黒原敏行のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレハヤカワの『海外ミステリ・ハンドブック』から。
こーれは面白かったです!オススメ。
【あらすじ】
妻と喧嘩して家を飛び出し、あてもなく街をさまよっていたヘンダースンは、”パンプキンのような”帽子をかぶった見ず知らずの女と出会う。食事をし、劇場でショーを観て、酒を飲んで別れて家に帰ると、待っていたのは絞殺された妻と警察だった――。
第一章から「死刑執行日の百五十日前」と始まり、続く章もすべてその形式でタイムリミットが近づいていきます。
死刑執行を待つのみのヘンダースンに代わり、親友であるロンバードが”幻の女”を探すのですが、なかなか一筋縄ではいかず。あらゆる疑念が浮かぶ中で、すっかりロンバード視点の物語に夢中になっていただけに、真相には度肝を抜かれたといってもいいでしょう。私はてっきり”幻の女”はその筋の奥方で、だから出てこないのだと思っていましたが……。
自分の無実を証明してくれるはずの女が見つからない、というストーリーは横溝正史の短編にもありましたが、オチも同じでは、というのは全くの杞憂でした。
本書は、プロットの鮮やかさだけでなく、詩的な文章表現も特徴的です。
ミステリーでありながら、登場人物の内面を豊かに表す文学的な表現が多く、一般小説としても読み応えがあると思います。
ただ、あれだけ印象的な振る舞いをした同伴者を忘れるか?!と思わなくもないのですが、これは偏見かもですが男性だったらありがちなのかな。。
そして今回なにより感じたのが、予備知識のない状態で読むミステリーの面白さ!
私はこれまで、”王道ミステリー”だとか”外せない名作”だとか、どうしても期待値の上がってしまう作品を手に取ることが多くありました。
本書も、広く愛され評価の高い一冊ではあるのですが、どんな探偵だとか評価ポイントだとか、そういった事前情報はほぼゼロの状態で読み進めたので、「この先どうなってしまうのだろう」と新鮮にワクワクすることができました。
詩的な表現に触れながら、緊張感のあるミステリーに触れたい方に、ぜひオススメの一冊です! -
Posted by ブクログ
ネタバレ妻と喧嘩して家を飛び出したスコットは、バーで特徴的なオレンジ色の帽子を被った女と出会う。食事とショーをともにした後スコットが帰宅すると、家には警察がおり妻が殺されていた。妻の首にはスコットのネクタイが巻き付いていて、彼は殺人の容疑で逮捕されてしまう。スコットはバーで出会った女が自分の無実を証明してくれると思い彼女のことを思い出そうとするが、記憶にあるのは特徴的な帽子だけ。刑事とともにバーやレストラン、劇場をまわりスコットと一緒にいたオレンジの帽子の女を見ていないか尋ねるも、みな口を揃えたように一人でいるスコットしか目撃していないと証言する。そんな中、ついにスコットに死刑判決が下る。
スコットは死刑執行までの日々をただひたすら過ごすだけだったが、彼を逮捕した刑事バージェスは、もしかすると本当にスコットは無実なのではないかと考えるようになる。そこでバージェスは、スコットの親友ロンバードに、スコットの無実を証明するため幻の女を探すように依頼する。スコットの浮気相手だったキャロルの協力も得ながら、少しずつ幻の女へと近付いていくが、行く先々で、幻の女のことを目撃していた人々が何者かに消されていく。
犯人がオレンジ色の帽子の女を「幻の女」に仕立て上げた方法についてはやや強引だが、犯人にとってもその女が幻となってしまったところは皮肉が効いていて面白い。
「死刑執行日の◯◯日前」という章題が焦燥感を駆り立てる。どれだけ訴えても自分にとって不利な状況を打開できないもどかしさと恐怖が上手く表現されている。読みやすい訳でテンポもいいので、あっという間に読み終わる。
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Posted by ブクログ
凄い言葉を生むための物語。
胸に押し当てたいほど美しいものは全て苦悩に起源を持つ。それは悲しみと灰から生まれる。
- 63ページ
かたちを喚び起こせ。ほかになにもないところでは無から儀式を創り出しそれに息を吹きかけよ。
- 86ページ
善意が見つけてくれるんだ。いつだってそうだった。これからもそうだよ。
- 326ページ
全て凄い言葉。言葉に、“凄さ”を付与するための話。
「火を運ぶ」という言葉が多義的に解釈されている。解釈に一側面を付け加えるならば、これは“律”だ。そして律は、人間の主観なしには作り得ない。人間が作るものには全てが信仰が含まれる。それは律であっても例外ではない。
世界をあるべき姿に正すためには、律を作り出す時に用いた信仰を実践するしかない。つまるところ、“善い者”でなければならない。これはもちろん、自分にとっての善さに他ならない。
火を運ぶ中で少年は原初の火を灯し続けるが、彼は彼らの作り出したのとは違った律が世界に混ざり込み、たびたび少年と衝突する。その結果、大抵悲惨な事態を引き起こすが、父の世界を取り込み、少年の律も変容する。
しかし、どれだけ律が変わろうと、火を運ぶという目的が変わることはない。なぜなら、火を運ぶことは、律の内容とは全く無関係に行うことができるからだ。
コーマック・マッカーシーは、彼自身が火を運ぶために、我々に「言葉」という手段を用いて語りかけているように思う。それは、キャラクターと、物語による、「凄い言葉」という形をとって成される。
リストを作れ。連禱を唱えよ。憶い出せ。
- 38ページ -
Posted by ブクログ
無人島に不時着した飛行機、そこで生き残った子供達による生活を描いたものであるが、新訳版ということもあり、非常に読みやすくはあったものの、西洋の文化的な下地などをあまり理解できていなくても考えさせられるのは名作たる所以なのであろう。
果たしてこの作品の主人公ラルフは何歳の設定で、一体どの程度の人数が不時着し、何日ほど島で過ごしていたのであろうか。これらをあまり絞りすぎていないからこそ想像に頼らざるを得ない。
そもそも子供たちによる自治について、この作品では失敗に陥っているのであるが、何故にそうなったのかを考察することは、必要不可欠であろう。その要因たるものとして、集団心理より人の残虐性や人より優りたいという虚栄心にも似た欲望など、子供であろうとさまざまなものを人は元来有しているからなのであろう。
それは極限まで追い詰められればこそ判断・考えを超えたものが滲み出てくるのであろう。
火を起こすことにより、救助を求め続けることが正常な判断によるもので、これを正しいものとして描かれると反対に、豚を殺してその肉を食べるというのは何処か野蛮で悪を感じさせる描かれ方をしている。
しかし現実的に狩りを実行して食糧を確保するというのは生きていくことに欠かすことが出来ないもので、人間として「食べる」ことは何よりも優先されるべきものであり、そう考えればやはりそれを悪と捉えるとすれば、原罪的に人は悪の種子を有しているものと捉えられよう。
そしてどうして互いに反発し争わなければならなかったか。そこまでまだまだこの作品を読み込めていないのが本音である。 -
Posted by ブクログ
荒野に放置された弾痕の残る車輛と複数の死体、多額の現金と麻薬を見つけたら、そのまま放置して警察に連絡するに限る。現金を持ち帰り、再度現場を訪れるようなことをすると、地の果てまで追われることになる。
冒頭から物語に引き込まれ、ストーリーや登場人物の行動、セリフに引っ張られ、終盤まで連れていかれる。章立て冒頭の保安官のモノローグの印象が残っているうちに、主人公と追手が繰り広げる逃走劇が脳内に入り込んでくる。ストーリーが脳内に入ってくるのは、著者の作品『ロード』でも同じだ。その文体がそうさせるのだと思う。
主要な登場人物はすべて戦争経験者だ。オールド・メンの条件が戦争経験のように思うが、アメリカはどこかしらで戦争を継続しており、必ずしも古いタイプの男を指す条件ではないが、本書ではおおむねベトナム戦争経験者までをオールド・メンの対象にしている。2007年に本書の著者は80歳近い年齢であったことから、当然のカテゴライズだと思う。
古いこと、新しいこと、時代がかったこと、今時のこと、いろいろなことが掛け合わさって入り乱れてくるが、ストーリーが立ち整然と物語は流れていく。しびれるほど面白かった。