黒原敏行のレビュー一覧
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ネタバレ初コーマック・マッカーシーは、世界的なベストセラー小説でピューリッツァ賞も受賞しているこの本から。
おそらく核戦争があった後のアメリカ大陸を歩いて旅する父と息子の物語。塵によって太陽光が遮られ気温が下がり、人間以外の生物もほぼ死に絶え、生き残った人々は、奪い合い殺し合い、死人を食らうようなことまでしつつ生きているディストピア。
父子も、体臭と汚れにまみれたボロボロの服を着て毛布や防水シートをまとい、ショッピングカートに生活品を乗せて移動しつつ、廃墟を漁り日々を凌ぐ。読んでいるだけで寒いし飢えるし喉が渇く。だが決して人の命や財産を奪うことはしない、生きていくために廃墟を漁ることはしても、人の気配があれば立ち入らない(防衛のためでもあるのだが)何度も飢え死にしそうになり、凍えても南へと歩みを止めない。
荒廃した情景の中で二人の会話が沁みる。静的で詩的で冷徹で少しだけ熱を持つ文章。
同じディストピアが舞台でも、キングとかマキャモンの小説や、マッドマックスや北斗の拳のような感情的だったり動的だったりする描写は極力排しているのが、かえって孤独と絶望感を際立たせる。
凄い小説、読んでるとこちらまで凍えてくる。本から現実の世界に意識が戻ってきたとき「この豊穣な現実を絶対守らないといけない」と心に誓った。 -
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“夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。”
80年前に出版された古典ミステリーの新訳版。
無実の罪で死刑判決を受けた主人公の無実の証拠となる女を探していくのだが、章ごとに死刑までのカウントダウンになっておりハラハラしながら読んだ。
内容も面白かったのだが、詩的な文章がとくに好みだった。
お洒落な言い回しが随所にあるので、普段ミステリーを読まない方や文学好きも楽しめるのではないだろうか。
ちょうど読んだ時期が某漫画家さんの悲しい出来事があったあたりなので、作品に携わる人の原作者や名訳をした故稲葉明雄氏へのリスペクトが感じられたのも良かった。(あとがきでは新訳者の熱い思いが綴られている)
原作者の大切にしたいものをしっかりと護って送り出して欲しいと思う。
古い作品だがミステリー好きに是非おすすめの1冊。
こんな人におすすめ.ᐟ.ᐟ
・ミステリーが好きな人
・どんでん返しが好きな人
・詩的な文章が好きな人
・サスペンスが好きな人 -
Posted by ブクログ
無実の罪を着せられたスコット。死刑執行までに彼のアリバイを証明する“幻の女”を探し出すべく、友が立つ。
夜のニューヨークをさまよい歩く男。どうやらムシャクシャと荒れているようだ。彼スコットは、妻と離婚について争っている最中だった。知らないバーに入ってゆきずりの女と酒を飲み、劇場でショーを見る。少し気が晴れて帰宅すると、刑事たちが待ち構えていた。ベッドで妻が絞殺されていたのだ。アリバイを証明するべく、ゆきずりの女を探し出さねばならない!しかし街へ戻って聞き込みをしても、誰も彼女のことを覚えていない。皆が口をそろえて、スコットが一人で酒を飲み、一人で劇場にいたと言うのだ。彼はそのまま妻の絞殺の疑いが晴れず、死刑宣告を受けてしまう。はたして“幻の女”はどこに……。
ミステリーの古典的傑作として有名な本作。タイトルだけがずっと頭に残っていて、昔一度読んだことがあると記憶していたが……あれ?この話は初見だ……!たぶん、何か他の作品と勘違いしている。なんだろう?
それにしても冒頭から引き込まれる展開だ。いったい何が起こっているのかさっぱりわからない不気味さ。主人公自身にも顔が思い出せない無個性な“幻の女”の幻想性。「死刑執行まであと何日」といった章立てで、タイムリミットがあるスリル感。投獄されてしまったスコットに代わり、彼を救うべく、親友と愛人が探偵役として立ち上がるのがアツい。次々と判明する不可解な出来事に、最後まで目が離せず一気に読める。そして至る衝撃の結末とは。はたしてスコットは助かるのか?もはやこれ以上は言うまい。20世紀前半の小説なので、エンタメに慣れている現代人には古さや既視感は感じられるかもしれないが、いまだにミステリーの名作として愛される傑作。ぜひともこれはネタバレにぶつかる前に読んでほしい。
本作「幻の女 ウィリアム・アイリッシュ」と似た感じのタイトルか作者名で、同じようなミステリーの古典を昔読んだ記憶があるのだが、なんだったかさっぱり思い出せない……。何と勘違いしている?本作を堪能した今後は、この、自分自身にとっての“幻の作品”を探し出さねばならないようだ……(笑)。 -
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ネタバレベトナム戦争の退役軍人で今は溶接工をしてるとかのモス、冷徹に人を殺しまくるシガー、老保安官のベルの3人が主な主人公。プロットとは別に、ベルの独白というかインタビュー?が挟まれ、話のテーマ的にもベルが中心に据えられていると考えられる。麻薬取引のトラブルをきっかけに、それぞれの人生が大きく動いていく。
昔とは変わってしまったアメリカに対するベルの悲しさや虚しさが全体を貫いている。ただ、ある観点では昔は平和だったとはいえ、ベルの祖父世代、親世代そしてベル自身とそれぞれ戦争に行っているので、単純に昔が良かったとは言えなそう。
今まで読んだマッカーシーの作品の中では一番分かりやすく、読みやすかった。
コーエン兄弟監督、ハビエル・バルデム主演の映画も劇場公開時に観たけど、細かいところはほとんど覚えていない。また観なくては。 -
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人生ベスト級
句読点が少なくセリフに「」がなかったり読みづらくはあるのだが冷徹さと重厚さを備えていて唯一無二のその文章には圧倒される。人にはお薦めしづらい内容ととっつきにくさはあるのだが興味をもった人にはぜひ読んでいただきたい
読んだあと意外だったのはこの話はSamuel E. Chamberlainの自伝『わが告白』に描かれているグラントン団での出来事を元ネタにしているということだった。名前までそのまんまだ。さらにびっくりなのがあの超人然とした判事までもがモデルがいるという。俺は本書の判事が好きで彼の語っていることは完全に同意せずともそれなりに共鳴するところもあり気に入っている。
あまり関係ないが俺はウィスキーが好きじゃなくあまり飲めないのだがよくみんながぶがぶ飲めるなと感心する。アメリカ人はみなこんなに酒をするりと飲めるのだろうか -
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ネタバレ世のアルコール依存症に悩む人々に是非読んで欲しい凄い小説。失踪日記(吾妻ひでお)や今夜すべてのバーで(中島らも)に並ぶアル中文学の大傑作。
主人公シャギー・ベインの母はエリザベス・テイラー似の美人。この女が主人公以上に物語の核なんだが、ちょっとしただらしない性格で、そのだらしなさからアルコールに溺れていき依存症となる。
アグネスの周囲の人々がまた本人以上にクズみたいなヤツばかりで、浮気性でハラスメント要素をもつ夫シャグをはじめ、アグネスの酒を助長する連中ばかり。
一度は断酒を決意するアグネス、1年以上も成功した断酒をぶっ潰したのはシャグと同じタクシードライバーのユージーン。多分こいつが作品中一番の大失敗男で、アグネスの周囲にいるクズ連中よりはよほど紳士なのだが、なんで吞ますかなぁ…。他人の努力を悪意なく最悪のタイミングで潰してくる奴っているよねぇ。
シャギーは母のせいで、そして自分の性癖のため、貧困生活やヤングケアラーであることもとんでもなくひどい人生を送りつつも、最後まで母に寄り添っていく。母との離別は可哀そうだが、もうちょっとマシな…せめて飢えず凍えずキチンと睡眠をとれる生活を送って行って欲しい。
しかし、酒はほんま人生狂わせるし、止めようと少しでも考えたことがる人は、はよ止めた方がいい。そして酒を呑まない生き方をしている人に呑ませるような行為は絶対してはいけない。酒だけでなく、人に何かを勧めるという行為には慎重を期した方が良い。 -
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ネタバレ終末を迎えつつある世界でなんとしてでも息子を守ろうとする男が、最後まで父親として存在していたのが良かった。信じられるのはお互いだけ、という点が揺るがなかった。だから孤独で危険な旅も続けられたし読者としても安心できた。
父親のサバイバルスキルが高くて、色んな工夫を読んでいるだけで面白かった。読点がほとんどない、流れるような思考と会話の中に、記憶が混じってくるのも物語に没入できる理由なのかなと思う。
人が人を食うほど食べ物がない事態で、自分も痩せ細ってしまったのに少年の心は清らかで、他者を殺してまでは生きたくないという意志が強かった。その彼が無惨に殺されるようなことがなく保護者が現れ、いくらか救われた思いだ。 -
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ネタバレ戦争か事故か天災か何かが起こった後の、人類の終末期を生きる父子の物語。
解説には近未来と書かれているが、未来的な道具立てがほとんどみられなかったので、例えば冷静時代に核のスイッチが押されたとか、そういう状況もありうるのではないかとか思いながら読んでいた。何であったとしても話にはあまり関係ない。
父子のひたすら南へと進む旅が、とにかく削ぎ落とされた文体によって淡々と表現される。
最後の父の死以外には起承転結に関わるできごとは起こらないが、ものすごい緊張感の中、まったく飽きずに読み進めることができた。
わずかに生き残った人間は、もはや人間としては生きていない。人類どころか、動物も植物もだめになっているので、備蓄食料や他の人間を食べ尽くしてしまえば最後の一人はもう生きる望みはないはずなのに、皆必死で生にしがみつこうとしている。
息子に偽りの希望を与え生き続けさせようとするのは父親の最後のわがままにすぎないので読んでいてつらい。 -
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コーマック・マッカーシー『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』ハヤカワepi文庫。
2007年に扶桑社ミステリーとして刊行された『血と暴力の国』を改題、改訂、再文庫化。再文庫化にあたり『No Country For Old Men』という原題の正式なタイトルに戻したようだ。
4年程前に仕事でタイに向かう飛行機の中で本作が原作の映画『ノーカントリー』を観たところ非常に面白く、無性に読んでみたいと思っていた。
強烈な印象を残した映画のシーンを頭の中に描きながら読んでみると、老保安官のエド・トム・ベルも、奇妙な武器を操るマッシュルームカットの太目で残忍な殺し屋のアントン・シガーも、ヴェトナム帰還兵のルウェリン・モスも小説という世界で新たな命を吹き込まれたかのように感じる。
そして、驚いたのはコーエン兄弟の映画が、かなり原作に忠実だったことだ。映画では、モスが若い女性のヒッチハイカーをピックアップ・トラックに乗せる場面は無かったし、カーラ・ジーンがモスに射殺される場面も無かったが……
渦巻く欲望と狂気の中、何故か一人だけ冷静沈着に国が悪にまみれて行くのを憂う老保安官ベルという不思議な構図。非常に面白い。映画では描き切れなかったのであろう細部の描写や登場人物の心情表現が凄い。
極めて文学的なノワール・ハードボイルドといったところだろうか。
1980年、ヴェトナム帰還兵モスは、テキサス州のメキシコ国境付近で麻薬密売人の殺戮現場に遭遇する。男たちの死体と共にブリーフケースに残された240万ドルもの大金を発見し、持ち逃げする。
妻であるカーラ・ジーンの待つトレーラーハウスに戻ったモスは夜中に大金のことが気になり、殺戮現場に向かう。遠くから現場を観察していたモスだが、麻薬密売人の仲間に見付かり、追い掛けられ、ピックアップト・ラックを捨て、命辛々、自宅に戻る。
身の危険を感じたモスは自宅に戻るや、カーラにオデッサの実家に避難するよう命じ、自らも逃亡の旅に出る。
一方、保安官補により逮捕された殺し屋のシガーは保安官補を殺害し、パトカーで逃亡する。途中、無関係の車を停め、運転手を酸素ボンベとホースで接続されたスタンガンで殺害し、車を乗り換えて、モスが目撃したあの殺戮現場に向かう。
ブリーフケースに仕掛けられた発信器の電波からモスの後を追うシガー。
保安官のベルは殺戮現場に残されたピックアップ・トラックからモスの自宅へと向かい、モスとカーラが事件に巻き込まれたことに気付く。
モスの所在を突き止めたシガーは、同じく240万ドルの入ったブリーフケースを追跡していたメキシコ人麻薬密売人らと銃撃戦を繰り広げる。麻薬密売人たちはシガーにより皆殺しとなり、シガーにより銃創を負ったモスは再び逃亡する。しかし、シガーもモスの銃撃により傷を負っていた。
追う者と追われる者、その結末と老保安官ベルの語る後悔……
本体価格1,500円
★★★★★