黒原敏行のレビュー一覧

  • チャイルド・オブ・ゴッド

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    残酷な事件の裏に漂う哀感。コーマック・マッカーシーの世界を読む。

    「チャイルド・オブ・ゴッド」は初期作品(1973年)だか、映画化によって2013年に邦訳された。

    アメリカ、アパラチア山脈にある貧困部落で、母は男と逃げ、父は自殺した。
    身寄りがなくなったレスター・バラードが育った小屋を含め周りの土地まで、税金滞納で競売にかけられるところから始まる。

    住処をなくした彼は、破れ小屋を見つけ、孤独な自給自走の生活が始まる。それが7~10歳のころ。

    粗野で粗暴で村人にも馴染まなかった、車で森に入ってきた若者のカップルを見つけて殺し、それから連続殺人が始まる。

    妹に対する近親相姦から、殺した女を屋根裏に隠して死姦を繰り返し、ついには放火。

    家がなくなった後は複雑な地形にある洞窟にすみ。まれな大洪水にみまわれ、犯行が現れて逮捕状が出る。弱りきった体で逃げ迷い、病院に来て自供し、死ぬ。

    多くの人種が混在している、広いアメリカの社会では、こういった山間部には貧困部落があり多くの小説の題材になっている。この犯人レスター・バラードもそうした社会で、人と交わらず教育を受けないで育つ。ライフルの腕を頼りに銃をいつも持ち歩いて狩りで食べ物を得ている。
    無知と、生きるために食べなくてはならないその日暮らし。しかしそういった生活は、危険から身を守ることを(独白で)言葉にすることが出来ても、自分自身を振り返ってみることなどまったく思いつかない。見方によれば動物的に、本能だけで動く主人公を残酷なまでに描き出している。

    陰惨な、犯人に関して言えば社会に見捨てられた悲惨な人生ではあるが、コーマック・マッカーシーが書く文章は、四季の風のそよぎであれ、吹きすさぶ吹雪に揺れる木であれ、レスターが徘徊する足の下で砕ける霜柱や、落ち葉が映つる無数の不透明なガラスのような霜柱を透る光など、澄み切った自然の風物が、テーマを浮き彫りにさせるような透明感を持つ。

    青く青い高い空、澄み切った流れ、野草に吹く風の音。鳥や獣の鳴き声や鳥の羽根が風を切る音。雪の上に残っている獣の足跡。作者の筆致は独特の情感を持っている。
    またこの作品は、ショートストーリーを積み上げることで、シーンが違っても実に気の効いた形で、回りの雰囲気や、中でもレスターの生い立ちが徐々に判明するように話が進んでいく。

    会話は括弧で囲まず詩のような箇条書きで雰囲気がいい、それも大きな特徴で、こうした構成が酷薄な事件を和らげているようにも思える。

    現実に起きた事件を基にしているとも言われるが、前面の露悪的な生々しい事件の周りが、まるで別世界に思えるような爽やかで透明で、殺されて無残な姿を晒す遺体の姿まで、大きな自然の中では、最後は静かに土に返るのが自然に思える。

    多くは非情な世界を書いているが、そうであっても読んでいると、こういった境遇に生まれた主人公の性のようなものから深い悲しみが伝わってくる。

    マッカーシーは作品が映画化され作家として安定した。今ではノーベ文学賞候補ともささやかれているという。

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    2026年03月05日
  • 蠅の王〔新訳版〕

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    闇のなかに横たわっていると、自分が追放者であることがよくわかる。「なぜならぼくにはいくらか分別があるからだ」

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    2026年02月21日
  • すべての美しい馬

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    ネタバレ

    少年たちの旅の中で、美しい馬が旅に寄り添い慰め、より美しく輝いている。 全米図書賞。 全米書評家協会賞受賞作。
    コーマック・マッカーシーの世界はグロテスクで残酷だ。が、国境三部作といわれる第一作のこれは、ストーリー性が豊かでエンタメ小説の趣もあり読みやすかった。

    故郷のテキサスからメキシコに不法入国するいきさつや、つねに寄り添っている馬、行動を共にする友人も、少年というより未成年、未成熟な年頃の、精いっぱい運命に向かう姿が痛々しくもありどことなく危うい。
    16歳の少年の(アメリカだからもう充分大人だけれど)青春、成長譚だ。
    コーマックのドライで区切りの少ない独特の筆は、ユニークではあるが読みなれると違和感がなくなり不思議なリズムに乗ることができる。

    コーマック・マッカーシーを読むのは、その風景描写が美しい、だがただそんな風景を写し取るだけでなく、風や雨や、砂漠に舞う土埃、枯れた川の荒々しさなど、読んでいる周りにその気配が立ち込めてくるような文章が素晴らしい。言葉はそっけないほど細かな説明がない分、情感は直接的だけれど詩的で快い。
    こういった表現が 先に読んだ
    「チャイルド・オブ・ゴッド」や 「ザ・ロード」 のような心にのこる作品になっていったのだろうか。悲哀、哀歓、人間の持つ究極の孤独を書くにふさわしい。
    この国境シリーズ(と呼ばれている)の残る二冊も楽しみだ。


    テキサス生まれの少年の名はジョン、グレイディという。彼は、戦後無気力になった父親と、彼が生まれてから唯一の慰めであった牧場を売って出て行きたいと叫ぶ母、そんな両親の元を去る決心をする。
    馬と過ごす牧場の生活を求めて、親友のレーシー・ロリンズと二人、リオ・グランデを渡る。
    途中でひ弱で年下に見えるがやはり一人旅のジミー・ブレヴィンズが加わる。彼は過去に雷に打たれ身内が何人も死んだこともあり極度に雷を怖がっていて、広い草原や砂地で雷雲を見ると怯え、手を焼かせる。
    そして彼のこの恐怖が、ふたりを苦境に陥らせる。
    雷におびえている間にブレヴィンズの鹿毛が逃げてしまう。
    彼はそれを探し当て取り返すのに三人の人間を殺してしまう。

    メキシコの牧場に雇われた二人は生きがいを感じて充分によく働き重宝される。しかし、グレイディは帰省していた牧場主の娘に恋をして、二人は心のまま突っ走ってしまう。しかし将来はなく、牧場から出て行かなくてはならなくなる。この牧場の実権を握る大叔母の説教は、彼女の生き方の長い歴史であり、若い二人に理解を示しながらもやはり大人の分別を超えることがない。この長い話を聞かせた叔母の心がよく分からないまま二人は牧場を放り出される。

    ブレヴィンズの起こした殺人事件で二人は共犯になり刑務所に入れられる。そこで、捕まっていたブレヴィンズに出会うが、彼は警官に連れ出されて射殺される。このあたり暴力が蔓延する刑務所の中、マッカーシーの描写の面目躍如といったところで迫力がある。牧場の大叔母の手引きだろうか、二人は奇跡的に救い出されるが、帰省する前にちょっと警官を探して気合の入った復讐に向かう、ここにきてまさに西部劇の世界。クレイディの若さと血の熱さ、無鉄砲なところ読んでいても力が入っていい。

    旅の途中二人の若者がぽつぽつと語彙の少ない会話を交わす、それは深い意味を持つ言葉だったが、答えはいつも、わからないな、知らないな、で納得する。このあたりの会話も生き生きとして、このわからない世界の深みを少しずつ知っていくのだろうと何か愛おしくなるところが微笑ましくてうまい。

    題名にある「美しい馬」がいる風景。
    命がけで行方のわからなくなった馬を探したいブレヴィンズ、いつも腕を伸ばして首をなでて話しかけ、孤独を癒しているグレイディ。町に入ると横を車が走り抜けていく。そんな時代に野生馬を集め馴らして繁殖させる牧場の生活がグレイディの生き甲斐だった。
    日が落ち無数の星が中空に向かってせりあがってくる。百合や野の花が咲く松林の下で焚火を熾し、ノウサギを狩る。突然の豪雨や雨上がりの霧に閉ざされたメキシコの草原、草丈に埋もれそうな盆地、小高い丘から見下ろす風景などが、くっきりと描き出されている。

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    2026年02月15日
  • 幻の女〔新訳版〕

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    とても面白かった。
    海外文学は翻訳によっては読みにくいなと感じることもあり読むのを躊躇していたけれど、読みやすかった。

    探せども見つからない幻の女、なぜか誰も見ていない誰も覚えていない。
    もしかして主人公の幻覚?それとも女じゃない?など色々と考えてしまうし、死刑執行までどんどん日にちが迫ってくる緊張感。
    なぜ妻は殺されたのか、犯人は誰なのか…
    そして、幻の女は見つかるのか。
    最後まで展開が気になり読む手が止まらなかった。

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    2026年02月13日
  • ブラッド・メリディアン あるいは西部の夕陽の赤

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    ネタバレ

    美しい風景描写に救われるが、そこに血の跡を残していくインディアン討伐隊。マッカーシーは汚れつつ生まれたアメリカ開拓期の一面にある歴史を書く。
    ビリーが繰り返す不幸そうな恋愛と、ジョン・グレイディの共演は面白そうですがなんだか気が乗らずおいてあったのですっきりしました。

    そして取り掛かったのが「ブラッド・メリディアン」でこれは読んでおかないと一応マッカーシーの締めにならないと思って。

    あとがきでは「20世紀アメリカ文学屈指の傑作。歴史的現実を尊重するもの」とか。あちこちでこれは傑作だという評があふれています。でもしっかり理解できず多少のもどかしさが残るのです。特に、時を経て判事と少年が再会して何を話して何が起きたのか出会ったところでプツンと終わった理由がよくわからなかった。ここは勝手な想像でいいのだろうか。

    少年(the kid)とだけ呼ばれる14歳の主人公は1833年に生まれている。まさにインディアン狩りの渦中に成長している。孤児になった彼は生きるすべとして誘われるままに頭皮狩りの一団に加わる。
    文字通り頭の皮をはぐ、頭皮狩りのなんと血なまぐさい、残虐とくれば非道。なぶり殺し、斬り殺し、吊るし、もちろん葬りもしないが、時には穴に放り込んで埋めることはあっても、それは自分たちを守るため。
    政府の政策で殺した頭の皮の数で金をもらう、米墨戦争の後兵士たちが仕事にあぶれ、生きるために選んだ仕事がインディアン狩りなのだ。
    建国の途上にあったアメリカは、国土拡張路線で各地でインディアン排除の戦いが繰り広げられていた。西部開拓史の始まりは、戦争の歴史で、騎兵隊、インディアンともに名高い戦争英雄の物語を残した。だが人間の暗い行為の歴史の後を残してもいる。

    マッカーシーはこの時代のド真ん中に筆をおいて書いている。
    批判するでもなく同調するでもなく、登場人物の行為に沿ってリアルな光景を描き出している。

    グラントン将軍を頭にした頭皮狩りの一団は、インディアン部落を探して、砂漠を渡り山を越えて、谷間の貧しい集落を襲う。これは実話に基づいていて隊員にはモデルがあったそうだ。

    水辺で逃げまどう人々を狙撃し、動物を殺し、大人も子供も頭の皮をはぎ髪でつなぎ、首や耳を戦利品代わりに首にぶら下げて行進する。読み始めは泡立つような不快感があるが哀しいかな不思議に慣れて読んでいく。
    中には逆に襲われて命を落とす隊員も出る。
    町につくと皮を数えて高値で売り捌き、女と暴力、酔った勢いで手当たり次第の破壊行為、殺人、無法の限りを尽くし、町に入ったときは歓迎の声に迎えられたが、出るときは怯えた人々は顔も見せない。

    主な人物は隊長のグラントン、ホールデン判事、元司祭、少年、黒人と白人の同名の二人。斥候に出るデラウェア族のインディアンたち。隊員が殺されたり死んだりして、隊員が減ると街で募集する。
    障がい者の弟を連れた兄が加わる。グラントはなぜかその知的障がいをもつ弟を檻に入れて曳かせる。
    何を思ったか迷い犬に餌をやりいつも連れている。
    ヒューマニズムというものでもない、彼は隊に加えて連れて行き、不要になれば無残に切り捨てていく。

    独特の存在感がある身長二メートルをこす無毛のホールデン判事。眉毛もまつげも頭髪も体毛もない禿頭の彼が聳えるように 登場すると不気味な空気に包まれる。外国語を自国語のように話し絵を描き、科学に通じ学識が豊かで、歌もダンスもうまい。何気に隊に加わりインディアンを無感動に殺し、自説をとうとうと述べる。その説や思想は 一面正当にも聞こえる。コーマックはこれ聞き流すように書き続ける。この説が彼の何に起因しているのかはわからないが、判事という人格の一面を著しているには違いない。

    生と死に関した彼の説は興味深い。
    人間は遊戯をするために生まれて来たんだ。ほかのどんなことのためでもでもなく。子供は誰でも仕事より遊戯の方が高貴であるのを知っている。遊戯の価値とは遊戯そのものの価値ではなくそこで賭けられるものの価値がということもね。

    カード・ゲームをする二人の男が命以外に賭けるものを持っていないとしょう。こういう話は誰でも聴いたことがあるだろう。カードの一めくり。この遊戯をする人間にとっては自分が死ぬか相手が死ぬかを決定するその一めくりに宇宙全体が収斂する。一人の人間の値打ちを検証する方法としてこれほど確かなものはあるかね。遊戯がこの究極の状態まで高まれば運命というものが存在することには議論の余地がなくなる。あの人間でなくこの人間が選ばれるというのは絶対的で取り消し不可能な選択であってこれほど深遠な決定に何者の作用もはたらいていないとか意味などないという人間は鈍いとしか言いようがない。負けた方が抹殺される遊戯では勝負の結果は明確だ。ある組み合わせのカードを手にしている者は抹殺される。これこそがまさに戦争の本質であってその遊戯の意味も経緯も正当性も賭けに勝ったものが手に入れることになるんだ。こんなふうに見れば戦争とは一番確かな占いと言えるだろう。それは一方の側の意思を試しもう一方の側の意思を試すがそれらを試すより大きな意思はこの二つの意思を結び合わせるがゆえに選択を強いられる。戦争が究極の遊戯だというのは要するに選択の統一を強いるものだからだ。戦争は神だ。

    言い切る判事は狂っているのか。戦争は神だ本能だと言い切る。
    彼の信念はゆるぎなく、集まった人々に向かって延々と話し続ける。彼の肩にかけた袋には頭皮と引き換えた金貨や銀貨で膨れている。
    神を信じない元司祭が時々反論する。

    こういったシーンが多いが、一面狂ったような、しかしある時代にはそれが正義であった生き方を語る中に、難しい命についての論理(そうと言わないまでも一種の哲学)が挟み込まれている。無残に殺される人々は、選んでもいない環境や運命の中でもがいて死ぬ。
    空を見上げる、時には雨上がりの霧に方向を見失うような何もない荒れた世界から平和に戻った文化文明は、ただ時の流れとともに人の知恵や力の結果生み出されるものだけだったのだろうか。
    10日、半月あるいは何年も飢えや渇きに耐えて生き続け、罪の意識なしに同じ人間の命を奪う。狂った時代に生きた人々の、善悪を超えた論理を書いていく。
    討伐禁止令が出て彼らは追われるものになる。

    命がけの究極の選択(例えばユタ族との戦いで多くの犠牲を出し逃げる、砂の山を上るか下るか川を渡るのは生か死かというシーン)の中でも、マッカーシーは隊員のエゴそのままの無惨な風景を描写する。光るあるいは澄み切った言葉たちをつかって現実の風景を掬いあげる。続く作品につながる命と一体化した透明なほど美しい言葉が作る宇宙観は、ここから始まったのかと思いながら読む。
    ここでも変わらない見事に澄み切った詩的な風景描写。月や星座の巡りや雷鳴や砂の流れや落日の描写だけでも無数にある。
    マッカーシーの作品には心理描写がないといわれる中で、こうしたマッカーシーの目を通した風景から浮かび上がってくる、人の心に浮かぶ抒情の反映、優れた自然描写が虚空に繋がり心に訴えかける見事さは、残酷な行為を描いているにしても、時々しんとした静寂に包まれ深い感銘を受ける。

    最後のページ
    短いエピローグは何を意味するのだろう。大きな視野から見た人間の営みのことだろうか。
    判らないたとえ(スパークする鉄球)の、不思議な文章だった。



    チャイルド オブ ゴッド(1974)2013年訳
    ブラッド・メリディアン(1985)2009年訳
    すべての美しい馬(1992)2001年訳
    越境(1994)2009年訳
    平原の町(1998)2009年訳
    血と暴力の国(2005)2007年訳
    ザ・ロード(2006)2008年訳

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    2026年02月10日
  • 幻の女〔新訳版〕

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    妻殺しの罪を着せられた男に死刑執行の時が刻一刻と迫る中、事件当夜のアリバイを証明できる「幻の女」を探すというタイムリミット・サスペンス。最近似たような設定の国内作品を読んだが、本作は冤罪とか法曹の問題とかに焦点を当てるわけではなく、あくまで謎解きを中心に据えた作品なので、余計なことを考えずシンプルに楽しめた。
    今から80年以上前に発表された作品であるにもかかわらず、古臭さをあまり感じずに読めるというのが何気に凄い。文体も特徴的で、格調高さに最初はやや違和感があったんだけど、すぐ慣れて途中からこの作品にはこの文体以外考えられないと思うに至った。真相は言われてみればなるほどといった感じだけど結局読めなかった。てっきりもう一人のキーマンのほうが怪しいと踏んでいたんだけどなあ。
    さすがオールタイム・ベストのミステリランキングに毎回選ばれるだけのことはある。面白かった。

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    2026年02月06日
  • 蠅の王〔新訳版〕

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    ネタバレ

    子供の情念と性悪説
    楽園のように食料に困らず外敵もいない無人島に子供だけが不時着する。最初は集会を定期的に開き家を作り火を炊き豚をかっていた。しかし小さな子から中くらいの子へと伝わり話が肥大化している"獣"の存在がみんなの恐怖心を煽る。ジャックとラルフはどちらが隊長になれるか競争している。その一環で、獣の正体を突き止めて群衆に勇気を見せつけようとする。
    夜闇の中冒険に出たせいで、人間の死体が正体であるのに気が付かず、化け物だと思い込んでしまう。
    そこでラルフが「獣の前では狩猟隊は槍を持った子供だ」というと、ジャックが決定的に腹を立てて決別してしまう。
    ここから狩猟隊VS文明人の構図が出来上がる。
    皆、踊りや狩りや上下関係による権威の乱用など情念的な楽しさにノコノコつられていき、文明人側はサイモンピギーエリックサティちびっ子だけになってしまった。それでも各々別の生活をしていたが、ある日宴会に文明人がつられていき、肉の施しを受け、踊りに参加してしまう。その興奮状態の時サイモンが暗闇の中飛び出してくる。獣と勘違いされて殴り殺されてしまった。次にピギーのメガネが盗まれる。取り返しに行くも、顔に野蛮人の化粧をして集団という記号の中に自我を沈めている皆は群衆と成り果ててしまい、ピギーの奪ったことの不当性を訴える声は届かない。あまつの果てにはピギーは明確に殺される。
    ラルフが対話を試みようとその晩野蛮人サイドについたエリックサティに話しかけると、次の日ラルフ狩りが始まることがわかった。それでも草の中に隠れて眠る。あとは焼け払われた森から死に物狂いで逃げ続け、隠れ続け、刺し続けた結果海に出ると海軍の大人が助けてくれておしまい。


    最初は自由に浮かれて無邪気に逆立ちをしていたラルフが後半になるにつれてに文化人としての責任を感じ相対的に大人になっていくのが不気味だった。
    サイモンについてはよく分からない使われ方をしたな、と思ったら、あとがきの解説によると聖書関連なのか。
    自分だったらもっと上手くやれるのにと思いながら見ていたが、それは大人の視点でだった。小学六年生の頃だったら絶対に自分はジャック側に操作されていただろうな。
    群集心理や匿名性が引き出す人間の暴力的な面、人間に備わったタナトスやパトスを含んだエロス。考える余地が多くて世界に無理やり没入させられた。数日間は頭を悩まされそう。

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    2026年01月25日
  • ナイルに死す〔新訳版〕

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    『ナイル殺人事件』でなく、『ナイルに死す』というタイトルがまずカッコイイ。ナイス訳。

    時代が変わっても古びない、人間の心模様とはそうそう変わるものではない。あの2人怪しそうだけど、とは思ったけれど、ポアロのようにはいきません。
    ポアロの紳士な態度も好感度⤴️

    『オリエント急行殺人事件』くらいしか多分読んでいないから、ポアロ、これから機会があったらまた出会ってみたい。

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    2026年01月10日
  • ナイルに死す〔新訳版〕

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    さすがアガサクリスティー。やっぱり大好き。
    長編だし登場人物は多いけど、その分丁寧に書かれてる。登場人物にすごく人間味がある。
    面白かった。他にも買ったから読む。

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    2026年01月08日
  • 平原の町

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    コーマック・マッカーシーの「平原の町」を読み終える。
    国境三部作「すべての美しい馬」「越境」そして「平原の町」。
    平原の町では、前に2作では交わることのなかったジョン・クレイディとビリー・バーハムがともに出てきて、読み手としてはとてもうれしくもあったが、その結末は辛いものとなる。
    哲学的でかつ人生の憂いを深く感じさせる小説だった。

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    2026年01月01日
  • 幻の女〔新訳版〕

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    一文目で一気に引き込まれる。これぞ名書き出しであろう。
    現代の我々が読むと、もちろん粗はある。ただ、それ以上に魅力的。

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    2025年12月17日
  • シャギー・ベイン

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    圧巻の600ページ。1980年代のグラスゴーにて、自己破壊的だが美しく誇り高い母アグネスと、3人の子どもたち、そしてアグネスを良いように扱う男たちを描く。サーチャー政権下の炭鉱閉鎖、失業、貧困、有害な男らしさと女性蔑視、性的指向、アルコール中毒、カトリックとプロテスタントの対立とこれでもかというくらい暗い要素ばかり。機能不全の家庭のアル中の毒親の虐待物語と突き放すこともできるが、そういう要素を否定できないからこそシャギーの母への愛がとにかく美しく悲しいと感じた。2020年のBooker賞受賞作。

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    2025年11月21日
  • 蠅の王〔新訳版〕

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    現代の社会実験として十分に説得力があり、ところどころに挿入される寓話は物語としても強固である。中でも「野蛮人」へとすり替わる描写は我々の先入観を強烈に刺激する。

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    2025年11月12日
  • 蠅の王〔新訳版〕

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    ネタバレ

    乗っていた飛行機が無人島に不時着した少年たち。最初は大人のいない自由な生活を楽しんでいたが、次第に摩擦が生じ、殺し合いに発展していく。
    少年たちは、大人ならこんなことにならなかったのでは?と考えるが、ラストに描かれた巡洋艦がその考えの否定を示唆している。作中では科学や知性の象徴である眼鏡が殺人に使用される。現実でも科学の産物が戦争に使用されている。この島は世界の縮図ではないか。私たちの中には〈獣〉が潜んでいる。それを自覚する必要があるのだ。

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    2025年11月02日
  • 幻の女〔新訳版〕

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    素晴らしい読書体験、読後の爽快感と満足感に感動を覚えた。タイムリミットが刻々と迫る焦り、結末が気になってページを捲る手がとまらなかった。これが80年以上前に書かれたとは驚嘆に値する。
    テンポの良いストーリー展開、どんでん返し、そして美しい文章から漂う幻想的な雰囲気と3拍子揃った傑作だと感じた。
    次はぜひ、原書にチャレンジしたい。

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    2025年10月13日
  • すべての美しい馬

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    イアン・マキューアンを読んで以来、現代海外文学の面白さに気づき、いろいろ読んでみたくなった。で、コーマック・マッカーシーを手に取ってみた。
    本作はメキシコが舞台の辺境3部作の一冊。

    いや〜面白かった。なんだろう。久しぶりの感覚。起承転結ありの正統派小説。血生臭くてグロくてあまりにも残酷な成長物語。

    馬と暮らしたい、牧場で働きたいとの漠然とした気持ちからグレイディは友達のロリンズと馬に乗り、テキサス州からメキシコへ国境を越えて行く。野宿をし銃で狩った兎をバラして食べ、川の水を飲み行く宛を探しながら旅をする。命の危険と隣合わせの旅。途中で見ず知らずの少年に会う。この少年も銃と立派な馬を持っているが、得体が知れずでまかせばかりを話す。厄介な事が起こりそうなそんな矢先…。

    メキシコの自然の描写が素晴らしい。会話文が文章の中に入り込んでいて、ややこしいんだけど慣れてくると自然に感じる。朴訥とした会話の中に人生観や哲学がある。成り行き任せ。老成した感もあるけど、しかし、彼らはまだ17歳。そこが味噌。若いからこそ怖い物知らずなんだよね。

    主人公のグレイディがいいんだなぁ。寡黙で朴訥、強くて正直者で馬を愛する男。真っ直ぐなのよ。
    周りに翻弄されながらも苦難に立ち向かう姿に感動させられる。
    この時代のメキシコ情勢や国柄、人々の暮らしぶりが興味深い。闇も伺い知れる。
    馬の調教シーンが印象的。グレイディにとって馬は家族であり、乗り物であり、財産であり、生きる目的なのだ。馬が居ればそれでいい。
    不条理な目に合いながらも、自分の行いが正しかったのかどうかを自問自答するグレイディ。歩みを進める孤独な彼が行き着く場所はどこなのだろうか。

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    2025年09月30日
  • 八月の光

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    一生忘れられない作品になりました。実験的な作品構造と、思考を強要させられるような表現に驚かされつつ、出来のいい人間ドラマとしても楽しめました。
    現代人が直面するアイデンティティの不在に対する問題意識は、クリスマスの苦悩と重なる部分があると思います。

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    2025年09月30日
  • ナイルに死す〔新訳版〕

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    ネタバレ

    小学生の時に映画の『ナイル殺人事件』を見てこのトリックにとても驚いてミステリにはまるきっかけの1つになった。最近また映画を見たけど、少し無理があるのかな~って思ったけど、原作だと少しカバーできていた感じ。殺人事件が半ばまで起きないけど飽きずに読めるのはさすがだな~。

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    2025年09月25日
  • ナイルに死す〔新訳版〕

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    ポアロシリーズ。
    今回の舞台は、ナイル川を遡上する豪華客船。クリスティー作品ではお馴染み(?)の裕福な美女を巡るロマンスを軸に、登場人物たちの不穏な思惑が複雑に絡み合う。

    ミステリー作品なんだけど、中盤までなかなか事件は起きない。それでも著者の卓越した描写力で、普通に人間ドラマの読み物としても面白い。

    本作は何と言っても、ポアロの魅力がふんだんに詰まった作品だと思った。謎を解き明かす観察眼と推理力は言うに及ばずで、一癖も二癖もある登場人物たちとの関わり方、言葉の選び方、思いやりや慈悲深さなど、ポアロの人としての魅力が印象深かった。

    エジプトのナイル川での旅情や、事件発生後の犯人探しは最後まで楽しめたし、哀愁を感じさせるラストシーンも何とも言えない。
    なるほど、この作品も著者の代表作の一つとして数えられるわけだ。名作は色褪せない。

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    2025年09月06日
  • すばらしい新世界

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    え、これ100年近く前の小説って
    ちょっと待ってよ

    人間が大量生産される未来
    そこは幸せしかないユートピア
    不満も孤独も執着も病気もない
    死の恐怖も消されてる

    睡眠学習による洗脳で
    老いや不潔を嫌悪
    不調は早めの薬で治し
    ゴルフなどのスポーツ最高
    余暇には映画や旅行を楽しむ

    おいおい
    いま私がいる世界は
    すでにユートピアではないか
    しかも不満はないです
    今を楽しむのは良い事だと思います

    モラルに縛られ
    欲に潔癖なジョンを生きづらそうな
    変な人と思ってしまいます

    すでに
    条件付けされている
    新世界に住むわたし






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    2025年08月18日