黒原敏行のレビュー一覧

  • 黒い天使

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    まるでヒチコックを見ているかのよう。プロットに弱点はいくつかあれど、そんなことはまるで気にならない「作り話」の面白さを見せてくれる。時代設定がだいぶ昔なので、現実味など感じようと思ってこの本を選んだわけでなし。少し前のミステリを久々に読んだ。とてもよかった。

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    2010年01月26日
  • すべての美しい馬

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    冒頭、主人公ジョン・グレイディ・コールの見る、馬に乗るインディアンたちの幻影の美しさに、まず心をつかまれた。とにかく全篇の自然描写が鋭く、美しい。ことに馬に関しては、なまめかしいくらい。ハイウェイを走るトラックの描写で、ああ、これは現代の物語であったと思い出す程、主人公の立ち位置が西部開拓時代を思わせる。いっさいの心理描写を廃しているせいか、16歳という年齢を感じさせないジョンの独立不羈ぶりが際立つが、時折挿まれるメキシコの子どもたちとのやりとりからは、彼のナイーブさが感じられる。特に、物語後半、牧場主の娘に会いに行く時に出会った貧しい子どもたちの一団に、メキシコに来てから自分の身に起こったこ

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    2010年02月24日
  • 抱擁

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    表紙は雪の中2人の男女が歩いている。よく見えない霧のなかをあてどなく歩くような本だった。命は簡単に失われ、同時にまた新しい命が生まれる。命は個人の意思で生まれず、与えられ、去っていく寂しさがある。抱擁は1人ではできない。寂しさを埋めるために抱きしめ、暖かさを確認するためにきつく抱き合う。昔、小猿の代理母の実験があった。針金の代理母とタオルの代理母が用意された。すると小猿はミルクが出るかどうかに関わらずタオルの代理母にしがみついたという。小猿が求めていたのは、単なるミルクだけではなく、触れられる温かさなのだろう。人間もただ生きるだけではなく、誰かの温かさを感じなければ、生きている実感を持てないの

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    2026年03月16日
  • 抱擁

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    アン・マイクルズは「儚い光」でオレンジ賞(女性小説賞)受賞、BBCの〈世界を作った100冊〉にも選出されたカナダの詩人・小説家。
    ブッカー賞候補になった「抱擁」は、なんだか詩を読んでいるような清らかな作品だった。翻訳者曰く、彫心鏤骨(チョウシンルコツ)の作であると。
    『もし今いっしょにすわってくれたなら、自分はこの人と一生涯テーブルをともにするだろうと感じたことを。』

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    2026年03月15日
  • 抱擁

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    詩のような断片が積もり、コラージュのように語られる世界。

    抱える傷や痛みごと他者は抱きしめていく。

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    2026年03月11日
  • チャイルド・オブ・ゴッド

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    なんとも恐ろしい小説を書くものです。凄惨な事件の内容ではありません。タイトルが示すように主人公が神の子であれば私もまた神の子だということ。高みから見れば個々の差など無いに等しく、それを納得させられてしまうことが恐ろしい。

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    2026年02月22日
  • すべての美しい馬

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    白黒映画のようだ。
    荒涼たる砂漠。
    理不尽や不公平が覆う世界。
    血は赤では生々し過ぎる。
    黒がいい。
    太陽の光と、ドス黒い血。
    強烈なコントラストの中で、馬だけが美しい。

    マッカーシーのカギ括弧が無い文体が、心の叫びのように聞こえてくる。
    救いがない、理不尽の世界でも、大地は変わらない。
    人はここで生きていくしかない。
    必要なのは勇気なのか。
    いや、そんなことを考えるのは人だけで、大地は今日も日に照らされ、生き物を育み、死をのみ込む。

    それでも生きることには意味がある。
    と、マッカーシーは言っている、と思いたい。

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    2026年02月17日
  • すばらしい新世界

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    ネタバレ

    前半では社会のあり方やそこに生きる人の価値観を描き、後半ではその社会を外部から観察した際の違和感を野蛮人ジョンの視点から分かりやすく描いている。
    苦悩や障害を超えることで得られる達成感が重要である、というジョンの主張のもとにディストピア社会を批判しているが、自分は社会に馴染めるタイプだろうなあと思いながら読んだ。苦労せず短絡的な快楽を得たいという思想と、何かを乗り越える過程にこそ意味があるという思想は優劣のつくものではなく、この作品でいうところの条件づけ次第で好むものが変わるという話なんだろう。
    1984年は寡頭政治のトップが権力を握り続けること(権力は権力のために存在し続ける)を目的に社会を

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    2025年12月27日
  • ノー・カントリー・フォー・オールド・メン

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    人は選択のミスにより、取り返しがつかない境地に陥ることがある。ただ、その選択は運なんかではない。選択は本人の責任であり、その結果、導かれたものが運なのかもしれない。まさに運命。命を運びし選択。乾き荒れた地に吹きすさぶ無情の死神者、シガー。

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    2025年12月20日
  • ザ・ロード

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    荒廃した世界を旅する父と子の物語。
    多くの人々が倫理観を忘れた世界で道半ば出会った人々を助けようとしたり、善きものであろうとする子供の純粋さが美しい。

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    2025年10月09日
  • ザ・ロード

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    ネタバレ

    大厄災の後、ほとんどの動植物種・文明は絶滅し、灰色の厚い雲に覆われ、生き残る人類の大部分は人食い部族として存続している地獄の世界。
    そんな地獄の中を、主人公の親子は、飢餓や凍死の危機をはじめとする様々な恐怖を経験しながら、倫理や理想を捨てずに進み続けようとする。
    極限状態に追い込まれていく描写がとてもリアルで、読みながら何度も何度も「頑張れ!まだ死ぬな!」と応援してしまった。食糧にありつくたびに、自分がとても安堵した。
    信仰を捨てず、こどもに無償の愛を注ぎ続ける父親が死んでしまうシーンはとても悲しかった。
    少年が新たな夫婦に出会う、救いのあるラストでまだよかったが…いや、この世界には救いなどな

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    2025年09月25日
  • シャギー・ベイン

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    サッチャー時代の炭鉱の町グラスゴーの貧困家庭の話。アルコール中毒の母親の面倒を見る小学生のシャギーが主人公。
    ちょうどアメリカのラストベルトの話のようだが、人種や移民の話はまだなく、カトリックとプロテスタントの対立が底層に流れる。
    筆者の自伝らしいが、ちょっと冗長。

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    2025年08月27日
  • すべての美しい馬

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    やはり特徴的なのはこの一文が長い文章だろう。しかもほぼ句読点もなし。あえてのこの書き方なのはわかるが、それでも読みずらい。平易な文章で書かれているが、この書かれ方にする必要性を感じなかった。

    ストーリーはサクサクと進むが、これといって起承転結に感情が揺さぶられることはなかった。

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    2025年08月23日
  • シャギー・ベイン

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    複雑な歴史背景などがあるんだろうけど、結局、母親は子供に甘えてただけなんじゃないかってモヤモヤして終わった。
    でも、読みやすかったので読んで良かった。

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    2025年08月18日
  • ザ・ロード

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    あとがきの表現を借りると、北斗の拳の世界の子連れ狼。ありえるかも知れない死と灰の世界で、人間はどのように行動し思考するかという視点ではリアリティを感じられましたが、物語は割と単調に感じました。

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    2025年08月14日
  • 幻の女〔新訳版〕

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    江戸川乱歩お勧め小説と聞き、ずっと読みたかったミステリー。真犯人に「うわー!?」となった。信じられなくて、思わず、読み返してしまったよ……。

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    2025年06月01日
  • すばらしい新世界

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    環境が人を作ると思ってるから、この本の洗脳教育を実際にやっても功を奏しそうで怖い。
    多分階級社会を受け入れさせて、階級を明確にすることが1番効率的なのかもしれない。差別はきっと無くならないし、それをモチベーションに仕事をする、っていうのもリアルだなと思った。きっとこの物語は人がめちゃくちゃ単純になったら一番効率的(経済面)で、みんな幸せ(不幸だと思えない)なモデルな気がする。
    この本の洗脳教育をされている登場人物は盲信的に自分たちの価値観が正しく、優れていると思っているけど、実際の人間には少しは疑う心があって欲しい。
    けど、その考えもいろんなことを考えましょう、という教育の影響かもしれないから

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    2025年05月24日
  • 世界が終わってしまったあとの世界で(上)

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    大量破壊兵器により破滅してしまった後の世界で混沌とした状況を修復する装置〈ジョーグマンド・パイプ〉に火災が発生。危機管理会社に所属する主人公「ぼく」や親友のゴンゾーその他のメンバーで火災の鎮火に向かう…というオープニングから一転、「ぼく」の子供時代からの年代記が始まる。
    大学を卒業して軍隊に所属し、大量破壊兵器である〈逝ってよし爆弾〉が炸裂したところで下巻に続く。
    …賑やかで破天荒な文体で、挿入されるミニエピソードもブッ飛んでいるので、好き嫌いが分かれそう。

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    2025年05月07日
  • すばらしい新世界

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    ネタバレ

    1984と並んでディストピア文学の祖と評される。1984とは異なり全体的な雰囲気は明るい。ムスタファ統制官と野人の会話が、この小説で描かれている世界になぜ至ったのか、どう維持しているのかを分かりやすく示しており面白かった。

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    2025年04月22日
  • 蠅の王〔新訳版〕

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    ネタバレ

    40~60年前の小説の訳者あとがきで幾度も出会い、読んでみる気になった。

    中盤の終わりくらいまではかなり良かったのだが、以降徐々に怪しくなってゆき、クライマックスはハリウッド映画のようになってしまっていてがっかり。いわゆるハリウッド映画的とされるものが醸成される以前の作品であるはずだが、不思議なことだ。

    本作品から見えた幻覚は『無限のリヴァイアス』、『癒しの葉』、『地獄の黙示録』。
    『癒しの葉』は、エレメンタルのありようのモチーフになったのではないかと思ったり思わなかったり。
    『地獄の黙示録』は、狂ってく様と後半に覚えた「オイオイ、いーのかよそれで」なガッカリ感。
    『無限のリヴァイアス』は

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    2025年04月14日