高野秀行のレビュー一覧
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盛りだくさんでした。お腹いっぱいです。
私なんかが日頃食べてる料理、食材などはマンネリでレパートリーが少なく、狭い世界で生きてるなぁと思わされた。食材として見ていなかったもの(ゴリラなど)が食べられていることや、やたらと手の込んだ調理法などがあることを知って、あらためて世界は広く人間の歴史は長いなぁと思った。
本書に登場する料理や食材のほとんど、特に昆虫食、は個人的に食べるのは無理であるが、中には、タイの爆弾ナマズことヤムプラードックフーやトルコのカイセリマントゥなど食べてみたいと思う料理もあった。
その他にも、
調理時間がやたらと長いコソボのフリア、タイのおばさんの口噛み酒、南米のカエルのジュース、羊の胃袋の中身のスープ、韓国の超絶臭いホンオ、幻覚が見えるヤヘイ、猫の餌、などなど凄すぎです。
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Posted by ブクログ
50代になってもやんちゃな冒険家である高野氏が今回向かったのは、サダムフセインやISなどイスラム過激派の印象が付きまとう、日本人の大半が危険でしかないと思っているであろうイラクである。ただ忘れてはならないのが、この国が原初の文明を生み出した場所であるということだ。
彼はこの旅で、世界でも有数の危険地帯でありながら、世界最古の歴史を持つ国、そして砂漠の印象の強い中東の一国の中の湿地帯(!?)で暮らす人々の謎を解き明かすとのことで、旅の目的からして様々な情報がぶつかり合い混沌に満ちている。案の定旅の道程も複雑かつ困難が溢れ返るもので、綴られる文章も序盤から中盤にかけてカオスそのものであった。
本文に書かれている通り、そもそもイラクという国が大変複雑な国だ。シュメール人によるウル・ウルク・ラガシュといった世界史で誰もが覚えるであろう都市国家による支配から始まり、アッカドやバビロニア、アッシリアといったセム語圏の民族に統治が移り、続いてペルシア時代、イスラム教徒の侵攻、モンゴル遊牧民による破壊を経てオスマン帝国支配下に入る。ササン朝あたりまで農業面で重要視されていたイラク(特に南部)であったが、イスラムとモンゴルの侵攻によってその地盤を破壊され、オスマン帝国時代からは、中心地から地理的に遠かったために辺境として扱われ、支配が行き届いていなかったという。
もともとシュメールの都市国家からあぶれたアウトサイダーが割拠していた南部湿地帯は、本書で語られるマンダ教徒やユダヤ人、支配してきた王朝から爪弾きされた人々や、カルマト派のような各地で略奪を働く荒くれ者たちといった様々な人々が、理由は様々あれど逃げ込んできて定住してきた場所だった。オスマン帝国時代に辺境として定着したことによってその混沌としたごた混ぜ具合は更に加速し、今度はイギリス統治に反抗する人々や、共産党員まで逃げ込んでくるといった、もはや悪も正義もなく、ただ「従いたくない!」という反骨精神のみを共有した人々が集まってくるようになった。そんなアウトサイダーたちが民族や宗教の垣根を超えて身を寄せ合って生きてきた場所、それがイラク南部の湿地帯【アフワール】なのだ。
こう整理する目的で書いていてもわけがわからなくなりそうになるが、本書の序盤から中盤にかけてはイラクの成り立ちの複雑さや氏族の多様さの解説を丁寧にしてくれている分その情報量は脳みそを押し潰すかのようで、それに現地の治安問題や氏族間のやりとり、公安のマークなど、次から次へと襲いかかる困難な問題の対処や説明が加わってるためにかなり読みづらい。さらに高野氏とシェイフ山田二人が異国人であるために常に多くの人々から監視されている状態で不自由しており、いつもの軽快なユーモアもあまり見られず文章も重苦しいものになっている。毎年水量やルートの変わる湿地帯の作り出す変幻自在の迷路に迷い込んでいるかのようにその文章は混迷を極めている。
極め付けは2度の下見を経て本格的な旅に乗り出そうとしたところでのコロナパンデミックだ。これはもう読んでいるこちらですら、「あーもう終わったな。」と思ってしまうほどに絶望的なもので、高野氏とシェイフ山田の心境は本当に耐え難いほど辛いものだったと思う。ここで正直本を閉じようかな、と思ってしまったくらいだ。
しかしここから先は、カタルシスしか待っていなかったのである。
ソマリランドを超える程の情報量による読みづらさはあるが、終盤は開幕がウソだったかのように気持ちよく楽しく興奮しながら読める。もし序盤で諦めてしまった人がいるとしたら、ぜひもう一度トライしてほしい。3回目の現地入りからは、情報の渦が一気に整理されて収束し、いつもの高野氏の熱気の漲る冒険が戻ってくる。これまでよりも強烈なものとして。読後感はさながらサムペキンパーの映画を見終わったあとのようだ。
分厚い単行本に恐るることなかれ。ゆっくり読んで楽しんでほしい。シェイフ山田のキャッチーでわかりやすいイラスト群も必見だ。 -
Posted by ブクログ
なんとも刺激的な本。
辺境作家の高野秀行さんと「喧嘩両成敗の誕生」が出世作となった歴史学者清水克之さんの対談集。
高野秀行さんはデビュー作の「幻獣ムベンベを追え」から注目している好きな作家さん。一方清水克之さんは日本の中世の民衆史が専門の学者さん。
普通に考えると共通性もないお二人がソマリランドを媒介にして出会い、社会や国の在り方、果ては人間の思考のあり方の根源にまで想いを巡らせている。
その論考は新たな発見に満ちゾワゾワと今までの常識を揺さぶられる。
高野秀行さんの辺境作家としての行動力にばかりに目が行きがちだが、高野さんの緻密な思考回路や斬新な歴史解釈に、清水さんがインスパイアされて知識と事実に裏付けられた確固たる解釈や解説を的確に与え、それに対して高野さんが自らの体験を元にして話題をどんどん深め発展させていく。
なんとも面白く楽しい対談集であるのだ。
今は文庫でも出ている様なのでぜひ興味のある方は読んでほしい。良質なブックガイドの側面もある。
私もますば「喧嘩両成敗の誕生」を積読本の山から掘り起こし読んでみたい。た -
Posted by ブクログ
イラクの湿地帯=アフワールについて書かれた本。世界史上にはレジスタンスあるいはアナーキー的な湿地帯が存在するらしく、その中の一つである中国の水滸伝になぞらえ「イラク水滸伝」と題されている。
「湿地帯の恐ろしさは、その境界があいまいなところにある。(…)鈍色の雲が地平線まで垂れ込めた空の下、どこまでも続く湿地とも荒れ地ともつかない土地を走っていると、なんだか世界の始まる前の原初の状態にいるような感覚にとらわれる。」
と書かれてるけど、回想やイラクに関する歴史について脱線が多い序盤は今どこにいるんだっけ?と自身が湿地帯に迷い込んだように感じることがしばしば…翌日とか何時とか、時間経過を示したり示さなかったりするし(ちまちま読み進めたのが悪かったのかも)。
第1章〜第3章
:2018年1月 イラク初訪問
第5章
:2019年5月 アフワール再訪 いよいよ舟造り
第6章
:2019年の秋 舟旅決行が山田隊長の誤診で中止
→ 来春に決行の予定がコロナ禍で中止
2020年10月 マーシュアラブを知る
2022年3月 アフワール再訪
チバーイシュ町周辺でタラーデに
乗る(表紙の写真)
ブリコラージュという単語が何度も出てくるけどその場しのぎかもしれない、でもその試行錯誤で最終目標としていた舟旅に漕ぎ着けたことがすごい。
あとがきにある通り「思いつくかぎり何でもやった」が故のボリュームで、イラクそしてアフワールの魅力が描き出されている。ゲーマルやマスムータを食べてみたいと思うと同時にイラク戦争などイラクの歴史もちゃんと勉強したいと思った。
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Posted by ブクログ
三畳一間と言わないまでも、昔ながらの下宿の様子がわかる自伝的作品として、藤子不二雄A『まんが道』や吾妻ひでお『地を這う魚』などがあげられるが、本書にはこれらの作品とはまた違った趣きがありむちゃくちゃに楽しませてもらった。
なにせ登場人物達が面白い。パンの耳を貰ってきて毎朝食べるほど異常なほどケチな上、寝返りをうつ音にすら苦情をいれる「守銭奴」、弁護士目指して熱量MAXで他人に世話を焼いて迷惑をかけまくる「ケンゾウさん」、また探検部関係者では宇宙旅行を本気で提唱し始めたり、チョウセンアサガオをどこかから掻っ払ってきた先輩の「加藤さん」、そして盟友のイシカワやキタといった多種多様な奇人変人たちが集まる野々村荘とはなんなのか、そしてそこに溶け込む高野秀行とはどれほどまでにぶっ飛んでいる(良い意味で)のか、と考えているうちにどんどん次のページをめくってしまう。まさに読む手を止められなくなってしまう。
所々常識的に問題があるのでは?といった場面もあるが、そんな些細なことを気にしていてはこの本を楽しめない。限りなく自由な人たちを自由な気持ちで眺めてみれば良い。気づけば腹を抱えて笑っている自分自身に気づくことであろう。日々の疲れやストレスを吹っ飛ばすのに最適な「読む抗鬱剤」、それが『ワセダ三畳青春記』である。 -
Posted by ブクログ
高野氏の著作に関しては飲酒に目覚めた後の少しおちゃらけた文章に慣れていたので、本書の真面目で鋭い語り口には度肝を抜かれた。一般的には知られていないであろう、少数民族を無数に抱えたビルマという国が英国に好き放題にされた後独立国家として目覚め、その統治の難しさから軍事独裁政権に踏み切った実情をしっかりと語り、中国共産党の息のかかったビルマ共産党に侵略され、そこから独立したにも関わらず中国的官僚制度や文化から抜け出すことができず、麻薬に関係した場合は死刑になるという厳罰で持ってこの植物に臨む中国に対してヘロインを密輸する奇妙で矛盾に満ちたワ州という反軍事政権の暗部を日の元にさらけ出し、この汚いビジネスに加担する中国の公安を掻い潜りワ州の上層部を説き伏せて実際にアヘン栽培を行う村に潜入するという、多くのジャーナリストでも忌避するであろう道を突き進んでいく著者の行動は、刊行された当時多くの人の胸を打ったであろう。発売当初にこの書物を知らなかったことが悔やまれる。
それにしてもアヘンの効果とは恐ろしいものである。悪性腫瘍からくるものも含むどんな体の不調ですら一時的に緩和し、本人が自覚症状を感じる間もなく中毒症状へ誘っていく。多くの孤立した軍事政権が薬物売買によって戦費を稼ぐ理由がよくわかる。しかしその収入は本書で記されているように薬物の密輸ルートを維持し幹部の私腹を肥やすために使われ、末端で栽培する人々にはまったく還元されない。我々の知らない場所でこのようなえげつない行為が行われることを、本書は改めて思い起こさせてくれるのである。 -
Posted by ブクログ
積極的に謎の企画を立ち上げて海外にいってアホをやらかしてくる多言語話者で貧乏な著者が、逆に様々な境遇で日本にやってくる外国人と東京を歩き、それぞれの国の文化や価値観、そして「トーキョー」という外国人から見た都会を見つめ直していく、笑いあり涙ありのノンフィクション。アメリカを非難しつつもマクドナルドを美味そうに平らげるイラク人や、暗黒舞踏に憧れて貧乏生活を送るフランス人など多種多様な人々と著者が織りなす台本のない喜劇に腹を抱えて笑い、時に鋭い指摘に極東に位置する日本という国の異様さにもハッとさせられる。一筋縄では行かないのに読みやすく、世界についての扉を開いてくれる良著である。