あらすじ
お腹の子の父親を追って旅する女、肌は白いが黒人の血を引いているという労働者、支離滅裂な言動から辞職を余儀なくされた牧師……近代化の波が押し寄せる米国南部の町ジェファソンで、過去に呪われたように生きる人々の生は、一連の壮絶な事件へと収斂していく。ノーベル賞受賞作家の代表的作品。20世紀アメリカ文学の傑作!
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
一生忘れられない作品になりました。実験的な作品構造と、思考を強要させられるような表現に驚かされつつ、出来のいい人間ドラマとしても楽しめました。
現代人が直面するアイデンティティの不在に対する問題意識は、クリスマスの苦悩と重なる部分があると思います。
Posted by ブクログ
ディープサウスの田舎町を舞台に繰り広げられる、壮絶な物語。一つの事件を様々な登場人物の視点から語ることで、当時のアメリカ南部の宗教的価値観や人種問題を克明に描き出している。
内的独白や葛藤が究極の密度で描写されるため、多少読みにくい部分はあるものの、翻訳がとてもよかった。
この物語のテーマをあえて一言で表すならば、「孤独」。登場人物の誰しもが何らかの孤独・内面的葛藤を抱えており、それら「社会のはぐれ者」の視点から当時の南部の因習を語ることで、作品の深度を高めている。
リーナとバイロンがテネシー州に一緒に行くラストは、希望的に描かれていると感じた。バイロンの内的独白『人間ってたいていのことには耐えられる』(p.606)は、おそらく作中唯一の前向きなメッセージ。ふたりがその後どうなったかは語られないものの、結ばれてほしいなと切に願う。
以下、メモ書きおよび人物像
⚪︎ジョー・クリスマス
黒人との混血であることを原因に、自己認識に苦しむ姿を描き、読者に対してアイデンティティの倒錯を追体験させる役割を担っている。
⚪︎ジョアナ・バーデン
先祖から伝わる奴隷制度廃止論を、田舎町で静かに貫いている中年女性。善人として描かれると思いきや、クリスマスと情交に堕ちていく様はとても人間臭く、この女性の人物像をよりリアルなものとしている。
⚪︎ゲイル・ハイタワー
南北戦争で活躍した先祖に囚われすぎていることが原因で迫害にあってしまった元聖職者。孤独を抱えながらも、人には親切。
⚪︎リーナ・グローヴ
作者曰く、本作品の主人公。身重だが、まっすぐに未来に向かって進もうとする。暗い本作品において、唯一希望的に描かれている。
⚪︎バイロン・バンチ
最も普通の人物として描かれている。この人物の内面的葛藤は恋愛から来るものであり、他の人物より一回り軽いように感じる。50キロ離れた町で聖歌隊を指揮する一面も。リーナのことが好きすぎて、リーナの子供の父親と決闘するも惨敗。
Posted by ブクログ
フォークナーをこんなに面白く読めたのは初めて。翻訳が素晴らしい。各登場人物のこだわりが凄まじく、おかしくなるほど。執念に近い強い意志で、周囲がなんと思おうと自分の思い通りに行動する。でもその源には、祖先や両親や慣習などの影響力が働いていて、結局のところ、本当に自由には生きられない。シンプルな考えで動くリーナが一番力強くて明るい。
Posted by ブクログ
街の中に暮らす様々な人たち。彼らはみんなどこか愚かで、どうしようもない。そのどうしようもなさが、リアルで、自分の中にもあるものとして感じられる。
閉塞感や孤独、回復できないほどの精神的傷なんて、現代社会に限るものではないんだと思った。どうやって、より良い社会を築けばいいのか、途方にくれる。
ワインズバーグ、オハイオの後に読んだのは、正解だった。
Posted by ブクログ
遠い昔に原著で挑戦したが読破できなかった物語を新訳で挑戦。すごくわかりやすい。翻訳家ってすごい。
物語自体は割りと重い。アイデンティティや孤独をテーマとした話がアメリカ南部を舞台に展開される。
Posted by ブクログ
戦間期のアメリカ南部。黒人や女性を抑圧する社会の空気に縛られつつ抗う。そのあり様は登場人物によって様々で、彼らが織りなす物語に福音書のイメージが重ねられもする。訳者は後書きで読者に再読を勧めているが、確かにそうすることによって汲み出すことができるものは多いように思う。ただ結構長い作品なので、実際再読するかと言われると考えてしまう。
Posted by ブクログ
「普通」の人生などないと改めて感じさせる。なかでもクリスマスのアイデンティティの拠ってたつもののなさに一滴混じった悪意の果たすものの大きさ、それがもたらした複雑な生き様、そして悲劇には深く考えさせられるものがあった。人生において繰り返し読むに値する一冊。それにしても米国南部の歴史が抱える深い深い業よ。
Posted by ブクログ
出だしの美しさにピンと来たら、読んで見るべきだ。
映画業界に参入する事で、小説家としての立ち位置が
微妙になった感のある、フォークナー。
だが、月の光がどこへ導くのか。
村上春樹の、ねじまき鳥クロニクルのような、
ある種行き着く先の知れない感じを楽しみたい人にお勧め。
あまり難しく考えないで読んで、時が来たら意味を調べるのが良いと思う。
Posted by ブクログ
このタイトルをつけてくれてよかった(とんでもなく暗い内容とかけ離れた爽やかさ+8月になると読んでみようかなというきっかけになった)。あらすじの予備知識でもあったら手に取っていないかもしれない。でも読み応えのある南部ゴシックで、充実の読後感。最初と最後が本作の中ではごく少数派の楽観的でおっとりとした人物達の話なのも救われた。
Posted by ブクログ
リーナ・グローヴ、ジョー・クリスマス、ゲイル・ハイタワーの3名を中心に物語が展開してゆく。物語は全体としては当時の黒人差別問題も相俟って、暗く陰気な感じで覆われているが、リーナにはどこか明るい雰囲気も漂う。ルーカス・バーチを追い求めて歩き続けてきたという導入部も、行動じたいはけっしてポジティヴなものとはいえないが、いっぽうで心の片隅に希望を抱いているからこそ、あてどのない旅を続けることができるのである。また、リーナは最終的に出産し、「人間ってほんとにあちこち行けるものなのね。」というセリフで締められる。さしづめ「希望」の物語である――というのは早計で、じつは希望なんてないような気もする。いっぽうでクリスマスは、幼少期からして孤児院に捨てられ、養父に虐待されて育ち、成長すると養父を殴り倒し、また情交相手の女性を切り殺す。その後逃亡を図ったすえに射殺されてしまう。リーナが「希望」の物語なら、クリスマスは「破滅」の物語――というのもやはり違っていて、クリスマスは最初から最後まで徹頭徹尾クリスマスでしかなく、そこには希望も破滅もない。クリスマスがクリスマスの人生を歩んでいるだけである。こうなるとハイタワーの物語が示している内容も単純で、あくまでもありのままのハイタワーを描いたものでしかない。三者三様に見える人生は、その実単にあらかじめ定められた方向に進んでゆくだけである。こういった人生を描くことで、当時のアメリカ南部に漂う独特の閉塞感を表現しているのだと思う。
Posted by ブクログ
ノーベル文学賞受賞のフォークナーの代表作。アメリカ南部の田舎町ジェファスンを舞台に、外見は白人でありながら黒人の血を引くクリスマスと天真爛漫な生粋の南部娘であるリーナの物語を主軸に(しかし交わらずに)アメリカが抱える澱みを描く。
本作品を理解するにはそもそもの時代背景を知る必要がある。北東部では新たな跳躍の希望を抱き、対する南部では依然として閉塞感と黒人差別が残り禁酒法下の鬱憤とした時代、相反する感情を伴いアメリカとして自信が揺らぎいいしれぬ怒りが漂う時代。それらを端的なメタファーを用いるでもなくカタルシスを生み出すでもなく、直接的描写をしつつも明確にはせず重奏的に物語を紡ぎ出す。
正直一度読んだだけでは理解できたとは言い難いが本作が持つ迫力と凄みが伝わってくる。少し時間をおいて再読したいと思う。
Posted by ブクログ
訳注も親切で読み易さバツグンの黒原訳にも関わらず、難儀した。読むのに難儀したというよりも、む?どう受け止めよう?と。
昔読んだのにすっかり忘れていて、こんな話だっけ?というのと、誰の立ち位置に立てばいいんだ?という戸惑いで、終始頭の中がグチャグチャだった。