宮本輝のレビュー一覧
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発酵という目に見えない微生物の営み。琵琶湖の鮒酢、鹿児島県枕崎の鰹節など伝統的製法で発酵食品を造る人々。「待つ」という行為、「時間」というものによって生み出されるもの。こうした事を通して主人公・聖司は仕事とはいかなるものかを学び人間的成長を重ねていく。
一方、祖母が死の間際に繰り返していた「ヒコイチ」という言葉の謎?それと、聖司が母親のお腹の中にいるとき、不慮の事故で亡くなったとされる父の事や毎月2万円、死ぬまで32年間送りつづけた男が背負ってきたものがあぶりだされていくと同時に、その男の娘との出会いや美佐緒という人妻との危うい恋愛模様も描かれて物語は展開していく…。
発酵、熟成という微生物の作用、どこか人間の生と死に相通ずるものがあるような気がする。(熟女とか熟年とかいう言葉があるけど、それとはちゃう(^_^;))
ラストは、時を刻むような静かな描写が心に余韻を残す。
聖司への粋な計らいも心憎いし、濃密な物語を読み終えたって感じ。
( ..)φメモ ~下巻にもレシピらしきものを発見~
「キャベツとグリーンピースのカレー」(P31)
「ホウレン草のニョッキのトマトソース和え」(P185からP186) -
Posted by ブクログ
豪華限定本をつくるフリーの編集者・船木聖司は、松葉という人物から日本の伝統的な発酵食品を後世に残すため非売品で五百部の依頼を受ける。
そして、丸山澄男という女好きで小々癖のある料理研究家と友人のカメラマンの協力のもとサンマの熟鮓、醤油などの取材を敢行する…。
登場人物の会話、ほとんど軽妙な大阪弁だす。糠床の造り方のレシピを初め、グルメ本のようにお役立ち的な部分もあり( ..)φメモメモ。また阪神淡路大震災の記憶も呼び覚ますシーンもある。
死というものは、生のひとつの形なのだ。この宇宙に死はひとつもない。こんな書き出しで始まるこの物語は、発酵食品を素材とした人間の生死と絆、愛を描いた壮大な物語だ!
(下巻へつづく) -
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様々な伏線の回収の仕方、納得する部分ともう少し描いて欲しかった部分はあるけれど。
下巻では乗り越えた先の「生」にスポットが当てられていて、活力が湧いてくる。
「著者解説」にあるように、私たちは、遭遇する大いなる災厄がいつどこでやってくるかを知りえない。
その時はその先に何があるか、希望なんて持てないかもしれない。
でも五年、十年と経って……その時間の経過は無意味ではないのだということ。
むしろ時間の経過と共に形作られる何かがあるのだと。
その変化を、生きることと結び付けて捉えていくことを考えさせられた。
話の規模がどんどんと大きくなっていくのではなく、より微細になっていくのに、そこに広がりを感じられる。
発酵食品という珍しい視点から入ってみたけれど、まさか自分の生を振り返ることになろうとは思わなかった。
小さい頃に近所の元気なおばちゃんが作っていた糠床を思い出したな。 -
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ネタバレ半年にわたる長旅が、ついに終わってしまいました。
麻沙子が母を追いかけドイツまでやってきてから、もうこんなに長い時間が経っていたのですね。
本を読みながら私も一緒にドナウ河を旅した気分になりましたが、その土地その土地で出会った人々の人柄にとても心温まりました。
旅先の素敵な出会いに乾杯!
東欧の共産主義事情も初めて知りました。
ちょいと怖いなぁと思いましたが、ブダペストに行ってみたくなりました。
どの街も素敵なんですけどね!
最後は、ただただスリナの朝日を見ていたい…。そんな思いに駆られました。
半年間、本当に色々なことがありましたが、この朝日をみるべく旅をしていたような気がします。
絹子の死は呆気なかったけれど、悲しいというより美しいなぁという余韻が残りました。
なんだか、長いようで短い旅でした。感慨深いです。
旅って、いいなぁ。 -
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冒頭が素晴らしい!
「蛇行する無数の川は銀色に光っていたが、どうかしたひょうしに、もつれた赤い糸みたいに染まって、麻沙子は、川が地球という生き物の血管であることを、朦朧とした精神のどこかで妙にはっきりと感じた。」
ドナウの旅人は、4人の男女がドナウ川に沿って旅をする物語ですが、この冒頭を読んだ瞬間に、この旅はとんでもない旅行になるんだろうと思いました。
後半あたりから、その「とんでもない」旅であることが徐々に分かってくるのだけど、読み進めるにしたがって、自分の血液がドクッ、ドクッと身体全体に流れるのを感じました。
恋愛物語でありながらサスペンス的でもあり、人物描写に非常に優れた作品です。(さすが輝さん!といった感じ。)
相変わらず食事もお酒も美味しそうだし、東欧の空気を吸ってみたくなります。
半年前に読み始め、長編に疲れて長い時間寝かせてしまったけど、後半を読み終えるまで死ねないと思いました(笑)
(「死ねない」という言葉がでてくるのも、この本を読んでいるからでしょうか?笑)
宮本輝節、全開です! -
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タイを舞台した宮本輝の作品。人間のありとあらゆる感情や営みをタイという得体の知れない坩堝の中に注ぎ込んだかのようなストーリーとその文体や行間からあふれ出る混沌は、やはりタイの空気を肌で感じたことのある人間のみが創造しうるものであり、そこに宮本輝氏独自の感性が加わり、妖しく訴えかけてくるものがある。「とめどない夢精の感覚」という言葉にまとわりついて、あのむせ返るような熱気やらパクチーの匂いやら柔らかなタイ語の響きやらその他いろいろのものが渾然一体となり一瞬で私の眼前に鮮やかに蘇る。複雑怪奇なのかごくありふれたものなのかさえもはや判然としない人間模様を描いたこの不思議な物語はタイという坩堝の中で不思議な魅力を放ち続ける。