山崎豊子のレビュー一覧
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二世の人と聞けば、生まれながらに母国語が2つも出来るから羨ましいと単純に英語で苦労している私は思ってしまうのだが、その両国が戦火を交えることになったとき、どれほど苦しむだろうか。
主人公の天羽賢治には弟が二人いて、次弟は日本の大学に学んでいる間召集にあい、日本兵として出征する。一方アメリカに生まれ育ってそこから出たことのない末弟は、合衆国に対する当然の義務として米軍の志願兵となる。アメリカ市民としての義務を果たしたいと願う一方、両親の母国であり自分も10年間育った日本に対し、限りない愛着を持つ賢治は、その狭間で苦しむ。どれほど個人の能力が優れていたとしても、一介の市民に大きな歴史は容赦なく牙 -
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最初っから目が離せない展開で、とにかく先が気になって、一気に読んだ小説だった。
大阪の老舗呉服問屋の当主が死んだ後、繰り広げられる遺産相続の壮絶な争い。しかも、四代続いた矢島家には、女系を尊ぶ伝統があるために、我儘放題に育てられた三人姉妹のいずれもが、自分の相続権を一分たりとも譲ろうとはしない。
「華麗なる一族」も「白い巨塔」も「沈まぬ太陽」も、権力をめぐる闘争が大きなテーマだったけれども、この「女系家族」は、その中心にあるのが女性たちなので、その描き方もまた、男社会での争いとは様子が一味違っている。
遺産相続の当事者である三人姉妹だけではなくて、その周りの、遺産管理人である大番頭や、長女 -
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ネタバレ荒むさぁ………。
そりゃ荒むよね、恩地さん。
希望したわけでもないのに僻地勤務を10年間。
最後には家族とも離れ離れで、隣家も見えないだだっ広い家に一人ぼっち。
丸一日、日本語をしゃべらない日もある……。
そんな生活によく耐えたなぁ。
私だったらすぐ泣き入って、八馬とかに「組合とは縁切るから日本に戻して」なんて言っちゃうな。
恩地さんには実在したモデルがいるとか。
その強い精神力はどこからくるのか。
見習いたいものです。
でもなんとか恩地さんも、日本に帰ってくることが出来そうだとわかったときは、ホントに「よかったねぇ」という感じでした。 -
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山崎豊子作品の好きなところは、「綿密な取材に基づいた、リアルな社会の描写」だと思っています。
『不毛地帯』や『大地の子』『沈まぬ太陽』など、実際に起こった事件を題材にして、フィクションとは思えないほどリアルに作り上げられた登場人物の活躍と、お互いの「正義」のために血で血を洗うような激しい戦いを繰り広げる様に、読む手が止まらなくなるくらい作品世界へ引き込まれます。
本作もそのような山崎作品の世界に浸ろうと思っていたのですが、いまいち世界観に入り込むことができませんでした。都市銀行を中心とした財閥と政治家の汚職を軸に描いた作品なのかなと思いきや、金に物を言わせる「上流階級」と勘違いした登場人物た -
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大門社長が70歳をすぎて、老醜を晒すようになり、油田開発の成功を花道に引退させるにあたり、壹岐も退社することになる。中小企業でも同じであるが、かつて凄く頑張っていた経営者が70を過ぎてその地位に固執する姿はあまり見たくないものである。
第五巻まで読み終わって、軍国教育を受けて戦争を戦って悲惨な目に遭った軍人が、戦後の日本において経済競争を戦う姿はどこにでも多くあったのだと思う。そして彼らの大変な努力が、日本の経済復興を支えたのは事実だ。しかしそんな彼らの世代さえ晩年はなかなか後進に道を譲らず、次の世代がうまく育たなかったことが今日の日本の低迷を招いているのだと思う。彼らの基準からすると戦後生 -
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この著者の本は、なんといってもリアリティが半端なくて、事実よりも実態を明らかにしてくれる。第1巻は戦争の現実を描いているが、「大地の子」で描いた被害者の立場ではなく、現実に戦争を遂行させられた者を描いている。戦争で最も悲惨な被害を受けた者は、満州で見捨てられた孤児もそうなのだが、シベリアに抑留された兵士も悲惨であった。それほど苦労して11年ぶりに帰国したのに、ソ連で洗脳された人のように扱われて差別を受けるというのが現実だったのであろう。それにしても、戦中も戦後も、大勢に迎合する人の陰で、不合理な差別を受けるという社会は変わっていないのだと。オーディブルで聴き始めたのだが、面白い。