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Posted by ブクログ
物語は1949年から50年のアメリカテキサスとメキシコが舞台。
時代は戦争から平和な近代化を目指し、馬より化石燃料を必要とする流れの中、それでも馬を愛しカウボーイとして生きたい16歳の少年が、テキサスを離れメキシコでならまだカウボーイとして生きてゆけると信じ、もう一人の少年と旅に出る。
途中、年下の少年も加わり3人で旅をする。
メキシコで仕事にはありつけたが、少年の恋とメキシコ革命後に残る階級意識が少年たちの過酷な状況へと進んでいく。
さすがマッカーシーという作品で、ハッピーエンドで素敵な冒険でした、などという結末ではなく、時代変革期の脅威、人間の醜さ、そんな負の感情を抱きつつも、人間が根本にもつ信念の強さや生きる力を感じさせてくれる素晴らしい作品だ。
マッカーシー作品は前回読んだ「ザ・ロード」に続いて2作目だが自分には本当に好きな作家だとわかった。
独特の文体で、句読点で句切らず一文が長く続き会話も突然入ってくる。
しかし旅の情景描写のリアルさ、小さな比喩をいくつも重ね合わせて表現する繊細な感情表現が読んでいて非常に心地よい。
感覚的には読書しているよりも脳内に映画を流されている感覚にすらなる。
長編で長い時間作品に浸れる幸福感もある。
越境三部作、ぜひ次の作品も読みたいと思う。
Posted by ブクログ
ブラッドメリディアンに続き、コーマックマッカーシー作品は2作目。ブラッドメリディアンはひたすら荒野が続き、人間がその背後に引っ込んでいるような世界観で読むのに難儀した記憶があったが、本作はジョン・グレイディ・コールという人間が全面に出ていて読みやすかった。
冒頭のろうそくの炎が揺れて戻る描写など、物事の詳細を書きまくる文章は、時間をかけて脳内に映像として再生させる事を強いてくる。また、それは主人公が出会う自然やゆきずりの人々を前景化させる。主人公だけを特別視しないというようにも言えるし、主人公に極めて近い位置にいるカメラから見ている超高精細な物語と考えると、ジョン・グレイディ・コールに寄り添った文章とも思う。
ジョン・グレイディ・コールの純粋さが際立つ。馬に対する愛情、ロリンズやプレビィンズに対する友情、アレハンドラへの恋心、誰に何を言われても筋を通そうとする考え方。終盤で判事に打ち明ける逡巡。全てが純粋で、ある意味完璧な人間性とも言えるのに、だからこそ理想郷を求めて彷徨い続け、居場所が見つからずでいる様は、世の中の矛盾を感じさせる。でもそれは、判事や牧師の語った使命感に出会うまでの旅路なのかも知れない。こう書くとベタな話に思えるけど、でも良いんです。
西部劇要素が強く極めて男性的な物語なはずだが、女性がお飾りになっているようには感じなかった。後半の大叔母の独白は圧倒的で、世を動かしている男性の暴力性についての語りであり、ジョン・グレイディ・コールにも備わってしまっているものだ。判事に告白したように。
越境三部作という事なので残り二作も楽しみ。
Posted by ブクログ
イアン・マキューアンを読んで以来、現代海外文学の面白さに気づき、いろいろ読んでみたくなった。で、コーマック・マッカーシーを手に取ってみた。
本作はメキシコが舞台の辺境3部作の一冊。
いや〜面白かった。なんだろう。久しぶりの感覚。起承転結ありの正統派小説。血生臭くてグロくてあまりにも残酷な成長物語。
馬と暮らしたい、牧場で働きたいとの漠然とした気持ちからグレイディは友達のロリンズと馬に乗り、テキサス州からメキシコへ国境を越えて行く。野宿をし銃で狩った兎をバラして食べ、川の水を飲み行く宛を探しながら旅をする。命の危険と隣合わせの旅。途中で見ず知らずの少年に会う。この少年も銃と立派な馬を持っているが、得体が知れずでまかせばかりを話す。厄介な事が起こりそうなそんな矢先…。
メキシコの自然の描写が素晴らしい。会話文が文章の中に入り込んでいて、ややこしいんだけど慣れてくると自然に感じる。朴訥とした会話の中に人生観や哲学がある。成り行き任せ。老成した感もあるけど、しかし、彼らはまだ17歳。そこが味噌。若いからこそ怖い物知らずなんだよね。
主人公のグレイディがいいんだなぁ。寡黙で朴訥、強くて正直者で馬を愛する男。真っ直ぐなのよ。
周りに翻弄されながらも苦難に立ち向かう姿に感動させられる。
この時代のメキシコ情勢や国柄、人々の暮らしぶりが興味深い。闇も伺い知れる。
馬の調教シーンが印象的。グレイディにとって馬は家族であり、乗り物であり、財産であり、生きる目的なのだ。馬が居ればそれでいい。
不条理な目に合いながらも、自分の行いが正しかったのかどうかを自問自答するグレイディ。歩みを進める孤独な彼が行き着く場所はどこなのだろうか。
Posted by ブクログ
全米図書賞と全米批評家協会賞受賞。映画化されている本作は、後の『越境』と『平原の町』を合わせて〈国境三部作〉と呼ばれる一作目。過酷な運命に翻弄される少年の成長を描く、ロードムービー的冒険譚の名作だと思います。
あらすじ:
16歳のジョン・グレイディ・コールは、祖父の死とともに牧場を失うと、一つ上の親友レイシー・ロリンズを誘って旅にでます。それは、高速道路に車が走る時代に、愛馬に乗って自らの居場所を求める越境の旅でした。途中、荒涼とした大地を旅するうちに、後に彼らの運命を翻弄することになる年下の少年と出会い、連れ立って旅を続けた一向に待ち受けていたものとは……。
翻訳がいいのか、クセのある濃厚な文体ですがスグに慣れます。そんなことより、目に浮かぶような風景描写の妙味や、友情ありロマンスありヴァイオレンスありと、少年たちに突きつけられる理不尽で過酷な運命や、所々に表される箴言めいた哲学的な言葉の数々、そしてなにより読み進むほど先が気になる展開に夢中になってしまいました。また、ヴァイオレンスと言っても同著者の『ブラッド・メリディアン』のような残酷な描写はないし、同じくSF要素のあるロードムービー的な『ザ・ロード』にも引けを取らない名作だと思います(本作は『ザ・ロード』とともに、刑務所内での読書会を描いたアン・ウォームズリー『プリズン・ブック・クラブ』の作中で褒められていましたね)。また、馬に関する描写がたくさんあるので、馬を愛して止まない人にはおすすめです。
あと余談ですが、やたら”煙草”のワードが出てくるので気になって数えたら154回……。ただし、情景描写や動作の一環や道具立てとして書かれている場面が多く、アルカジイ&ボリス・ストルガツキー兄弟のSF小説『ストーカー』(こちらは60回)のように、必ずしも喫煙者なら”ここで火をつける”だろうなという場面ばかりではないです。そのため、登場人物たちの内面があまり垣間見えないどことなくドライなタッチの文章が、より強調されてる気がしましたね。
正誤(5刷)
P497の12行目
全米書評家協会賞→全米批評家協会賞
Posted by ブクログ
「…世界の美しさに秘密が隠されていると思った。世界の心臓は恐ろしい犠牲を払って脈打っているのであり世界の苦悩と美は互いにさまざまな形で平衡を保ちながら関連し合っているのであって、このようなすさまじい欠陥のなかでさまざまな生き物の血が究極的には一輪の花の幻影を得るために流されるのかもしれなかった。」(459頁)
マッカーシーの名を知ったのは映画『ノーカントリー(No Country for Old men)』を観てから。マシーンのように冷徹に人を殺していくシガー(ハビエル・バルデム)が印象的な映画だった。
これ、原題をちゃんと見ないとタイトルの意味するところが全然伝わらない。原題は「古い世代の人たちに最早居場所はない」という意味らしい。
そして、このタイトルの意味はそのまま『すべての〜』にも通ずる。
主人公ジョン・グレイディ・コールは17歳の牧童(カウボーイ)だけれど、自分の愛する牧場が手放されることを機に“相棒”であるレイシー・ロリンズとメキシコへの旅に出る。
当初から「メキシコに行く」というように目的地を設定したわけでもないのだけれど、とりわけ第1部の大自然の描写はアメリカとメキシコとの境界を非常に強く意識させるし、“相棒”ロリンズとの会話以外はほとんど全編にわたってスペイン語で話される。
しかもご丁寧に会話文の横にスペイン語の発音がカタカナでルビ振られている。
2人は旅の道中で大きな牧場に住み込みで働くことになり、ジョン・グレイディはその牧場主の娘に恋をする。その描写も全然全く甘ったるいものではない。
そこから感じるのは娘アレハンドラを見つめるジョン・グレイディの眼差しをさらに遠くから見つめる目だ。その先にはどうにもならない哀しみが待っていることを予期しているかのような、突き放した視点。
そして、タイトルにもあるように、「馬」に関するこれまでに読んだことのないような美しく綿密で、そして畏怖の念を抱いた記述が特筆すべき点だと思う。
「彼(ジョン・グレイディ)にとっては馬を愛する理由こそ人を愛する理由である、それは彼らを駆る血とその血の厚さだ。彼が敬い慈しみ命のかぎり偏愛するのは熱い心臓を持ったものでありそれはこれから先もずっと変わることはないだろう。」(10頁)
「最後に老人は自分は馬の魂を見たことがあるがそれは見るからに恐ろしいものだといった。それは一頭の馬の死に立ち会ったときにある種の条件がそろうと見えるがそれというのも馬という生き物は全体でひとつの魂を共有しており一頭一頭の生命はすべての馬たちをもとにしていずれ死すべきものとして作られるからだ。だから仮に一頭馬の魂を理解したならありとあらゆる馬を理解したことになると老人はいう。」(185頁)
ジョン・グレイディの馬に対する接し方はかなり細かく描かれていて、カウボーイの文化(?)に関しての知識がそんなになくても馬への愛情、そして馬の息吹が伝わってくる。
冒頭で『ノーカントリー』と通ずる部分があると述べたけれども、それは「居場所がない」という点だ。ジョン・グレイディは「ここに自分の居場所はない」と考えて、メキシコへと馬を向ける。
そのことを象徴するように、ペレスという男にこう言われるのだ。
「きみははみ出し者(オベハ・ネグラ)だな、ちがうか? 黒い羊(オベハ・ネグラ)だ。」(316頁)
この『すべての美しい馬』も『ノーカントリー』と同様に映画化されている。というか、俺は先に映画を見たので、ある程度風景をイメージできたから読みやすかったのかもしれない。
主演はマット・デイモン、娘役はペネロペ・クルス。何気にちょい豪華キャストだった。自然を綺麗に撮ってあって、映画としてもなかなかよかったように思う。退屈と思う人もいるかもしれないけれど…。
あと『ロード・オブ・ザ・リング』3部作でものすげーカッコよかった人間の王、アラゴルン役のヴィゴ・モーテンセンが主演でマッカーシー原作の『ザ・ロード』も映画化されてるので、手っ取り早くマッカーシーの作品を味わいたいのなら映画を先に観るのも手だな。
3本ともそれぞれかなり毛色が違いますけれど。
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