黒原敏行のレビュー一覧
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ネタバレ初コーマック・マッカーシーは、世界的なベストセラー小説でピューリッツァ賞も受賞しているこの本から。
おそらく核戦争があった後のアメリカ大陸を歩いて旅する父と息子の物語。塵によって太陽光が遮られ気温が下がり、人間以外の生物もほぼ死に絶え、生き残った人々は、奪い合い殺し合い、死人を食らうようなことまでしつつ生きているディストピア。
父子も、体臭と汚れにまみれたボロボロの服を着て毛布や防水シートをまとい、ショッピングカートに生活品を乗せて移動しつつ、廃墟を漁り日々を凌ぐ。読んでいるだけで寒いし飢えるし喉が渇く。だが決して人の命や財産を奪うことはしない、生きていくために廃墟を漁ることはしても、人の -
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“夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。”
80年前に出版された古典ミステリーの新訳版。
無実の罪で死刑判決を受けた主人公の無実の証拠となる女を探していくのだが、章ごとに死刑までのカウントダウンになっておりハラハラしながら読んだ。
内容も面白かったのだが、詩的な文章がとくに好みだった。
お洒落な言い回しが随所にあるので、普段ミステリーを読まない方や文学好きも楽しめるのではないだろうか。
ちょうど読んだ時期が某漫画家さんの悲しい出来事があったあたりなので、作品に携わる人の原作者や名訳をした故稲葉明雄氏へのリスペクトが感じられたのも良かった。(あとがきでは新訳者 -
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無実の罪を着せられたスコット。死刑執行までに彼のアリバイを証明する“幻の女”を探し出すべく、友が立つ。
夜のニューヨークをさまよい歩く男。どうやらムシャクシャと荒れているようだ。彼スコットは、妻と離婚について争っている最中だった。知らないバーに入ってゆきずりの女と酒を飲み、劇場でショーを見る。少し気が晴れて帰宅すると、刑事たちが待ち構えていた。ベッドで妻が絞殺されていたのだ。アリバイを証明するべく、ゆきずりの女を探し出さねばならない!しかし街へ戻って聞き込みをしても、誰も彼女のことを覚えていない。皆が口をそろえて、スコットが一人で酒を飲み、一人で劇場にいたと言うのだ。彼はそのまま妻の絞殺の疑 -
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ネタバレベトナム戦争の退役軍人で今は溶接工をしてるとかのモス、冷徹に人を殺しまくるシガー、老保安官のベルの3人が主な主人公。プロットとは別に、ベルの独白というかインタビュー?が挟まれ、話のテーマ的にもベルが中心に据えられていると考えられる。麻薬取引のトラブルをきっかけに、それぞれの人生が大きく動いていく。
昔とは変わってしまったアメリカに対するベルの悲しさや虚しさが全体を貫いている。ただ、ある観点では昔は平和だったとはいえ、ベルの祖父世代、親世代そしてベル自身とそれぞれ戦争に行っているので、単純に昔が良かったとは言えなそう。
今まで読んだマッカーシーの作品の中では一番分かりやすく、読みやすかった。
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妻と喧嘩し家を飛び出し、その晩はじめて会った女性と、観劇し、食事をする。帰ってきたら妻が殺されていて、殺人の容疑者として逮捕されてしまう。
唯一自分のアリバイを証言してくれる女性は、誰に聞いても見ていないと言われ...。
古典ミステリーの傑作といわれるだけあって、とても面白かった。夫婦とは?友情とは?いろいろと考えさせられる。
まったく予備知識なかったので、
“夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった“
という冒頭が名訳として有名なことを知らなかった。
自分としては、新訳なのに訳し方がいきなり直訳でがっかりした(その後は読みやすい)ので、ここも新しい訳に挑戦 -
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人生ベスト級
句読点が少なくセリフに「」がなかったり読みづらくはあるのだが冷徹さと重厚さを備えていて唯一無二のその文章には圧倒される。人にはお薦めしづらい内容ととっつきにくさはあるのだが興味をもった人にはぜひ読んでいただきたい
読んだあと意外だったのはこの話はSamuel E. Chamberlainの自伝『わが告白』に描かれているグラントン団での出来事を元ネタにしているということだった。名前までそのまんまだ。さらにびっくりなのがあの超人然とした判事までもがモデルがいるという。俺は本書の判事が好きで彼の語っていることは完全に同意せずともそれなりに共鳴するところもあり気に入っている。
あまり関係 -
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ネタバレ世のアルコール依存症に悩む人々に是非読んで欲しい凄い小説。失踪日記(吾妻ひでお)や今夜すべてのバーで(中島らも)に並ぶアル中文学の大傑作。
主人公シャギー・ベインの母はエリザベス・テイラー似の美人。この女が主人公以上に物語の核なんだが、ちょっとしただらしない性格で、そのだらしなさからアルコールに溺れていき依存症となる。
アグネスの周囲の人々がまた本人以上にクズみたいなヤツばかりで、浮気性でハラスメント要素をもつ夫シャグをはじめ、アグネスの酒を助長する連中ばかり。
一度は断酒を決意するアグネス、1年以上も成功した断酒をぶっ潰したのはシャグと同じタクシードライバーのユージーン。多分こいつが作 -
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「幻の女」はおよそ80年前に出版されたミステリー小説だ。しかし今読んでも全く色あせていない。
冤罪をきせられたスコットの無実を証明するため、アリバイを実証してくれる見知らぬ女性を探す。しかし、バーやレストラン、タクシー、劇場・・・スコットは女性と同伴だったにもかかわらず、誰もがそんな女性は知らないと言う。
一体誰が嘘をついているのか本当のことを言っているのか。実際にその女性は存在したのか・・・。
スコットの冤罪を晴らすために親友のロンバートとスコットの恋人キャロルは奔走するが、なかなか決め手に辿り着かない。
スコットは死刑をまぬがれるのか・・・。
久しぶりに読み応えのあるミステリーに出会った。 -
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ネタバレ終末を迎えつつある世界でなんとしてでも息子を守ろうとする男が、最後まで父親として存在していたのが良かった。信じられるのはお互いだけ、という点が揺るがなかった。だから孤独で危険な旅も続けられたし読者としても安心できた。
父親のサバイバルスキルが高くて、色んな工夫を読んでいるだけで面白かった。読点がほとんどない、流れるような思考と会話の中に、記憶が混じってくるのも物語に没入できる理由なのかなと思う。
人が人を食うほど食べ物がない事態で、自分も痩せ細ってしまったのに少年の心は清らかで、他者を殺してまでは生きたくないという意志が強かった。その彼が無惨に殺されるようなことがなく保護者が現れ、いくらか救わ -
Posted by ブクログ
ネタバレ戦争か事故か天災か何かが起こった後の、人類の終末期を生きる父子の物語。
解説には近未来と書かれているが、未来的な道具立てがほとんどみられなかったので、例えば冷静時代に核のスイッチが押されたとか、そういう状況もありうるのではないかとか思いながら読んでいた。何であったとしても話にはあまり関係ない。
父子のひたすら南へと進む旅が、とにかく削ぎ落とされた文体によって淡々と表現される。
最後の父の死以外には起承転結に関わるできごとは起こらないが、ものすごい緊張感の中、まったく飽きずに読み進めることができた。
わずかに生き残った人間は、もはや人間としては生きていない。人類どころか、動物も植物もだめになって