黒原敏行のレビュー一覧

  • 平原の町

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    国境3部作完結。
    ようやく読み終えたー。

    馬の主人公ジョングレイディと越境のビルが同じ牧場で働いている設定、というのにまずしびれる。
    ビルにとってジョングレイディは、弟のボイドと重なるところがあって、とても大切にしている。
    ほかの大人たちもジョングレイディを見守っているけれど、そんな時間は長くは続かない。

    1952年、街が大きくなって、馬と牛と共に生きてきたカウボーイが次第に行き場を失っていく時代が舞台。野生動物が追い詰められていく姿を見るようだ。

    ビルが人生を穏やかに閉じられそうでよかった←それは本当にはまだ分からないけれど。

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    2023年06月05日
  • ノー・カントリー・フォー・オールド・メン

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    コーマック・マッカーシー『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』ハヤカワepi文庫。

    2007年に扶桑社ミステリーとして刊行された『血と暴力の国』を改題、改訂、再文庫化。再文庫化にあたり『No Country For Old Men』という原題の正式なタイトルに戻したようだ。

    4年程前に仕事でタイに向かう飛行機の中で本作が原作の映画『ノーカントリー』を観たところ非常に面白く、無性に読んでみたいと思っていた。

    強烈な印象を残した映画のシーンを頭の中に描きながら読んでみると、老保安官のエド・トム・ベルも、奇妙な武器を操るマッシュルームカットの太目で残忍な殺し屋のアントン・シガーも、ヴェト

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    2023年03月30日
  • すばらしい新世界

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    ネタバレ

    当時こんなことを考える人がいたことは驚きだ
    本気でやっている苦悩をエンターテイメントとして受容されることのなんと耐え難いことか…
    モンドの苦悩が大多数の幸福を支えている歪さがいい意味で気持ち悪かった

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    2023年03月10日
  • 幻の女〔新訳版〕

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    ネタバレ

    間違いなくミステリーの傑作。これまだ読んでなかったんだな。びっくりする作品はだいたい二重構造とか、ひとつのことに二つの意味があって、読み終わったら、なんで気づかなかったんだろうって、ちょっと体調とか、冴えてるときだったら、分かってたのにとか思ったりするけど、これは自分がどんなコンディションでも、解ける気がせず。すごい。うまい。
    冒頭のリリカルな表現はもちろんスタイリッシュでいい感じ。別れるときの女のセリフもちょっとクサイくらいあるけど、なんか好きだな。

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    2023年02月20日
  • 越境

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    ネタバレ

    『すべての美しい馬』とこれと『平原の町』で国境三部作とのこと。
    気になる.

    そして1995年単行本を読んでいる.
    最初に、主人公が夜寝床から起き出して、狼の姿を見守る場面でもう絶対にわたしの好きな物語だと確信したし、読み終わるのがすでにもったいないと思った。

    そして読後、すばらしくて、訳わからなくて打ちのめされる。。。

    主人公は手に入れたいものを追ってアメリカとメキシコの国境を3回越境する。2回は手に入れたいものが手に入らなかった、3回目は手に入れたけどほしいかたちじゃなかった、といった意味の文章がある。
    狼を追っていって戻った後、まだ物語が続いて、なんでだろうと思っていたけれど、読み進

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    2023年02月27日
  • 幻の女〔新訳版〕

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    こんな面白い推理小説はそう多くない。古典中の古典とのことだが、今読んでもプロットが古くなくてびっくりする。

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    2023年01月29日
  • 蠅の王〔新訳版〕

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    「この少年たちは人間であるという恐ろしい病気にかかっている」
    訳者後書きの一文がこの小説を端的に物語っている。性悪説の視点で描かれたというより、人間とはそもそも獣だという考え方なのだ。
    まさに「人間は蜜蜂が密を作るように悪をなす」のだ。

    粗筋としてはこんな感じ。
    「飛行機の墜落で無人島に漂着した少年たちが、大人のいない世界で自らの獣性に目覚め、共同体から除外された仲間の殺戮を始める。」

    閉ざされた世界で2つのグループに分かれて行き、それぞれ独自のルールが作られる。文明のルールを守りたいラルフと、サバイバルを楽しみたいジャック。多くの少年はジャック側につき、ラルフ側の仲間は追い詰められていく

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    2022年12月08日
  • すばらしい新世界

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    来るかもしれないディストピアを描いた作品。フィクションを通じて、自由主義・資本主義の問題点を伝えている。どんなイデオロギーが妥当か、正直議論が抽象的すぎて、自分にはわからない。けどとにかく、今の社会を生きる人間として、読んでおいてよかった!

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    2022年11月29日
  • Xと云う患者 龍之介幻想

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    芥川龍之介が書いた作品と伝記的エピソードをコラージュし、この世という地獄を彷徨う作家の姿を描いた〈芥川版ドグラ・マグラ〉のような幻想怪奇小説。


    日本在住のイギリス人作家が英訳された芥川作品を使って書いた小説の邦訳、というひねった成り立ちで、発売当時から気になっていた一冊。とにかく黒原敏行の訳文が格好良すぎる! この小説は芥川をそのまま引用してるところも多いけど、だからこそ芥川とピースの文体をつなぐ役割を見事に果たしている訳文に痺れずにいられない。
    そしてやはり語りの声こそ、この小説の肝だ。芥川の文章を切り貼りしたコラージュが、いつのまにか呪詛のような、読経のようなグルーヴを持つピースの声に

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    2022年06月20日
  • キル・リスト 下

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    ジワジワと追いつめていく追跡者。迫力。
    エピローグの、追跡者のその後の、ソマリアへは決して行かなかった。がいい。

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    2022年06月18日
  • 黒い天使

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    ネタバレ

    泣けた。静かに泣けた。夜の切なさに包まれたかのようだ。やはりウールリッチはすごい。

    『喪服のランデヴー』に代表される連作短編集のように物語を紡ぎだすウールリッチのスタイルは健在。今回は夫の冤罪を晴らすべく浮気相手の4人の男と妻アルバータの物語として描かれる。
    1人目はミアに魂を抜かれた元夫で人生のどん底の貧民街で暮らす男の話。
    次はミアを麻薬の運び屋に使っていた違法医師の話でスリラータッチのこの話がもっともぞくぞくした。
    3人目の男は資産家の遊び人だがとても魅力的な男との話。
    そして最後の男はナイトクラブを経営する裏稼業に足を突っ込んだ男の話。

    最初の2人目まではおろおろしながらも勇気を振

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    2022年03月15日
  • すばらしい新世界

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    登場人物の台詞に時折ぐさっとくることがあるはず。そのくらい現代にも示唆的な小説だった。
    シェイクスピアの引用も面白い。そして切ない。

    作者は1946年のあとがきで、われわれが権力を分散し、応用科学を人間を手段として使うためではなく、自由な諸個人からなる社会をつくるために利用する道を選ばないとすれば、取りうる選択肢は軍事優先主義もしくはそれがエスカレートした世界、もしくはここに書かれたようなユートピアの2つしかないだろうと言っている。偶然にも前者も未だ現実的であることを思い知らされている現状が世界で起きており、考え込んでしまった。

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    2022年03月08日
  • 八月の光

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    フォークナーをこんなに面白く読めたのは初めて。翻訳が素晴らしい。各登場人物のこだわりが凄まじく、おかしくなるほど。執念に近い強い意志で、周囲がなんと思おうと自分の思い通りに行動する。でもその源には、祖先や両親や慣習などの影響力が働いていて、結局のところ、本当に自由には生きられない。シンプルな考えで動くリーナが一番力強くて明るい。

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    2022年02月07日
  • 八月の光

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    錯綜するそれぞれの登場人物の過去と思想。
    それらはまるで繊細な毛糸のような絡み合い、解けてゆく。
    シェイクスピア
    ワインズバーグ、オハイオ

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    2021年11月02日
  • すばらしい新世界

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    文庫版の裏表紙に書かれている本書のあらすじは、下記の通りだ。

    【引用】
    西暦2540年。人間の工場生産と条件付け教育、フリーセックスの奨励、快楽薬の配給によって、人類は不満と無縁の安定社会を築いていた。だが、時代の異端児たちと未開社会から来たジョンは、世界に疑問を抱き始め・・・・驚くべき洞察力で描かれた、ディストピア小説の決定版。
    【引用終わり】

    本書の初版の発行は、1932年であり、なんと約90年前のことだ。ディストピアはユートピアの反対語であり、反理想郷とか、暗黒社会とかと訳されるようだ。
    ディストピア小説と表現されているが、この物語に描かれている社会は、ある意味ではユートピア社会だ。

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    2021年08月31日
  • すばらしい新世界

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    ネタバレ

    p.317
    社会的不安なしに悲劇はつくれないんだ。

    幸せってなんだろう、感情ってなんだろう、生きる意味ってなんだろう、、、いろいろ考えちゃう作品でした。
    幸せなら娯楽もこうやって本を読むことも不要になるのかな?

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    2021年03月25日
  • ブラッド・メリディアン あるいは西部の夕陽の赤

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    グラントン隊というインディアンの頭皮を狩ることで賞金を稼ぐならず者集団が、殺戮を繰り返しながらただひたすら旅を続ける話。

    アメリカ南部の広大な砂漠の自然描写、夜の焚火など、乾ききった風が物語全体から感じ殺戮描写がまるで自然現象のようにあっさりと描写され、殺戮巡礼の旅の合間に時折ホールデン判事が独自の哲学を語る。「人間は何かを懸ける遊戯が大好きであり戦争はその完成された作品だ。最高の作品が最高の語り手を待っていたのだ。」

    殺戮と侵略、これがアメリカの歴史であり人類の歴史であるかのようだ。著者は事象のみあるがまま記述し自身の思慕を語ることはない。自然の摂理からすれば生命の倫理なんて人類がでっち

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    2021年05月31日
  • ブラッド・メリディアン あるいは西部の夕陽の赤

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    美しい風景描写に救われるが、そこに血の跡を残していくインディアン討伐隊。マッカーシーは汚れつつ生まれたアメリカ開拓期の一面にある、人と命を直視する。


    半分ちょっと読み残している「平原の町」が気になるが、これはYasuhiroさんがレビューされた素晴らしい労作に感謝して「Cities of the Plain」を読んで解決したつもりになってます。
    ビリーが繰り返す不幸そうな恋愛と、ジョン・グレイディの共演は面白そうですがなんだか気が乗らずおいてあったのですっきりしました。これも又機会があれば読みたいと思っています。

    そして取り掛かったのが「ブラッド・メリディアン」でこれは読んでおかないと一

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    2020年11月10日
  • Xと云う患者 龍之介幻想

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    ネタバレ

    これは凄い。芥川を愛する著者の二次創作的な作品集かと思っていたけれど、それだけではない。さらに芥川の生涯を追い、死に至るまでを描いていく。
    この描き方が半端ではない。その時代、その場所で見てきたのではないかという位リアルでありながら美しく幻想的。
    「本当にこうだったのではないか」と思わされてしまう。
    彼が魂を擦り減らしながら小説を書いていくのを身をもって感じ、特に終盤、こころを病んでからは剥き出しになった神経を持て余して苦しむ感覚が身に迫ってきて、乾いた筆致でありながら辛くて堪らず、死によって解放される感覚までも追体験してしまった気がした。
    断片的に知っていた彼の人生をここまで見事に、彼の小説

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    2020年08月22日
  • エンジェルメイカー

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    ネタバレ

    いやー長かった。1冊の本にこんだけかかったの久しぶりやわ。本の重み(内容じゃなくて重量)で腕つりそうになるし、肩凝るし…。

    話の筋は単純な冒険活劇勧善懲悪もん。地味な時計職人が巻き込まれていく全世界崩壊的悪巧みを防ぐために獅子奮迅の大活躍。

    それだけの話にどれだけ盛るんやと…スチームパンクありゴシックありホラーありスパイ小説あり拷問あり格闘あり銃撃戦ありエッチあり百合ありショタあり…

    バラエティとかてんこ盛りとか既存の言葉では言い表せんくらいに盛りに盛って、あちこち破たんしまくってそれでもとりあえず、力技で全伏線回収してる(と思うが数えきれんので分からん)

    ほんで、これが大事なんだけど

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    2020年04月14日