高野秀行のレビュー一覧
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なんの自慢にもならないが、時間に余裕があっても間際にならない
と動き出さないタイプの人間である。まだ真面目に編集者家業をし
ていた頃、締め切りギリギリにならなければ原稿が書けなかった。
明日には先方に渡さないといけないという日の真夜中。ウンウンと
唸りながら資料とにらっめこをしていると、ひらめく一瞬がある。
そこで怒涛の原稿書きに突入する。うんっ、私って天才じゃないか。
これでいいだろう。さぁ、ひと眠り。
起きて自分の書いたものを読み直して愕然とする。腐っているでは
ないか。なんでこんな酷い文章であんなに満足していたのだろう。
あーーーっ、自分のバカバカ~。
このように夜中に何かを閃くと碌なことがない。本書の著者である
辺境作家・高野秀行氏も実は私とご同類だった。ただし、こちらは
ワールドワイドである。
「深夜というのは、人間がろくでもないことに燃え上がる危険な時間
帯である。」
ほろ酔い加減で何か面白いことはないかとインターネットを彷徨って
いた著者が目にしたのは「サハラマラソン」。ランナーが衣食住の
すべてを背負って7日間を掛けて走破するメジャーな方のマラソン
ではなく、モロッコと領有地争いをしている西サハラの難民キャンプ
で行われる、西サハラ支援の為のマラソン大会である。
そしてやってしまうのだ。膨らむ妄想から情熱は暴走し、著者は参加
申請をぽちっとクリックしてしまう。
その顛末を描いたのが本書のタイトルにもなっている「世にも奇妙な
マラソン大会」だ。
実に奇妙なマラソン大会ではあるのだが、もっと奇妙なのは夜中の
出来心で参加申請して、翌日には後悔しているのにマラソンに参加
する為に本当に西サハラまで行ってしまう著者である。
キャンセルすればいいだけじゃんと思うのだが、そこは辺境作家だ。
人が行かないところへ行って、人が体験しないことを体験して来る。
これまでの高野氏の作品もそうなんだよね。
「今ならまだ引き返せる」ってところはいくつもあるにに、一度間違えた
ら立ち止まりも修正もせずに、そのまま突っ走る。だから、この人の書く
作品は面白いんだけどね。
最長でも15kmのジョギングしたことがない人間の初マラソンなのであ
る。それも砂漠で。もうこれだけで間違ってるんだよね。それなのに
完走してしてしまうのだから凄い。
作家・船戸与一氏の取材旅行に同行した珍道中『ミャンマーの柳生
一族』でもそうだったのだけれど、おかしさの中に西サハラの置かれ
た環境や、旧宗主国スペインの人々が西サハラの難民を支援する
様子なども伝えてくれる。
他にもブルガリアへ向かうバスの中で出会ったおじさんに口説かれ
たり、2度の強制送還処分を受けたインドへ入国する為に改名作戦を
敢行しようとしたり、インドで出会った謎のペルシア商人の話など、
どうしてここまでおかしなことに巻き込まれるのかと思うほどの作品が
収録されている。
実は好きなんだよね、高野氏の作品。「おかしくてためになる」んだな。
そして、「こんな旅もいいかも」と読んでいる最中は思う。だが、読み
終わって冷静になると、「間違った力」を全力で発揮出来るのは、
この人の専売特許だわと思う。
本当は立て続けに高野氏の作品を読みたいんだけれど、中毒性が
強そうなので積んだままにしている本の山から時々引っ張り出して
読むのがいいのかも。 -
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ネタバレ東京で出逢った様々な国の外国人達を通して高野さんが異国の「トーキョー」を体感!
改めて高野さんの発想のユニークさに驚いた。
辺境を旅するため、その国の言葉を覚えるには現地出身者に習えばいい、と色々な伝を頼りに東京にいる外国人を探しだし教えてもらう。
相手との考え方や風習の違いなんて何のその!
違う方が面白い、と相手の懐にスルリと入って行く。
ただ受け入れるだけでなく、相手や相手の国の情勢等を冷静に見る目も持っている所もさすがだ。
世界には文字を持たない言語が無数にあること、外国人も実は外国語が苦手なこと、そしてマクドナルドの重要さに驚いた。
思わず大笑いしたりしんみりしたりとこの一冊で私も色々な「トーキョー」を体験できた。
高野さんの出逢いの物語をもっともっと読みたい! -
謎の独立国家ソマリランド
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試し読み
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購入済み
ユーモアたっぷりミャンマー紀行
過去に許可などなしにミャンマーに侵入し、ゲリラとも交友のある著者であり、本件は軍事政権側の監視の下でのミャンマー行であったから、本来ヤバイはずの紀行であったのに、同行の船戸与一氏と著者の人柄からか、監視の人達も著者らと一緒になって笑う場面が多い。探検家でノンフィクションの作家であるが、面白おかしくがモットーの著者だけに読後感も明るい。本格的な探検紀行を望まれる方には、『西南シルクロードは密林に消える』をお勧めします。
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謎の独立国家ソマリランド
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試し読み
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欧米人や日本人の感覚としては、かなり危険を伴うことが予想される東アフリカのソマリアへ、著者が現地へ飛び込み、知り得た情報、現地人とのコミュニケーション、感じたことが綴られた渾身のルポルタージュ。
ソマリアが、北部から南部にかけて、ソマリランド・プントランド・ソマリアの3つに分断されているとは…、この本を読んで初めて知りました。
アメリカ映画の"ブラックホークダウン"程度のフィクションや、たまに伝えられる新聞記事で聞きかじる程度でしたが、この本からソマリアに関する様々な事を学びました。
ソマリアの歴史や現況を知るキーワードとして、"氏族"という概念がありますが、外国特有の用語や、様々な氏族の系統を、日本の歴史で登場する源氏・平氏・戦国大名・応仁の乱など有名な合戦名を駆使して比喩してくださったお陰で、かなりわかりやすく読み進めることが出来ました。
また著者は、分断されたソマリランドがなぜ争いがない民主主義が形成されているかという問いに対し、氏族間の規律、戦争を知るが故の相互抑制力、エネルギー・工業や商業・観光資源などがなく他国からの介入がなかったことを挙げてます。しかしながら、国連などの介入なしに、独自に氏族間の調整などボトムアップで民主主義体制を築き上げた点は、素晴らしいとも。
一読して感じるのは、アメリカや国連など第三者が介在することで生じる歪みの方が、ソマリランド内の氏族間の話し合いにより生じる歪みよりも、はるかに大きく、それを乗り越えるためのモチベーションも違うのだなと感じました。
グローバル化と逆行するかもしれませんが、意外と他国のお節介を焼くよりも、本当に支援が必要な時のみ、仲介に入る方が良いのではないかと。
ソマリアだけでなく、アフガニスタン、中東などの紛争の全てに双方の当事者を支えている国々がいるからです。
歴史は語る。
いい気付きを与えてくれた本書に感謝! -
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第8章「トーキョー・ドームの暑い夜」が秀逸でした。著者が知り合った盲目のスーダン人留学生マフディは、プロ野球が大好き。スーダンには野球というスポーツがないから、イメージできないはずなのに、ラジオ中継を聴いて独特の興奮に魅せられたマフディ。ラジオのアナウンサーから学んだ彼の日本語は完璧です。
典型的なアンチ巨人ファンで、世界の誰もが知るヒロシマ、そう広島カープの大ファン。でも松井秀喜のことだけは大好きで、「だって、あんなでかいホームランを打つじゃないですか」と言う。東京外国語大学に驚くなかれ一般入試で入学を果たし、日本語の本も実にたくさん読んでいます。三浦綾子、天童荒太、金城一紀。日本滞在たった5年で多彩は小説を読みこなす。「地租改正」をも漢字で書ける彼は、そのことについて「先生も驚いていましたよ。ほら、八番バッターがホームランを打ったらびっくりするでしょ?それと同じ」と笑います。こんなジョークを飛ばせるところも凄い。
「人間は言葉と想像力で『見る』ことができる」。見たことのないものは想像できないなんて、見える者の思い込み。高野秀行のエッセイは、面白いだけではありません。 -
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タイトルは、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』に掛けている、そうだとはどこにも書いていないけれど。遠く離れたソマリランドと遠い過去の室町時代が並行世界のようであるということなのだろうか。ソマリアの内戦と応仁の乱って似てますよね、というところから始まった辺境作家の高野さんと日本中世史の家清水さんの意外な組み合わせの対談は、意外にもとても噛み合ったやりとりになっている。
「応仁の乱もソマリアの内戦も、同じようにわけがわかんないんですけど、共通しているのは戦争の中心が都だったことでしょう。ふつうはある場所が戦場になっても、そこが戦いによって荒廃すれば、他の場所に戦場が移るけれど、都が戦場になると、いくらそこが荒廃しても、誰かが完全制圧するまで戦いの舞台が移らないんですよね」ということらしい。体面や面子を重んじること、名誉意識や集団主義といった心性が共通しいていると。また、ソマリアにおけるイスラム教と室町時代における信長の治世を、正義と公平を重んじる点で共通していると話している。不安定ながらもそれがゆえに平等な社会であることがソマリアと室町時代の共通点だという。
結局、ソマリアのことをとても特殊な世界だと思いがちだが、歴史的環境条件がそろえば同じような世界が出現するような、ある意味で合理的な世界だということなのかもしれない。遠く離れた世界、つまり距離的に離れたソマリアや時間的に離れた室町時代、についてその世界の合理性を理解するためにはソマリアに対して高野さんがやったように、また室町時代に対して清水さんがやったように、深く潜入してその中で息をするように感じることが必要なのかもしれない。そういった感覚を持ち寄った二人による対談は、現在の日本の特殊性を際立たせることにもなるのかもしれない。高野さんは、「現代日本の方がむしろ特殊であって、アジア・アフリカの辺境や室町時代の日本の方が、世界史的に普遍性を持った社会だったんじゃないかって夢想することがありますよ」と言う。それを受けて、清水さんが「江戸時代という特殊な時代を経て、その延長戦上にあるのが今の日本社会だと考えると」と返す。
対談ものはあまり好きではないのだが、この本のようにそこに必然性があると面白くなるのだ。 -
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超異文化交流。
人間としての通じ合えるところ、違うところを熱意をもって探究する高野さんがすごい。
世界で最も治安の悪いソマリアに行き、現地の本当の姿を体当たりで体験する。高野さんにとって現地を本当に体験するのは、「言語」「音楽」「料理」である。外国人にとって、現地の料理(ふつうの家庭料理)を楽しむのは実は至難の業であり(特にイスラム文化圏では女性と接触する、家の中に入るのはほとんど難しい)、高野さんはその壁を越えようと果敢に挑戦し、ついに家庭料理を一緒に作ることに成功する。
治安の悪い、危険な地帯に行っているはずなのに、終始ほんわかしており、文章も読みやすく、どんどん読み進められる。
高野さんがテレビで、本を書くにあたって、仲の良い友達や、家族へむけて、話しているように書いていると言ってたが、本当にその通りの文章。
親密で、気さくで、落ちがついてて、笑える。
最後の銃撃戦のシーンで一転現実に戻され、身が引き締まるような思いになる。
いろいろな意味でリアリティーのある物語だと思う。 -
Posted by ブクログ
タイトルと写真に興味を惹かれ即購入。ブータンには、幸せな国の側面以外があることをこれまでの読書経験から理解しているが、なぜ「未来国家」なのか、地理や政治、経済は他の国との比較が難しいように思うがどう他の国に理想を提示できるのか、読み進めていきたい。
高野氏のテンポの良いリズミカルな文章から、ブータンの様子を頭の中に描く。サイズは九州ほどあるのに、人口が約70万人しかいないというところで、すでに日本とのスケールの違いにびっくり。さらには、伝統を守り、あまり外国人を入れず、半鎖国であるというのは驚きだった。
本の中盤で紹介されているニェップ。遠くに住んでいる人に家に泊まってもらい、その逆もある。高野氏も称賛しているが、このシステムが日本にもあれば、各地域への行き来が楽しいものになり、かつ都市と地方の交流も活発化するだろう。
読み終わって、もっとこの世界に浸っていたい!と思った。