【感想・ネタバレ】Xと云う患者 龍之介幻想のレビュー

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年08月22日

これは凄い。芥川を愛する著者の二次創作的な作品集かと思っていたけれど、それだけではない。さらに芥川の生涯を追い、死に至るまでを描いていく。
この描き方が半端ではない。その時代、その場所で見てきたのではないかという位リアルでありながら美しく幻想的。
「本当にこうだったのではないか」と思わされてしまう。...続きを読む
彼が魂を擦り減らしながら小説を書いていくのを身をもって感じ、特に終盤、こころを病んでからは剥き出しになった神経を持て余して苦しむ感覚が身に迫ってきて、乾いた筆致でありながら辛くて堪らず、死によって解放される感覚までも追体験してしまった気がした。
断片的に知っていた彼の人生をここまで見事に、彼の小説や彼を取り巻くものを使って描く技は圧巻。とてもきつい読書体験だったけどこういうのが読みたかった、これからモチーフとして使われた作品をまた少しずつ読んでいきたい。

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Posted by ブクログ 2020年03月22日

『彼はある郊外の二階に何度も互いに愛し合うものは苦しめ合うのかを考えたりした。その間も何か気味の悪い二階の傾きを感じながら―芥川龍之介「或阿呆の一生」昭和二年(一九ニ七年)』―『地獄変の屏風 HELL SCREEN』

芥川龍之介の文章から受けるイメージは読むたびにその鈍色(にびいろ)の光沢が薄れる...続きを読むような印象がある。思春期の頃には、まるで外科用の刃物のような鋭い光を放っていると感じたものが、読み返してみると、私生活が半透明の薄皮一枚のすぐ下に透けるような酷く生々しいものに見える気がする。形而上学的な言葉と思えたものが単に陳腐な感情の吐露だと判明してしまったかのようでもある。作家に関する余計な知識を得てしまったことが悔やまれる。にも関わらすまたしても芥川龍之介を題材にした小説を読んでしまう。

例えばそれは、シャーロック・ホームズを愛する推理小説家によるパスティーシュとしての推理小説のようなもの。そう読むならば危うさはそれ程でもない。しかしシャーロキアンがパスティーシュとしてコナン・ドイルの後半生を推理小説的に描いたなら生まれるであろう悲哀(例えば降霊会の逸話など)が、芥川龍之介という作家を描くこの擬似的な小説には溢れ過ぎている。作家自身の境遇、時代の変化、虚ろな大衆、震災、友の病、義兄の死。そういう一人ではどうにもならないものばかりでなく、彼自身に起因する幾つもの悩みが作家を擦り潰していく。書き遺された文章には、作家には必然と見えてしまった破滅的な将来像といつの間にか傾倒していた「神」の遣わされた「徴」の解釈が溢れていることがじわじわと河童というメタファーを通して炙り出される。

その裏側を更に仔細にかつ作家自身が遺した文章を軸に再構築し、その上芥川龍之介を模した文章にされてしまうと、あの銀色の光沢と思えたものの正体がまるで言い訳めいた独りよがりの心情の吐露であったのだと強制されるようで拒絶反応が起こりそうになる。だが、この小説がその諧謔的な構図を二重の翻訳を経て立ち上げていることを考えれば、日本人である自分は立ち向かわざるを得ないとも思う。「文芸的な、余りに文芸的な」と作家が記したように、文章の芸術的価値が話の筋にはないのであればなおさらのこと。作家はこのパスティーシュの価値を大いに認めながら、出来れば放って置いて欲しいとも思っただろう。「水洟や鼻の先だけ暮れ残る」。結局のところ作家は自尊心の塊のような人であったのだ。

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Posted by ブクログ 2019年08月17日

芥川龍之介の作品を使っての幻想文学(著者はイギリス人。ということでもちろん原書は英文なわけで、本書はそれの『翻訳本』)という点だけ知っていて、それ以上は前情報仕入れずに読んでみましたがこれがビックリ。
これは「芥川の人生」と「作品」を素材として使って、芥川龍之介を主人公に据え、史実と幻覚と妄想と文学...続きを読むの境界をあいまいにしてコラージュした結果、一級の幻想文学エンタメとして仕上がった作品でした。とても面白い。ドグラ・マグラなどが好きな人はハマると思う。
さらに、ほぼ芥川の人生を辿るストーリーなので、芥川龍之介の各作品だけでなく彼自身の人生も押さえた上で読むと何倍も面白い。史実と作品が渾然一体となって組合さった結果、芥川の人生がこんな風に「文学と狂気」に染まるのか、と。(もちろん、あくまでこれは「創作」であって「評伝」ではないです。なので彼の人生の中で色々な重要な出来事が描かれてないので、史実とはごっちゃにしないように注意……でも、そうかも?と思わせる魅力がある…凄い)
英文を翻訳するときに、あえて新規に翻訳するのではなく、元作品の芥川の文章を引き直すことで日本語へと戻していく様もお見事。これによってとても芥川作品味が増して、溺れるように濃厚な芥川ワールドになってました。

ドッペルゲンゲルに河童に歯車、そしてマリア観音はじめとするキリスト教…と芥川に詳しい人ほどこの作品の細部に散らされた構成の妙に感心すると思います。特に、芥川の作品の「○○もの」とされるアレをああいう風に扱ったのには感心しました。(ホント実際に読んで堪能してほしい……)
本書には漱石、久米、菊池、茂吉、川端、内田百閒、永見徳太郎等々も登場し、基本的に彼らの動きは随筆等で知られている通りの動きをしてますので(細部には創作がみられますが!)、近代文学ファン的にはそんなところにもゾクゾクする一品でした。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年05月01日

芥川龍之介の世界観を積み重ねて、
独自の世界を築くという
小説でしかなしえない離れ業を成し遂げている。

最後にあげられた日本文学の英訳の
列挙をみて、日本人、もっと
日本文学読もうよ、と思った。

脇を固める、斎藤茂吉などの作品も
改めて読み返したいと思った。

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Posted by ブクログ 2019年04月16日

日本在住のイギリス人著者が芥川作品の英訳を多数引用して作品を構成しているわけだが、その部分も含んで日本語に訳す、という単純ならざる訳業。
「戻し訳」ではなく芥川の文章そのものを使ったことや、当時の表記(エドガア・アラン・ポオ、レエン・コオト、ジョオンズ、洋燈と書いてランプとルビをふるなど)にも細やか...続きを読むに配慮されたこと、更に引用や出典も無理なく収められていることなど、訳者の力量に恐れ入る。文壇の人名や明治から大正の時代の雰囲気もよく盛り込まれ、誰が書いたのか戸惑うほど。
こうなると半分は訳者の作品だよね。うん。

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Posted by ブクログ 2019年06月01日

テクノ/ハウスなどの音楽で一般的なリミックスという手法は、その後、”シミュレーショニズム”の文脈で現代美術にも派生するが、文学においてはそこまで一般的な手法ではない。本書はそうしたリミックスの手法を用いて、芥川龍之介の作品を英国人作家デイヴィッド・ピースが新たな文学作品に仕立てた一冊である。

芥川...続きを読む本人、芥川の作品の登場人物など、主人公が章ごとに移ろいながら、明治の世相が美しく、しかしどこか仄暗さを持って描かれる。どこまでが史実の話で、どこからが芥川の作作品のリミックスなのか、その垣根は極めてぼやかされており、幻惑的な時間が流れる、不思議な書物。

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Posted by ブクログ 2019年05月24日

芥川龍之介の作品にインスパイアされた短編集。
著者は英国生まれだが、日本文学に精通し現在は日本在住、東大で教鞭もとる。

ああ、もう一度芥川作品を読まなくては…。

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