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Posted by ブクログ
著者がイラク戦争から復員後、PTSDとなり、銀行その他の強盗による服役中に書いたという本書。冒頭、主人公はクスリを買うお金欲しさに強盗を働いている。話は遡り、主人公がクスリのせいで大学を中退し陸軍に入隊、数ヶ月の訓練後イラクへ派遣、一年後復員するも、次第に薬物中毒となり、やがて銀行強盗に手を染めていく…これ、私小説やん!と思うのだが、著者によると『フィクションであり、実際に起こった事は1つもない』のだそう。主人公のクズっぷりは相当だが、死が日常にある戦場で見たものや、クスリに依存していく様子は、とんでもなく惹きつけられた。
著者は今月、仮出所するとのこと。
Posted by ブクログ
獄中作家だというから、極悪なやつかなー極悪苦手だなーとちょっと及び腰であったが、犯罪版サリンジャー『ライ麦』のようであった。作中にも『シーモア』が出てきたからもしやサリンジャー好きなのかな。ズブズブ加減はブコウスキーのようでもあった。ティム・オブライエン『本当の戦争の話をしよう』やトレスポなども思い出した。堕ちていくピュア。これをどう映画にするんだろうか。
Posted by ブクログ
最初に「著者告知」として、
「これはフィクションです。
ほんとに起きたことは一つもないです。
人物は一人もほんとにはいないです。」
とある。
別に特別なことを書いてあるわけじゃないのに、なんだかそこはかとなくおかしみがある文章。人柄がにじみ出ている感じ? 原文を読んでないけど、きっと名訳!
で、本文に入るわけだけど、新兵(=チェリー)としてイラクに派遣された部分を読んで、告知は真逆で、「きっと大部分が本当のことなんだろうな」と思った。
読んでいて、虚しさが伝わってきた。
「何か意味のあることをしに来てるんじゃなくて、爆弾で怪我するか殺されるかするのが目的で、毎日時間をむだにするのが目的で、ここに来ている」という言葉。
大事な人を亡くした遺族には読ませたくない、と思った。
これって、遺族にとって、考えうる限りで最も聞きたくないことなんじゃないだろうか。多くの人が無意味に死んでいった、だなんて。
「チェリー」って象徴的なタイトルだな、と思った。
誰もが混乱してめちゃくちゃなことをやっているように見えた。
PTSDについてはサラっとしか書かれていなかった。
些末なことはすごく饒舌に書かれているのだけど、本当は何よりこのPTSDこそ語られなければならないことなんじゃないかという気がしたのだけど。
きっとまだ生々しくそこにある問題だから書くのは難しいことなのだろうな、というのがなんとなく想像できた。今もまだ苦しんでいるからなのかもしれない。
読み終わって思ったのは、ついこの間読んだヘミングウェイとほとんど同じことが書かれている、ということ。
この本の著者とヘミングウェイはそれぞれに違う時代の、違う理由で始まった、違う装備の戦争に従軍したわけだけど、書かれていることはほぼ同じだった。
戦争というのは、人を外側だけじゃなく内側からも傷つけていくのだということ。
多くの無意味な死や意味の分からない残虐さがあちこちで無造作に見られるということ。
二人の作品のスタイルは全然違うけれど、二人とも書いていることはそのようなことだ。
最後の謝辞がかなりおもしろくて驚いた。
ふつう本の謝辞って、人の名前がずらずら書いてあって飛ばし読みして終わりなんだけど、この本の謝辞は、素人がどのようにして本一冊分を書いたか、それをどんな人がどんな風にかかわってプロの作品にしたか、がすごく分かりやすかった。
こんなに読ませる謝辞は初めてかも。