遠藤周作のレビュー一覧
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ネタバレ拷問に耐えうる人物か、拷問の仕方に情慾を感じるか感じないかを分析しながら眺めているのが面白い。
なぜ神は人種など関係がないのに西洋の姿をしているのか、救いは無く苦しみを与える神とは何か、などなど、考えたくなる事柄が色々と出てきた。
救いのない神ならば、信仰を捨ててしまえば自由になれる。デュランにそんな選択肢など思いつかなかったが、黄色い人たちはそれゆえ自由なのだと悟る。
白い人(フランス人だが父はドイツ人であったため幾らかドイツ語を使えるため、ナチス・ドイツの秘密警察の事務官の求人に応募し、対象者を拷問し、仲間の名前や場所を吐かせる仕事に就く。過去に、病気の老犬が盗みを働いたため平手打ちしていたイボンヌの白い腿、曲芸で男の頭の上で芸をする裸の女など、主人公に歪んだ情慾を育む。神学生のジャックに縛られているマリー。ある時、ジャックが拷問対象となり、口を割らないためマリーを連れてきて、陵辱すると脅すと、舌を噛み切って自殺した。マリーは発狂した。)
黄色い人(戦争で全てを失った女・キミコと関係を持ってしまったデュラン。たちまち噂は流れ、教会を追放される。神を信仰するも、罪の意識で苦しみ続ける。解放されるために、隠し持っていた拳銃を教会に隠して警察に密告し、金銭的援助をしてもらっていたにも関わらずブロウ神父を陥れる。空襲で、デュランもキミコも倒れる。) -
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ネタバレ弟子たちや町の人はイエスを見棄てた。それを現在の、信仰を棄てかかっている主人公とリンクさせてイエスの足跡を辿っている。昔も今も変わらないイエスの意思と存在が浮かびあがってくるような物語だった。
同伴者としてのイエスの描写が印象に強い。人間は弱いものだから、ひたすらに寄り添ってくれる存在があればきっとひとつの慰めになるのだろう。この愛に最後の最後で救われることだってあるだろう。
主人公とその友人の戸田の言葉は、どちらも著者の偽りない気持ちなのではないかと思ってしまった。何か答えが欲しい主人公と、意地悪な返しをする戸田。まるで自問自答のようだ。
本小説は『イエスの生涯』と表裏をなすものと、あとがきにあった。たしかにこの小説で謎だった部分は『イエスの生涯』で納得のいく解釈が書かれていたように思う。 -
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結核にかかった明石という男の入院生活をえがいた作品です。
肋膜炎にかかったため、召集を受けることのないまま終戦を迎えた明石は、四十代という働き盛りの年に結核で一年以上の入院を余儀なくされたことによって、同世代のなかで自分だけが戦場に行かなかったというコンプレックスを解消することができるのではないかという考えます。しかし、長くつづく入院生活にそうした決意は揺らぎ、妻に不平をこぼします。
ところが、思いもかけず手術によって早く退院することができるかもしれないという医者の話がもたらされ、明石は手術を受けることを決意します。しかし、彼の病状は医者の予想をはずれて悪化の一途をたどり、退院のめどが立たなくなってしまいます。明石はそうした自分の運命を嘆きつつも、あたりまえだった日常の「生活」から離れて病院で長い時間を過ごしていくなかで、「人生」に思いをめぐらせます。
『沈黙』と同時期に執筆され、著者自身は改稿の計画をもっていたものの、そのままになってしまった作品ということもあって、構成に多少難があるようにも感じられますが、入院生活という即物的な条件によってさまざまな思いが去来して心が揺れ動く展開になっており、興味深く読むことができました。 -
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第二部は、第一部の主人公であるキクの従妹であったミツの孫にあたる奥川サチ子が主人公を務める、第二次世界大戦末期の長崎を舞台にした作品です。
サチ子は、幼なじみでイタズラ好きの少年である幸田修平に想いを寄せています。成長した修平は、慶応大学に合格し、詩人となることを夢見ていますが、サチ子の気持ちにはなかなか気づいてくれません。
サチ子たちが幼少のころに大浦天主堂にやってきたコルベ神父は、その後ドイツに帰国し、アウシュヴィッツに連行されます。いっさいの希望がうしなわれてしまった絶望的な状況のなかで、コルベは愛を信じつづけ、みずからの身を賭して愛を果たしうることを示します。
その一方で、日本の戦況は日増しに悪くなっていき、修平のもとにも召集令状がとどけられます。キリスト教徒である彼は、戦争で殺しあいをしなければならない立場に置かれたことに苦しみますが、残酷にも彼に特攻隊としての任務があたえられることになります。修平は悩みながらも、みずからのたどらなければならなかった運命にひとつの意味を見いだそうと考えつづけます。
第一部のキクとは異なる時代ではあるものの、キリスト教を信仰する者に対して彼らの生きた時代が課することになった重い問いかけを背景としながら、主人公であるサチ子の悲恋がえがかれています。 -
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長崎に隣接する浦上村馬込郷に生まれたキクは、中野郷の青年である清吉に恋心をいだきます。しかしキクの兄の市次郎は、中野郷の者は「クロ」であるという理由で、キクが清吉とかかわりをもつことを反対します。やがて「クロ」とは、かくれキリシタンのことであったことが判明します。
一方、日本にやってきたフランス人の神父であるプチジャンは、厳しい禁教令が敷かれていた日本で、役人たちの監視からのがれてひそかにキリスト教の信仰を守りつづけてきた人びとが存在していると聞き、彼らを見つけ出すことに情熱を燃やします。その後、清吉たちがプチジャンに接触を図り、プチジャンは彼らを正しい信仰へみちびこうと行動を起こしますが、彼らの活動を知った奉行所に、清吉たちは捕らわれてしまいます。
やがて江戸幕府の体制は崩壊しますが、そのあとの明治政府も禁教政策を引き継ぎ、清吉たちは厳しい弾圧を受けます。奉行所の役人である伊藤清左衛門は、清吉の身を案じるキクの弱みにつけ込みますが、彼女はみずからの身を削って清吉への愛をつらぬきます。
「浦上四番崩れ」の史実をもとにした小説です。クリスチャン作家としてこれまで著者が手掛けてきたテーマが随所に示されますが、基本的にはキクの悲劇的な恋を中心にしたストーリーとなっています。 -
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著者自身がモデルと思われる人物が登場する短編小説や、エッセイに近いスタイルで書かれた文章など、8編が収録されています。
本書のタイトルにもなっている「母なるもの」は、明治以降も正統なカトリックの教義にしたがうことなく、日本的に変質してしまった信仰を保ちつづけたかくれキリシタンの里を訪ねるという内容の文章です。「小さな町にて」もこれとかさなるテーマをあつかった内容で、「日本人はどの宗教にも母親の姿を求める」という著者自身の考えが提示されています。また「巡礼」は、やはり著者自身を思わせる小説家の矢代が、イェルサレムの地で合理的な立場からキリスト教について語る神学者の西尾の話に納得できずにいるすがたがえがかれています。
「学生」は、戦後まもなくフランスに留学することになった、著者自身がモデルと思われる主人公が登場します。天正遣欧使節としてヨーロッパに派遣された四人の少年たちと自分たちを引きくらべつつ、その体験が語られています。 -
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マリア・テレジアの末娘であるマリー・アントワネットは、フランスの皇太子妃としてオーストリアからやってきます。夫であるルイ16世は、ひとが好いだけで彼女の心を動かすことはありません。しかも彼女は、国王ルイ15世の寵愛を受けるデュ・バリーとの対立を引き起こしてしまいます。
パン屋での過酷な労働から逃げ出してパリに出てきたマルグリットという少女は、売春宿に身を置いて働くことになります。女主人である「兎のおばさん」は彼女の世話をしてくれますが、指名手配を受けているマルキ・ド・サドの逃亡を助けたことで逮捕されてしまいます。マルグリットは、生まれながらにして自分とはまったく異なる境遇にあり、すべてを手にしていると思われたマリー・アントワネットに対して、激しい憎しみをいだくようになります。
世間は、フランス革命へ向けてしだいに騒がしさを増していますが、心に空虚をかかえるマリー・アントワネットは、ぜいたくな暮らしぶりをあらためようとしません。そんななか、彼女に取り入ろうとして失敗したカリオストロは、マリー・アントワネットにそっくりの横顔をしているマルグリットに目をつけ、彼女を利用してマリーへの復讐をおこなうことを計画します。
マリー・アントワネットという歴史上の人物を中心に置きながら、マルグリットという対照的な立場に置かれた少女が、サドをはじめとするさまざまな人物たちのあいだを動くことでストーリーを関連づけており、歴史を知らなくてもたのしんで読むことができる内容になっています。 -
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高校の同級生である、早良泰子と水谷トシという二人の女性の青春をえがいた作品です。
泰子は16歳の誕生日に、死んだ母から彼女にあてて書かれた手紙を、父親から受けとります。そこには、泰子とおなじ少女時代の母が、恩智勝之という男性とひそかな交流をつづけており、しかし戦争によって二人の運命が別れてしまったことがつづられていました。その後泰子は、母の夢を追いかけるように、得意の英語を生かしてCAとなる道に進みます。
他方トシは、星野という男を追って神戸にわたり、信用金庫で働くことになります。星野は定職に就かずギャンブルが好きというだらしのない男ですが、彼に泣きつかれるとトシはついお金をあたえてしまうことになります。そんな彼女自身の暗い生活も、好きな男のために生きるという意義を彼女に感じさせ、その泥沼のなかに彼女は落ち込んでいくことになります。
対照的な二人の女性の生きかたをたどるというストーリーですが、キャラクター造形がくっきりとしていて、エンターテインメント性の強い内容になっています。 -
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どもりのために消極的な性格の福本一平は、ことばで語りあう必要のない動物との触れあいに、心のやすらぎを感じていました。彼は、小学校時代の音楽教師の示唆を受けて、ニホンザルの生態を研究する道をえらびます。彼は日本猿研究所に所属し、志明山でニホンザルの餌付けを試みていましたが、志明山の土地が観光業者の手にわたったことで、ホテルの開発が着手されてしまいます。さらに研究所の所長が交代したことで、人づきあいの苦手な一平は苦しい立場に追いやられ、職を辞して比良山で研究をつづける道をえらびます。
一方、小学校時代から一平と幼なじみの中原朋子は、志明山の開発を進める業者に勤務する夫のもとに嫁いでいました。彼女は、志明山の開発に反対しているのが一平であることを知り、彼の研究に対する真摯な態度にひそかな感銘をおぼえていました。しかし、彼女の夫の藤沢が飛行機事故によって命を落とし、彼女は夫の上司である加納からの求婚を受けます。
自分の望むものはかならず手に入れようとする加納のアプローチを拒むことができず、ついに朋子は加納との結婚を承諾しますが、不器用でありながらも一途にニホンザルを守ろうとする一平のすがたに、朋子は心のなかで声援を送ります。
ドラマティックな構成の作品で、信仰をめぐる著者独自のテーマが追求されている作品群とは異なる印象ですが、単純にたのしんで読むことのできる内容でした。 -
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短編二編を収録しています。
「白い人」は、第二次世界大戦中に、フランス人でありながら、ナチス・ドイツに協力してレジスタンスの取り締まりをおこなった青年の手記というかたちの作品です。斜視だった彼は、自分以上に醜い容貌であった神学生のジャック・モンジュが、みずからの不遇な運命を、神に対する信仰にすり替えていることに反発をいだきます。そして、ジャックがたいせつに思っているマリー・テレーズをもてあそぶことで、サディスティックな歓びをあじわいます。
「黄色い人」は、宝塚の仁川の教会で牧師を務めていながら、キミコという女性を愛するという、信仰の道にはずれた行為によって教会を離れることになったピエール・デュランと、彼のもとをおとずれた千葉という青年の物語です。罪の意識に囚われながらも、自分の身に万が一のことがあればキミコが苦しむにちがいないという思いから、憶病な振る舞いにおよんでしまうデュランと、日本という地に生まれたことで、そうした過酷な罪の意識をもつことのない千葉の心境が対比的にえがかれています。
その後の著者がくり返し取り組むことになる、キリスト教の信仰にまつわる問題が、やや武骨なスタイルではありながらも明瞭なかたちで示されています。 -
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56歳の石井菊次は、娘の純子や会社の部下たちに「けじめ」を説く、戦前世代の頑固一徹な性格の男です。彼は、新商品の香水の開発に力を注いでいましたが、社内の何者かがライヴァル会社に新商品の情報を漏らしたことが明らかになり、さらに社内の権力闘争に巻き込まれて、しだいに嫌気がさしてくるようになります。
スタイリストの仕事をしている純子は、実業家の宗という男からプロポーズを受けます。彼には妻子がありましたが、すでに別居状態になり、まもなく離婚して純子といっしょになりたいというのです。純子は彼の思いにこたえる決意をしますが、そのことを知った菊次は怒り、純子は家を飛び出して一人暮らしをはじめます。
宗の妻は、学生時代の菊次が淡い恋心をいだいていた、山内節子という女性の娘でした。彼女は安西という男と結婚し、菊次と彼の友人の大橋の二人の恋は実らぬままに終わりましたが、思いもかけず菊次は節子と再会し、しかも彼の知らないうちに進行していた複雑な人間関係に嘆息します。
戦中世代の父と戦後世代の娘の葛藤というテーマをえがいた小説です。登場人物の心理はやや紋切り型ではあるものの、たのしんで読むことができました。 -
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進駐軍として日本にやってきたロバート・オノラは、ミツという日本人女性とのあいだに子どもをもうけますが、朝鮮戦争後にアメリカへもどります。彼は約二十年ぶりに日本にやってきて、ミツとその子どものゆくえを追いかけます。
一方、浪人生の石井信也は、東大合格をめざして勉強に励んでいました。しかし、友人の近藤が受験をやめてアメリカで画家をめざす決意をしたことに心を揺さぶられ、二度目の不合格となります。父親の豊次が彼にかけていた期待の重さに苦しんでいた信也は家を出て、スナックで働きはじめます。そんな彼に、宇田という男をリーダーとする組織が目をつけ、彼を壮大な犯罪計画に巻き込んでいきます。
信也の姉で出版社に勤務する真里子は、新劇の俳優である本多公介の自宅を仕事で訪れます。妻に先立たれ、母親と一人息子と三人で暮らしていた彼は、真里子に惹かれるようになり、彼女にプロポーズします。彼女は本多に心を許すようになりますが、お見合いで知りあった河合という平凡な男の妻としての人生をえらびます。
三人の登場人物を中心とするストーリーが、相互にからみあいながらひとつに収斂していく構成になっており、エンターテインメント性の強い作品です。文庫本で700頁を超えるヴォリュームですが、あっという間に読むことができました。