海と毒薬(新潮文庫)

海と毒薬(新潮文庫)

小説・文芸
539円 (税込)

2pt

戦争末期の恐るべき出来事――九州の大学付属病院における米軍捕虜の生体解剖事件を小説化し、著者の念頭から絶えて離れることのない問い「日本人とはいかなる人間か」を追究する。解剖に参加した者は単なる異常者だったのか? いかなる精神的倫理的な真空がこのような残虐行為に駆りたてたのか? 神なき日本人の“罪の意識”の不在の無気味さを描く新潮社文学賞受賞の問題作。

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海と毒薬(新潮文庫) のユーザーレビュー

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感情タグBEST3

    Posted by ブクログ

    人間の心の中にある毒は、波によって浮き沈みする。海の中に入ってしまえば、その毒は広い海の中に溶け込み、ひどく小さなものに見える。しかし、波によって浜辺へと押し返されたとき、その毒は逃げ場を失い、はっきりと姿を現す。

    作中の人間は、それぞれ異なる「波」を持っているように思えた。何度も波に押し返され、そのたびに自分の中の毒と向き合う者もいれば、波がほとんどなく、常に心の中が毒に侵されているような者もいる。また、たった一度の大きな波によって、心の中に毒が生まれたりする者もいる。

    そして、その人間たちの心にある毒をさらに濃くしていたのが、作品の時代背景だったのではないかと思う。戦争という大きな「毒」の中で生きることで、人間は自分自身の中にある毒にも気づかないまま、それを吐き出してしまう。

    さまざまな人間が、それぞれの「波」と、時代という「毒」の中で生きながら、最後には自分の心の中にある毒を吐き出していく。その姿を描いた作品なのではないかと思った。

    0
    2026年09月16日

    Posted by ブクログ

    後半の手記を読んでいると、かなり嫌な気持ちになる。でも、実際に人の心の中はこんな風だと共感する部分が多々あり、リアルにも感じた。だからこそ、胸糞悪くなるんだろう。自分の中にもある見たくない部分を見せられているように感じるのかも知れない。
    かなり前に読んだ『私が、棄てた、女』の時も思ったけれど、遠藤周作という作家は人間の醜悪な部分に目を逸らさずに向き合う人なのだと思う。そこに迫力がある。

    0
    2026年08月16日

    Posted by ブクログ

    事件についてはどんな思想を持っていても戦時下であることも含めた同じ状況だったら上に従わざるをえない気がするし、そこが江戸時代の武士道のような主君への忠義を重んじる日本人的な思考なのだろう。戦争で人を殺したり生きるか死ぬかの中にいた人たちがそこら中に普通に生活していた時代というのもやはり現代とはいろいろ違うだろうなと改めて考えるきっかけとなる。

    0
    2026年08月15日

    Posted by ブクログ

    原爆の日が近いこの時期に予備知識なく手に取ったが、その生々しさに息が詰まった。実在の生体解剖事件を基にした作品。

    「命とは」「良心とは」という使い古されたテーマのはずなのに、淡々と描く筆致だからこそ静かで逃げ場のない重みを持つ。劇的な悪意ではなく、流されるままに良心が麻痺していく怖さ。

    感情を排した冷徹な描写だからこそ、読後の重い余韻がずっと残って消えない。

    0
    2026年08月08日

    Posted by ブクログ

    短い小説だったのですぐに読み終わった。過去に潜る、誰かの心理に潜る、といった方がいいのか。人間それぞれがいかに個性的で異なる存在であるかを、戦争・人体実験という危機的状況のなかで表現している。

    0
    2026年07月14日

    Posted by ブクログ

    戦中実際に起きた事件をベースに書かれたもの。
    当時の空気感、病院という閉鎖空間の空気感の中で、運命に流されるがままに実験に参加することになった主人公たちの罪の意識・倫理観を通して、日本人の罪や罰の捉え方とはいかなるものかを作者は問いかけてきてるのではないかと考えさせられる一冊。
    登場人物のバックボーンと関係付けながら、登場人物各々の実験への感情のアプローチがあり、今後登場人物たちはどのように生活をしていくのか、非常に気になる作品でもある。

    0
    2026年05月03日

    Posted by ブクログ

    命の価値が地に落ちた戦時中。戦争=被害という勝手な感覚が私にはあったが、冒頭でごくごく一般の人が「兵役で生き残るために敵を殺した」という過去をあっけらかんと話しているのを見て、加害が強いられた時代があったことを再認識してぞっとした。
    後半は勝呂の研修医時代でこの小説のメイン。「病気で死ぬか、空襲で死ぬか」というムードの中、良心を保てる人間なんていないんじゃないかと思ってしまう。解説にもある通り、特に異常者がいるわけでもないのに生きた人間を解剖するという惨事は起きた。現代の私たちが平和なポジションからこの罪について賛否を言う資格はないような気がする。
    本当に暗い時代。

    0
    2026年10月27日

    Posted by ブクログ

    人が生きるということはどんな意味があるのか。自分の他人の命の重さは違うのか。戦争はそういった問いをすべて葬り去る。

    0
    2026年10月21日

    Posted by ブクログ

    生きていれば何か必ず事件が起こりうるものだが、たった一つ出来事によって、人生があっという間に転落していくことがある。それはその人の持っていた騙されやすいとか偏屈などの素質によるものか。環境のせいだったのか。はたまたただの運命か。いずれにせよ、一度転落してしまっては、人間らしい心を取り戻すのがなかなか難しい。これ以上傷つかないように、人は心を麻痺させていくからだ。

    戦時、それも終戦間近という頃、誰にとっても死が日常であった。爆弾で死ぬのも飢えて死ぬのも病気で死ぬのも区別されない。人体実験で死ぬのはむしろ医療への貢献と思い込もうとする人、流れに身を任せる人等々、特殊な環境において、多くの人の感情は完全に麻痺している。一方、最後まで倫理を失うまいと必死に抗っている人もいるのも事実。

    今まで自分の行なってきた罪に対する呵責、胸の激しい痛み、心を引き裂くような後悔の念、そうした感情を引き起こそうとして、人体実験の立ち会いを引き受けた医師戸田。だが、人体実験を行ってもなお、心の苦しみはとうとう訪れずれることはなかった。

    胎児を亡くした上に子宮摘出。夫にも捨てられて虚無的な毎日を過ごしている看護師上田。人体実験に立ち会っても何も感じない。皆が知らない秘密をある人と共有していると点において、優越感すら抱いている。

    この2人とは対照的に描かれる勝呂。自身の倫理と必死に戦うも、抗いきれていない感じの描写がなんとも心を蝕む。勝呂の「あの時は仕方なかった」は本当に仕方なかったのか。読者に問いかけている。

    罰は恐れながら、罪は恐れないと言われていた日本人。罪の意識がない日本人特有の問題なのか、というとそうでもなさそうだ。異常な状況下であっては、異常な事件に身を委ねることは通常に見えるらしい。

    0
    2026年10月16日

    Posted by ブクログ

    どんな仕事でもその職が持つべき倫理観があるけど、それを持てるかはその人個人の倫理観にもよるし、あったところでその倫理観を通せるかは状況によって変わるよね……

    0
    2026年09月26日

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