黒原敏行のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ私はこの作品における「ほら貝」は組織や社会といったシステムのメタファーであると考えた。強いカリスマ性を持つものが作り上げた組織ではそのリーダーが強い発言権を持つ。しかし、それはリーダーであるもののカリスマによって成り立っているものであり、民主的な行動(組織全体に発言権を持たせたり平等に接し合うこと)を行うのは有効ではない。また、物語終盤でほら貝が破壊されたのはシステムの崩壊を暗喩している。カオス状態の環境でシステムを維持するのは難しく、これまでのリーダーの行動に異議や不満を抱いていたものがそのシステムを崩壊させる行為はまさしく世界の縮図であると感じた。
非常に面白く色々と考えさせられる作品だっ -
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Posted by ブクログ
荒野に放置された弾痕の残る車輛と複数の死体、多額の現金と麻薬を見つけたら、そのまま放置して警察に連絡するに限る。現金を持ち帰り、再度現場を訪れるようなことをすると、地の果てまで追われることになる。
冒頭から物語に引き込まれ、ストーリーや登場人物の行動、セリフに引っ張られ、終盤まで連れていかれる。章立て冒頭の保安官のモノローグの印象が残っているうちに、主人公と追手が繰り広げる逃走劇が脳内に入り込んでくる。ストーリーが脳内に入ってくるのは、著者の作品『ロード』でも同じだ。その文体がそうさせるのだと思う。
主要な登場人物はすべて戦争経験者だ。オールド・メンの条件が戦争経験のように思うが、ア -
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Posted by ブクログ
舞台は1940年代のアメリカ・メキシコ国境地帯。主人公の少年は、三度び国境を越え、馬に乗ってメキシコの地を延々と放浪する。
一度目は捉えた雌狼を生まれた地に送り届けに、二度目は盗まれた馬を取り戻すために、三度目は生き別れた弟を探しに。
主人公は孤独な旅を逞しく続けるが、その過程であらゆるものを抗いがたい暴力によって喪失していく。
壮大で厳格な喪失の物語である。
文庫本で600ページを超える大作だが、最初の1、2ページを読んだところで、あまりの読みにくさに挫折しそうになった。
独特な言葉遣いと長いセンテンス、詩的な情景描写、短い言葉を交わすだけのダイアログ、場面の切り替わりのわかりづらさ。
心 -
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Posted by ブクログ
ネタバレ物語の大半の舞台となっている、生きものを寄せつけず死体をすぐにからからに干からびさせてしまうアメリカ西部の岩だらけの原野のようにゴツゴツとした文体は、最初は読者を拒絶するようでもあるが、読み進めるうちになぜかペースに乗せられてしまう。何しろ長いので、読んでいるうちに慣れてしまう。むしろハマってしまう。
当たり前のように虐殺シーンが続くが、それが当然の時代だったというわけでもなく、この時代にあっても特に荒くれ者の(実在した)頭皮剥ぎ集団に身を置くことになった少年の物語。物語の終わりには少年ではなくなるので、ある意味ではビルドゥングスロマンに相当するのかなと思った。
感想を書くのは難しいが、何とな -
Posted by ブクログ
『信号弾はしゅーっと長く音を立てながら暗黒の中へ弧を描き海面よりも上のどこかで煙混じりの光にはじけてしばらく宙に懸かった。マグネシウムの熱い巻きひげが数条ゆっくりと闇の中をくだり渚の波が仄白く光って徐々に消えた。彼は少年のあおむいた顔を見おろした。
あまり遠くからだと見えないよね、パパ。
誰に?
誰でもいいけど。
そうだな。遠くからは無理だ。
こっちの居場所を教えたくてもね。
善い者の人たちにかい?
うん。ていうかとにかく居場所を教えたい人に。
たとえば誰?
わかんないけど。
神さまとか?
うん。そういうような人かな。』
目の前の本を読みながらどうしても他の本のことが頭 -
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Posted by ブクログ
「森の夜の闇と寒さの中で目を覚ますと彼はいつも手を伸ばして傍らで眠る子供に触れた」最初の一行が始まる。
おはよう、パパ
パパはここにいるぞ。
うん。
繰り返し描写される周りの情景、それは「寒さ」と「飢え」と「怯え」。
理由の見えない状況のなか、南へ向かう父と子の会話は、まるで詩の一遍のような響き。
本当であれば「暖かい家と家族」に囲まれながら将来を夢見るはずの子供が、人を食らう人に怯え、生きるために人を殺めることを恐れ、死を身近に感じたまま、父と話す。
もう死ぬと思っているだろう
わかんない
死にはしないよ
わかった
なぜもう死ぬと思うんだ?
わかんない
そのわかんないというのはよせ