あらすじ
ある日、入院先でふとすれ違った人に懐かしい匂いを感じた。あれは亡き夫の体から立ちのぼる、忘れがたい独特な香り。なぜ他人の体から同じ香りが…表題作。夫の不義理から、失望のあまりアルコールにおぼれ醜態を晒す母。そんな母にも譲れないプライドがあったことを、一人息子が知り…「しぐれ屋の歴史」。男と女、母と子、人それぞれの愛憎と喜び、哀しみを陰翳深く描く。長篇作家のイメージが強い著者が20年間に書いた36本の短篇のうち、珠玉の7篇を収録。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
初めてこの小説を読んだのは高校生のときでした。それからずっと、宮本輝さんの短篇についての考え方が書かれている「あとがき」が印象に残っていました。
短篇が7作収録されているのですが、どれも短いなかに凝縮されていて、頭の中にどんどん物語の世界が広がっていきます。読む人の状態に合わせて変化する、大好きな短篇集です。
Posted by ブクログ
久しぶりの宮本輝。やっぱりとても巧い上手い大人の7話短編集。
あとがきに「30枚でちゃんとした短編が書けない作家は2流と言われたことが、犯しがたい約束事と残った」を見事に実現されてる。
1話30ページに満たない作中に、人物の人と成り、心情がしっかりと。
7話とも物哀しい喪失感が漂う。
90年代に書かれた作品は、携帯電話も普及してなく、男性優位の世の中は今以上。愛人を作ったり、一夜限りのアバンチュールを試みたりするのも、男の甲斐性的なところには違和感があるが、それを上回る文章力。
ストンとした結末も好み。
Posted by ブクログ
宮本輝の短編集。年齢が近い主人公も多く、共感と言うよりも、胸の奥底を見透かされている感じ。それもそのはず。著者にとって短編小説は「血の一滴を無理矢理絞り出すかのような労苦を強いる」のだそうだ。しかも、それを表さないようにしているというのだから、尚更だ。
Posted by ブクログ
月に浮かぶ
80歳近くの母親が、お腹がいっぱいとなって
それが 自分が妊娠したと思い込む。
それを看病する 妻。
そして、愛人が妊娠したと聞いて、何らかの覚悟を決めざるを得ない。
海に映る 満月が 母親のお腹に見える。
いろんなものを 失うことで、人は生きている。
船を焼く
海岸沿いの静かな宿。
夫婦が経営しているが、若くもあり、年上に見えたり。
そこに、泊まった 二人は 出口が見えないことで、
別れようと思っていた。そしたら、その宿も 閉めるという。
経営する二人は 22歳で、別れることにしたという。
珠恵の霧のような汗がすてきなんですね。どんな感じなのか?
さざなみ
リスボンで偶然似合った女は いぜん 酔っぱらった時に
つきあったことがある女だった。その偶然に、驚くが
その女は 年老いた 夫婦の家に暮らしていた。
そして、ある決断をしたのである。
胸の香り
イースト菌の香りがする。香りはつねに思い出をつむぐ。
郵便局の女、パン屋、そして 夫の匂い。
それが つながっていくことで、不思議な歴史がひもとかれる。
しぐれ屋の歴史
流転の海に つながる アル中の母。
転げ落ちていく 父親。なぜ 私が編集者に。
深海魚を釣る
カバちゃんには 二人の父親がいた。
魚釣りに行って、オコゼを釣り上げた。
道に舞う
春子という日本人。
私は 叔母の家に預けられた。
その街の雰囲気は好きではなかった。
在日と北とのあつれき。
Posted by ブクログ
短編集は物足りない感があって苦手。
だけど、この作品は短編ながら中身が濃い。 印象的で良い余韻を残す作品ばかり。たまに読み返したいそんな作品。
Posted by ブクログ
久々に宮本さん読みました。
3時間くらいあれば、がーっと一気に読めちゃう短編集ですが、この方の独特の余韻と言うか、雰囲気というか、短編なのに、じわじわと心に響くかんじで、さらっと読めるのに奥が深いです。読後感も悪くないし、けっこう好きです。
色んなパターンの人と人とのつながりを魅せてくれる1冊です。
個人的には、宮本さんが描く少年像は本当に素晴らしいと思っています。すぐ入り込んでしまうのは、少年の素朴な人柄と巧みな関西弁のセリフかしら。
Posted by ブクログ
宮本輝さんの短編集。7篇の短編小説を収録。
「月に浮かぶ」が好きです。
海に浮かぶ月を見る。
静かな海に船を出し、杯をかわしながら月見をする。まるで手に届くほどの距離で、水面に月が浮かぶ。この情景描写がとても美しいと感じました。
どの小説にも、宮本輝さん独特の、妖しげな雰囲気、暗い陰が漂っていました。特にこの「月に浮かぶ」には。
巻末のあとがき、「一つの短編小説を書くことが、私にとっては血の一滴を無理矢理絞り出すような苦労を強いる」との宮本さんの言葉が印象的でした。
もう少し歳を重ねてから、もう一度読みたい一冊です。
Posted by ブクログ
新しい短編集です。月に浮かぶ 舟を焼く さざなみ 胸の香り しぐれ屋の歴史 深海魚を釣る 道に舞う編の7短編が収められています。それぞれの作品の言葉に深い意味が込められてます。道理とか理由で物事を片付けようとしますが、人生はそれだけで割りきれないのだというメッセージがあるように思えました。
Posted by ブクログ
宮本輝 著「胸の香り」、1999.7発行。人生の陰翳を描いた短編が7話、収録されています。どの話も読み応えがあります。私は、第3話の「さざなみ」と第7話の「道に舞う」が強く印象に残りました。
宮本輝「胸の香り」、1996.6発行、7話が収録。リスボンで再会した男女の話「さざなみ」がお気に入りです。乞食で盲目の母親と幼い少女の物語「道に舞う」は強く印象に残りました。
Posted by ブクログ
短編7作品を収録しています。
表題作「胸の香り」と「しぐれ屋の歴史」の2編が、とりわけ強く印象にのこっています。ともに、主人公やその両親の来歴にかかわる秘密が明かされる内容で、30枚程度の分量のなかで巧みに構成されたストーリーをえがきだしています。
「舟を焼く」は、他の作品とはすこし異なる読後感を受けました。離れることを決意した夫婦が小さな旅館を訪れ、その主人夫妻もまたまもなく離婚することになっていることを知ります。さらに彼らが、二人の思い出の舟を焼くことを決め、砂浜の上で舟を移動させているということを主人公は知るのですが、このエピソードが離婚というリアルな出来事からふわりと遊離していくような雰囲気を生んでいるようにも感じました。
Posted by ブクログ
9月の読書会課題本。買うときあまりに薄くてビックリした。「さざなみ」「しぐれ屋の歴史」「深海魚を釣る」がいいと思った。後書きにある30枚でちゃんとした短篇が書けない作家は所詮二流だという言葉を改めて考えさせられる作品だと思った。おちのある作品が好きな人、そうじゃない人どちらも楽しめる短篇集だと思う。
Posted by ブクログ
短編集なのですが、どれも読みやすかったです。「真夏の犬」よりスッキリしてる感じがします。内容は結構かぶってしまってますが、全く別の話として割り切れるのが凄いなぁと。
Posted by ブクログ
短編集。
「月に浮かぶ」と「舟を焼く」がいい。
特に「舟を焼く」のどうしようもなさがたまらなく切ない。
「深海魚を釣る」は伊坂さんの「オー!ファーザー」を彷彿させた。
「道に舞う」娘の姿にはっとした。
嘆かわしい状況も心の持ちようによって180度変わる。
Posted by ブクログ
「舟を焼く」「さざなみ」「胸の香り」いずれも不倫がストーリーの発端となっているようで、残るものは十色。「さざなみ」の真須美の強さが好きだなぁ。
Posted by ブクログ
短編集。
文体とか、話の持って行き方とか、そこから作られる雰囲気とか…、とてもいいと思う。ただ、微妙にすっきりとはしない話ばかりで、一つ読み終えるごとに、胸の中に何か嫌なものが沈殿していく感じがする。不倫云々って読むだけでも何だか疲れるなあ。