宮本輝のレビュー一覧
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1982年に開始したこの「流転の海」シリーズが、2018年6月の第九部「野の春」をもって完結したということが話題となった。宮本氏も、この37年間に及ぶ大河小説の完結に、躊躇することなく自らを褒めていた。
物語の主人公は、松坂熊吾。宮本輝氏の父・宮本熊市氏の物語である。第一部は、敗戦から2年たったばかりの大阪を舞台。松阪熊吾が事業の再興を始めるシーンから始まる。そのとき、熊吾50歳にして初めての子を授かる。
物語の中では、その子を「伸仁」と名付けるが、まさに宮本輝(本名宮本正仁)自身のことである。
宮本氏は、「私は、自分の父をだしにして、宇宙の闇と秩序をすべての人間の内部から掘り起こそうと -
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短編7作品を収録しています。
表題作「胸の香り」と「しぐれ屋の歴史」の2編が、とりわけ強く印象にのこっています。ともに、主人公やその両親の来歴にかかわる秘密が明かされる内容で、30枚程度の分量のなかで巧みに構成されたストーリーをえがきだしています。
「舟を焼く」は、他の作品とはすこし異なる読後感を受けました。離れることを決意した夫婦が小さな旅館を訪れ、その主人夫妻もまたまもなく離婚することになっていることを知ります。さらに彼らが、二人の思い出の舟を焼くことを決め、砂浜の上で舟を移動させているということを主人公は知るのですが、このエピソードが離婚というリアルな出来事からふわりと遊離していくよ -
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ネタバレ物語の舞台が東京、京都、富山に跨り、登場人物もやたらと多くて、相関図がいるほど。さらに、普通なら省かれる脇役一人一人のエピソードまで事細かに描かれているから、何が何だか状態で混沌としてくる。
それでも、入善市の田園風景、黒部川の流れ、立山の姿、旧街道の街並み、風を受けて走り抜ける自転車のスピード感は十分に富山の魅力を伝え、やっぱりその地を旅したくなるのは間違いないし、京都の花街の風情ある佇まい、芸妓の世界の伝統を守り抜く女たちの強さと美しさにも惹かれた。
だけど、死亡した賀川直樹には最後まで魅力を感じられなかった。有り体にいえば、養子で婚家に居場所がなかった婿が、京都で羽を伸ばして若い子に -
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ネタバレ解説をよんでいて、宮本輝の小説には、自殺というテーマがよくでてくることを知った。
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ほかの小説にもよく出てくる自殺のモチーフである。
自殺といっても、自殺した当人よりむしろ、すぐそばで誰かに自殺されたものは
どうするかという問題である。
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読んでいると、死よりも、生きるためのすべをかいてあるように思えた。
死なないで、生きるためにこうして!って生きることへのヒントがちりばめられている
ような気がした。
最近樋口裕一先生の本で、知的な思考は訓練で身につく。と学んだが、
自分を好きになること、これも訓練で身につくのか!と思った
自分を好きでいる訓練は、生きるために必要。
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そんなアホな、と、言いたくなるような何もかもがうまく行き過ぎ、世間は狭いというか、あっちもこっちも実は知り合い、って。
でもずんずんと読み進むことができる。
そうだ、私は嫉妬しているのだ。ほぼ同い年のこのヒロインに。絶対に私とは真逆の資質を持ったこの50女に。
たまたま気に入った茶碗がすごい逸品で、大金が手に入ったり、その縁で趣味の良い喫茶店を始めることになったり、もうすべてのことが良いほうに良いほうにと回り始めるのだ。
だけど、私はいつも思う。こういう「運」はただの偶然などではないのだ。その人の持つ徳や資質が呼び寄せるのだ。だから私には絶対にそんな運はめぐってこない。きっと死ぬまで -
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宮本輝さんの作品、久々に読んだかも。
富山に行って愛本橋を見てみたいなぁ、と素直に思わせる作品。でも徒歩にしろ自転車にしろ結構勾配がきつくて大変そう… 黒部と併せていつか行ってみたいなぁ。
群像劇なので章が変わるごとに登場人物が入れ替わり、この人は誰で、どの人とどういう関係なんだろう?と混乱しました。特に京都の小松関連の人間関係が頭に入ってこなくて大変でした。宮本さんは不倫関係には反対だけれども生まれてきた命は平等に尊いものだ、という事を書こうとしたのかな、なんて思いました。
個人的には舞妓さんや芸妓さんの芸事をナマで見た事が無いので偉そうな事は言えませんが、やっぱり水商売だよなぁなんて思 -
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2人の女性にモノ思う。
愛する人に裏切られた女。
愛する人を失った女。
哀しいけど、この物語では、
前者のほうが幸せと思ってしまう。
希美子はまだ先がある。
それもきっと明るいものが。
そう信じたいし、辛い試練だって、
未来のための過程だったのだと思う。
反対にカナ江は‥。
未来がないひとだから、よけい哀しいのか。
まわりの大人に騙されて、
愛するひとたちを失って。
罪とは言い難い罪を背負って孤独に生きた。
もっと心をさらけ出して、
泣いたっていいし、傷つき傷つけてもいい。
だって、生きてる時じゃなきゃできないもの。
行き場のない痛みを抱え、ひとり耐え忍んだ。
しんみりしてまう。