高野秀行のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
50代になってもやんちゃな冒険家である高野氏が今回向かったのは、サダムフセインやISなどイスラム過激派の印象が付きまとう、日本人の大半が危険でしかないと思っているであろうイラクである。ただ忘れてはならないのが、この国が原初の文明を生み出した場所であるということだ。
彼はこの旅で、世界でも有数の危険地帯でありながら、世界最古の歴史を持つ国、そして砂漠の印象の強い中東の一国の中の湿地帯(!?)で暮らす人々の謎を解き明かすとのことで、旅の目的からして様々な情報がぶつかり合い混沌に満ちている。案の定旅の道程も複雑かつ困難が溢れ返るもので、綴られる文章も序盤から中盤にかけてカオスそのものであった。
本 -
Posted by ブクログ
なんとも刺激的な本。
辺境作家の高野秀行さんと「喧嘩両成敗の誕生」が出世作となった歴史学者清水克之さんの対談集。
高野秀行さんはデビュー作の「幻獣ムベンベを追え」から注目している好きな作家さん。一方清水克之さんは日本の中世の民衆史が専門の学者さん。
普通に考えると共通性もないお二人がソマリランドを媒介にして出会い、社会や国の在り方、果ては人間の思考のあり方の根源にまで想いを巡らせている。
その論考は新たな発見に満ちゾワゾワと今までの常識を揺さぶられる。
高野秀行さんの辺境作家としての行動力にばかりに目が行きがちだが、高野さんの緻密な思考回路や斬新な歴史解釈に、清水さんがインスパイアさ -
Posted by ブクログ
イラクの湿地帯=アフワールについて書かれた本。世界史上にはレジスタンスあるいはアナーキー的な湿地帯が存在するらしく、その中の一つである中国の水滸伝になぞらえ「イラク水滸伝」と題されている。
「湿地帯の恐ろしさは、その境界があいまいなところにある。(…)鈍色の雲が地平線まで垂れ込めた空の下、どこまでも続く湿地とも荒れ地ともつかない土地を走っていると、なんだか世界の始まる前の原初の状態にいるような感覚にとらわれる。」
と書かれてるけど、回想やイラクに関する歴史について脱線が多い序盤は今どこにいるんだっけ?と自身が湿地帯に迷い込んだように感じることがしばしば…翌日とか何時とか、時間経過を示したり -
Posted by ブクログ
TV番組「クレイジー・ジャーニー」のロケで、エチオピア南部の秘境に暮らす、酒を主食とする民族の暮らしを二週間体験。
めちゃくちゃ面白くて一気読みでした!!
いつも著者のぶっ飛んだ体験に度肝を抜かれておりますが、今回は特に出国前からハラハラさせられました。
そして、毎度ながら高野さんの現地への適応力には恐れ入る。
コンソ村滞在では、「チャガ」というお酒を飲み、デラシャ村では「パルショータ」というお酒を飲んでいる。
酒を主食とする民族で、お茶を飲むようにお酒を飲み、ご飯としても飲む。朝も昼も夜も飲み続けている。何と幼児までもがゴクゴク………
そうして楽しく読んでいるうちにトンデモな展開になり -
Posted by ブクログ
三畳一間と言わないまでも、昔ながらの下宿の様子がわかる自伝的作品として、藤子不二雄A『まんが道』や吾妻ひでお『地を這う魚』などがあげられるが、本書にはこれらの作品とはまた違った趣きがありむちゃくちゃに楽しませてもらった。
なにせ登場人物達が面白い。パンの耳を貰ってきて毎朝食べるほど異常なほどケチな上、寝返りをうつ音にすら苦情をいれる「守銭奴」、弁護士目指して熱量MAXで他人に世話を焼いて迷惑をかけまくる「ケンゾウさん」、また探検部関係者では宇宙旅行を本気で提唱し始めたり、チョウセンアサガオをどこかから掻っ払ってきた先輩の「加藤さん」、そして盟友のイシカワやキタといった多種多様な奇人変人たちが集 -
Posted by ブクログ
高野氏の著作に関しては飲酒に目覚めた後の少しおちゃらけた文章に慣れていたので、本書の真面目で鋭い語り口には度肝を抜かれた。一般的には知られていないであろう、少数民族を無数に抱えたビルマという国が英国に好き放題にされた後独立国家として目覚め、その統治の難しさから軍事独裁政権に踏み切った実情をしっかりと語り、中国共産党の息のかかったビルマ共産党に侵略され、そこから独立したにも関わらず中国的官僚制度や文化から抜け出すことができず、麻薬に関係した場合は死刑になるという厳罰で持ってこの植物に臨む中国に対してヘロインを密輸する奇妙で矛盾に満ちたワ州という反軍事政権の暗部を日の元にさらけ出し、この汚いビジネ
-
Posted by ブクログ
積極的に謎の企画を立ち上げて海外にいってアホをやらかしてくる多言語話者で貧乏な著者が、逆に様々な境遇で日本にやってくる外国人と東京を歩き、それぞれの国の文化や価値観、そして「トーキョー」という外国人から見た都会を見つめ直していく、笑いあり涙ありのノンフィクション。アメリカを非難しつつもマクドナルドを美味そうに平らげるイラク人や、暗黒舞踏に憧れて貧乏生活を送るフランス人など多種多様な人々と著者が織りなす台本のない喜劇に腹を抱えて笑い、時に鋭い指摘に極東に位置する日本という国の異様さにもハッとさせられる。一筋縄では行かないのに読みやすく、世界についての扉を開いてくれる良著である。