遠藤周作のレビュー一覧
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「盛大な反省文」
それぞれの登場人物、
特に生きたまま捕虜を殺す手術に関わった男女は各々が過去に反省しなければならない出来事を経験している。
彼らだけに限らず、生きてる人間に等しくある『罪悪感』であり、これをどう感じ、どう消化していくかが肝心だと感じた。
残された手記のように記録され、
過ちを犯した己を自らが叱るような書き方もされていたりと、人間の反省をさまざまな角度から描いたストーリー。
中でも上田看護師の話が一番、ぐっときた。
もう感情を失ってしまうような辛い出来事を
彼女なりに消化し、罪悪感を捕虜の手術で混乱させ、
嫉妬や悔しさを理解していく姿勢に
同情をする人も少なくない気が -
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遠藤周作の死生観、仏教にもキリスト教にも精通している著者のエッセイであるが、タイトルほど内容は重いものでもなく、著者もあとがきで「読者も寝っ転がって、気楽な気持で読んでください。」と書いてる通り、著者の経験やエピソードなどが綴られる。
私が特に面白いと感じた話は、善魔という悪魔の対義語、これは著者の造語であるが、こちらの善や愛が相手には非常に重荷なっている場合も多く、それに気づかず、自分の愛や善に溺れ、眼がくらんで自己満足している様子。
これは、自分にも多く当てはまるなと。
悪魔は悪意を持って、相手に悪い行いをするのに対して、善魔は悪意は無いのである。その上、自己満足している。
相手に負担や重 -
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ネタバレフランスやイタリアに留学する話をまとめた3本仕立ての小説。1本目はフランス人の押しつけの善意と日本に対する無理解とにうんざりしながらもそれを正す勇気も語学力もないという「ルーアンの夏」、2本目「留学生」は17世紀に実在した荒木トマスという司祭について書いたもので、留学ののちキリシタン弾圧化の日本に帰って棄教した顛末を想像で書いているがこの「転んだ司祭」というモチーフは「沈黙」に繋がることがはっきりわかる。3本目「爾も、また」では仏文学者の田中が渡仏するもフランスにも現地の日本人社会にもなじめず孤独に結核にかかって挫折する様子が書かれる。
どれもとにかく暗く息苦しい。遠藤周作の実際の留学経験をも -
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ネタバレぐうたら学生、正義感にあふれた記者、仮装趣味の大学教授、毎日違う男に食事をたかる女などなど新宿の人々の群像劇。その中で「海と毒薬」の勝呂医師、「おバカさん」のガストンが出会うことになる。題名の通り全体的に悲しいやるせなさが漂っており、「おバカさん」よりは「海と毒薬」の続編ということなのだろう。
「海と毒薬」は誰でも状況さえ用意されれば人を殺すだろう、ということを書いていたが、「悲しみの歌」は人を殺すのにメスさえいらない、とさらに踏み込んでいるように思える。結局あの勝呂は人を殺してばかりの病院稼業と新聞記者折戸の厳しい追及に疲れ果てて自殺してしまうのだが、まるで現代のSNS私刑みたいでちょっと驚 -
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ネタバレ遠藤周作の考えるイエスの生涯、群衆や弟子たちの思惑、その考察を書いた本。
「死海のほとり」の感想と被ってしまうのだが、やはり遠藤周作の個人的なイエスのイメージ(何もできないが、永遠の同伴者として愛を示す人)ありきでそれにそぐわない要素は切り捨てに切り捨てまくっているという印象で、読んでいてもいまいち共感できない。
イエスが永遠の同伴者であるためには何もできないみじめな人でなければならないから、奇跡は全くできなかったことにされる。ひたすら愛を説く人でなければならないから、神の国が来たという宣教については無視する。たとえ話やサドカイ派などとの論争の批判的な部分も書かない。宮清めの暴力的エピソードは -
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ネタバレクリスチャン2世で今は教会に行くこともやめてしまった「私」が学友とイスラエルをめぐる話と、イエスと出会った人々の物語が交互に進んでいく。そのなかで遠藤周作的な「永遠の同伴者」イエスの姿が浮かび上がってくる…という構成。イエスは全く奇跡を起こすことができず迫害されるみじめで駄目な人間、しかし愛をもって弱者に寄り添い苦しみを分かち合った人間として書かれている。
正直な感想としては、遠藤周作のイエスはそういった個人的なイメージありきで聖書のごく限られた描写を拾って都合よく解釈しすぎているように思える。現代編の方で学友の聖書学者戸田や行き会った牧師との会話で多少は聖書学の知識がありますよ、自分のイエス -
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ネタバレ新約聖書やイエス伝に登場する11人の女性たちに光を当て、小説風の脚色も加えながら紹介しているエッセイ。当時の女性たちは大変地位が低かったが、それ以上にイエスが関わっていく女性には娼婦や病気の老婆などの孤独で弱い存在が多い。遠藤周作の重視するイエス像というか、そのような弱い存在を軽蔑せずに共感し、寄り添うイエスの姿勢が浮き彫りになるような内容になっている。遠藤周作は日本人がキリスト教を信じることに違和感を感じていたというイメージがあるので、思った以上に正統的な信仰を持っていたことに驚いた。
後半のエッセイは聖書を離れて普通のエッセイになっているが、白血病の夫に寄り添う妻など短編集「月光のドミナ」 -
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ネタバレ昔読んだ覚えがあるが、内容はあまり良く覚えていなかった。グロが苦手なので当時もちょっときつかったのは覚えている。太平洋戦争の末期に実際にあったアメリカ人捕虜の生体解剖事件をもとに創作された作品。生体解剖に参加した中の3人に焦点が当てられているが、どの人物も異常性が感じられるわけではなく、きっかけと罰せられないという環境があれば一般的な日本人は殺人にも罪の意識なく参加するのである、という作者の声が聞こえてくるようだ。
戦争だったからみんなおかしくなったのだ、とその特殊な環境に原因を求めようとしても、序盤の勝呂の「これからもおなじような境遇におかれたら僕はやはり、アレをやってしまうかもしれない」と -
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上巻から続く荒木村重の信長への謀反と、光秀による本能寺の変、秀吉と柴田勝家の戦いを中心とする信長亡き後の勢力争いを描いた下巻。
本能寺の変から続く秀吉による中国大返し、賤ヶ岳の戦いという流れはドラマとしてすごく面白いですが、この<反逆>という作品は歴史的イベントの語りはかなり淡白。
その代わりと言ってはなんですが、公私どちらをとるか、現代にも通じる究極の選択に思い悩む登場人物たちの<心の動き>に全振りした作品でした。
また、解説にも書いてありましたが、この小説のなかで信長は唯一無二の存在。
人間味がなくて迷うこともなく、絶対的権力者として描かれていて、まさに唯一神である。
この信長という強 -
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ネタバレとっても良かった。
テーマとしては"転生"
様々な宗教、言語が混じり合う印度に、それぞれ目的を持って旅行に向かう人たちの話。宗教観についてすごく考えさせられた。
日本は厳格な宗教がある方ではないから、あんまり宗教の対立が身近ではない(私が無知なだけでそんなことないのかも)ので、宗教の対立について考える非常に良い機会になったと思います。
大津さんの考えはすごくいいなと思ったし、私も同じ考えですが、机上の空論なのだろうなと思いました。対立を無くすのは難しいよね。。。
転生って理想にすぎないかなと思うけれど、思いが繋がっていくって意味での転生というとらえ方はめちゃくちゃ好きで