宮本輝のレビュー一覧
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敏幸の住む「杉の下マンション」の隣の一軒家の主婦、玉田麦子が白昼、撲殺される。近隣の住民は警察の取り調べを受けるのだが、敏幸は代休をとって昼寝をしていたのでアリバイがない。身の潔白を証明したいと、自らも犯人探しに翻弄する。近隣を嗅ぎまわっているうちに、表面に出ていなかった他所の家々のゴタゴタ、人間模様、人の裏側を知るところとなる。
しかし、この敏幸という男、犯人探しといきがって人を尾行したり、一日の精力ほとんどを使って、どれだけ暇なのだろう、違和感嫌悪を覚えた。これじゃストーカーまがいだ(この時代ストーカーという言葉はなかっただろうが)。自分でも高揚感を得てるように見えるし。
「事に当たって -
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東京下町に暮らす主婦・志乃子が、もうすぐ閉店するという近所の喫茶店「かささぎ堂」から文机と薄茶茶碗、朝鮮の手文庫をもらい受けてきたことから物語は始まる。
ガラクタ同然の扱いでもらった茶碗が実は貴重なものだと判明、3千万円の値が付き買い手も現れる。茶碗が志乃子にもたらした高揚感と、タダで貰ったものだという後ろめたさ、手文庫の中にあった終戦後引揚げ時の父から幼い娘への手紙、茶碗を取り上げようとする謎の美女・・・。
気になるピースを散りばめながら、志乃子を取り巻く人間達の暮らしが丁寧に描かれていく。人間が生きていれば、必ずそれだけの物語がある。そんな当たり前のことをしみじみと思う。
物を手にしたこと -
Posted by ブクログ
体の弱い妻と息子のために大阪での商売をやめ、神戸御影の家も売り払って、故郷愛媛の南宇和へ帰ってきた熊吾。ここでも存在感あるキャラを発揮する。暴れ牛ややくざも恐れぬ獰猛さを持ちながら、涙もろく人情深い。裏切ったやつでも、あの野郎と思いながらも手をさしのべずにはいられない。会社の金を猫ばばして逃げた男が見つかった。しかもそいつは仲間の女にも手を出していたと聞き、怒りに震えながら会いに行ったはずなのに、不治の病で臥せっているそいつの顔を見るや情がわいて、高額な薬を送ってやるとか、恋人を裏切ってそいつの愛人になった女にも援助の手を差し伸べるとか、なんせ助けが必要な人をそのままにはしておくことができな