黒原敏行のレビュー一覧
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ネタバレ社会の上層部が利益のほぼ全てを享受するユートピアを支えるためには奴隷の労働力が必要である。
とはいえ、奴隷にも幸せはある。労働後のささやかな報酬という形で。
そのような光景を描く本書はディストピア小説として今に知られている。労働力を自前で生産している点で、オフショア、グローバル化という言葉で奴隷の労働力のアウトソーシングを正当化した現代の筆頭資本者らよりも自助的であり、責任の所在を明確にしているといえる。非人道的な社会を描きあげた作家であっても、資本主義が要求する過酷なコスト意識を甘く見ていたか、見逃していた観がある。
つまり、現代はすでにハクスリーのディストピアを実現している。一部ではそれを超えてすらいる。
ボス敵と語る。
このシチュエーションはどこからやってきたのか考えたことがある。回答は得ていない。本書には相当するシーンがあり、考え抜かれた著者の思想を与えられたボス敵は揺るぎない。これも、よく見かけるものだ。主役は言い返せないが、勝たなくてはいけないので殴って勝つ。これもよく見かける。
本書の主役サイドの言葉はすべて理性的な反論を受ける。主役サイドはついに自らの言葉を失い、過去の権威にすがるが、それに対するこたえも考え抜かれている。ボス敵もまた過去に深く悩み考えた末に、現実を受け入れたのだと強く理解させられる。『ミストボーン』シリーズは最終的には好みではなくなってしまったが、この構造を持っていたことは好ましく覚えている。
主役サイドは言葉を失うが、殴りかかることはない。少年漫画ではないからだ。否、相手は絶対的な悪ではないからだ。その社会においては秩序善ですらある。
本書はまた、夢想家や革命家()に辛辣な言葉を投げかけているようにも見える。ある秩序の中で、その恩恵を受けながら、その秩序を否定する活動を行う。「働いてる感を出してるヒモ」という印象が、わかちがたくその印象に重なる。主役サイドはそちら側に属している。
人生は生まれにおいてすでに公平ではないと悟らせる以上の役割を果たせぬまま、主役の一人は去る。
宗教が信者に施す道徳教育は、ディストピア社会が社会を維持するために施した道徳教育と相似形である。いずれも他者を傷つけることもあるという点でもまた類似している。それを背負わされた主役サイドの一人は苦悩のあまり死ぬという物語の結末を担う。物語としての出来はよくないが、教訓としてはまあわかる。
本書解説には「学問のふりをする科学」について語られている。学問のふりをしたなにかが旗を振った結果が奴隷労働のグローバル化であるのなら、そこを改めない限り、いかに手を尽くしても虚しかろう。
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読中、超人ロックの初期のエピソードが想起されてきて、その名の通り『新世界戦隊』で発火したのかなと読み返してみたら『ジュナンの子』と『ロンウォールの嵐』だった。
『ジュナンの子』には、出生時点で身体的に不利な特徴が出現しないようコントロールするようになった社会で不利な特徴が出現してしまった人々の苦難が語られていた。この構図に相似形を見たのであろう。
『ロンウォールの嵐』には、ナディアという女性が登場する。やりなおしがうまくいかず記憶を失ったロックの恋人だが、体制側のいうなりにロックを売る。ありように類似性を感じてしまったのだろうが、よくある人物像ではある。
本書には多幸感を与え多用すると死に至ることもあるソーマという薬物が登場する。『聖者の涙』には、そんな偶然の一致ではなさそうな影響が見受けられるような気がする。 -
Posted by ブクログ
ゲームの分類で言えば「ロールプレイング」ではなく「シミュレーション」のような小説。
イギリス情報機関は、首相公認で特殊な能力を持ったアスペルガー症候群の若者を使い、本人に罪の意識のないまま、難攻不落のセキュリティにハッキングして、敵対する勢力を攻撃することを計画し、実行する。
敵対するのは“ロシア”の「頭領」(名前はでないが、今の大統領)、実名で北朝鮮のあの人、イランのあの人、名は伏せられているがアメリカ元大統領のあの人も登場する。
「民主主義国家は勝利し、正義は守られた!」
その為にこの子は一生損害を被った相手から怨まれることになるのでは……。
これは“拍手喝采”していいことなのか?
実際にモデルが存在するという。
面白いのだろうけど、ちょっと鼻につく。 -
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追悼。なので評価はプラス☆1つ。ってことは実際の評点は…。ちなみに積読状態にあったものをこの機会に、ということで。”ザ・ロード”がとても面白かったから、きっと本作もと思ってたけど、なんともかんとも。一風変わった道程を、ただひたすらに描くという点では、両作は似ているとも言えるんだけど、なぜかこちらは辛かった。ひたすらandで繋がれる地の文、著者の特徴として評価されているみたいだけど、個人的にはこの手法、好きじゃないです。読みにくさしか覚えないし、結果、読み流しになってしまう。ストーリーが面白ければまだしも、展開もいまひとつ。本作は三部作の第一部みたいだけど、続きは読まないです。
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灰が降る終末世界で父と息子が旅をする。略奪者の目を逃れながら、少しでも暖かい南を目指して。その道は悲惨というほかない。森の中に潜んで防水シートで雨を避けながら焚き火をする。臭い服と毛布にくるまって眠る。次の日にはボロ布を巻きつけた足でまた先へ進む。行く先々で転がっている死体。こんな救いのない場所で生きていくことに何の意味があるのか。銃があるならそれで自分と息子を撃てば終わりじゃないのか。読みながらそう思わずにはいられなかった。生きたいというのは親のエゴなのではないか、とも。それでも生きようとする気持ちの強度に圧倒される。他人を助けたいと思う息子の純粋さや、お互いと一緒にいたいと思う二人の気持ちの真剣さが極限の状況だからこそ照らし出されているように思う。光のない陰鬱な世界でも火をおこすことはできる。
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長編の時代小説を思わせる重量感(616ページ)、勢いよくめくるとシワになりそうな薄っぺらいページの紙。聖書みたいと思ったのも束の間、中身は数々の背信行為で溢れかえっていた。
「誇り高く、いつも周囲を魅了していた。貧しさが国全体を覆っていくなか、彼女は家族をまとめようと必死だった」
あらすじは、主人公シャギー・ベインの母親アグネスのことを健気な風に記している。だが本書は、こちらの予想を遥かに超えるアグネス像を突きつけてきた。
誇り高く?貧困をものともしないフリをして着飾り見栄を張っているようにしか見えない。「誇り高い」はさすがに誇張している。
家族をまとめようとする?自分の思い描く理想の家庭、と言うよりも理想郷を追求するせいで
周りは離れていき、(これまた長い長い)中盤まで深刻なアルコール依存に苛まれた。
どうしようもない寂しさが満たされないと気持ちが暴走しちゃうのは分からなくもないが、控えめに言っても母親は情けなく映り、同情の念もわいてこなかった。膨大なページ数も手伝って、不毛地帯を歩き続けている気分。と思いきや、一文先で急展開していることがあるから油断ならない。
そんなどうしようもないアグネスも、シャギーにとってはこの世でただ一人の母親。(幸い子供のことは愛している) 彼は彼女の「誇り高い」ところを見放すどころか長所と捉えた。そしていつまで経っても彼女のことを信じている。はっきり言って、こんなの奇跡。
もっと衝撃的だったのは、本書が自伝的小説であるということ。幼かった著者は作中のシャギー同様、母親のアル中を食い止めようと奔走。彼女の伝記を書くというゲームに母親と興じることで注意を引こうとしたという。
母親を愛する一方でどこかで「あってはならない」と思っていたのかな。ニットウェア・デザイナーとして活躍する傍らで本書を書き上げたのだった。
気持ちが晴れぬまま、今は様々な疑念が渦巻いている。
劣悪な家庭環境のみならず、著者も日常生活に横たわるカトリックとプロテスタントの障壁に苦労したんだろうか。(例えば通っている学校の系統がお互い違うと、仲良くなれなかったり信用して貰えなかったり。この背景はあとがきが丁寧に解説してくれている。→あ、逃げた)
アグネスや著者の母親のような立場に少しでも近づけば、彼女らの心の乱れを理解できるようになるのだろうか。
長い旅路を終えたが、安息の地には辿り着かなかった。 -
Posted by ブクログ
下山事件といえば日本史の教科書にも載っているような有名な事件。不謹慎だが、あまりにドラマチックな謎のため、フィクション、ノンフィクション問わず、たくさんの作品が発表されてきた。ご多分に洩れず、私もそれらの数冊を手にし、ああでもない、こうでもないと、いろいろ想像を巡らせたクチである。
本書はその下山事件をテーマに、戦後日本の、東京の闇に潜っていく。3部構成となっていて、おもしろいのは第一部がGHQの捜査官ハリーの視点で語られること。外国人を主人公に下山事件を扱った作品を私は寡聞にして知らない。
第二部には江戸川乱歩がモデルと思われる探偵作家も登場する。実際、事件後、乱歩はじめ当時の探偵作家たちが下山事件を推理した文章をこぞって発表していることを興味深く思い出した。しかし、これを海外の作家が書いたとは、驚きでしかない。
ただ、とても評価の高い本作だが、私は読むのに難儀した。文章は「、」で延々と続けられ、「。」で区切られることがあまりない。会話も「 」で括られることなく、地の文に組み込まれる。文章が途切れることなく続くので主語も判然とせず、また場面も唐突に変わる。原文は読んでないが、おそらく、これに近い独特の文体で、訳者の方が工夫を凝らしたのだろう。それも含めて評価が高いのだが、私には読みにくかった。
正直、もっとノンフィクション寄りの内容かと思っていた。ただタイトルにある迷宮感は大いに味わえた。陶然と、惑わされた。本作は〈東京三部作〉の掉尾だとか。前のニ部作は…どうしよう。