黒原敏行のレビュー一覧
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本書を読んで思い出したのは、1960年代のアメリカで出版された偽書、アイアンマウンテン報告であった。平和というのは異常なのであり現代社会は戦争があるのが平常である、というテーゼから戦争を賛美するこの偽書は未だにカルト的な賛美を集めている。
本書、『ブラッド・メリディアン』は1850年頃のアメリカを舞台として血が血を洗う暴力こそが社会にとって必要だということを描き出す暴力小説である。アメリカ先住民を撲滅するために暴走した私兵軍団は、先住民のみならずメキシコの人民も含めて旅路で出会う人間を皆殺しにしていく。そして、殺害の証拠として彼らが集めるのは殺した人間の頭皮である。死骸から頭皮を剥ぎ取るシーンのグロテスクさは筆舌に尽くし難い。
そして判事と呼ばれる謎の登場人物が滔々と語る暴力の正当化理論は、アイアン・マウンテン報告に似た形で暴力を賛美する。ひたすら暴力が繰り返される社会とはどんなものなのか、そこで加害者は何を思うのかということをここまで突き詰めた小説というのはそうそうないだろう。
全く万人にはお勧めできる作品ではないが、私のように他作品でコーマック・マッカーシーの世界に魅力を感じているのであれば、彼の一つの極地として本作を読むのは悪くないと感じる。 -
Posted by ブクログ
最初に「著者告知」として、
「これはフィクションです。
ほんとに起きたことは一つもないです。
人物は一人もほんとにはいないです。」
とある。
別に特別なことを書いてあるわけじゃないのに、なんだかそこはかとなくおかしみがある文章。人柄がにじみ出ている感じ? 原文を読んでないけど、きっと名訳!
で、本文に入るわけだけど、新兵(=チェリー)としてイラクに派遣された部分を読んで、告知は真逆で、「きっと大部分が本当のことなんだろうな」と思った。
読んでいて、虚しさが伝わってきた。
「何か意味のあることをしに来てるんじゃなくて、爆弾で怪我するか殺されるかするのが目的で、毎日時間をむだにするのが目的で、ここに来ている」という言葉。
大事な人を亡くした遺族には読ませたくない、と思った。
これって、遺族にとって、考えうる限りで最も聞きたくないことなんじゃないだろうか。多くの人が無意味に死んでいった、だなんて。
「チェリー」って象徴的なタイトルだな、と思った。
誰もが混乱してめちゃくちゃなことをやっているように見えた。
PTSDについてはサラっとしか書かれていなかった。
些末なことはすごく饒舌に書かれているのだけど、本当は何よりこのPTSDこそ語られなければならないことなんじゃないかという気がしたのだけど。
きっとまだ生々しくそこにある問題だから書くのは難しいことなのだろうな、というのがなんとなく想像できた。今もまだ苦しんでいるからなのかもしれない。
読み終わって思ったのは、ついこの間読んだヘミングウェイとほとんど同じことが書かれている、ということ。
この本の著者とヘミングウェイはそれぞれに違う時代の、違う理由で始まった、違う装備の戦争に従軍したわけだけど、書かれていることはほぼ同じだった。
戦争というのは、人を外側だけじゃなく内側からも傷つけていくのだということ。
多くの無意味な死や意味の分からない残虐さがあちこちで無造作に見られるということ。
二人の作品のスタイルは全然違うけれど、二人とも書いていることはそのようなことだ。
最後の謝辞がかなりおもしろくて驚いた。
ふつう本の謝辞って、人の名前がずらずら書いてあって飛ばし読みして終わりなんだけど、この本の謝辞は、素人がどのようにして本一冊分を書いたか、それをどんな人がどんな風にかかわってプロの作品にしたか、がすごく分かりやすかった。
こんなに読ませる謝辞は初めてかも。 -
Posted by ブクログ
解説を読むと、この光文社古典新訳版で、なんと四人目の訳者になるらしい。それだけ、魅力のある作品だということなのでしょうが、読者それぞれに想像させる描写が多く、物語の筋は分かるけど、そこから何を問いかけているのかが、難しく感じた。
初読で私が感じたことは、単純だけど、改めて植民地の概念って何だろう? ということです。
いきなり、知らない国の人たちがやって来て、特産品をいただくので、ただ働きしてくださいみたいな、現地の人にしてみたら、何言ってんの、ってなるであろうこの感覚は、私の理解の範疇を超えている。それなのに、見た感じでは、当然に受け入れたかのように働いている現地人の姿の描写が痛々しく感じた。
物語でクルツが、最後に何を見たのかは今でも分からないが、マーロウが感じた畏怖めいたものは、原初の自然の奥深くの見えない部分に、これまで経験したことのない常軌を逸したものを知覚したのだろうと思っています。改めて日にちをおいて、再読したい。 -
Posted by ブクログ
テクノ/ハウスなどの音楽で一般的なリミックスという手法は、その後、”シミュレーショニズム”の文脈で現代美術にも派生するが、文学においてはそこまで一般的な手法ではない。本書はそうしたリミックスの手法を用いて、芥川龍之介の作品を英国人作家デイヴィッド・ピースが新たな文学作品に仕立てた一冊である。
芥川本人、芥川の作品の登場人物など、主人公が章ごとに移ろいながら、明治の世相が美しく、しかしどこか仄暗さを持って描かれる。どこまでが史実の話で、どこからが芥川の作作品のリミックスなのか、その垣根は極めてぼやかされており、幻惑的な時間が流れる、不思議な書物。 -
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ロンドン。時計職人の祖父と、ギャングのボスの父を持つ時計職人のジョーは、奇妙な二人組の訪問を受ける。どうやら二人は、ジョーが祖父や父から大事な秘密を引き継いでいると思い込んでるらしい。しかし、自分には思い当たるものがない…
大きくは時代の異なる二つの物語が進行して、それが途中から交わって新たな展開を見せる。この作品はハヤカワポケットミステリーで700ページ越えしているので、とても長い。しかも、二つの物語の二つ目について語り始められるまでが、また長く、読むのを挫折しそうになる。でも、100ページあたりまで来れると、グッと早く読めるようになる。 -
Posted by ブクログ
長い。長すぎて疲れた。なんなんだろう、ミステリではないな多分。感覚的にはSFです。ハマる人には傑作だろう。私はそうではなかったが。
巻き込まれ型の主人公の周囲は、怪しげな機械や怪しげな人物やらで雪だるま式に膨らんでいく。場面が変わるたび、そこに絡むエピソードに費やすページが多くなかなか本筋に入らない。早々に満腹感に見舞われた。二本立てのもう一方は女性エージェントのお話。こちらの方が相性がよく、読み応えもあり面白かった。
“なんでもあり”のお話です。ジャンルも、スチーム・パンク、悪漢小説、冒険スパイと多岐にわたってるし、リアリティがないから、謎の団体が、誰が、どこで何をやってもお構いなしに進んでいく。後半ハイになるけど、読後感は空虚な感覚の不思議な一冊だった。