【感想・ネタバレ】海と毒薬(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

戦争末期の恐るべき出来事――九州の大学付属病院における米軍捕虜の生体解剖事件を小説化し、著者の念頭から絶えて離れることのない問い「日本人とはいかなる人間か」を追究する。解剖に参加した者は単なる異常者だったのか? いかなる精神的倫理的な真空がこのような残虐行為に駆りたてたのか? 神なき日本人の“罪の意識”の不在の無気味さを描く新潮社文学賞受賞の問題作。

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Posted by ブクログ

遠藤周作を読むたびに、こんなに巧みで良いんですかと驚いてしまう。こんなに効いてる導入ってあるんですか。構造もキーワードも考えられた上で作られていると分かるから、分析してみたくなる。分析した後に辿り着くのは主題なんだと思う。
生体解剖という恐ろしい事件を、絶対的なものではなく相対的な日常の中に潜むものとして特殊性を取り除きながら書くっていうのが面白いと思った。

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2025年01月25日

Posted by ブクログ

『海と毒薬』遠藤周作
あなたは、周りからどう思われるかを基準に選択をしているでしょうか?
仮に場や時代の流れで倫理的に誤ったことをしても何も追及されなかったら、そのことに良心の呵責を感じるでしょうか。

「いいこと」をするのは、大人や社会から褒められる、認められる、そういう目を意識してのことでそれが全てなのでしょうか。
良心とはつまり、社会性や他者からの評価が内面化された産物なのでしょうか?

私の場合、もちろん悪いことや人を傷つけたことがバレて明るみにだされ裁かれることは非常に恐ろしいことですが、

それらしいな理由や仕方のない理由でやった「悪いこと」「人を傷つけたこと」で、誰からも咎めを受けずにもう時効だろうと思うようなものでも「罪」の意識をもってそれがグルグルと自分の中でリフレインしてしまったり、
もしくは、その罪をまるで覚醒剤のように好んでしまうという傾向性があるようです。

それが世間から「悪」とみなされた、「あっち側」に属するものでかつ自分の気に入らないものを、
「正義」の名の下に、利害関係が一致する人々と非難する行為、
もしくは、「正義」の名のもとに自分の傲慢さを押し付けている人々を皮肉って、その正義を信じている人々の出鼻をくじくというそういうことだったりします。

これは、多くの日本人がいうように「考えすぎ」なのでしょうか?
「罪意識」を「持たない」「許す」ことと「感じない」ことは、似て非なるもののように思います。


戦争末期に、大学附属病院で米軍捕虜を生きたまま生体解剖をした事件があったことを初めて知りました。
本作は、そこに関わった医師や看護師たちの内面の告白とも言えるべきものですが、みんな、
それを拒絶する機会はあったはずなのに、
「大きな流れ」に逆らえずに、唯々諾々とそれに従い、
淡々と普通に捕虜を解剖していくだけ。

いじめに加担して、自分は全てを忘れて有耶無耶にする人々。
袴田さんの冤罪に際して逃げる、死刑判決を出した判事たち。

前時代には、仕方がないと空気のように認められていた、セクハラに体罰にタバコにあれやこれやが、
時代が変われば、逆の全体主義のように、何事もなかったかのように、あれもこれも悪になっていく現象。

それに「時代だから」「流れだから」という接頭辞すらつけず、
あたかも「世間」イコールそれが普遍の真理であるかのように、
そこに同化することのみしか考えていないような「いい」人々は、
そうじゃない人たちをごくごく普通に排除していく。

現象と評価だけが自然に変わっていく。
そこに「責任」も「振り返り」もない。

なんなんでしょう、なんなんでしょうか、と思います。

そんな私も、そう考えることがしんどくて、
というか、そもそも、そんなこねくり回さなくても、
この「海」こそが正直な正解なんだと思いそうになる。
気がついたらその「海」に引き込まれたら楽かなあ、と思うことが多々あります。


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2024年12月13日

Posted by ブクログ

終始鳥肌が出るほど衝撃的な内容でした。
時代背景もあるかもしれませんが、人間ってどうなんだろ?
日本人って周りに流されて酷いことしてしまう人種多いと考えてしまいました。
勝呂だけが普通っぽく、、続編が気になります。

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2024年10月06日

Posted by ブクログ

衝撃的な内容だった。人間にがっかりする話だった。
今までの経験に重ね合わせて、たしかにって納得する部分があった。
続編があるらしいから、そちらに救いがあることを期待する。

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2024年10月04日

Posted by ブクログ

これは凄かった。正統派の倫理観を「人間の尊厳とは何か」を突き詰められたような小説だ。
私は意外とサイコパスな戸田という人間の方が人としての黒さが無いように感じる部分もあるなと思った。
勝呂があの手術の後から、最初の主人公に出会うまでのところも読んでみたかった。

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2024年10月02日

Posted by ブクログ

「どうせ死刑にきまっていた連中だもの。医学の進歩にも役だつわけだよ」

太平洋戦争末期の1945年5月、九州帝国大学(現・九州大学病院)医学部の医師らが、米軍爆撃機B29の乗員で捕虜となった米兵8人を人体実験に利用した事件が基となっている作品。

作中では罪悪感に苛まれる者、未来の医学のためだと信じる者、現実から目を背ける者、様々な人物の思考が入り乱れて実験が進んでいく。この実験によって大勢の命を救ったとも言えるし、そのために一人の命を軽視したとも考えることができる。個人的には例え相手が米軍だったとしても、人間である以上命の重さは平等だという気持ちが強かったし、その場にいる以上誰もが悪人であることには変わりないと思った。

それに実験の内容が内容なだけに擁護はしづらい。血管の中に食塩水や空気を注入したり、肺の片方だけを切り取って何秒生き延びられるのかを計測したり等々。いくら医学のための実験だとしても結構惨いことをしているし、半ば実験を楽しんでいたのだろうとも感じる。手術の描写も映像が鮮明に浮かぶから、尚更ページをめくる手が重かった。

ただ、戦時中という極限状態の中で、日々多くの命が失われ、死が間近にある環境で過ごしていると判断が鈍ってしまうのも理解はできる。そこに至るまでの描写も丁寧で巧かったし、決して登場人物たちを完全な悪人にしなかったのも良かった。宗教的な要素も強くて、無宗教が多い日本ならではの話でもあるなと感じた。安易な言い方になってしまうけれど、「善とは、悪とは」について考えさせられたし、倫理観にずしんと響いてきた。

要所要所で挟まれる立原道造の『雲の祭日』から引用された一節「羊の雲の過ぎるとき 蒸気の雲が飛ぶ毎に 空よ おまえの散らすのは 白い しいろい 綿の列」という詩がとても良い味を出していた。本編のどんよりとした暗さに相反して、その詩の美しさが際立っていた。戦時中という極限状態の中で、この詩を思い返せばそりゃ涙も溢れてくるはずである。自分の中でもとても好きな詩になった。

あとこれは余談なのだが、九州大学病院のすぐ近くには海があり、著者の遠藤周作はそこの屋上で手すりにもたれて雨にけぶる町と海を見つめて『海と毒薬』という題名を思い付いたという。この美しいエピソードが、さらに本書の魅力を引き立てていた。

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2024年09月02日

Posted by ブクログ

仮に自分がこの医師や看護師たちと同じ立場だったら、自分も同じ罪を犯しかねない、自分にも彼らと同じ弱さがあるなと思った。
出世に目が眩んで自分の正義に背くことは自分はない、、、気がする。でも、無意識に出世を考慮して自分の中で正義の定義が変わってしまうことはあるかもしれない。保身のために自分の正義を曲げてしまうことも抗える、、、気がする。でも、自分だけの保身ならまだしも、仮に妻や子どもも含めた保身となると、どう判断するか自信はない。個人としてそのような程度である上に、戦争など世の中の混乱の中で所属するコミュニティに共通の「敵」が形成されている場合に、その「敵」の尊厳にも気を配れる強さが自分にあるか、自信はない。
そのような自分の弱さを常に自覚して生きていかないと、と思った。

読み終わってから、事件のこととか、著者のことなどをWikipediaで読んでみたりしたけど、この小説をどう受け止めれば良いのかなかなか定まらない。
著者はキリスト教の教えと日本人の特性の矛盾に苦しんだようだけど、さすがにWikipediaを読んでみた程度では全然理解できていない。このような罪を犯してしまう人間の弱さは別に日本人だからというものでもなくキリスト教を信仰している人にもありうるのではないかなと思えてしまう。他の著者も読んで遠藤周作さんの感じた矛盾への理解を深めてみたいと思った。

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2024年06月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

海の描写が印象的。最初のシーンの時系列に最後戻ってこないことにも興味が湧いた。葛藤や、日本人とは何なのか、神とは何なのか、向き合うこと、考えることが増える作品。この本に思い出があることも重なって、面白かった。

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2024年04月26日

Posted by ブクログ

みなさんには、自分の生き方を変えた1冊はありますか?
ぼくは、子供のころから本を読むのが好きでした
高校生くらいまでは、推理もの、いわるるミステリ、というジャンルのものを手に取ることが多かったです

大学生になり、友達がこの本を勧めてくれました
今まで手にすることがなかった種類の本
読むうちに物語の中にどんどん引きずり込まれていきます
読み終わった時、自分の中の倫理観というものが根底から覆されていました
若かったのもあるのでしょう、自分の今までの考え方が全て変わってしまうほどの衝撃でした
今も時々読み返す本作はぼくにとって特別な存在です

テーマは、神なき日本人の罪の意識
遠藤周作さんは、カトリックでもあり、「日本人でありながらキリスト教徒である矛盾」をテーマに創作活動をされた作家だとぼくは思っています
晩年の作品「深い河」は、宇多田ヒカルさんもインスパイアされ、「Deep River」という楽曲を製作されています、本作もお好きだそうですね

太平洋戦争末期、九州の大学付属病院で米軍捕虜の生体解剖実験が行われた
参加者たちはなぜ解剖に参加したのか?
実際の事件をモチーフにしたフィクションです

悪いことをしてはいけません、いいことをたくさんしましょう
悪いことって何だろう、いいことって何ですか?
それは誰が決めることですか?

日本は法治国家なので、法の下に善悪は判断されるのだと思います
では、個人の倫理観というものは、どうやって形作られるのでしょうか
法ですら解釈により判断が変わるのに、倫理観とは何とあいまいなものなのか

疑うことなくそのあいまいな倫理観を全ての善悪の判断基準としていた大学生のぼくは、慄然としたのです

解剖に参加した主人公の勝呂医師を責めることができませんでした
もし自分が勝呂医師だったらそれに参加しなかったのだろうか
ぼくが勝呂医師になることなんてないのだから、そんなことを考えても無意味なのだろうか
なら、人の気持ちを想像したり慮ったりすることも無意味なのか

ぼくはこの本を読んだ後、本当にずっと考えています
読んだ後数年間は本当に苦しみました、罪を犯した人の気持ちを過度に慮る行為をやめることができずに

最近のSNSなどを見ていても、個人的には思います

切り取られた情報から、判事でもないのに自分のものさしで善悪を判断し、匿名で、不特定多数が自由に閲覧できる場で、人を批評することが恐ろしくないのかな
必ず傷つけることになるのに、知らない誰かを

本というのは、誰かの人生を変えてしまうくらいの力を持つ
それを知ってから様々な本と出会い、様々な考えに触れ、あれから数十年生きた先に自分の心が豊かになった気がしています

そんな、ぼくにとって新たな読書人生のスタートとなった大切な1冊です

実質上の続編となる「悲しみの歌」は、年を重ねて読むとまた味わいが全く異なる本です、こちらもよかったら

あの日ぼくの中に生まれた「海」と「毒薬」は、生きていくなかで少しずつ変容しています

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2024年04月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

戸田ぁぁぁぁ…..。
勝呂には簡単に感情移入できたけど、やっぱり中盤であった戸田の昔話ゾーンで、完全に心惹かれた…
もちろん戸田は間違っているんだけど、嫌なやつだけど、わたしは標本盗んだりはもちろんしないけど、それでも惹き込まれるキャラクターでした。
「沈黙」を読んでからこの本を読んだけど、「沈黙」同様に一気に読めてしまう面白さがあって、さすが代表作という感じがあったように思います。

ダメなことって分かるけど、わたしもあの時代に同じ状況になったら、絶対に断りきれなくてあの場にいたと思う。
何が正しいのか。もちろん正義や正しさについて真正面から考えるのは大事なんだけど、真正面から考えられない時代や状況について、思いを巡らせることの大切さを改めて実感した本でした。

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2024年02月24日

Posted by ブクログ

おばはん、息子に会いたかったろうに。この人と米国人捕虜の死はちょっと辛かった。犬のマスもどうなったのか…

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2024年01月28日

Posted by ブクログ

不穏な話だけど、どんどん引き込まれてしまう。

それぞれの立場の手記で話が進んでいき、救いようのないことがたくさんおき、それでも普通は立ち上がって行くけど、この人達はそうではなくさらに暗い淵に落ちていく。

でも、罪を感じることができないのは悪いことなのか?と言われると生まれ持った性質だから仕方ないとも言える。
他人の眼や社会の罰だけにしか恐れを感ぜず、それが除かれれば恐れも消える。という言葉がささり、今はのほほんと生きていけるけど、日々の選択って何なんだろうと思う。
迷いを消せるのは、ただ好きになること、いかに他の人の評価は気にせず、自分のためになるか指標で生きて行くのがいいんじゃないかなぁ。人間に優劣はないし。と思ったのでした。

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2025年03月02日

Posted by ブクログ

終始暗い雰囲気の小説でした。読んだ後に、どんよりとした心苦しさだけが残りました。
たった160ページ程度で、読者をこんな沈んだ気持ちにさせる表現力、構成力はさすがとしか言いようがないように思います。特に手術のシーンですが、心拍数が上がるのがわかるほど、怖かったです。

終盤に「俺たちを罰する連中かて同じ立場におかれたら、どうなったかわからんぜ。世間の罰など、まずまず、そんなもんや。」という一文がありました。
この一文から、日本人って、よくも悪くも他人志向的ところがあるよなと考えさせられました。見栄とか、他人からの評価を気にして、こんなにも残虐なことが、あたかも正義かのように行われてしまうのですから。自分は医者でも何でもないですが、仮に自分がこの時代に生まれ、勝呂と同じ環境に置かれていたら、この生体解剖に参加してしまうのだろうなと思い、人ごとではないような気がしてなりませんでした。

あまり文学作品と触れてこなかった人生でしたが、これを機に他の文学作品も読んでみようと思わせてくれる良著でした。

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2025年02月14日

Posted by ブクログ

戦時中に捕虜の人体実験に参加した医師のお話
課題本読書会のために再読

スポットの当たっている登場人物それぞれの苦悩や葛藤
良心はあるが、流されるままに実験に参加した勝呂の無力感
子を成せなくなった上に夫に捨てられた看護婦の上田
参加を断らなかったのは、聖女のように振る舞う部長夫人のヒルダへの歪んだ優越感のため
罪の意識のない功利主義の戸田

最初に読んだときには、「沈黙」からの流れでキリスト教の「罪」と日本人の「罪の意識」について注目したけど
今回はそもそも、この行為が罪なのか?という視点で考えた

この人体実験何が問題なのか?
裁判なしで殺したことなのか?
人体実験に使った事なのか?
本人に告知していないことか?
肝を食すという行為か?

さらに言えば
死刑囚ならば人体実験は許されるのか?
という事まで考えが及ぶ

罪を犯した人に、社会貢献に繋がる罰を科す事の是非
応報刑を元にするのであれば、人を殺したならば同じだけ救わなければいけない
一人の死が他の生命を救う糧になるのは戸田の言葉で示されている

軍事裁判の正当性は置いておいて
死刑になる人間を社会のために役立てるという行為はどこまで咎められるんだろう?

人権とは人の何を保証するものなのでしょうね

村田沙耶香の「殺人出産」では産刑というものが実現された社会が描かれているわけだけれども
個人の意志を無視して何かを行わせるのはどこまで社会が許容するのかという、変容する倫理観でしか語れないのではなかろうか


人体実験は当時も今も咎められる行為ではある
ただ、未来永劫変わらない倫理観ではなく
もしかしたら、「遺体をただ燃やす埋めるだなんて、当時は何て勿体ないことを!」という価値観の社会ができてもおかしくないわけで

倫理って何なんだろうな?と思った

それにしても、小説を読んでて様々な要因で自分の価値観を叩きのめされてきたからか、私の倫理観も結構ぶっ壊れているなぁ

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2025年02月06日

Posted by ブクログ

学生の時には古めかしくて読み続けられなかったので、リトライ。
しかし医師となった今では、戦前に建てられた母校の廊下などを思い出してしまうと場面の描写があまりに生々しく、読み進めるのが辛かった。
戦争という異常な時代背景の中でおかしくなっていく倫理観の波に飲まれ、無力感に苛まれながら人間性を保とうとする者、開き直る者、正当化する者、それら全てが人間だということ。社会に認められる罪だけを問題にすれば良いのか?自分の中にしっかりとした価値観と倫理観を持たねばならぬこの分断の時代に、とても考えさせられた。

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2025年02月01日

Posted by ブクログ

学生の頃、夢中になって一気読みしたけど内容すっかり忘れてて再読。
こんな重い話だったんだ…よう読んだな昔の我…。
罪の意識とは…?
人が毎日死んでいくのが当たり前の戦争末期の環境で、果たして人間は良心を保ち続けられるか?
そもそも人間は最初からそんなものを持ち合わせているのだろうか?
戸田のような人間は決して少数派ではないと思う。
歴史を見ても、人間は多分、環境とかに流されて簡単に残虐になれる生き物なのだろうと思う。
そういうことをみぞおちに叩きつけられたような、重い気持ちになった。

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2025年01月16日

Posted by ブクログ

戦中の九大捕虜生体解剖事件
描写が生々しくリアリティーがある。
良心の呵責はどこから感じるのか。無宗教の日本人だと、絶対的な基準がなく、個人の解釈次第。

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2024年12月27日

Posted by ブクログ

人体実験は科学の進歩に大きく寄与している必要悪である、しかし正当化して良い理由にはならない。関わったものが皆何かしらの罪を背負い生き続けていくことに意味がある。

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2024年10月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

過去に九州大学で起こった捕虜による生体実験が行われた事件をもとに描かれた小説。

九州で戦時中アメリカ兵が数人つかまり、その処遇を国にもとめたところ捕虜収容所がいっぱいなため、そちらで処分?してくれと言われる。
そのため、その捕虜たちは近々九州で処刑される予定だったが、
大学病院が「生体実験を行うため数名ほしい」と手を挙げた。
捕虜たちは「健康診断をしてもらえる」と喜んで病院にはいるが、彼らは生きながらにそれぞれの実験により死亡することとなった。

勝呂はその実験に参加することとなった。断れなかった。
その実験に至る葛藤、
ある看護師がそこにいくまでの人生、
ある若い医師もその大学病院にいくまでのいろいろがあり。

その日はやってきた。
だが勝呂は怖くなって手術室の端っこでふるえているしかなかった。
若い医師は終わってから、自分に罪悪感のないことに戸惑う。

実験を見学した日本軍の隊員たち(そこそこ偉い人たち)を含めて、病院の偉い人たちはその実験のすぐあと、
ある医師の送別会で宴会を開く。
そこに、さっき亡くなった捕虜の肝が運ばれていく・・・

っていうものすっごい胸糞悪い小説でした。
古くて保存状態のわるいモノクロフィルムの映画をみているよう。
それがなおさら不気味でした。

冒頭、戦争が終わって、勝呂はある都会から外れた町で町医者をっしている様子がうかがえます。
気胸で針を打ってもらいに行くが、こんな田舎の暗い医者がうまくできるのかと不安ながらも、妹の結婚式に行かねばならないのでかかってみると、
この医者がとんでもなくうまく針を打つので、びっりする・・
ってところからはじまるんですが、

この都会から離れた町、のんびりして平和で人々は穏やかなように見えて
実はあっちの店の主人も、こっちの店の主人も、出兵して幾人もの人を殺していたりするんですよね。
でも戦争ではそれはよしとされ、罪にもならず、平和にすごせる。

勝呂は医者として、生きてる人の命を自ら断つことができなかった。
が、彼はずっとそれを引きずって生きている。

その感じもおも~~~~く感じられて、
読み終わってから、もう一回、冒頭の町の様子を読み返しました

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2024年10月11日

Posted by ブクログ

表現が具体的すぎて特に手術シーン、情景はありありと浮かんだのですが残酷過ぎると感じました。
その中でも現実をしっかり見せてくれる書き方が好きです。

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2024年08月25日

Posted by ブクログ

罪を犯した「人間」が悪いのか?そう単純なものではないと思う。その時の社会情勢、置かれた環境、精神状態。そういうものを全て知らなければ簡単にあいつは悪人だと言いきれないと思う。罪を犯すか犯さないかの判断の際に「神はあるのかな」のセリフのように自分を律するものが(神でなくても)あれば流されることもなかったのか。

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2024年07月14日

Posted by ブクログ

遠藤周作さんは楽しいダメ親父的なエッセイもありながら、これほどに重い作品も残す。人間の深さを感じる。戦争の中のこととはいえ、罪深い行為だ。日本人だけが蛮行をしたとは言えないだろうが、とても遠い過去ではない時代に、確かになされていたことと認識していきたい。

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2024年07月04日

Posted by ブクログ


宗教のない日本の罪の意識はどこからくるか興味を持った。
この話はただ戦時中で倫理観が崩壊したから起こったのか関係なく起こってしまうようなことなのか感慨深い
実際、宗教があろうが無かろうが、罪の意識の有無は個々人によるものだと感じた。ヒトラーのホロコーストも人体実験を行っていたが、無宗教ではなくキリスト教を信仰していたわけだし、、、

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2024年06月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

職場の人に勧められて。
遠藤周作先生の著作を読むのはこれが初めて。
何というか、とにかく凄いものを読んだという語彙力皆無の言葉しか出てきません。

実在の事件を下敷きにしたお話。
ただ事件の残虐さや非道さを描いたものではない。
「戦中」という今のわたしたちの価値観では量れない時代の話ではすませない。
特殊な人たちによる特殊な話、ではないのだ。
日常と非日常、日本人と外国人、医者と患者、男と女、人を殺したことのあるものないもの、知るもの知らざるもの、相対する様々なことの比較を交えながら、淡々と物語は進む。
「神なき日本人の罪の意識の不在」その不気味さを描くと粗筋にあるが、この作中の不気味さを今のわたしたちは笑ってはいけないし、フィクションだからと切り捨ててもいけない。
それは今を生きるわたしたちにも言えることなのだから。

わたしたちは、果たして同じことを体験したときに「罪の意識」を覚えるだろうか。
自問せずにはいられない。

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2024年06月03日

Posted by ブクログ

・罪の価値観
「俺もお前もこんな時代のこんな医学部にいたから捕虜を解剖しただけや。──(本文より)」
世間の罪というのは、時代によって異なるとだな思った。例えば、平安時代では一夫多妻が当たり前だったが、今は不埒なこととして世間から見られている。

・本文の心情描写
さすが遠藤周作。色々な背景を持つ人物それぞれの思惑を見事に描き出されている。『沈黙』のようなダイナミックな文体ではなかったが、このような心情描写が精緻な文体も味わい深い。

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2024年04月14日

Posted by ブクログ

ヒーーーー、えぐい話
激ヤバ人体実験に関わる人たちの罪の意識を描いた作品

"闇の中で眼をあけていると、海鳴りの音が遠く聞こえてくる。その海は黒くうねりながら浜に押し寄せ、また黒くうねりながら退いていくようだ。"
動揺の感情表現の比喩やばすぎる

"恨み悲しみ、悲歎、呪詛、そうしたものをすべてこめて人々が呻いているならば、それはきっと、こんな音になるにちがいなかった。"
遠藤周作の言葉選びが凄すぎるんだけど……

色んな人の視点からオペという一つのシーンに収束していくのが面白かった

勝呂パートから戸田のアンニュイで影のある人間性を感じていたけど戸田パートでおまえ………………!!!!!!好きだ……………!!!!としか言えなくなった
こういう男が好きなんです…………………
自分に良心があるかを確かめるためにしっかりとオペに参加してしっかりと己の非人道性を感じているね!

もはや平成生まれのガキ(21歳)からすると戦争の話なんて本当にSFというか残酷な作り話のように感じてしまって、良くないなと思うんだけどもオペシーンの迫力たるや……百数十ページを息も瞬きもせずひたすら捲る時間があった

もうほんとに戦争やめようね

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2024年03月23日

Posted by ブクログ

白眉はその構成、特に導入部と戸田の回想だろう。程度の差はあれど、戸田の青年期に似た経験がある自分が、これを読んでまたホッとするという最大の皮肉。
神なき世界で、黒い海のうねりのある波に押し流されながら、われわれは自己を罰することはできるのだろうか

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2023年09月28日

Posted by ブクログ

生きた人間を解剖するといったおぞましい事件の当事者それぞれの胸の内を開けていく話。
現実味が無さすぎて、うまく感想がまとまらないというのが正直な感想。

無宗教の僕ら日本人にとっての良心や罪の意識は、いつ、どこで、どのように養われるのだろうか。神様のような絶対的な存在が決めた絶対的な基準を持たない僕らが、物事の善悪を判断する基準はなんだろうか。それは、法と社会がもつ基準だと思う。
法や社会が認識していない悪事は、それがどれだけ卑劣なものであろうと、誰も知らないし、誰にも咎められない。

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2025年01月17日

Posted by ブクログ

スラスラ読める作品。
人間の尊厳とは何か、どこからが罪でどこまでが許されるのか、あらためて捉え直す必要性を感じた。

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2024年12月26日

Posted by ブクログ

第二次世界大戦下、大学病院で起こった米軍捕虜の生体解剖事件を描く作品。
タイトルに『海と毒薬』とあるように、海が登場人物の心理と絡めて描かれていている。特に生体解剖参加の打診を受けた勝呂が自分の意思で決めるのではなく、流れに流されていく様と暗い海が迫ってくる様子が重要な表現になっている。
解剖に参加した看護師上田と助手の戸田の内面がそれまでに至る経緯と共に、かなりの字数で描かれており、共感はできないが理解できるという感じ。上田の嫉妬というか、自分の失ったものを違う形で埋めたいというかもリアルな内面だと感じる。戸田の罪悪感がない自分が不思議で怖いという感情は、特にこの小説の肝になっている。自分が流され、何もできないことに罪悪感を感じる勝呂と戸田が対比的に描かれているのも明らか。
勝呂は冒頭に後日談の形で姿が出てくることで、余計に印象に残りやすいが、罪悪感に苛まれつつも、結局医者を続けているあたり勝呂の方が戸田よりも面の皮が厚いのではと思う…。戸田の後日談がないので、どうなったかはわからないけれども。
上田、勝呂、戸田の内面がかなり細かく描かれている分、橋本部長の内面が一切出てこないので、橋本部長が最後どういうつもりで手術室前に立っていたのかを読み取りたい。

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2024年09月09日

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