケ地もよく見つけたなという感じだし、犯行動機の改変も説得力があり、面白かったです。また、推理小説をそのまま映像化するのは難しく、どう取捨選択するかが大事であることがよく分かりました。映像化する時はトリックの詳細な説明よりも犯行動機などの抒情的な部分を強調した方がドラマとして受け入れやすいのでしょうね。あと70年代の女優さんは本当に美しいですね。) 『車井戸はなぜ軋る』 見事に騙されました。物語冒頭で僕は「事の真相はこうだろうな。ちょっと簡単すぎじゃないかな」と思って、実際そういう方向で進んでいくのですが、終盤の怒涛のどんでん返しに圧倒され、読み終わった後の脱力感が凄かったです。 これ金田一必要ないんじゃない?と思って調べてみたら、元々は1949年に発表された作品で、1955年に改稿して金田一ものにしたという経緯だったそうで、なるほどーと思いました。 『黒猫亭事件』 こちらも見事に騙されました。冒頭で事件の真相に触れていて、途中でなるほど、そういうことかと思ったのですが、終盤でさらにどんでん返しがあり、そのことも最初から堂々と書いてあることに気づいた時の衝撃が凄まじかったです。 金田一耕助は実在の人物で、横溝正史は彼が関わった事件の話を本人から聞いて、それを小説にしているという設定なんですね(『本陣殺人事件』の時は無許可で名前を出してるのはどうかと思いましたが)。次はいよいよ『車井戸はなぜ軋る』『黒猫亭事件』でも名前だけ出てきた『獄門島』を読みます。
金田一初登場作品!機械的トリックが凄い、犯行動機もまた凄い!!日本でしか発想できない日本的推理小説!!!
金田一探偵の華々しいデビューである、本陣殺人事件と他2編の小説が描かれています。どれも魅力と謎に溢れていて普通に楽しく読めました。相当古い小説ではあるものの、まだまだ色褪せない名作といった感じです。
中編と100ページほどの作品が2つ。 長くないけど面白く読めた。 タイトルの作品は金田一初登場作品。 残りの2つにも出てきます。 タイトルと「黒猫亭事件」は映像化されてる。
初、横溝正史。 クリスティー攻略本で何度も横溝正史の名前が出てくる。「横溝正史はクリスティーを愛好していて作品が相似している」と書かれているので読みたくなった。 作中で作者である横溝正史が、あることを読者に説明するのに、「アガサ・クリスティー女史の『○○』から学んだのである」と語っていた。 作中で...続きを読む名前まで出してるー!突然クリスティーの名前が出てきて何だか嬉しかった。 トリックの使い方や名家一族みんなが何かを隠していて怪しい感じは、クリスティー作品から影響を受けているのかなと感じたけど、横溝正史初心者の私にはそこまで似ているかどうかわからなかった。 『本陣殺人事件』が1番好きだった。 おどろおどろしい雰囲気に謎の不審者の存在が気になり、一気に心を掴まれた。 1946年なのでクリスティーと同じ年代なのに、クリスティーの作品では絶対にあり得ない動機で、当時のイギリスと日本の文化の違いも面白く感じた。 Audibleにて。 次のAudibleは迷いに迷って、『ストーンサークルの殺人』に決めた。 以前に少し聴いたけど、グロが苦手なので途中でやめていた。ブク友さん達の評価も高いので再挑戦。
『陰摩羅鬼の瑕』を読んだら、どうしても『本陣殺人事件』が読みたくなってしまった。 随分久し振りの再読だったので、金田一耕助シリーズの語り手がY氏……もとい、横溝正史本人と気付くのに少しかかってしまった。そうか、伝聞調でストーリーが進むのだったっけ。 3編からなる1冊。表題の『本陣殺人事件』はまさしく...続きを読む『陰摩羅鬼の瑕』につながる部分がありつつも、趣きは180度違う。機械仕掛けのトリックも、物語の装飾如何で受け取る印象も深刻になる。琴と不審人物と雪……事件の背景としてこれ以上のものはないよなあ。 『車井戸〜』も『黒猫亭〜』も、人間の業の深さというか、ムラ的因縁とか、その辺の湿っぽさが壮絶だ。謎やトリックはもちろんのこと、そういった人間的背景が時代感も伴って物語に陰影を与えてるように感じる。 それにしても…………金田一耕助というキャラクターは、魅力的でずるいよなあ。事件の合間を飄々と飛び回る。「金田一耕助」だからこそ、この一連の事件簿はたまらなく面白いのだろう。他も改めて読み直してみようかな。
日本を代表する名探偵、金田一耕助のデビュー作「本陣殺人事件」を含む三編が収録された一冊。カーに影響を受けた鮮やかな密室トリックの「本陣殺人事件」は勿論、顔のない死体をテーマにした(一風変わった)「黒猫亭事件」も面白く、読みやすかった。
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