黒原敏行のレビュー一覧

  • シャギー・ベイン

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    圧巻の600ページ。1980年代のグラスゴーにて、自己破壊的だが美しく誇り高い母アグネスと、3人の子どもたち、そしてアグネスを良いように扱う男たちを描く。サーチャー政権下の炭鉱閉鎖、失業、貧困、有害な男らしさと女性蔑視、性的指向、アルコール中毒、カトリックとプロテスタントの対立とこれでもかというくらい暗い要素ばかり。機能不全の家庭のアル中の毒親の虐待物語と突き放すこともできるが、そういう要素を否定できないからこそシャギーの母への愛がとにかく美しく悲しいと感じた。2020年のBooker賞受賞作。

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    2025年11月21日
  • 蠅の王〔新訳版〕

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    現代の社会実験として十分に説得力があり、ところどころに挿入される寓話は物語としても強固である。中でも「野蛮人」へとすり替わる描写は我々の先入観を強烈に刺激する。

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    2025年11月12日
  • 蠅の王〔新訳版〕

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    ネタバレ

    乗っていた飛行機が無人島に不時着した少年たち。最初は大人のいない自由な生活を楽しんでいたが、次第に摩擦が生じ、殺し合いに発展していく。
    少年たちは、大人ならこんなことにならなかったのでは?と考えるが、ラストに描かれた巡洋艦がその考えの否定を示唆している。作中では科学や知性の象徴である眼鏡が殺人に使用される。現実でも科学の産物が戦争に使用されている。この島は世界の縮図ではないか。私たちの中には〈獣〉が潜んでいる。それを自覚する必要があるのだ。

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    2025年11月02日
  • 幻の女〔新訳版〕

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    素晴らしい読書体験、読後の爽快感と満足感に感動を覚えた。タイムリミットが刻々と迫る焦り、結末が気になってページを捲る手がとまらなかった。これが80年以上前に書かれたとは驚嘆に値する。
    テンポの良いストーリー展開、どんでん返し、そして美しい文章から漂う幻想的な雰囲気と3拍子揃った傑作だと感じた。
    次はぜひ、原書にチャレンジしたい。

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    2025年10月13日
  • すべての美しい馬

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    イアン・マキューアンを読んで以来、現代海外文学の面白さに気づき、いろいろ読んでみたくなった。で、コーマック・マッカーシーを手に取ってみた。
    本作はメキシコが舞台の辺境3部作の一冊。

    いや〜面白かった。なんだろう。久しぶりの感覚。起承転結ありの正統派小説。血生臭くてグロくてあまりにも残酷な成長物語。

    馬と暮らしたい、牧場で働きたいとの漠然とした気持ちからグレイディは友達のロリンズと馬に乗り、テキサス州からメキシコへ国境を越えて行く。野宿をし銃で狩った兎をバラして食べ、川の水を飲み行く宛を探しながら旅をする。命の危険と隣合わせの旅。途中で見ず知らずの少年に会う。この少年も銃と立派な馬を持ってい

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    2025年09月30日
  • 八月の光

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    一生忘れられない作品になりました。実験的な作品構造と、思考を強要させられるような表現に驚かされつつ、出来のいい人間ドラマとしても楽しめました。
    現代人が直面するアイデンティティの不在に対する問題意識は、クリスマスの苦悩と重なる部分があると思います。

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    2025年09月30日
  • ナイルに死す〔新訳版〕

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    ネタバレ

    小学生の時に映画の『ナイル殺人事件』を見てこのトリックにとても驚いてミステリにはまるきっかけの1つになった。最近また映画を見たけど、少し無理があるのかな~って思ったけど、原作だと少しカバーできていた感じ。殺人事件が半ばまで起きないけど飽きずに読めるのはさすがだな~。

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    2025年09月25日
  • ナイルに死す〔新訳版〕

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    ポアロシリーズ。
    今回の舞台は、ナイル川を遡上する豪華客船。クリスティー作品ではお馴染み(?)の裕福な美女を巡るロマンスを軸に、登場人物たちの不穏な思惑が複雑に絡み合う。

    ミステリー作品なんだけど、中盤までなかなか事件は起きない。それでも著者の卓越した描写力で、普通に人間ドラマの読み物としても面白い。

    本作は何と言っても、ポアロの魅力がふんだんに詰まった作品だと思った。謎を解き明かす観察眼と推理力は言うに及ばずで、一癖も二癖もある登場人物たちとの関わり方、言葉の選び方、思いやりや慈悲深さなど、ポアロの人としての魅力が印象深かった。

    エジプトのナイル川での旅情や、事件発生後の犯人探しは最後

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    2025年09月06日
  • すばらしい新世界

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    え、これ100年近く前の小説って
    ちょっと待ってよ

    人間が大量生産される未来
    そこは幸せしかないユートピア
    不満も孤独も執着も病気もない
    死の恐怖も消されてる

    睡眠学習による洗脳で
    老いや不潔を嫌悪
    不調は早めの薬で治し
    ゴルフなどのスポーツ最高
    余暇には映画や旅行を楽しむ

    おいおい
    いま私がいる世界は
    すでにユートピアではないか
    しかも不満はないです
    今を楽しむのは良い事だと思います

    モラルに縛られ
    欲に潔癖なジョンを生きづらそうな
    変な人と思ってしまいます

    すでに
    条件付けされている
    新世界に住むわたし






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    2025年08月18日
  • すばらしい新世界

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    再読。ユートピアとディストピアの違いは何かを考えさせられる。時代はフォードが大量生産を始めた頃を始めとするフォード紀の後の世界。その世界では瓶で子供が生殖され、人間同士が生殖行為によって子供を作るなど野蛮な原始人のような行為とみなされている。

    さらに洗脳教育および階級付け、ソーマといった快楽を得る薬物の存在。かなり前の小説であるものの、ユートピアを実現するための手段を、用意周到に練って考えられていることに驚く。

    上記の技術自体、倫理的な観点を考えなければ実現可能であると想定されるし、倫理など世論でいくらでも変わる。例えば、少子化がこのまま進み続けて子供を人間が持つことへの意味がなくなってき

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    2025年08月18日
  • 蠅の王〔新訳版〕

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    無人島に漂流した少年たちが互いに協力しながらもサバイバルを続ける。その中で次第に火や道具といった理性的な物を中心にする派閥と、狩りを中心にした暴力的な派閥に分裂してゆく。それはさながら現代の左派と右派の対立を象徴するかのようだ。どちらの要素も人間には必要不可欠であり、絶対的な正義はなく、極限の環境によってそれはいくらでも暴走しうるという人間の本性があるのみである。少年たちを主人公にすることによって、少年たちが大人を理想像的に思い描いているが実はその少年達の姿こそが本来に人間の姿に最も近い点が印象的だった。

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    2025年08月06日
  • 闇の奥

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    ポーランド生まれのイギリス人作家コンラッドの作品。自身が1890年ごろコンゴ自由国を訪問した経験に基づき書かれている。当時のヨーロッパから見たアフリカがどのような印象であったかがよくわかる。

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    2025年07月19日
  • 蠅の王〔新訳版〕

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    ネタバレ

    ラスト、少年たちが大人に救助され、野蛮人やリーダーから少年に戻ったけど、この子たちはこの先どうなるんだろう……と感じる
    島での経験は傷跡となって一生残りそう、絶対忘れられない
    続きが読みたくなる良い作品
    最後、ラルフがピギーのことを友だちだと認めて泣いていたのが良かった……切ない

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    2025年07月13日
  • 平原の町

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    国境三部作のうち、すべての美しい馬と越境には幾度も目を通していたものの、この平原の町は未読のままだった。前二作が余りに素晴らしかったためその続編たる本作には何となく期待を裏切られそうな気もしてずっと手を出さなかったのだ。だが流石はマッカーシーいざ目を通してみればその心配は杞憂に終わった

    ジョンに起きた悲劇はキリスト教では邪悪な生き物とされる山犬(ジャッカル)の仔犬を彼が助けたことでもたらされた災いのように思えてならない

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    2025年07月04日
  • ザ・ロード

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    ハーラン・エリスンの「少年と犬」と並び、私のなかでは2大ディストピア小説。大好きだ。荒廃した世界で生きるために静かに移動し続ける父と息子。何度も読んでいるせいか時々断片的に夢に見る。

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    2025年06月13日
  • 越境

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    ネタバレ

    大まかなストーリーは背表紙に、捕まえた狼を故郷のメキシコへ越境して連れて行くと書いてありましたが、3分の1過ぎて予想外の展開に。

    前作よりストーリーのスケールは越境のほうが大きいと思いました。

    プリマ・ドンナや元老兵士そしてジプシー?や旅人が、様々な世界のあり方や捉え方を予言のごとく語ります。彼らにはビリーをどう見ていたのかどう映っていたのか。

    コーマックマッカーシーの本は時と場所を選んで静かに読みたいと思いました。

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    2025年04月19日
  • ナイルに死す〔新訳版〕

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    ネタバレ

    1937年イギリスで出版
    2003年発行 文庫
    訳者 加島祥造
    最初に 著者の前書きと
    訳者からのおねがい が載っている
    *ゆっくり読んで
    *地図を見て参考に
    *「探偵小説が[逃避行文学]だと
      するなら読者はこの作品で
      〜南国の陽射しとナイルの青い水の国
      に逃れてもいただける訳です」アガサ
    ...ひととき旅するように楽しんで
    ってことか...

    ・リネット.リッジウェイ(ドイル)
      →美貌の若い資産家女性 銃で殺される
    ・サイモンドイル→リネットの結婚相手
    ・ジャクリーン.ド.ベルフォール
     →リネットの親友でサイモンと婚約していた

    リネットとジャクリ

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    2025年04月13日
  • ナイルに死す〔新訳版〕

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    1937年の作品。
    ポアロ・シリーズ長編15作目。

    あらすじ
    美貌の資産家の娘、リネット・リッジウェイは世の中で手に入らないものはないと思われるほど恵まれた境遇だった。美貌、金、聡明さ…全てを兼ね備えていた彼女だったが、貧しい親友のジャクリーンの恋人、サイモン・ドイルのことが好きになり、彼女から奪い結婚してしまう。ジャクリーンは自分を裏切った2人を恨み、新婚旅行のエジプトまで追いかけてくる。
    たまたま休暇中だったエルキュールポアロは、このエジプトのツアーでリネット夫妻とジャクリーンと一緒になる。一行はナイル川沿いを巡るカルナック号のツアーに参加するが、そのツアーの最中にリネットが何者かに撃た

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    2025年04月07日
  • ナイルに死す〔新訳版〕

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    現代の日本の作家のミステリーももちろん面白いが、やはりクイーンやポワロの活躍する探偵小説はいつでも面白い。比較的長い作品にも関わらず、事件の真相が明らかになるとその長さの中に無駄がなく伏線が詰まっていたのだと分かって衝撃だった。

    (あらすじ)
    2人の男女が愛し合っていたが、男は裕福な女性リネットと結婚してしまった。2人はそのままエジプトへとハネムーンに出かけるが、そこに男のかつての婚約者が現れた。女の出現に怯えるリネットだったが、撒くために乗り込んだ船にも女が現れ、リネットはその後死体となって発見される。果たしてこれは復讐のための殺人か!?エルキュール・ポワロが明かす意外な事件の真相とは!

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    2025年04月05日
  • すべての美しい馬

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    全米図書賞と全米批評家協会賞受賞。映画化されている本作は、後の『越境』と『平原の町』を合わせて〈国境三部作〉と呼ばれる一作目。過酷な運命に翻弄される少年の成長を描く、ロードムービー的冒険譚の名作だと思います。

    あらすじ:
    16歳のジョン・グレイディ・コールは、祖父の死とともに牧場を失うと、一つ上の親友レイシー・ロリンズを誘って旅にでます。それは、高速道路に車が走る時代に、愛馬に乗って自らの居場所を求める越境の旅でした。途中、荒涼とした大地を旅するうちに、後に彼らの運命を翻弄することになる年下の少年と出会い、連れ立って旅を続けた一向に待ち受けていたものとは……。

    翻訳がいいのか、クセのある濃

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    2025年04月01日