黒原敏行のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
主人公のジョーに対し、最初はなんだこのしみったれたおっさん、と思うけれども、最後にはきゃー格好いい! 抱いて!ってなる。あ、ネタバレしてるじゃないか。でも、しみったれたおっさんのままでも嫌いじゃない。
しかしこの本の魅力的なキャラクターはジョーだけじゃない。イーディーやポリーの素敵さもたまらない。
しみったれたおっさんの話から、多分予想しない方向に物語が展開するのだけれども、序盤の冗長さが若干辛い。どういう話なのかよく分からないまま読み進むしか無い。
1/3読めば勢いがついて後は終わりまで一気に読み進むことが出来るのだが(それでも2段組700P超えの大ボリュームである)、そこまで読め -
-
Posted by ブクログ
今月の猫町課題図書。恥ずかしながら、これが映画「地獄の黙示録」の原作とは知らず、途中から「なんかイメージが重なるなぁ」と思いながら読んでいた。
風景、人物、感情から小道具の一つ一つに至るまですべてのものが、未開(当時)のアフリカ奥地の魔境的なイメージを構成しており、一人称話者のマーロウとともに圧倒的な迫力とおどろおどろしい恐怖感を存分に堪能できる。社会派小説としての観点からは、人種差別、収奪に関する批判が徹底していないという評価もあるそうだが、これは純粋に小説として読んで、その凄さを味わいたい。
翻訳は光文社古典新訳の精神にのっとって、非常に読み易く、違和感のある箇所も少ない。しかし、訳者 -
-
-
-
Posted by ブクログ
1902年発表、ジョゼフ コンラッド著。船乗りマーロウが語る、アフリカ奥地への旅の記憶。象牙交易によって権力を得た人物クルツを救出するという目的の元、マーロウは遂にクルツに対面するが、彼は息絶えようとしていた。
まさに闇のようにぼんやりとした小説だった。
中盤あたりからマーロウの語りが崩れ始め、物語の確信にあえて触れずに、外側から怪しげに焙っていく印象を受ける。特に、普通であればスポットライトを当てるべきであろうクルツに関して、それを顕著に感じた。そもそもマーロウが到着した時には既にクルツは相当弱っているのだ。これでは全くお話にならない。
だが、それこそが本小説の中心主題なのだろう。西 -
Posted by ブクログ
1994年発表 、コーマック・ マッカーシー著。少年ビリーは家畜を襲っていた狼を捕らえた。狼を故郷の山に帰すためにメキシコへ一度目の越境するが次々に悲劇に見舞われる。そして弟のボイドとともに二度目の越境、更に三度目の越境と連なり、ビリーは全てを失ってしまう。読点を極力省いた息の長い文章、鉤括弧を使わない独特な文体。
マッカシーらしい荒野を馬で旅するロードノベルといった小説だったが、かなり哲学描写に振り切っているため全体的に神話を読んでいるような印象があった。純粋に話として面白く美しいのは前半の狼を帰す一度目の越境だろう。狼の存在が気高くて生々しく、読んでいると泣きそうになってくる。しかし中 -
Posted by ブクログ
数年前から読みかけの『ブラッド・メリディアン』を一旦置いて手に取った。連続殺人犯の物語である。起伏も抑揚もない会話にまっすぐに胸を突かれる。絶対的な孤独のうちに世界のなかを彷徨うとき、世界はどのように立ち現れ、人間はどのような本性をあらわにするのか。
凄惨さをきっちりと描き出しつつ、文章の美しさと立ち上がってくる情景、におい、湿度にはただただ驚かされる。それがどこか痛快な読み応えというのも、とてもいいと思った。小説として、素敵なことだと。どこか人間の素晴らしさというか、人間を肯定している印象を受けることも また。
巻末のカポーティ『冷血』との比較がなされているけれど、個人的にはこちらのほ -
-
Posted by ブクログ
1992年発表 、コーマック・ マッカーシー著。1949年のアメリカ。愛する牧場が売られてしまうことを知った主人公が親友ロリンズとともに馬でメキシコに越境。二人は辿り着いた牧場で馬達と幸せな時間を過ごすが、越境中に出会った少年の起こした事件がきっかけで刑務所にぶち込まれるはめになる。そこからの脱出は主人公にとって恋人とのつらい別れを意味していた。そして訪れる物語のクライマックス、主人公の暴力。読点を極力省いた息の長い文章、鉤括弧を使わない独特な文体。
とにかく馬達の描写が美しい。彼らの息遣いが聞こえてくるかのようだ。この小説は主人公と彼の選ぶ運命の象徴としての馬(メキシコへの越境もその象徴