黒原敏行のレビュー一覧

  • 幻の女〔新訳版〕

    Posted by ブクログ

    おもいっきり作者の罠にはまってしまった。
    久しぶりに推理小説のトリックに驚きました、若かりし頃読んだクリスティのアクロイド殺しやオリエント急行殺人事件を読んだ時いらいかもしれません。最近は推理小説をよんでも謎解きにこだわらず、物語を楽しむようにしていたので余計にそう感じていたのかもしれません。
    探偵役のロンバートが歌手のメンドーサには下手から、ケティーシャには上手から攻略します。私は彼の成長を楽しく読んでいたのですが、その頃には作者にとって理想的な読者になっていたのです。
    幻の女に対する幻想が読んでいくうちにどんどん変化して、最後には予想もしない本性をあらわします。一気読みしてしまう面白さがある上に、こころの中に濃い満足感がのこる小説です。

    0
    2026年10月06日
  • すばらしい新世界

    Posted by ブクログ

    SFのジャンルとなっていて、世界SF全集10(早川書房)ではオーウェルの1984とカップリングになっている。最初の方は人間を4種類に分けて育てる方法の説明であった。後半からは、母親が事故で荒野に住み着き、その息子の野蛮人が主人公となって、最後は見世物になって自殺してしまうというストーリーになっている。
    100分で名著で説明されている本であるが、どこまでイラスト化されるであろうか。

    0
    2026年09月14日
  • 闇の奥

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    アフリカの植民地の奥地へ、雇われ船長として向かったイギリス人男性の回顧録、という形式。19世紀末のイギリスの有名古典小説。全編がロンドンの河口に浮かぶ船の上で、男が友人に語る形で振り返る。船乗りだったコンラッドの実体験が投影され、植民地支配の闇を告発する。
    ・病気になって死を待つばかりの黒人奴隷が集められた木陰。
    ・ジャングルの出張所で完璧に整えられたシャツを着る白人経理。
    ・白人が求める(アフリカで調達する)ものは、大量の象牙。
    ・象牙や、黒人を使役する対価として渡すものは「真鍮の針金」と「ガラス玉」
    ・美しく着飾った(はずである)アフリカ女性は、真鍮の針金を加工した装飾具と、ガラス玉の首飾りを身につけている
     作中で明示されていないが、以下の関係が暗示されていると考えられる。
    ・真鍮の針金=金のように綺麗な色だが、西洋文明では取るに足らない量産できる品(真鍮は銅と亜鉛の合金)
    ・ガラス玉=宝石のように綺麗だが、こちらも西洋文明では量産できる品
    一見貴重品に見える取るに足らないものを対価に、奴隷を働かせ、象牙をかき集める。

    飢える黒人船員に対して、食料ではなく真鍮の針金を渡し続ける様子におぞましさを感じた。この作品を19世紀末に描いたコンラッドの、実体験に基づく鋭い視線は現代にも響いた。

    0
    2026年09月05日
  • 越境

    Posted by ブクログ

    ページ数以上に濃い壮大な物語。道中出会う人々の哲学的な世界観に触れることでビリーの非情な運命にも救われる部分があっただろう。善も悪も木や石も全てに物語があるという〈物語〉の部分は再読が必要かも。

    0
    2026年09月22日
  • すばらしい新世界

    Posted by ブクログ

    かなり面白かった。新世界住みたい。

    「幸福か自由か」という点だけでなく、「人間にとって、苦痛を生みうる複雑さそのものに価値があるのか」というところも考えさせられて楽しいですね。

    新世界は、苦痛を減らし、欲望や価値観まであらかじめ条件づけ、本人がそれに疑問を持たないように作られている。ここまで露骨じゃないにしても、階級社会も条件づけも現実にあるものだし、それなら外的環境まで一貫して整えて、ソーマまでくれる新世界の方がよほど親切。
    下層階級も適切に管理され、管理されていることに疑問もなく、自分の役割を好んでいるなら十分幸せそう。「問いを持たなくていい・意味を探さなくていい・役割を外から与えられる」という状態にはかなり惹かれる。

    特に面白かったのは、ジョンの感情がどこまでジョン自身のものなのか、というところ。
    ジョンはシェイクスピアの言葉によって自分の感情を理解している。言葉はすでにある感情を説明するだけではなく、その感情を形づくり、増幅する。その言葉を知らなければ、その感情を同じ形では知らなかったのではないか。
    これは新世界の条件づけともそれほど遠くない。新世界の住民は睡眠学習によって価値観を与えられ、ジョンはシェイクスピアによって感情や価値観を与えられている。どこまでが本人の意思なのか、そもそも外的なものから影響されない「本人の意思」などあるのか。
    文学は言葉を増やし、感情に名前を与え、苦痛や満たされない欲望に意味まで与えてしまう。ジョンなんて可哀想に、題材がシェイクスピアだったもんだから、女性は純潔、さもなくば娼婦の二択になってしまうし、自分の中に芽生えた小さな感情を、巨大な悲劇サイズで解釈してしまう。
    思うに、シェイクスピアだけだったのが良くない。ジョンに渡すもの選べるなら、ジェイン・オースティンあたりから初めて、チェーホフを与えて、ドン・キホーテとか投与しつつ、仏教説話とか混ぜとけばどうかな、と思う。

    まあとにかく、ストロベリーアイスクリームソーマを飲み、触感映画を観て暮らしたい。それに尽きる。

    0
    2026年08月22日
  • 幻の女〔新訳版〕

    Posted by ブクログ

    とんでもなく面白かった!
    古い作品だが、ハラハラドキドキの展開。
    主人公の無実を証明してくれる「幻の女」は誰で、今どこにいるのか?なぜ誰もそんな女は見なかったと証言するのか?そして真犯人は?というメインストーリーが非常によいミステリーになっている。最後まで犯人が分からず、そして見事に真犯人のミスリード(絶対ミスリードするように描写されてますよね?)に引っかかった笑
    トリックや推理部分は実は全然複雑ではなくむしろアッサリしている。
    でもトリックのみではなく、この一連の出来事を非常に緊迫したストーリーとして読ませる描写力にとても引き込まれた。

    そして、アイリッシュの文章の上手さ。
    「高架電車が、通りの向こうを地蛍(つちぼたる)のようにのたくり這っていた」
    「頭上にまばらに並んだ電灯の薄汚れた黄色い光りのもと、ふたりは水槽の中を物憂く泳ぐ2匹の魚のようだった」
    文章がオシャレだしまるで舞台を見ているかのよう。

    翻訳もので日本語文体がぎこちなくて意味が取りづらいとき、元の文章がこんななの?翻訳家が上手く日本語に訳せていないの?と常々思っていたけれど、色々海外小説を読んで来て最近、おそらくほぼ前者で、作家の元の文章のせいなんだろうなと言うことが最近思えて来た。
    訳者後書きを読んでもわかるように、ウィリアム・アイリッシュの英文文章自体がとんでもなく上質のようだ。それをまた再現出来るよう最大限に日本語化してくれる翻訳者の方々も素晴らしいです。

    0
    2026年08月19日
  • 蠅の王〔新訳版〕

    Posted by ブクログ

    めっちゃおもしろかったです。
    めっちゃ怖かったです。
    最近こういうホモソ?みたいなの考える機会多いのでなんか迫るものがありました。

    0
    2026年08月17日
  • 蠅の王〔新訳版〕

    Posted by ブクログ

    キリストとか聖書とか全然わかんないけど、話がとても面白い。最後まで、どうなっちゃうの?!って読み進められる。

    人間の敵は人間だなあ、とありきたりなことを考える。それにしてもピギー、、、

    0
    2026年08月16日
  • すべての美しい馬

    Posted by ブクログ

    10年以上振りに再読した、16歳の少年のメキシコ放浪譚

    「おやおや、とペレスはいった。おやおや。犯罪者なき犯罪は存在すると思うかね?犯人を見つけ出すのが問題じゃない。誰を選ぶかということだ。店でちょうどいい服を選ぶみたいに。」

    0
    2026年08月12日
  • 越境

    Posted by ブクログ

    途中で出会う、主に三人の挿話や哲学パートあたりを読み進めるのにとても疲れたが、良い本だった。

    全体的に漂う物悲しい雰囲気、美しい情景の描写、孤独感。喪失。
    ビリーの涙に胸が締め付けられる。読後の余韻がしばらく抜けなかった。

    0
    2026年07月30日
  • ナイルに死す〔新訳版〕

    Posted by ブクログ

    ポアロものでは、やはり旅をテーマにしたミステリーが面白い。なかでもこの作品は異国情緒もたっぷりで楽しい。複雑に絡み合った案件をポアロが論理的に見事に解きほぐしていくプロセスが圧巻。でも、アガサ・クリスティーものを読み込んできたおかげか、いやたまたまか、今回はかなり初めの段階でピンときた。

    0
    2026年07月27日
  • ナイルに死す〔新訳版〕

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    【再読】
    エジプトのナイル川をめぐる旅に出かけたポアロ。そこには個性あふれる乗客たちが乗り合わせていた。その中でも特に、リネットとサイモンのドイル夫妻とジャクリーヌが不穏な空気を醸していた。リネットとジャクリーヌは親友同士で、元々サイモンはジャクリーヌの恋人だった。だがサイモンはリネットと恋に落ち、ジャクリーヌを捨てて彼女と結婚したのだった。それ以来ジャクリーヌは二人に付き纏い嫌がらせをするように。
    その旅の最中、アブシンベル神殿に立ち寄った際、危うくリネットが落石に巻き込まれそうになる。さらにその夜にはジャクリーヌがサイモンを銃撃する事件も発生する。サイモンの命に別状はなかったものの、そこで使われた銃が忽然と消え、翌朝射殺されたリネットが発見される。リネット殺害の動機を一番持っているのはジャクリーヌだったが、サイモンを銃撃して動揺していたジャクリーヌはその後ずっと監視下にあり、アリバイがあった。
    ポアロはレイス大佐とともに乗客たちから事情を聞くことに。その後銃は川で見つかったが、新たにリネットの真珠のネックレスが盗まれていたことが発覚する。犯人の見当がつかない中、今度はリネットのメイド・ルイーズが、さらには犯人を知ったと思われるオッターボーン夫人が殺される。
    ポアロはサイモンを犯人だと名指しする。実際にサイモンは撃たれてはおらず、撃たれたふりをしてみながいなくなった僅かの間にリネットの部屋を訪れ妻を殺害、その後自らの足を撃った。つまり、サイモンとジャクリーヌは最初から共犯で、リネットとの結婚で遺産を手に入れる算段をつけ彼女を殺害、その後二人はよりを戻すつもりだったのだ。だがメイドのルイーズにサイモンがリネットの部屋を訪れているところを見られたので彼女を殺害、さらにそれを目撃したオッターボーン夫人も口封じに殺したのだって。真珠泥棒はティムだったが後に改心する。

    素晴らしい導入、エジプトを巡る旅情、魅力的な登場人物と人間ドラマ、ポアロの鮮やかな推理。文句なしの名作。特にサイモン、リネット、ジャクリーヌの三角関係と犯行動機が上手い。事件発生までじっくり描かれつつも全く飽きないのも本当にすごい。
    ●見どころ
     ・恋がすべてではないと諭すポアロ
     ・『ひらいたトランプ』のレイス大佐登場
     ・典型的イギリス人として引き合いに出されるヘイスティングズ

    0
    2026年07月12日
  • シャギー・ベイン

    Posted by ブクログ

    人間はみんな愚かで弱くて小さな存在で
    人生なんか勝手に転がり落ち続けるもので
    自分で選べるようなことなんかほとんどない。
    そんな毎日がただただ積み重なっていく。
    でも、そんなクソの中でも、一歩踏み出せる日もあったりして、愚かで弱い人間は愛おしい。

    という、私の大好きなテーマの本。

    今のわたしが生きている社会は、豊かで平等で、なんでも望むことができるし、SNSを開けば他人のキラキラの上澄みや成功体験ばかりが目に入るけれど、生きるということは、本来苦しくて思い通りにはならないものだ。

    グラスゴー、サッチャーと炭鉱労働者、カトリックとプロテスタント、アルコール依存症、ヤングケアラー、性的少数者、親子の愛、政府からの給付金のみで生活する貧しい人たち、好色なおやじども、我慢するだけの女達、愛し合いながら憎み合う家族、いろんな切り口で読めるけど、ちゃんとした人間なんて1人もいないのがとてもよかった。

    0
    2026年07月08日
  • すばらしい新世界

    Posted by ブクログ

    今ある価値観は全て、社会や周囲から与えられた「条件づけ」なのかもしれない
    もしかしたら、人は顔や性格が少し違うだけで、それぞれにちょうどいい餌を与えられて、日本や社会、世界という大きな仕組みの中で上手に飼われているとしたらその制度を考えた人がすごい

    一方で、今の自分の生活は、自由と管理の「良いとこ取り」をした結果なのかもしれないと考えると、今の生活を以前より肯定的に捉えられる気がする

    そして読み終えてから、この本を昔にも読んでいたことに気づき、とても驚いた

    プラトンは「魂は生まれる前に真理を知っており、学習とはそれを思い出すことである(想起説)」と語っていた。読み終えた瞬間、「ああ、そういうことか」と思った(たぶん全然違う)

    0
    2026年07月01日
  • すべての美しい馬

    Posted by ブクログ

    物語は1949年から50年のアメリカテキサスとメキシコが舞台。
    時代は戦争から平和な近代化を目指し、馬より化石燃料を必要とする流れの中、それでも馬を愛しカウボーイとして生きたい16歳の少年が、テキサスを離れメキシコでならまだカウボーイとして生きてゆけると信じ、もう一人の少年と旅に出る。
    途中、年下の少年も加わり3人で旅をする。

    メキシコで仕事にはありつけたが、少年の恋とメキシコ革命後に残る階級意識が少年たちの過酷な状況へと進んでいく。
    さすがマッカーシーという作品で、ハッピーエンドで素敵な冒険でした、などという結末ではなく、時代変革期の脅威、人間の醜さ、そんな負の感情を抱きつつも、人間が根本にもつ信念の強さや生きる力を感じさせてくれる素晴らしい作品だ。

    マッカーシー作品は前回読んだ「ザ・ロード」に続いて2作目だが自分には本当に好きな作家だとわかった。

    独特の文体で、句読点で句切らず一文が長く続き会話も突然入ってくる。
    しかし旅の情景描写のリアルさ、小さな比喩をいくつも重ね合わせて表現する繊細な感情表現が読んでいて非常に心地よい。
    感覚的には読書しているよりも脳内に映画を流されている感覚にすらなる。
    長編で長い時間作品に浸れる幸福感もある。

    越境三部作、ぜひ次の作品も読みたいと思う。

    0
    2026年06月17日
  • ノー・カントリー・フォー・オールド・メン

    Posted by ブクログ

    最後らへんすごくよかったなー。
    冒頭は普通のクライムノベルっぽく、主人公がうっかり慈悲をみせてしまって狙われることになるのも、イイネ。
    中盤では主人公の奥さんが丁寧に描かれるので、最後の無慈悲な悲劇が身に迫る。
    最後らへんの保安官の独白がすごくよかった。小説の終わらせ方として大変クールでかっこいいし、職業人生を終わらせる決断に際しての心の動きとしてのリアリティーもある。夫婦で馬に乗って佇む絵図が静かで悲しくてイイネ。
    アメリカ社会の非情な一面を克明に描き切っている。
    悪役は自然現象のように描写されていて、それも含めて筆者はドラマとか心理とかではなく、アメリカという国家を書いたのではないかと思う。

    0
    2026年04月27日
  • 幻の女〔新訳版〕

    Posted by ブクログ

    東西ミステリランキング上位作品だけあり、読みやすく面白く、なにより文章が美しい。
    一節一節の翻訳に赴きを感じた。
    初手30ページで虜になりました。
    幻の女、、出会ってみたい、、

    0
    2026年04月11日
  • すべての美しい馬

    Posted by ブクログ

    ブラッドメリディアンに続き、コーマックマッカーシー作品は2作目。ブラッドメリディアンはひたすら荒野が続き、人間がその背後に引っ込んでいるような世界観で読むのに難儀した記憶があったが、本作はジョン・グレイディ・コールという人間が全面に出ていて読みやすかった。

    冒頭のろうそくの炎が揺れて戻る描写など、物事の詳細を書きまくる文章は、時間をかけて脳内に映像として再生させる事を強いてくる。また、それは主人公が出会う自然やゆきずりの人々を前景化させる。主人公だけを特別視しないというようにも言えるし、主人公に極めて近い位置にいるカメラから見ている超高精細な物語と考えると、ジョン・グレイディ・コールに寄り添った文章とも思う。

    ジョン・グレイディ・コールの純粋さが際立つ。馬に対する愛情、ロリンズやプレビィンズに対する友情、アレハンドラへの恋心、誰に何を言われても筋を通そうとする考え方。終盤で判事に打ち明ける逡巡。全てが純粋で、ある意味完璧な人間性とも言えるのに、だからこそ理想郷を求めて彷徨い続け、居場所が見つからずでいる様は、世の中の矛盾を感じさせる。でもそれは、判事や牧師の語った使命感に出会うまでの旅路なのかも知れない。こう書くとベタな話に思えるけど、でも良いんです。

    西部劇要素が強く極めて男性的な物語なはずだが、女性がお飾りになっているようには感じなかった。後半の大叔母の独白は圧倒的で、世を動かしている男性の暴力性についての語りであり、ジョン・グレイディ・コールにも備わってしまっているものだ。判事に告白したように。

    越境三部作という事なので残り二作も楽しみ。





    0
    2026年04月05日
  • すばらしい新世界

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    ディストピア小説に挑戦中で、これはジョージ・オーウェル『1984年』の次、2冊目に選んだもの。

    『1984年』よりも古いのに、西暦2540年を描いているから?今の社会と比べる感覚で読めるのが良かった。コミカルでおもしろくて不気味!

    家族、老い、苦痛、忍耐がない世界。「母親」が卑猥な意味になる世界(なぜなら人は母体ではなく瓶で作られるから。妊娠と出産は卑猥でグロテスクなものとされる)

    「条件づけ」や「睡眠学習」によって管理下で育つ人々は、恋愛や特定の人への執着はせずフリーセックスを楽しむ。新しい清潔なものだけを好む。出自や身分に不満を抱かない。死を重大なことと捉えない。達成感や感動を機械的に獲得できるよう、娯楽のシステムが整備されている。

    現代的な、特に都心部の、気楽さと心地よさが極端に振れると実現しそうな世界にぞわぞわしながら読み終えました。

    0
    2026年03月15日
  • ザ・ロード

    Posted by ブクログ

    マッカーシーのピュリッツアー賞受賞作。
    終末の地球を歩く父と子の姿を、悲しみに満ちているが乾いた筆致で描いた。人類は自ら招いた恐怖と絶望を超えられるのかと、少年を通して語りかける。感動作。
    父親と少年が、何もかも燃え尽きた地表を南に向かって歩いている。

    理由は 訳者あとがきから
    舞台はおそらく近未来のアメリカで、核戦争かなにかが原因で世界は破滅している。空は常に分厚い雲に覆われ、太陽は姿を現さず、どんどん寒くなっていく、地表には灰が積もり植物は枯死し、動物の姿を見ることはほとんどない。生き残った人々は飢え、無政府状態の中で凄惨な戦いを続けている。そんな死に満ちた暗澹たる終末世界を、父親と幼い息子がショッピングカートに荷物を積んで旅をしていく。寒冷化がいよいよ進み次の冬が越せそうにないため、暖かい南をめざしているのだ。
    これで状況が十分説明されている。こうなった原因は語られず、現状の荒みきった地球、わずかに生き残った人たちも既に人でなくなっている世界。

    分厚い灰が積もりその細かい塵が空に舞い上がり上空で雲になり雨を降らせる。日が差さず空が白んできたことで朝かもしれないと思う。
    飢えた一握りの生き残りがお互いを食う。柔らかい人の肉をむさぼる。通り過ぎた後には略奪と破壊と死だけが残されている。

    父親と少年は、持ち出した食料が尽きてくると、焼け残った家や小屋をあさる。少年は常に父に付き添い話しかける。
    その声はこの世の、地球の生命が尽きようとしている中で、唯一人間らしい響きを残している。だが父親は少年の魂から出る声に従うことが出来ない。少年を死なせないためには、人らしい生き方など捨てなくてはならない。タダ生き伸びるために死力を尽くしている。

    生き続けるためには、敵は殺さなくてはならない、銃はそのために離さない。弾が尽きるまで。
    厳寒のなか海に浮かぶ廃船にも泳いでいく、厨房に何か残ってないだろうか。
    父親は、火を炊かねばならない、そうしないと少年が凍える。
    少年はいつも火を(と共にあり)運んでいる、善き人であろうとしている。
    父は肺臓をやられ血を吐いている。死んでも息子を守らなくてはならない。

    こうして、穢れのない少年の言葉が、汚れきり腐った道程に火を灯し、それに読者は同行する。
    変化のない枯れた木立と燃え尽きたかっての家の残骸、焼死し打ち捨てられた人々を越えて、日々ただ暖かいだろう南に進んで歩き続ける。
    食べられそうなものならどんなものでも食べ、泥水を漉してのみ、流れている黒い水の中に入って体を洗う、そんな光景に付き添う。
    話の終わりまで変化のない道筋を、憑かれたように読んでしまう。
    小さな出来事におびえ、拾ったり見つけてきたボロ毛布を体に巻きつけ、やっと南の海に来た。そこは黒く汚れた波が打ち寄せていたやはり死んだ海だった。

    このまま長く生きていると世界はいずれ完全に失われてしまうだろうと思った。盲いたばかりの人の世界が徐々に死んでいくように全てがゆっくりと記憶から消えていくだろうと。

    旅の途中で父親が思った、そんな風景の未来が見えた。
    父は命がつきそうだった。

    パパと一緒にいたいよ。
    それは無理だ。
    お願いだから。
    駄目だ。お前は火を運ばなくちゃいけない。
    どうやったらいいかわからないよ。
    いやわかるはずだ。
    ほんとにあるの?その火って?
    あるんだ。
    何処にあるの?どこにあるのかぼく知らないよ。
    いや知ってる。それはお前の中にある。前からずっとあった。パパには見える。
    ぼくも一緒に連れてってよ。
    それはできない。

    お前が話しかけてくれたらパパも話しかける。
    ぼくに聞こえるの。
    ああ聞こえる。話をしているところを思い浮かべながら話すんだそうすれば聞こえる。練習しなくちゃいけないぞ。諦めちゃいけない。わかったかい?
    わかった。


    迷子になっても見つけてくれる、善意が見つけてくれるんだ。パパは言った。

    少年は生き残りの人が近づいてくるのを見た。
    マッカーシーのピュリッツアー賞受賞作。終末の地球を歩く父と子の姿を、悲しみに満ちているが乾いた筆致で描いた。人類は自ら招いた恐怖と絶望を超えられるのかと、少年を通して語りかける。感動作。
    父親と少年が、何もかも燃え尽きた地表を南に向かって歩いている。

    理由は 訳者あとがきから
    舞台はおそらく近未来のアメリカで、核戦争かなにかが原因で世界は破滅している。空は常に分厚い雲に覆われ、太陽は姿を現さず、どんどん寒くなっていく、地表には灰が積もり植物は枯死し、動物の姿を見ることはほとんどない。生き残った人々は飢え、無政府状態の中で凄惨な戦いを続けている。そんな死に満ちた暗澹たる終末世界を、父親と幼い息子がショッピングカートに荷物を積んで旅をしていく。寒冷化がいよいよ進み次の冬が越せそうにないため、暖かい南をめざしているのだ。
    これで状況が十分説明されている。こうなった原因は語られず、現状の荒みきった地球、わずかに生き残った人たちも既に人でなくなっている世界。

    分厚い灰が積もりその細かい塵が空に舞い上がり上空で雲になり雨を降らせる。日が差さず空が白んできたことで朝かもしれないと思う。
    飢えた一握りの生き残りがお互いを食う。柔らかい人の肉をむさぼる。通り過ぎた後には略奪と破壊と死だけが残されている。

    父親と少年は、持ち出した食料が尽きてくると、焼け残った家や小屋をあさる。少年は常に父に付き添い話しかける。
    その声はこの世の、地球の生命が尽きようとしている中で、唯一人間らしい響きを残している。だが父親は少年の魂から出る声に従うことが出来ない。少年を死なせないためには、人らしい生き方など捨てなくてはならない。タダ生き伸びるために死力を尽くしている。

    生き続けるためには、敵は殺さなくてはならない、銃はそのために離さない。弾が尽きるまで。
    厳寒のなか海に浮かぶ廃船にも泳いでいく、厨房に何か残ってないだろうか。
    父親は、火を炊かねばならない、そうしないと少年が凍える。
    少年はいつも火を(と共にあり)運んでいる、善き人であろうとしている。
    父は肺臓をやられ血を吐いている。死んでも息子を守らなくてはならない。

    こうして、穢れのない少年の言葉が、汚れきり腐った道程に火を灯し、それに読者は同行する。
    変化のない枯れた木立と燃え尽きたかっての家の残骸、焼死し打ち捨てられた人々を越えて、日々ただ暖かいだろう南に進んで歩き続ける。
    食べられそうなものならどんなものでも食べ、泥水を漉してのみ、流れている黒い水の中に入って体を洗う、そんな光景に付き添う。
    話の終わりまで変化のない道筋を、憑かれたように読んでしまう。
    小さな出来事におびえ、拾ったり見つけてきたボロ毛布を体に巻きつけ、やっと南の海に来た。そこは黒く汚れた波が打ち寄せていたやはり死んだ海だった。

    このまま長く生きていると世界はいずれ完全に失われてしまうだろうと思った。盲いたばかりの人の世界が徐々に死んでいくように全てがゆっくりと記憶から消えていくだろうと。

    旅の途中で父親が思った、そんな風景の未来が見えた。
    父は命がつきそうだった。

    パパと一緒にいたいよ。
    それは無理だ。
    お願いだから。
    駄目だ。お前は火を運ばなくちゃいけない。
    どうやったらいいかわからないよ。
    いやわかるはずだ。
    ほんとにあるの?その火って?
    あるんだ。
    何処にあるの?どこにあるのかぼく知らないよ。
    いや知ってる。それはお前の中にある。前からずっとあった。パパには見える。
    ぼくも一緒に連れてってよ。
    それはできない。

    お前が話しかけてくれたらパパも話しかける。
    ぼくに聞こえるの。
    ああ聞こえる。話をしているところを思い浮かべながら話すんだそうすれば聞こえる。練習しなくちゃいけないぞ。諦めちゃいけない。わかったかい?
    わかった。


    迷子になっても見つけてくれる、善意が見つけてくれるんだ。パパは言った。

    少年は生き残りの人が近づいてくるのを見た。

    0
    2026年03月02日