山崎豊子のレビュー一覧
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ついに航空史上最悪のジャンボ機墜落事故が起こり、生存者の救助、墜落機の回収と事故原因の調査がはじまる。乗客乗務員、計524人のうち、生存者は4名、250名の死者が出た。被害者遺族への補償交渉、国民航空による説明、事故機を製造したボーイング社の対応。遺族をはじめとする、現場で亡くなった人々と向き合った人間と、そうでない人々との間の温度差に、40年経った今でも、読むと怒りを覚える。
この期に及んで、まだ体面を保つため、補償交渉に少しでも早く移ろうとする動きや、遺族間が団結することを避けようと、露骨に横の繋がりを切ろうとしてくる会社の動きは、今の感覚としては信じがたい。会社の心理は、今の社会ではどうなっているのか知りたいことでもある。
そういった中、9歳の息子を事故で亡くした美谷島邦子さんが、被害者遺族の会「おすたか会」を発足しようと決心して、実際に発足までに至る様子が、一番印象的だった。
遺族同士の連携が妨害される中、遺族の一人一人に連絡を取り、入会書を作り、会報の準備をし、情報交換会を開いていく。他の遺族たちも「おすたか会」の存在を新聞の端の小さな記事が見つけて、連絡をとってきたりする。ネットのなかった時代、一度、別れてしまった人たちがつながることへのエネルギーはどんなものだったのだろうかということは、想像を広げるしかないが、途方もないことだったのだろうと思いながら読んだ。
そして、最後は、そういった遺族の会に参加することもなく、補償交渉をすることもなく、四国八十八ヶ所の霊場へ遍路の旅に出る坂口清一郎の姿で終わる。
先日、日本航空の「安全啓発センター」に行ってきた。「安全啓発センター」は、今なお航空史上最悪のジャンボ機墜落事故「JAL123便墜落事故」の記憶を風化させないために、社員研修用に作られた施設であるが、予約制で一般公開もされている。係の案内では、JALの安全研修の基本理念として、「三現主義」を大切にしていると説明していた。「三現主義」とは、「現地(事故現場)」、「現物(残存機体、遺品など)」、「現人(事故に関わった人)」を大切にするという理念で、その原因究明や遺族への対応として、この三つを忘れないようにすることだという。
事故機の一部や遺品、揺れる機内で書かれた遺書、遺族の方が調査終了後も山に登り集めた破片。記憶に焼きつくようなものがたくさんあった。
センターには、資料室も併設されていて、被害者遺族の会「おすたか会」の会報や、遺族がその後に書いた絵本や小説といった作品、事故資料も読めるようになっている。
資料室を見ているとき、『沈まぬ太陽』を探していたが、見つけられなかった。見落としがあって、もしかしたら置いてあったのかもしれない。
『沈まぬ太陽』の冒頭には、こう書いてある。
「この作品は、多数の関係者を取材したもので、登場人物、各機関・組織なども事実に基づき、小説的に再構築したものである。但し御巣鷹山事故に関しては、一部のご遺族と関係者を実名にさせて戴いたことを明記します。」(p8)
この作品は、JALの言う「三現主義」にどのように適う、あるいは適わないものなのだろうか。山崎豊子は、徹頭徹尾「小説的に再構築したもの」である立場を貫いている。
最後の坂口清一郎の姿は、おそらく、現場にも、現物にも残らず、現人としても、もう出てくるものではないのだろうと思う。なぜなら、坂口は、息子夫婦と孫三人、妻も亡くし、社会とのつながりを自ら絶って、遍路の旅に出た。どんな補償をもってしても、どんな裁判をもってしても、償うことができないものがあることを知るのは、「恩地」の他に誰もいない。それは、まさしく小説でしか描けないものだと思う。
現場も、現物も、現人も伝えていない「小説」という形でしか描けなかったものが、何であったのかを思いながら、最後まで読み切りたいと思った。 -
Posted by ブクログ
十年のときを経て恩地が日本に帰国することになったところが、普通に感動してしまった。会社の不当人事について都労委の審問会で、十年間を語るシーンは、すごく印象に残った。一巻を読んだときは、家族を犠牲にしてまで、会社と闘う恩地に、あまり共感できなかったが、ここまで来て初志が貫徹されると爽快感がある。
それにしても、国民航空管理職の性根の腐った感じが、読んでいて気分が悪くなるくらいに生々しい嫌さを醸し出している。立て続けに起こった旅客機の事故を経ても、現場の労働者たちの労働環境の改善に動かないどころか、彼ら第一労働組合の訴えを不当として、中央労働委員会に再審査を決める八馬と中谷のセリフのところ(p467〜468)とか、一周回ってすごいと思う。
こうした上層部の感覚というのは、おそらく知らないだけで今でも色々なところで起こっているのだろうと思う。折しも、フジテレビの接待問題が起こっているときに読んだが、きっと氷山の一角なのだと思うと、気分が暗くなる。
一巻のときから思っていたが、何よりも、山崎豊子の取材のとてつもなさに驚く。六〇〜七〇年代の海外駐在員たちの実情が、よく分かる。
テヘランの現地の学校で文房具を全て盗まれてしまい、学校に行きたくないと言い出す恩地の二人の子ども。日本人学校もまだなく、妻が自分で子どもに勉強を教えるところや、帰国後の子どもたちの様子など、当時の海外赴任のイメージの空気感が伝わってくる。他にも、恩地がナイロビで出会う他社の日本人駐在員たちの様子や、現地の日本人コミュニティの雰囲気も、こういう感じなのかと勉強になった。
細かい描写が、恩地の飛ばされた僻地の生活感を伝えてくる。ストーリーの主軸には、日本航空という会社の内情と、恩地の闘いがあるわけだが、それだけでなく、今から50〜60年前の海外で働く日本人の実情が見えるのも面白かった。
すでに、墜落に誤着陸という連続事故が起きている。いよいよ御巣鷹山編だが、会社の体質が生む不穏な感じが、ひしひしと伝わってくる二巻だった。 -
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里見先生が医者としての本懐を腐らせなかったのは素晴らしいと感じた。
前3巻において、正直、医事紛争についてはよくわからないけれど、法律的な知見についてはある程度分かるので、はっきりしているのは、当時の医療で財前を裁くことは難しかったとは思う。のらりくらりと論う財前に対して、弁護士ともども原告が感情的に動くのは良くなかったと思った。裁判所とは、温情や民意の入り込む余地がないからだ。
今回は、財前が粘菌に這い寄られるように、足元から身動きを奪われるような内容だった。
不思議なもので、ちょっと可哀想な気もした。ただただ財前の転落を願うこの作品に。
山崎豊子さん。これはフィクションなのでしょうか?あなたの話を聞きたいです。 -
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1985年の日航機墜落事故を中心に、日本航空がモデルになっている小説であるということだけは知っていた。どこまでをフィクションとして、どこまで事実として読んでいいのか分からないけれども、読めば読むほどに、大事故が起こりそうな会社の体質に、腹が立ってくる。
平成生まれの人間から見ると、職場の人間関係や実際の仕事の中に、まだ、戦前の名残りが大きく残っていることのリアリティが、印象的だった。共産党員に対する警戒心や「アカ」というレッテル。治安維持法で捕まり転向した転向者。学生運動をしていた経歴。第二次大戦時に戦闘機の整備をしていた整備士や、パイロット。元華族出身であることのステータス。今の人間からすると、もはやあまりぴんと来ない様々なお互いの人間の見方が新鮮だった。
そういった意味では、労働組合の委員長として、労働者たちの待遇改善のために会社の経営陣と戦い、僻地への報復人事を受ける恩地の姿も、新鮮に映るものだった。今でも、春闘など組合による団体交渉のニュースなどは、目にすることがあるが、小説ということを差し引いても、その切実性と熱量に、現代との差を感じる。まだまだ問題があるとはいえ、こういった運動をしてきた歴史のうえに、今の労働環境があるのだなと思う。
だからこそ、家族の生活と自身の健康を犠牲にしてまで、組合の委員長として働き、不当な僻地への長期赴任に耐える恩地の姿は、かっこよくもありつつ、共感はしづらい。終身雇用の時代の、一つの会社の中で生きていく時代の人間の感覚が垣間見える。
今のところ、読んでいて気持ちのいい小説じゃない。ただ何か、読まされる凄みがある。 -
Posted by ブクログ
裁判と学術会議の選挙の両方を渡り歩いていた財前だが、選挙は鵜飼教授の政治もあり見事当選を果たす。一方裁判の方は、元病棟看護婦長の亀山や佐々木の受け持ち医の柳原らの証言により敗訴となる。その後財前は体調を崩し気づいた時には進行胃癌となり病に伏す。
総じてとても面白かった。医療小説であり政治小説でもある。当時の大学病院で行われていたあらゆる駆け引きが描かれており、手に汗握る展開だった。改めて感じたのは医者と患者の関係の大切さで、財前が訴訟されたのも術後診察もせずしっかりと説明をしていなかったからで、仮にそれをしていたら肺転移に気づかなかったとしても遺族は納得していただろう。現代だったらありえないが当時の医療現場ではそれが当たり前だったのだろう。最後食道癌の権威として教授まで上り詰めた財前が自身の体調の変化に気づかず裁判、選挙に没頭し進行を許してしまったのが彼の人生への皮肉だ。 -
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商社マンにとって、パーティは社交は名目、情報収集がメイン。不可抗力等万一も考慮して契約するのが商社マンのイロハのイ。
商社は数字が人を殺すのだと実感したという文章、ぎくりとくるものがある。
絶対ランクAからB、当社もそんな基準があるんだろうか、、。商社の海外支店は、ニッポン交通公社とか呼ばれてるんだろうか、、。
動線とTODO、気を使うとは、動線を把握し、そこで立ち止まるポイントを少なくし、スムーズにする 言葉遣い。
次期戦闘機、僕に見当違いな詰問する前に、防衛庁が取り組むべきと返すが、選挙がらみ資金がらみで国防の重要事項が決まる実態。今の日本はどうか?
大本営参謀の思考法、どんな複雑な事象も問題点を5点以内に要約し、その裏付けをとれば結論出る。結論ファースト、問題点 裏付け。
組織の秩序、一つの負けに拘れば本質を失う
イスラエルアラブ戦争とそれで一儲けを狙う利権者たち。商社間の情報戦争、相手を陥れる戦略、足の引っ張り合い。全て、競合を出し抜いて一儲けするため。ブローカー、よくわからん交易会社、その他種々。
インドネシア華僑の話も興味深い。シンガポールや他の東南アジアに散らばる、ユダヤ的ポジション。彼らのビジネスセンスは見習う必要がある。彼らにとってビジネスは、イエスorノーの世界。加えて、ビジネスとプライベートは全く別物である点も印象深い。
社内体制についても、常務に上がったことに対して不満をいう主人公と早めに常務に上げて、揉まれることを望む社長。組織を強くなるのは、どういう条件が揃った時か?ここも勉強になる。結局、戦略があり、戦術があり、それを実行する人がいる。軍との違いは、自己意識を持った集団である点、会社を達観して見れそう。