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Posted by ブクログ
4.5
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それをおもしろく書く」をスタンスとする著者が自身の「背骨」とも呼ぶべき本と述べたのが、この本。
その通りで、まず思ったのが発想が本当に飛び抜けていると思った。すぐ隣の中国では固く禁止されており持っているだけで極刑になるアヘンが国境を少し超えたミャンマーのワ州だと人々の生活の糧になっている - そんな「善悪の彼岸」の先であるワ州で実際人々はどんな生活をしているのか、村人と同じ生活をして体感したいということで半年ほど住んだ記録を本にしているんだが、まずそこに行ってみようって発想になるのがぶっ飛んでいる…笑
そして、ドキュメンタリーとしても本当によくまとめられていて、自身の観察だけでなく、そこからこの地域の人々の在り方まで考えを巡らせており、洞察が非常に深いなと思った。
アヘンを生活の糧にしている村人は想像以上に我々の日々と変わらない慎まやかな生活を送っている一方、そのアヘンを村人から税として徴収し、アヘンを精製してできるモロヒネの製造販売ルートを握り、富を独占している軍。
しかし軍もそれはビルマ軍と戦っていくための軍資金として必要で、ビルマとワ州の戦争の裏にはビルマが独立した際の多数民族による少数民族への不平等にルーツがあり…、国vs自治区の構図がこのアヘン経済圏の裏にはある。
更に言うと、ワ州はその中でバランスのために隣国の中国に支援を貰いながら中華系の人・文化に大きな影響を受けながら生活を営んでいて、その絶妙なバランスの中で、民族自決を願っていたワ人の中心人物(筆者の保証人)がこの地域での権益を固めたい中華系の勢力に暗殺されてしまい、そこからこの地域は親政府勢力になり、そのためにワ州の人々が迫害のような不利益を被るようになった…(これは著者潜入後の後日談だが)
このような人々の生活とその裏にある構造の接続が見事だった。
著者が「多くのジャーナリズムというのは上空から見下ろした俯瞰図…木を見て森を見ずという戒めに忠実に従っているのだろうが、悪くすれば「森を見て木を見ず」…不特定多数の人に伝わりやすいが、手で触ることはできない」ものとして、
それに対して「私としては一本一本の木を触って樹皮の手触りを感じ…それから森全体を眺めてもいいのではないかと思った。」
と表現しているが、現地の生活で感じたことや観察を起点としながら、文献調査なども組み合わせて人々の生活からその裏にある構造まで紐解いていったのは、まさに「木を見てそこから森全体を眺める」を体現されているなと思った。
AI時代で誰でも「森を見て理解した気になれる」時代だからこそ、それで満足せずに「木を見て触りにいく」(一次情報を取りに行く)事が一層大事だなと改めて気付かさせてくれた本だった。
Posted by ブクログ
いろいろ気にはなるけどとにかく良いこの表紙に、いつもの高野節を期待して「めっちゃ面白そう」と手に取りました。印象ちょっと違いますね。
ケシの栽培に密着するためミャンマーの山岳地帯・ワ州に乗り込んだ高野さん。
歴史的にも政治的にも複雑。反政府ゲリラの支配区であるワ州の小さな村は、武器の調達・食糧の自給のためにアヘンの生産が公認されている状態。
そこで、ケシの種まきから収穫までの7カ月間を村人と共に過ごします。
「アイ・ラオ」という村人ネームを授かった高野さん。言語や文化の壁はありながらもとことん郷に従い、ケシ畑で奮闘し、村人と打ち解けていきます。
時には険悪になったり怒られたり、全く「お客さん」感のないその溶け込みっぷりはさすが高野さん。
ケシの収穫が終わり村を出る頃には、ちゃんと(?)アヘン中毒にもなっていて、その様子は生々しく面白い。笑い事じゃないけど。
帰国後ワ州を取り巻く状況は一変、村に潜入できたのはまさに奇跡のタイミング。
村人は兵士であり、のどかな農村に穏やかではない空気も漂う中での滞在。あの村人たちやケシ畑、そして「モルヒネ化計画」はどうなったかなぁ。表紙の見え方も変わってくるなぁ。
Posted by ブクログ
高野氏の著作に関しては飲酒に目覚めた後の少しおちゃらけた文章に慣れていたので、本書の真面目で鋭い語り口には度肝を抜かれた。一般的には知られていないであろう、少数民族を無数に抱えたビルマという国が英国に好き放題にされた後独立国家として目覚め、その統治の難しさから軍事独裁政権に踏み切った実情をしっかりと語り、中国共産党の息のかかったビルマ共産党に侵略され、そこから独立したにも関わらず中国的官僚制度や文化から抜け出すことができず、麻薬に関係した場合は死刑になるという厳罰で持ってこの植物に臨む中国に対してヘロインを密輸する奇妙で矛盾に満ちたワ州という反軍事政権の暗部を日の元にさらけ出し、この汚いビジネスに加担する中国の公安を掻い潜りワ州の上層部を説き伏せて実際にアヘン栽培を行う村に潜入するという、多くのジャーナリストでも忌避するであろう道を突き進んでいく著者の行動は、刊行された当時多くの人の胸を打ったであろう。発売当初にこの書物を知らなかったことが悔やまれる。
それにしてもアヘンの効果とは恐ろしいものである。悪性腫瘍からくるものも含むどんな体の不調ですら一時的に緩和し、本人が自覚症状を感じる間もなく中毒症状へ誘っていく。多くの孤立した軍事政権が薬物売買によって戦費を稼ぐ理由がよくわかる。しかしその収入は本書で記されているように薬物の密輸ルートを維持し幹部の私腹を肥やすために使われ、末端で栽培する人々にはまったく還元されない。我々の知らない場所でこのようなえげつない行為が行われることを、本書は改めて思い起こさせてくれるのである。
Posted by ブクログ
イラン水滸伝から高野秀行作品を読むようになって、今ではすっかり高野秀行ファンになっている。
自分にはいろんな意味(モチベーション、勇気、体力、時間、お金)で経験できないことを、高野さんは経験し、それを本という形で表現してくれる。まさに本の醍醐味である。この作品は現実の世界での実際の体験記なのだが、今自分が生活している世界からかけ離れすぎていて非常にシュールなのである。日本人がこれまで行ったことのない、ミャンマーのワ州僻地にあるアヘンを栽培している村に長期間滞在して、自分もアヘン中毒になってしまう。現実は小説より奇なりであるが、ノンフィクションは現実より奇なりである。著者はどうなってしまうんだろうとワクワクドキドキさせるエンターテイメントであり、世界にはこんなところもあるんだとか、ミャンマーの歴史ってそうだったのかなど勉強にもなる作品である。
Posted by ブクログ
麻薬アヘンを生産する地域、そこに悪人はおらず、控えめで純朴な方々が暮らしていたそう。
物事の理解には、教書による体系的・理論的な知識に加え、現場の肌感覚が必要と思うが、本書では、立ち入りが極めて困難な地域の現場感を立体的に伝えてくれる類稀な力作と感じました。
ミャンマーは山岳地域が多い。往来が困難なので、各地域ごとに孤立し独立しやすい。ミャンマーでは自治州民が人口の1/3ほどを占める。多数はビルマ民。
筆者が滞在した村は30人ほど。準共産制で村民は協力して暮らす。仕事をノルマ的でなく、個人の良心や村内の空気に従い、毎日仕事をしている。小学校のクラス掃除に近いと感じた。近代前の日本もこんな風だったのだろうか。
国や場所が変わっても、人の暮らしに大差はない。冗談で笑い、怠惰や怒りは敬遠され、お酒が好き。筆者は現地の言葉や食事を拒絶せず、進んで溶け込みに行っている。本当にすごい。
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