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Posted by ブクログ
【近代日本のイデオロギー闘争/左翼活動の背景を知ることが出来るストーリーモノ】
・この物語が書かれたのは1975年、ソヴィエト連邦が健在で米ソは冷戦中、日本国内でも国家のあり方を巡ってイデオロギー闘争が行われていた時期
・主人公の流郷正之は、「良い音楽を安価で聴く勤労者の為の音楽鑑賞団体」(勤音)の企画責任者として、斬新な企画を打ち出しながら会員数を400人から15万人まで増やしていく
・純粋に良い音楽と企画を届けることに情熱を注ぐ流郷だが、会員数が増えていくにつれて「勤音」の影響力が増し、経済界、政界からの干渉に巻き込まれていく
・『蝶々夫人』を上映すればアメリカ帝国主義の肯定と叩かれ、ショスタコーヴィチ『森の歌』の合唱会を企画すれば勤労者の権利主張を懸念する経済界の妨害を受け、ソ連のヴァイオリニストを招けば中国支持政党のフラクションを受け、最後は流郷自身もその身を追われてしまう
・仮想集団、勤労者音楽同盟、人民党、政治集団の不気味なエネルギー、正直あまり興味をそそられるキーワードではないと思うし、大衆向けの物語とは言えない
・特定の政治的イデオロギーを持つ集団が、一般市民の心の隙間にどう入り込み、音楽等の文化活動を通じて誘導し、影響力拡大を画策するのか、を生々しく描いたとても意義深い小説だと思う
・「各企業における勤労者の所得と余暇の時間が増え、その反面、作業が極度に機械化されて、従来の熟練作業が単純な繰返し作業に変わってきたため、勤労者たちに一種の無力感、孤立感、欲求不満などの人間疎外が起こり、レクリエーション活動の中に、人間解放の場を求めようとする気持ちが多くなっている」「経済企画庁の職場調査によると職場の話題の52%がレクに関することであり、さらにその中の92%がレク活動の施設とその資金に関する話題」「レクの場を会社が与えれば従業員は会社に従属するであろうし、労組が与えれば労組になびくであろうし、外部団体が与えればその方になびくであろう」
このあたりは現代では想像しにくいが、高度経済成長期の日本の雰囲気を伺い知ることが出来てとても興味深い
・しかし、主人公の流郷はベンチャースピリットのある魅力的な人物(だと個人的には思う)なのに、章ごとに「流郷は不安を覚えた」「見えない力が働いているのを感じた」「ある疑問を抱いた」の様な、最後の最後までずっと心配や不安を感じ続けているのが可哀そう(でもあり滑稽でもある)
・彼のことだから、勤音をクビになってもまた新しい活躍の場を見つけて粛々と実行していくのだろう
・テーマがニッチで700ページもある大作なので、読む人を選ぶ小説だとは思うが、こんな難しいテーマでも書ききってしまう山崎豊子さんは流石だと思う
(書き続けるのは相当大変だったんじゃないかな、、)
・イデオロギー離れが指摘される昨今だが、その背景の一つとして理解を深める貴重な材料にもなると思う。感謝
Posted by ブクログ
昭和42年といえば…まだ小学生になったばかり…
働き始めた20歳のころにはすでに組合運動は下火になり始めていた。勤音と同じような音楽鑑賞団体があったような気もするが、労使間にさほどの緊張状態はなかったように思う。(若輩で何も知らなかったのではあるが…)
古い本棚にこの本を見つけて、なぜか急に読んでみた。たぶん若いころ一度は手にしたはずで、その時にも現実感なく流し読みしたと思う。
ただ、働き始めた当時、組合活動に積極的だった何人かの同僚の顔を思い浮かべるきっかけを得た。
1人1人はとてもいい人で、新人の私が何か困っていないか、上司はきちんと配慮しているか、配属先は妥当かなど目配りしてもらっていたと思う。
でも、何とかの集会がある、勉強会があると言われてもいったい何を学ぶのかイメージできず、また親しい先輩も変に顔をしかめて、「そこまで付き合う必要はない。」と言い、本当に何も学ばず、だから何も疑問に思うことなくのほほんと仕事した。
古いといえばとても古く、今の社会とあまりにもかけ離れた小説ではあったが、この時、こんなふうに活動していた人たちがいたんだと再認識し、当時の活動家たちの今を思って、何となくしみじみ…した。
また、流郷の側からではなく、活動家からの視点があれば、無知な私にももう少し状況が理解できるかもしれないと、今更山崎豊子さんに求められないのは残念。
解説を読み、山崎さんのデビュー作「暖簾」を手に取った。
Posted by ブクログ
流郷の書斎とロシアのバイオリニスト招致の仕事ぶり、あとがきが印象に残った。音楽に情熱を傾けて、組織力を存分に活かす努力で仕事を成功させる。菊村姉弟が静かに流郷や斉子を尊敬してる思いが美しい。流郷が斉子と菊村姉のふたりを可哀想に思う気持ちがリアル。カップルができるわけでもなく誰の仕事もハッピーエンドでない不思議な物語。比較的リベラルと思った作者が労音や共産党、赤旗にこんな違和感を持っていた。党員たちのアジりっぷりが、短絡思考が、適切に描写されていると思う。自分で一生懸命党の意向を解釈しようとして党に従う愚かしさ。もう一人くらい政党色に辟易するごく普通の職員もしくは会員がいたらさらに感情移入出来たと思う。相変わらず女性は色モノだが、流郷に
全く溺れない斉子が際立っている。
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