高野秀行のレビュー一覧
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タイトル「恋するソマリア」には二重の意味が込められています。
ひとつは、ソマリアを振り向いてくれない美人女性に見立て、追えどもつかまえられない片思いの相手として描く。
もうひとつは、実在の若き美女・ハムディ姫への恋です。
わずか17歳にしてケーブルTVの世界に入って、政治家へのインタビューでカネをひきだして支局員を食わせるという政治力・経営力を発揮する。美しく、胆力があり、知的。いったい高野が惚れこんだこの女はなにものなのか。
「私は有名になりたいの。目標は大統領になること」
「有名になりたい」ということばの率直さ、力強さ。さわやかな立身出世主義の到達目標が大統領というのがすごい。
いいぞ剛腕ハムディ姫。統一ソマリアの大統領になった姿をぜひ見たい。 -
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辺境作家 高野秀行が東京で会った外国人の話。やはりこの人の外向的さは特異だ。出てくる人は、舞踏家のフランス人、ザイール人、小説家の兄ともつながったコンゴ人、スペイン人、違法入国のペルー人、お父さんがお世話になった教師の中国人、プロ野球広島ファンの盲目のスーダン人(これは本当にすごい)など多様だ。著者が近づく理由は語学(フランス語、リンガラ語、スペイン語)の習得が主だったりするのだが、こうやって日本に在住して著者に言葉を教えるような人は個性的な人が多い。そして、東京はトーキョーになり、日本にいながらにして、海外につながるのだと。そういったエピソードが山盛られている。
自らを振り返れば、こんな自分の周りでさえ、学生のときには、ゲイのギリシア人、女好きで洒落たイタリア人、敬虔なイスラム信者のシリア人、などなど日本でも個性的な外国人との出会いがたくさんあったような気がする。ギリシア人には家に行きたいと言われ(のちにギリシアで妹と会って食事した)、イタリア人とは大相撲を初めて観戦し(のちにイタリアの実家にも寄せてもらった)、シリア人は一緒に銀行口座を開設して市役所に連れて行ったときに駐車場でお祈りをされた。自分にも少しは面白いものが書けたりするかもしれない。やはり東京はトーキョーなのだ。 -
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辺境作家 高野秀行の処女作。早稲田大学探検部に所属していた高野さんが、コンゴ共和国(当時)のテレ湖に棲むという幻の生物「モケーレ・ムベンベ」を探しに行く顛末を描いた本。いないかもしれない、という至極真っ当な疑問を抱きながら、同時にその存在を切に信じて調査団を編成して冒険の旅に出る。
学生の身分であるのに(学生だからこそ?)、機材の調達のためにキャノンやソニーなどの大企業から支援を募り、コンゴ政府や原住民と交渉をしてサポートを得て、大規模な調査団を率いて1ヶ月以上にもわたる調査を行った。怪獣に関する目立った成果はなくとも、その行動力自体に脱帽する。自分が学生時代の発想を思うと、全く想像すらできなかっただろうことをやっている。
高野さんも「はっきり言って、なぜ自分がこんなことをしているのかわからない。わからないながらも、あまりに無意味な活動をしているので、なぜか快感すら覚える。「普通の人は、ちょっと真似ができないな」と思う。当たり前だ」という感想を漏らす。著者はその普通でないところにプライドを持っていたのだろうし、確かにそうだ。食事ひとつとっても、ワニ、カワウソ、ヘビだけでなくゴリラやチンパンジーまで食する。少し食べてみたい気がするが、屠殺する場面を見て唾が出てくるようにはならないだろうなあ。
現地人とのやりとりや微妙な空気も生き生きと表現されていて読んでいて楽しい。荒削りな部分もあるが、補って余りある魅力がある本。
文庫本にあったっての後書きにある同志近況も素敵。マラリアにかかってほとんど寝込んでいた後輩の田村さんが寄せた手記は考えさせるものがある。
高野さんは語学の才能があるんだということもわかった。後の日本で唯一の辺境作家となる素地がこのとき花開いた感じがあり、うれしい。「アフリカとは末永くつき合っていくと思われる。そのなかで、もっともっと想像のつかない世界に入っていきたい」と述べる著者。その思いは、その後現実となり、その果実を読者と分け合うことになる。素敵な話だ。 -
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ブータンと聞いて思い浮かべるのは昨年国王夫妻が来日し民主党の馬鹿な大臣が欠席した話やGDPならぬGNH(国民総幸福度)などだろう。GNHそのものは経済的な発展をいらないと言ってるのではもちろんなく、持続可能かつ公正な社会経済的発展、環境の保全と持続的な利用、文化の保護と促進、良い統治が中心だそうだ。そしてそこにブータンでは仏教的な思想として欲望の抑制や殺生の禁止が含まれているようなのだがこの本に出てくるブータン人たちは仏教とGNHはそもそも成り立ちが違うと言う。また経済的な面では例えばブータンでは国のどこでも携帯がつながり、テレビが見れるようにと言った事業を進めている。反西洋文明みたいなイメージでとらえるとなかなか一筋縄では行かないのだ。
ブータンは下は熱帯で上はヒマラヤ山脈近くと狭い国土ながら上下さはすごい。しかも高野秀行の行き先はブータンの辺境とあってさらにすごいところだ。一応の目的は生物資源探索のために伝統的な知識の下調べをすることで依頼者はマレーシアに拠点を置くバイオベンチャーのニムラ。ブータンには世界の生物資源の6%が有ると言われておりニムラがブータン政府と契約して海外企業との窓口を務めるのだがなぜここに高野秀行が出てくるかと言うと辺境愛好家として既知の二村社長に専門家は視野が狭いので高野が適任だと言われたことと、それ以上にブータンには雪男がいると釣られたから。実際には行く先々で行き当たりばったりに雪男や幻の動物を探し時々思い出したように伝統的な知識、例えば民間療法や薬草などを聞くのだが、正面突破では田舎の人たちはなかなか話をしてくれなかったり、と思えば一緒に宴会をして仲良くなったりと話は蛇行を続ける。
そもそも雪男の出だしが二村しによればこうだ。
二村「ブータンには謎の生き物はいませんか?」プロジェクト主任「そんなもんはいませんよ。」二村「では、雪男もいませんか?」主任「ああ、雪男ならいますよ」・・・・
そこそこに出てくるブータンの民話もなかなかシュールだ。雪男の話では雪男は人間にだまされてよもぎ団子の変わりに馬糞を食わされ、さらにはマッサージをまねしたつもりで毛にバターを擦り込み火をつける。仲間の雪男は水に飛び込めと言った所、水と仲間が同じ発音だったので仲間の所に飛び込み雪男はまとめて焼け死にました・・・とか、ある果物を食べた後泉の水を飲むと甘い味がした。そこでその男は持ってた矢筒に水を入れて家族に飲ませた所、毒矢の毒で家族はみんな死にました・・・とか。雪男やチュレイと言う謎の生き物の話は度々出てくるが、これらを見たら死ぬと言う言い伝えがセットにあったり、運が落ちている状態で見るとか怪しいはなしなのに時々見たと言う人が出てくる。まあ実在の生き物と言うより物の怪のたぐいだ。
ブータンの良い習慣はニェップという知り合いの家に押し掛けて泊まる制度。逆に一番恐ろしいのはツォチャン。よそ者は酒を買おうとしても売ってもらえないのだが夜になると近所の人たちが焼酎を持って集まってくる。飲んだらお礼をする、飲まずに金を払うのも飲んで払わないのも失礼にあたり飲むしか無い。飲めば飲むだけついでくる。しかも高地で酒がよく回るらしい。冷たい焼酎はもう無理と断ると、鍋にどぼどぼと5本ほど注いで暖めてくる。翌朝二日酔いの高野が二日酔いの伝統薬を聞いた所進められたのが迎え酒。あやうく逃げ出したが翌朝もツォチャンの続きにわらわらと集まってきていたそうだ。まあとにかく辺境で苦しみつつも楽しんでいるようで何よりだ。 -
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バイオベンチャーの代表、二村氏からブータンの生物資源探索のミッションを受けた高野氏。最初はあまり乗り気ではなかったが、ブータンにはイエティ(雪男)というUMAがいるとの情報で色めき立つ。
ノープランで現地に入り、道中、おばちゃんの猛烈なお酒の接待に二日酔い。高山病で死にかけるが、ブータンのあまりの桃源郷さに天国を感じ、死を受け入れ始める。
これほどブータン人に世話になる人はいないのだろうが、これこそ高野氏の為せる術。
インドと中国に境を接しながら、未だに半鎖国的国家なるブータン。
西洋医学と伝統療法。国家主導の経済発展と鎖国的体制。ダブルバインドな要素を持つ国家でありながら、登場するブータン人は皆とても幸せなのだ。
これまでのUMA探索本とはやや趣を変え、辺境ハンターならではの国家観や、比較文化論が語られ、興味深い。新たなテーマになるのだろうか。
中尾佐助「秘境ブータン」(岩波現代文庫)も読みたい。