山崎豊子のレビュー一覧
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祖国とは何か、の前に、国家とは何か、個人とは何か、人間の尊厳とは何か、という問題に直面する。
国家が国家として秩序を保っている場合、即ち国民個人に利を供する場合に祖国のために報いるという考え方はごく自然であるけれども、そうでない場合にも国民が国家の犠牲となる必然性は理解できない。
かつては個人が何らかの拠り所欲しさから国家の形成と統制を望んだのだろうが、国民個人ではなく国家それ自体の利益や保身や意義すら画策し始めた時点で終わりが始まっている。
しからせば太平洋戦争が終わった時点で、否始まった時から、さらに辿れば近代国家が始まった時点から人類の一部での劣化が始まっている。
そんな深淵雄大な考え -
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ネタバレ働く人のために安くいい音楽を聴ける勤音という文化団体が次第に人民党に浸食されていく様子と、それに翻弄されるノンポリの敏腕プランナーの姿を描いている小説。
私自身もかつて人民党のモデルになった政党が絡んでいる病院で働いていたことがあるので、この小説に漂う微妙な空気感さえもリアルすぎておもしろく読めました。
読んでいて思い出しましたが、かなり昔に読んだ小林よしのりの「脱正義論」でも同様の様子が描かれています。
人民党とその関連の思想団体がいわゆる「乗っ取り」を」する時の手口がこの2冊でよくわかります。
印象に残った言葉
「大衆を馬鹿にする者は、何時かは大衆に葬り去られる」
思い出したけど、 -
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先日お亡くなりになられた山崎豊子さんの作品を何か読んでみようと思い、近くの本屋さんで長すぎない本と思って探していたら、大長編以外では短編集の本書しか残っていなかったので、これにしてみました・・・。(みんな考えることは同じだ!)
表題作の『ムッシュ・クラタ』のほか『晴着』『へんねし』『醜男』の4編を収録。どの作品も山崎豊子氏を有名にした社会の深層を鋭くえぐる長編小説ではなく、人間の性(さが)をみつめ、味わい深い余韻を残すような作品になっています。
『ムッシュ・クラタ』はダンディであることを身上としパリを愛してやまなかった主人公の倉田氏が、いかに自らを厳しく律しそれを矜持とする生活を全うしたかを -
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千代田自動車とアメリカ・フォーク社との資本提携は、フォークからのたった1枚のビジネス・レターで交渉の打ち切りが決定された。
そこにはライバルである東京商事・鮫島の暗躍があった。
新規合弁会社の設立を強引に押し進めようとする里井副社長と、あくまでも千代田の利益を損なわないよう交渉を行う壹岐。
商社のことが何もわからない僕が読んでも、2人の力量の差は歴然としていると思った。
里井副社長には心臓病の不安があるため、この時点で専務である壹岐が実質的に近畿商事のナンバー・2になった。
そして、壹岐は資源に乏しい日本の将来を見据え、石油確保の手段を模索しはじめた。
イランのサルベスタン鉱区に入札するこ -
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近畿商事を重工業化路線へ転向したい壹岐と、繊維部門の地位を保持したい里井副社長。
2人の溝はますます深まるばかり。
そんな中、近畿商事の取引先である千代田自動車に提携の話が持ち上がった。
相手はアメリカビッグ・スリーの1つであるフォーク(フォード?)。
アメリカの自動車が上陸すれば日本のメーカーは1たまりもなく食いつぶされてしまう可能性があり、交渉は容易に進まない。
当時(1970年代)、自動車産業の資本自由化について自動車メーカー、商社、ならびに通産省がいかに頭を悩ませていたかというのがよくわかった。
この巻では、壹岐の妻・佳子が交通事故のため亡くなってしまう。
しかもそれは、壹岐が秋津 -
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ネタバレ山崎豊子さんの作品は悲劇的なものが多いなぁ・・・・・。 「白い巨塔」しかり、「華麗なる一族」しかり、そしてこの「二つの祖国」しかり・・・・・。 なまじこれらの作品の主人公たちが途中までは強靭な精神力の持ち主として描かれているだけに、最後が・・・・。
個人的にはこの作品に於いて、賢治と梛子さんの恋愛エピソードは不要なものに感じました。 もちろんあの時代にアメリカの日系人迫害を逃れたアメリカ国籍を有する日系2世の人が広島で被爆したというエピソードと彼女が最期に漏らす「私はアメリカの敵だったのでしょうか?」という問いかけはとても重要だと感じるし、この物語の中で別の形でなら出てきて然るべき -
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ネタバレ20年以上前、この本を初めて読んだ時の衝撃はこの「東京裁判」のシーンでした。 戦後教育の中でこの東京裁判に関しては学校でほとんど学んだことがなく、端的に言ってしまえば「大戦後、アメリカの占領下の日本で戦犯を裁く『東京裁判』が行われ、A級戦犯とされた28名のうち7名が絞首刑に処せられた」ということぐらいしか知らなかった KiKi にとって、この物語で描かれた東京裁判のシーンは初めてその裁判がどんなものだったのかを考えるきっかけとなったものでした。
そして当時の KiKi は戦勝国が敗戦国を裁くということに潜むある種の「不公平感」を強く感じ、同時に「原発投下を人類がどう評価すべきか?という極め -
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ネタバレこの巻でもっとも心に残るのは、やはり天羽家三兄弟のあまりにも酷過ぎる運命ではないでしょうか?? 日系2世というまさに本書のタイトルどおり、「二つの祖国」を持つ三兄弟が、たまたま太平洋戦争突入時に何歳でどんな教育を受けどこにいたのか?という偶然性も手伝って、1人は米軍兵士として、もう1人は帝国陸軍兵士として、そして長兄として常に二つの祖国を強く意識し続けた最後の1人が米軍の語学将校として戦争に巻き込まれていく・・・・・。 その非情さには言葉もありません。
家族だからと言って誰もが同じ哲学、同じ思想というわけにはいかないのは、どんな時代であれ、そしてどんな境遇であれ、必ずしも珍しいことではな