Posted by ブクログ
2013年04月25日
1959年に発表された作品なので、もう50年以上前のものになるから驚き。「暖簾」「花のれん」に継ぐ、大阪ものの第三作。前二作はまだ未読だが(たぶん…)、船場や花街のしきたりについて精緻に描かれている。
そもそも船場とは、今の大阪市中央区あたりにある、四方を川と堀で囲まれた四角い町で、江戸時代に大阪城...続きを読むの築城にあたって、大勢の家臣や武家が移り住むことになったことから、武器・武具をはじめ大量の生活必需品を集めるべく、商業者を半強制的に移住させたのが、商人街として栄えた船場の発端らしい。
物語は、そんな船場の老舗足袋問屋の一人息子として産まれ、暖簾をささえる喜久治を主人公とし、彼を取り巻く五人の女たち(ぽん太・幾代・お福・比沙子・小りん)と、女系主義の祖母と母(きの・勢以)の、船場ならではの厳しい風習と女の戦いがテーマ。
そもそも、大阪では良家の坊ちゃんを「ぼんぼん」というが、その中でも器がでかいぼんぼんを「ぼんち」という。豊子さんの言葉を借りれば、「根性がすわり、地に足がついたスケールの大きなぼんぼん、たとえ放蕩を重ねても、ぴしりと帳尻の合った遊び方をする」のが、ぼんち。
女系におされ、古いしきたりに束縛されながらも、女遊びに明け暮れるが、結局は戦禍を被って新たに人生を切り開く。
「女の道で苦労して、何かものを人に考えさせるような人間にならんとあかん」という言葉を金科玉条にして生きようと決意した喜久治だが、結局、何かものを人に考えさせる人間になったのだろうか?その結末が、きのの自死と女たちの自立ってこと?それがよくわからなかった。
とはいえ、やっぱり豊子作品すごい。圧倒的な知識と人間関係の機微を描ける人ってそうそういない。
あとがきの一言がとても印象的だった。
「一千枚近く書き終えてみて、今さらのように私が、故郷である大阪に深い愛着を持っていることを思い知りました。それは愛するというような生やさしいものでなく、もう一種の執念のようなものかも解りません」