黒原敏行のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「…世界の美しさに秘密が隠されていると思った。世界の心臓は恐ろしい犠牲を払って脈打っているのであり世界の苦悩と美は互いにさまざまな形で平衡を保ちながら関連し合っているのであって、このようなすさまじい欠陥のなかでさまざまな生き物の血が究極的には一輪の花の幻影を得るために流されるのかもしれなかった。」(459頁)
マッカーシーの名を知ったのは映画『ノーカントリー(No Country for Old men)』を観てから。マシーンのように冷徹に人を殺していくシガー(ハビエル・バルデム)が印象的な映画だった。
これ、原題をちゃんと見ないとタイトルの意味するところが全然伝わらない。原題は「古い世代の人たちに最早居場所はない」という意味らしい。
そして、このタイトルの意味はそのまま『すべての〜』にも通ずる。
主人公ジョン・グレイディ・コールは17歳の牧童(カウボーイ)だけれど、自分の愛する牧場が手放されることを機に“相棒”であるレイシー・ロリンズとメキシコへの旅に出る。
当初から「メキシコに行く」というように目的地を設定したわけでもないのだけれど、とりわけ第1部の大自然の描写はアメリカとメキシコとの境界を非常に強く意識させるし、“相棒”ロリンズとの会話以外はほとんど全編にわたってスペイン語で話される。
しかもご丁寧に会話文の横にスペイン語の発音がカタカナでルビ振られている。
2人は旅の道中で大きな牧場に住み込みで働くことになり、ジョン・グレイディはその牧場主の娘に恋をする。その描写も全然全く甘ったるいものではない。
そこから感じるのは娘アレハンドラを見つめるジョン・グレイディの眼差しをさらに遠くから見つめる目だ。その先にはどうにもならない哀しみが待っていることを予期しているかのような、突き放した視点。
そして、タイトルにもあるように、「馬」に関するこれまでに読んだことのないような美しく綿密で、そして畏怖の念を抱いた記述が特筆すべき点だと思う。
「彼(ジョン・グレイディ)にとっては馬を愛する理由こそ人を愛する理由である、それは彼らを駆る血とその血の厚さだ。彼が敬い慈しみ命のかぎり偏愛するのは熱い心臓を持ったものでありそれはこれから先もずっと変わることはないだろう。」(10頁)
「最後に老人は自分は馬の魂を見たことがあるがそれは見るからに恐ろしいものだといった。それは一頭の馬の死に立ち会ったときにある種の条件がそろうと見えるがそれというのも馬という生き物は全体でひとつの魂を共有しており一頭一頭の生命はすべての馬たちをもとにしていずれ死すべきものとして作られるからだ。だから仮に一頭馬の魂を理解したならありとあらゆる馬を理解したことになると老人はいう。」(185頁)
ジョン・グレイディの馬に対する接し方はかなり細かく描かれていて、カウボーイの文化(?)に関しての知識がそんなになくても馬への愛情、そして馬の息吹が伝わってくる。
冒頭で『ノーカントリー』と通ずる部分があると述べたけれども、それは「居場所がない」という点だ。ジョン・グレイディは「ここに自分の居場所はない」と考えて、メキシコへと馬を向ける。
そのことを象徴するように、ペレスという男にこう言われるのだ。
「きみははみ出し者(オベハ・ネグラ)だな、ちがうか? 黒い羊(オベハ・ネグラ)だ。」(316頁)
この『すべての美しい馬』も『ノーカントリー』と同様に映画化されている。というか、俺は先に映画を見たので、ある程度風景をイメージできたから読みやすかったのかもしれない。
主演はマット・デイモン、娘役はペネロペ・クルス。何気にちょい豪華キャストだった。自然を綺麗に撮ってあって、映画としてもなかなかよかったように思う。退屈と思う人もいるかもしれないけれど…。
あと『ロード・オブ・ザ・リング』3部作でものすげーカッコよかった人間の王、アラゴルン役のヴィゴ・モーテンセンが主演でマッカーシー原作の『ザ・ロード』も映画化されてるので、手っ取り早くマッカーシーの作品を味わいたいのなら映画を先に観るのも手だな。
3本ともそれぞれかなり毛色が違いますけれど。 -
Posted by ブクログ
【愛と欲に溺れる⁉︎ナイル川の旅路】
いやー、長かった...まるで、この作品の舞台となるナイル川をさかのぼる豪華客船の旅路みたいw
資産家と結婚した男の元婚約者が、拳銃を持ったまま旅先まで付きまとう。この不穏な空気を引っ張りながら、僕が読んだ版では250ページあたりまで誰も亡くならない。世界観に入り込むには少し根気がいります。
ただ、序盤の人物紹介に織り込まれた伏線が、事件の起きる中盤以降、ちゃんと効いてきます。長かったぶんも含めて、よく練られています。
愛も金も、人を狂わせるには十分すぎる力がある。
求める気持ちに歯止めが利かなくなると、ここまで破滅的な方向へ進んでしまうのかと。
「足るを知る」というのは、案外難しいのかもしれません。 -
Posted by ブクログ
ミステリの醍醐味とは
いかに鮮やかに
読者を裏切るかだ。
この作品は思いきり
裏切ってくれる。
海外ミステリ
オールタイム・ベストの
上位に入る名作!
帯に書いてある
この言葉に間違いはなかった。
冒頭、男が仏頂面で
街を早足で歩いている。
男は不意に入ったバーで
風変わりな帽子をかぶった
見ず知らずの女に出会う。
彼はその女を誘って
食事をし、劇場でショーを見る。
しかし、帰宅した男を
待っていたのは、
絞殺された妻の死体と
刑事たちだった。
男の名前はスコット・ヘンダースン。
ヘンダースンは殺人罪で
死刑が確定する。
ヘンダースンは親友の
ジャック・ロンバードに
幻の女を探してくれるように頼む。
また、ヘンダースンの彼女で
彼を愛するキャロル・リッチマンも
幻の女を探し始める。
しかし。
二人が出会う証人たちは
次々と不可解な死を遂げていく。
刻一刻と迫る死刑執行日。
果たしてヘンダースンの運命は。
出だしは風変わりな帽子をかぶった
幻の女の正体が気になる。
当初、ヘンダースンは
刑事たちと
その晩に訪れた場所を訪ね歩き
自分と女がいたことを
証言してほしいと頼む。
しかし、誰もがヘンダースンは
一人でいたというのだった。
不思議さが加速する。
さらに証人と思しき人物が
次々と死んでいくのに
恐ろしさが搔き立てられる。
そして。
クライマックスのどんでん返しへ。
鮮やかに裏切られる。
この作品はやはり
ミステリ史に残る傑作だ。