司馬遼太郎のレビュー一覧
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ネタバレ「では千翁丸殿を」
どうする気か。わずか五歳のあの子を戦場につれてゆこうというのは、ゆくゆく自分のような臆病者にさせぬための早期鍛錬のつもりなのか。
「そのおつもりでございましょうか」
(ならば反対したい)
とおもった。物のあやめもわかぬ五歳の幼童を戦場につれて行ったところでなんの鍛錬にもなるまい。
「ちがう」
と、元親はいった。鍛錬や教育のつもりではない、という。
「当然、物におびえ、敵の声におびえ、銃声におびえるだろう。どの程度におびえるか、それをみたいのだ」
「みて?」
「左様、見る。見たうえで、ゆくすえこの児にどれほどの期待をかけてよいか、それを見たいという興味がある」
「怯えすぎれば、千翁丸の将来を見はなすというのでございますか」
「いやいや」
かぶりを振り、元親は、奈々が思いもよらなかったことをいった。
――臆病者なら信頼しうる。
というのである。聞きちがえたか、と奈々はわが耳を疑った。が、元親は、臆病者こそ智者の証拠であり、臆病こそ知恵のもとである、といった。知恵があるものでなければ臆病にならない、とも元親はいう。
「そのことは、おれは自分自身が人一倍臆病者であるから知っている」
という。幼童のころ、夜陰、冬樹が天をつかむように枝を張っている影をみては妖怪かと思い、厠にも行けなかったが、これは想像力がゆたかすぎるからであろう。その他、物の影や音を、さまざまに想像しては怖れたが、想像する知恵が幼童になければ怖れまい。幼童の豪胆は鈍感の証拠であり、無智の証拠だ、という。 -
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ネタバレ劉邦の元にたくさんの優秀な人材が現れる。
項羽にあまり重用されず劉邦の元に行き大仕事をなす韓信。劉邦の右腕として、様々な戦略を考える天才軍師張良。また、誰彼構わず官位をくれる劉邦を頼りに属することになる陳平など。魅力的な人物ばかりが登場した。
一方項羽は自分の親族にしか良い官位は与えず、亜父と慕っていた范増をも陳平の策に溺れ手放してしまう。いつでも弱音を吐いたり、すぐ意見が変わる劉邦だが、そんな男だからこそと仲間になる人たちがいて、リーダーシップとは面白いなとより感じた。
まだまだ項羽の勢力は衰えていないのでここからどう劉邦が天下を取るのか、しかし、だんだんと心が離れていく項羽兵。方向性の違うリーダーだが一体どうなるのか。下巻に続く -
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"司馬遼太郎さんの本。乃木希典さんは、日露戦争の英雄として記憶していた。靖国神社脇にある遊就館の展示イメージが強烈に印象に残っている。(乃木希典大将は戦死者ではないので、靖国神社に御霊はない。)
本作品では、軍事としての能力が著しく欠けており、家系、人脈、人柄から陸軍大将という地位にあり、日清戦争時に第三軍司令官として旅順、203高地へ赴任したとある。結果的に多くの戦死者を出すことになる難攻不落の要塞攻略に、正面突破の命令しか見いだせなかった無能な軍人として描かれている。
歴史は語る人により、見方が大きく変わるものである。多くの書物を読むべき理由のひとつがここにある。" -
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司馬遼太郎短編集
☆英雄児
・・・河井継ノ助の生涯を描く。『峠』のダイジェスト版のようなもの。
☆慶応長崎事件
・・・幕末、長崎で起きて英国人殺傷事件。海援隊の菅野、佐々木に嫌疑がかけられて、龍馬があわてるという筋。
☆喧嘩草雲
・・・幕末もの。けんかっ早い田崎草雲と絵師の話。絵師であり、剣術使いでもある主人公。様々な挫折を経て、足利藩の責任者となって、官軍に味方して闘うことに。
「自分は何者か」ということを追求し、迷い続けた男の話。
☆馬上少年過ぐ
・・・東北の雄、伊達政宗を描く。母に疎まれた少年時代の話は悲しい。この物語の中で目をひくのは、父・輝宗だろう。政宗を後継者と決めつつも。家内で反乱が起きないよう差配する気遣いが見事だ。優しい人物でもあるらしい。
☆重庵の転々
・・・江戸初期、伊予吉田藩の藩主の病を癒したことから藩の重役にまでのぼりつめた山田重庵。才能と行動力のある人間は、太平の世では排除されてしまうという悲しい事実。藩主の伊達宗純のみが彼を理解していた。
☆城の怪
・・・豊臣家滅亡直後の大坂。
士官先を求める浪人の身に起きた悲劇を描く。
☆貂の皮
・・・戦国時代の脇役の1人、脇坂安治と家宝、「貂の皮」の不思議な巡り会いを軸に話しが進む。
丹波の赤井直正から譲り受けた貂の皮。この家宝とともに、命の危機を何度も乗り越え、竜野藩の初代藩主までのぼりつめた。戦国の一風景として面白い話だ。 -
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「坂の上の雲」の主要人物として登場する乃木希典のその後を描いたスピンオフ作品。
司馬遼太郎による軍人、乃木の評価は著しく低い。「坂の上の雲」でも本小説でも、日露戦争の対旅順要塞での無策ぶりの描写は痛烈だ。
そもそも乃木という人は、軍に求められるのは戦略や戦術ではなく精神主義と考え、軍司令官として自身の失敗を「自死」で片付けようとする傾向にあった。そんな人間は軍を含めて、組織の管理者としては無責任すぎて、不適切だ。が、外部の国民や天皇からすれば、彼の死を恐れない部分が軍人としての潔さ、カッコよさに見えた。
そして、乃木は夫婦そろって明治天皇の後を追って殉死する。日露戦争では2人の息子を亡くしている。一族をあげて日本に殉じた乃木将軍は神の存在となる。
この軍神乃木の存在が、日本軍の悪しき精神主義の基礎となり、昭和の戦力や戦局を無視した戦争につながった。著者が「坂の上の雲」から一貫して乃木の無能をたたき続けた理由はそこにあるんだろう。 -
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高杉晋作をはじめとする長州志士達がいよいよ歴史の表舞台へと登場する。幕末の雄藩として歴史を飾った長州藩であるが、その内情は事なかれ主義に代表される官僚主義出会った。吉田松陰や高杉晋作などは例外であり、意外ではあるがやはり長州とて日本人の民族的な特質を例外無く持ち会わせていたという事だ。そして、その特質は太平洋戦争へと引き継がれる。
司馬遼太郎の小説で、おりに触れて出てくるこの流れは本書でも同様であった。歴史を通して日本人といものを探り、そしてどうしてあの悲惨な太平洋戦争へと突入していったのか、それは止められなかったのか、ということが著者のライフワークであったのであろう。 -
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吉田松陰は育みという扱いで萩に戻され、松下村塾で細々と後進の指導をするが、そうしながら奇を持つ者を探すことが目的であった。しかし、安政の大獄で江戸へと再び呼び戻され、軽信する癖ありと自身が言ったように、取り調べの際に、言わなくていい事まで話してしまい刑は大事となり、処刑される。そこまで読み終わったタイミングでたまたま人形町のスタバにいた不肖は、その先を読み急がずに、伝馬町の十賜公園へと直行し、松蔭処刑の場所まで足を運んで冥福を祈った。
そして、後半、物語の主役は高杉晋作へと交代する。松蔭の意思を次いだ晋作は、幕府の視察団の一員として上海へ渡る。あの日本を震撼させた黒船と同様の蒸気船が、無数に停泊し水面を埋め尽くしているのを見て、晋作は大きな衝撃を受ける。こいつらと戦争をすると、百戦百敗する。そして、幕府などというものは屁のようなものかも知れないと。徳川体制を否定し、天皇を担いで日本を統一国家にもっていく開国への流れが、彼の中で確定した。 -
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木曜島の夜会
司馬作品では歴史紀行物として、ただ題材が近親者の歴史である点が異色ではあるが、明治から昭和にかけての潜水夫の過酷さ、心意気などに興味が湧き、楽しんで読めました。心細い手かがりを手繰り、よくも交通の便が悪い木曜島まで出向きましたね。比較的最近の話なだけに現在が気になるところです。潜水夫たちはダイブを通して単に稼ぎだけではなく海の素晴らしさを感じたのではないか、と思いました。
有隣は悪形にて
大部分は「世に住む日々」とかぶるが、富永有隣の悪辣ぶりに憤懣します。吉田松陰の恩に仇で返す行動に、吉田の処刑の遠因を感じます。
大楽源太郎の生死
この人もろくでもない筋の通らない生き方であるが、命を尊ぶ現代人たる自分からしたら大いに同情すべき部分もあり。しっかりした挟持かなければいかによい機会に恵まれても大事は成せませんね。
小室某覚書
細かなところまで調べて推察をし、ひととなりまで炙り出す執拗な作者の執念を感じるが、このような無名な人物まで興味を持ちまとめ上げるとは。