【感想・ネタバレ】海と毒薬(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

戦争末期の恐るべき出来事――九州の大学付属病院における米軍捕虜の生体解剖事件を小説化し、著者の念頭から絶えて離れることのない問い「日本人とはいかなる人間か」を追究する。解剖に参加した者は単なる異常者だったのか? いかなる精神的倫理的な真空がこのような残虐行為に駆りたてたのか? 神なき日本人の“罪の意識”の不在の無気味さを描く新潮社文学賞受賞の問題作。

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再読。神を持たない日本人の良心のあり方が描かれている。神なきがゆえに、罪を罪として拒絶することもなく、罰を受けることもないかわりに救いもないような。アメリカ人の捕虜を生体解剖して殺した、そのことへの呵責に苛まれる勝呂はまだ良心があって、罪の呵責を背負って生きている。彼にはまだ救いがある気がするけれど(その救いは描かれてはいないけれど)、全てに無感動で己の出世のことしか考えないような医師たちには何があるんだろうか。呵責の念の起きない戸田は戸田で、何も感じない自分を不気味に感じ、勝呂がうらやましいのだと思う。寂寞とした海鳴り。
作品冒頭では、腕は良いが機械的で人間味を感じさせない変わり者として登場する後年の勝呂が、本当は一番人間味がある。

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2026年04月21日

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この本のモデルになった、当時研修医として実験に参加していた先生が昔近所にいらっしゃって、時々講演会をしていた
それをきっかけに親から勧められて読んだ本。講演会も行ってみるかと聞かれたけど当時高校生だったのでなんとなく怖くて断ってしまって。大人になってから行ってみたいなと思ったけれど先生は最近亡くなってしまったようで、今になってそれをすごく後悔している
こうやって戦争の体験を直接経験者の方から聞ける機会って、これからどんどん失われていくんだろう
そしておそらく、私たちはその最後の世代なんだろうな。

この本に登場する人物は誰も極悪人ではないのに、一人一人が手に取るナイフや、時には一本のペンが誰かの命を奪うことになる。健康診断だと聞かされていた捕虜たちが、実験前に「Thank you」とお礼を言ったという話を聞いて胸が痛くなった。

なんの本だったのかは忘れてしまったのだけど、「なぜナチスは大量虐殺ができたのか」を解説した本に「一つ一つの行為をできるだけ細分化したから」という見解があった。それによると、「私は収容者たちを運んだだけだから」「ガス室のボタンを押しただけだから」といったように罪悪感までも分解する効果があるそうで。本作で題材にされている事件も要因はそこにあるのかなと考えた

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2026年03月28日

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この本を知るまで、実際の事件を全く知らなかった。病院で人が死ななければ、外では空襲で人が死ぬ時代。時代による影響が大きいのかもしれないが、「生」と「死」に対して、感覚が麻痺していたのだろう。戦争医学や結核患者を救うという名目の解剖だったのかもしれないが、軍医は捕虜の肝臓を欲しがったり、解剖に参加した看護師は、教授やその奥さんの事しか考えてなさそうだった。断りきれなかったものの、手術を目の前にして「やっぱりできない」と怯えてしまう勝呂は人間的で、解剖による良心の呵責を考える戸田も人間的に思えた。

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2026年02月06日

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冒頭は戦後が舞台なので
はて..?となるが
医師が登場して戦時中になって
読み進めていくうちに
どんどん闇が深くなっていく物語だ。

登場人物の過去も描いてるが
その表現がすごく良い
特に戸田の過去を読んでいると
実際に同じような境遇をしてる人がいるのではと思う

個人的にページをどんどん進めた部分がある。
それは、解剖直前の場面だ。
''生きた人間に麻酔をかけ殺す''という状況が
文章だけでも伝わってきた。
反戦とか歴史の出来事から学んでという作品ではない。



絶対オススメしないが
時間もあってする事もなくて
ネットサーフィンしてるくらいなら
200ページ未満だから
読んでみてもいいかも。

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2025年11月26日

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まさか実際に存在した事件だったとは、思っても居らず。解剖のシーンは、文字だけで映像も何も無いのに、想像されてなかなか読むのがきついものがあったが、故に現実を知らされる。
日本もなかなかの戦争犯罪を犯してきたと初めて知れた本。

日本人の思考は、きっとそのような罪を犯してしまった彼らを庇護してしまうところにあるのでは無いか。ヒルダの「神様がこわいとは思わないのか」という一言は核心をついている。彼らは神という絶対存在が自分の上にある。自分の一挙一動を監視し、裁判を下す神という存在が。なので悪には容赦なく敵意を向けるし、善にはとことん慕う。しかし日本人には基本服従の対象がない。故に悪意を見せられても、ある程度時が経ってしまえば「時代だったから仕方ない」「彼らにだって本気でそうしてやろうと言う気持ちはなかったかもしれない」と庇護し、片付けてしまう傾向にさえある。
これは、私たちが結局日本人で、自分にとっての絶対的存在がないからでは無いだろうか。私の神が許さない、神はそれを認めないから、私も認めない、という思考が、私たちにはないことをこの小説は皮肉にも物語っている…ように、私は思うが。

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2025年12月27日

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葛藤や自分自身に対して噛み砕いて自分という人間を言語化してる事がかっこいいなと思った。
罪悪感の感じ方は人それぞれ。
戸田はサイコパスではないと思う。真人間だと思う。

僕はあなた達にも聞きたい。あなた達もやはり、僕と同じように一皮剥けば、他人の死、他人の苦しみに無感動なのだろうか。

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2026年02月12日

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勝呂や戸田のその後の人生に関してもう少し深掘りされるかと思いきやされなかったが、それは戸田も勝呂も看護婦もどこにでもいる誰かであり、本を読んでいる私たち自身であり得るからだろうか。

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2026年02月04日

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罪の意識、自責を期待したが何も感じられない戸田と、所々で迷いや後悔の念が見える勝呂の対比が良かった。

上田の回想にも戸田の回想にも「面倒くさい」という表現が出てきたので、彼らは思考を途中で放棄してしまったが故に生体解剖の場に立ち会うことになってしまったのではないかと思った。

海の描写がしばしば出てきたが、その描写が登場人物の感情を繋げてる?

解説にあった、「罰は恐れながら罪を恐れない日本人の習性がどこに由来しているか、を問いただすために生体解剖という異常な事件を、ひとつの枠組みに利用した形跡がある。」とはどういうこと?▶︎行為の善悪よりも損得で動くから、罪の意識が育たず、倫理観の空白として現れる。

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2026年01月23日

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圧巻。素晴らしすぎる。
戦争下という特殊な環境において、善良な市民がごく一般的に倫理観を壊していく様を見事に描ききっている。
文章は平易だが情景描写に重みがあり澱んだ空気が広がっている。特に流される海音を聞き、人間として流動的に流されていく、というメタファーは怖しい。
勝呂に主眼は置かれているものの、序盤の「私」の平凡な日常の描写、上田の女性的な嫉妬の描写、戸田の人間失格に通ずるような描写、その全てが人間の愚かさを表現していて没頭した。
アーレントの「凡庸な悪」を想起しながら読んだ。
しかしこのような倫理観の欠落という問題を、単に日本人の無宗教的価値観のみと結びつけて論ずることは短絡的だと思う。つまり、人間一般として議論するに値する問題だと思う。

23 何もないこと、何も起こらないこと、平凡であることが人間にとって一番、幸福なのだと私は彼等をみながら、ぼんやりと考えた。

88 あれでもそれでも、どうでもいいことだ、考えぬこと。眠ること。考えても仕方のないこと。俺一人ではどうにもならぬ世の中なのだ。
夢の中で彼は黒い海に破片のように押し流される自分の姿を見た。

92 「神というものはあるのかなあ」「神?」「なんや、まあヘンな話やけど、こう、人間は自分を押しながすものからー運命というんやろうが、どうしても逃れられんやろ。そういうものから自由にしてくれるものを神とよぶならばや」

194 人間の良心なんて、考えよう一つで、どうにも変わるんや

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2025年11月28日

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桜庭一樹の読書日記に載ってたし『ラビリンス・サーガ』で日本軍の話が出てきていたので読んでみました。淡々と進む物語。ガソリンスタンドの主人など戦争中に人を殺していた人々が平凡に暮らすという話、戦争中の病院、読んでいて怖かった。戦争中だからあり得た話という気がしない、もしかしたらちょっとしたキッカケで今の世の中でも起きるかも知れない。遠藤周作が凄い、『沈黙』といい『海と毒薬』といい凄い。なんか色んな事を感じたけど上手く感想が書けない。

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2025年11月23日

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再読、借りた本。

生体解剖に目が行きがちだが、今回は登場人物それぞれの向き合い方に引き込まれる
冒頭のマネキンを眺める勝呂、何もない生活の幸せへの言及。
海への考察は解説で深まった
作家に断罪する権利はなく、関わった人達からの抗議に苦しんだとのことだが、私にも断罪する意図は見えなかった
捉え方は立場が変われば無限にある
終わった後の教授の佇まいがそれを物語っていると思った

留学、沈黙で三部作と捉えられるようで、こちらも改めて再読しようと思った
一緒に読んだ中3娘はやはり生体解剖に焦点をあてていた

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2025年11月09日

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海と毒薬

著者:遠藤周作
発行:1960年7月15日
(2004年6月5日 91刷)
新潮文庫
初出:1958年4月、文藝春秋新社より刊行

遠藤周作のエッセイを読みたくて、古本をまとめて購入。エッセイ2冊を読んだので、久し振りに小説。代表作が何冊もあるけど、この本はとくに有名なので読んだ人も多いかと。戦争末期に起きた九州大学医学部事件をもとに書かれている小説だけれど、事件小説やモデル小説など歴史小説的なものではない。軍部と九州のF市にある大学病院の教授や医局員たちが、計画的に行ったアメリカの捕虜達を生体解剖した事件について、あくまでフィクションで書かれたもの。したがって、関わった医師や軍部の人数なども、実際とは違っている。

学生時代、上坂冬子が書いたノンフィクション本「生体解剖」を読んだ。本棚を見ると、なんと奇跡的にその本が出て来た。帯を見ると「三十余年目に発公開された全記録」とある。こちらは1979年の本なので、それまでは事件の全貌を明らかにしたものはノンフィクションでもほとんどなかったということになる。その20年ちょっと前に書かれた「海と毒薬」の〝フィクション度合い〟が想像できる。

新宿から1時間、黄色い埃が舞う住宅街。当時だからまだまだ荒れ地のような郊外。そこに変わり者の開業医、勝呂(すぐろ)二郎。なにか事情がありそう。この街に越してきたある男が、たまたま結婚式で九州のF市を訪れたところ、勝呂を知る医師に出会う。そこから、勝呂の若き時代の出来事、すなわち生体解剖の話が始まる。

大学病院では、第一外科部長と第二外科部長が、次の医学部長の座を狙って兢兢としている。自分が有利になるように患者を利用し、手術をうまくこなしてポイン稼ぎをしようとしている。勝呂は医局員(研究生)として、第一外科で勤務している。ところが、その第一外科部長をしている教授が、手術に失敗してしまい、失脚する。助教授と助手が中心となり、勝呂たち若手や看護婦を巻き込んで生体解剖をする。

勝呂は参加を決めたものの、途中ですっかり気分が悪くなり、無気力になるが、もう一人の若手の戸田は平気でこなしていく。彼は幼い頃から、人に対して何をしても罪の意識を感じない性格だった。罪と罰でいえば、罰が与えられない限りまったく平気なのである。つまりは、バレなければいい、そんな人間だった。

参加を決めた一人の看護婦の人生も振り返る。離婚経験があり、いろんな人生を歩んでいた。

それぞれの立場で、屈折し、苦悩する。

*********

勝呂二郎:医師
戸田:同じ研究室
橋本:勝呂たちの教授、第一外科部長
朝井:助手、橋本の姪と婚約
柴田:助教授、施療患者の手術担当
大場:看護婦長
垣下:元第一外科部長、柴田は垣下に育てられた、死亡し橋本副部長が継ぐ
坂田:看護婦

阿部ミツ:結核患者
おばはん:施療患者
義清:息子(出征兵士)
田部夫人:個室の患者、大杉部長の親戚とも言われている

大杉:医学部長
権藤:教授、第二外科部長
小堀:軍医、第二外科の講師
新島:助手

田中:軍医(手術に立ち会い)
小森少尉:送別会の主
村井:軍(将校の一人)

看護婦関連(上田ノブ)
雑賀:大連での隣人
夫:大阪出身、満鉄社員、2年で離婚
橋本:副部長→第一外科部長
フラウ・ヒルダ:橋本の妻
河野:若い看護婦(同僚)
大野フサ:施療患者
前橋トキ:大部屋の患者、死亡

医学生関連(戸田剛)
アキラ:六甲小学校の同級生
木村マサル:同上
ススム:同上
若林稔:東京からの転校生
オコゼ:N中学の博物の教師
山口:N中学の同級生、盗みの疑いがかけられた、無実なのに否定せず
佐野ミツ:医学生の頃にいた女中、妊娠させて中絶

医学部長の座を争って、橋本

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2025年10月27日

Posted by ブクログ

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悲しみの歌→海と毒薬
の順番で読んでしまって完全にミスった。
遠藤周作の作品は、「白い人・黄色い人」しかまだ読んでいなかったけど、今回読んだこのふたつの中でも一貫した「罪悪感」について描かれていておもしろかった
キリスト教的に損得勘定なく純粋な人、純粋な人にあてられて罪悪感に苦しむ人、何も感じられない人
この三種類の人間で構成しながら、無宗教の罪の意識とはどのようなものか深堀している

戦中に九州の医大で行われたアメリカ人捕虜の生体解剖実験の実話を元にして、1作目では関わった医師や看護師を用いて戦中の生命の無価値さと感情の鈍麻を、2作目ではその中の勝呂という医師を用いて戦中と戦後の比較をしながら罪悪感を描いていた
1作目も2作目も、海のように大きな潮流に流される人を正義感を持って糾弾する程の権利はあるのかを問うてたとおもう

芦田のキュゲスの指輪的に動かない自分の良心に共感してしまって、それが一番好きだった
社会からの糾弾や法的罰則がなかったとき、良心にしたがえる人は一体どれほどいるんだろう
勝呂は一見その人間に見えるが、良心はあるが時代という大きな流れに逆らえず、逆らう意味もみいだせず、流されていく1番日本人的なひとだとおもう
流産した看護婦の、寂しさと無力感で投げやりになって同性の汚いところを自分の中で次々と暴いていき、同性の想い人を自分の方が知っていることに対してマウントを取っている汚さもすきだ
相対的に自分が醜く見えるのも、自分が持ってない異性という幸せを享受してるのも、許せなかったんだろうな

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2026年05月04日

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