普段、ミステリー小説はあまり読まない。
それでもこの作品を手に取ったのは、Xで見かけた読書投稿をきっかけに、
「読んでみたらどうだろう」という小さな声が、心のどこかで響いたからだった。
特に気になったのが、湊かなえさんの作品だった。
物語の中心に描かれるのは、
新進気鋭の映画監督と、まだ世に出ていない脚本家の二人。
世間からの評価や立場は対照的だが、
どちらもそれぞれの人生に課題を抱え、それと向き合おうとしている。
印象的だったのは、
映画監督が「過去」を辿り続けているのに対し、
脚本家は「現在」を生きながら、
どこかで「見ないふり」をしている、という対比だった。
監督の一貫した「知りたい」という姿勢と、
脚本家の「知ることから目を背ける態度」。
この二つの姿勢の違いが、物語の緊張感を生み、
背景を少しずつ浮かび上がらせていく。
物語が進むにつれて、
脚本家が次第に「知ろうとする側」へと踏み出していく。
自分の中で蓋をしてきたものと向き合うことは、
痛みを伴うこともある。
それでも、知ろうとすることでしか、
人は前に進めないのだということを、
この物語は静かに示しているように感じた。
また本作は、
「事実」と「真実」の距離についても考えさせられる。
メディアを通して語られる世間の評価は、
ときに情緒的で、無責任ですらある。
事実は一つでも、
それをどう繋ぎ、どう解釈するかによって、
見えてくる“真実”はまったく違ってしまう。
事件や出来事を題材にしたドキュメンタリーや脚本、物語も、結局は事実と事実を想像力で繋ぎ合わせて構成されている。
その想像力の使い方によって、
人を救うこともあれば、傷つけてしまうこともあるのだろう。
ミステリー小説の世界だけでなく、
現実社会のニュースや出来事においても、
流されてくる情報に自分が揺らぐのではなく、
一つ一つの事実をどう繋ぎ合わせるのか、
自分自身の想像力と姿勢が問われているのだと感じた。
読み始めた当初は、
何を描いているのか掴みきれない部分もあった。
しかし、物語が進むにつれて、
「あっ、そういうことか」と点が線になっていく。
伏線が回収されていく過程に、
この先どうなるのだろうという高揚感が生まれ、
気づけばページをめくる手が止まらなくなっていた。
この作品は、
ミステリーとしての読み応えだけでなく、
「知ろうとすること」「見ないふりをしないこと」の大切さを、読後に深く残す一冊だった。
僕にとっては、
ミステリーの面白さと同時に、
物事をどう受け取り、どう考えるかという姿勢そのものを
あらためて見つめ直すきっかけになった作品でした。