宇江佐真理のレビュー一覧
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内容(ブックデータベースより)
不破龍之進ときいとの間に長男が生まれ、伊三次一家も祝いのムードに包まれる。松前藩の屋敷に勤める龍之進の妹の茜は、嫡男の良昌に見初められ、側室に望まれていた。伊三次の息子、伊与太に思いを寄せる茜は、その申し出をかわしていたが、良昌の体調が刻一刻と悪くなっていくことに心を痛める。一方、伊与太は良い師匠に恵まれたものの、才気溢れる絵を描く弟弟子から批判され、自らの才能に悩んでいた。思い詰めた彼は、師匠と親交のある当代一の絵師、葛飾北斎のもとを訪れる――。人生の岐路を迎える息子や弟子に、伊三次は何を伝えられるのか。大人気捕物帖シリーズ第13弾。
令和6年10月27日~29日 -
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ネタバレ料理茶屋の主人、清兵衛は、隠居を機に死の恐怖に取り憑かれるが、霊感のある幼馴染、甚助に救われる。その甚助に誘われ、怪異を語り合う「話の会」に参加するようになると、徐々に元気を取り戻していく。ところが、会の参加者が一人、また一人と、怪異と死に近付いて行ってしまい‥。
最初は、登場人物たちが百物語を語っていく短編集かなと思っていたら、違った。実際に見聞きしたことを語り、その考察を参加者たちで重ねる。語られる怪異に派手な怖さはないものの、じわじわ、そろそろと、こちらの心に忍び寄ってくる。
清兵衛と甚助、幼馴染同士の、くだけているけど信頼し合っているのが伝わるやり取りが、一服の清涼剤だ。
会の参加者からは複数の死人が出る。ついには、甚助まで!でも清兵衛は、会の活動を通してあの世や死に触れてきたことで、死への恐怖を乗り越えたのだ。寂しいけど、怖くない。死は、生と地続きなのだと、読者である私もだいぶ考えさせられた。
怖い話としても、十分楽しませてもらった。
それにしても、清兵衛が53歳で隠居って‥。今の時代で70歳くらいの感覚だろうか? -
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吉原の風雅な情景と色恋の悲哀が見事なコントラストとなり、物語世界に惹き込まれました…!
旦那の死や息子の結婚を機に吉原の遊郭でお針子となった「おとせ」を主人公に、吉原の美しい四季折々のなかで繰り広げられる様々な恋愛模様を描いた短編集。
吉原の年功行事には驚かされると同時に当時の華やかさを感じました。
例えば、巻頭の「仲ノ町•夜桜」では桜の木が葉桜になる前に根こそぎ刈り取り、また季節がきたら植え直すという吉原の習わしが出てきます。
なんて贅沢な…と思ってしまいますが、その絢爛さが作中の悲恋をより際立たせ、それぞれの話を魅力的にしています。
個人的にはそれが極まる「くくり猿」が好きで、江戸の風物詩とも言える火事の無情さと吉原文化の物悲しさがある恋の結末をより彩っているように感じました。
巻末の解説からは物語をより楽しむヒントを得られるます。同時に収録されている諸田さんのエッセイからは作者の宇江佐さんがいかに人物を描く名手であり、同時に宇江佐さんがおとせと同じように人情に厚い人だったかが読み取れ感慨深くなりました。 -
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ネタバレ合縁奇縁という言葉あるが、気心が合わない環境にいるなかで気持ちの合う人と結ばれるのは微笑ましい。そしてそれが淡く哀しいラストになるのが好きな自分としては本作はとても良かったです…!
本作のメインは山育ちの平民である遊と将軍の御子である斉道のラブストーリー。
遊も斉道も尋常の男女ではないが、それ以上にどちらも環境に対して不服を抱いてる点でも共通している。
遊は赤子の頃に誘拐され、自由奔放な山暮らしをしていた。そこから実の親のいる人里に戻り、山暮らしとは違う環境で周囲から浮き、社会の習わしや周りからの奇異の視線に窮屈さを感じている。
その一方、将軍十七男で将軍の実子であることを証明しようとするプレッシャーを抱いている。また、幼いうちに母親から離されたことや将軍の御子であるために無償の愛を得られず、現状に不満を抱いている。
本来の自分を受け入れられない環境に不満を感じていた二人。そんな二人が出会い、素の自分が受け入れられる関係に居心地の良さを感じ惹かれ合う。
そして2人が運命に翻弄されていく終盤は心をキュッとされる思いになる。
さらに遊の人情描写がより哀しさを引き立てる。
タイトルの雷桜は遊が誘拐されたときに雷で折れた銀杏の木から芽を出した桜のことです。
その雷桜はしばしば遊そのものとして語られる。
遊は身分を気にしない態度やあけすけな態度をする。その中に敵意や挑発的なものは無く、ちょうど自然の前ではどんな人間も只の人間となるようなものに近い。
読んでいると宇佐江さんの文章力もあって、木に向かい合うようなイメージを遊から受ける。
そんな遊の人物評をするシーンがあり、身分や地位の高さによる窮屈さを感じる榎戸や鹿内のような武士ほどそれを心地よく感じているのが見受けられる。
自分もそんな雷桜の化身である遊を読んでいると、読者という存在であることを忘れ心地よさに浸っていた。
つまり、気付くと遊に惚れてしまっている。そんな遊の幸せを願えば願うほど切なさが募る。
清々しさがありながらどこか物哀しい秋の青空のような作品でした!
お気に入りフレーズ
「殿は遊に癒されたのだ。見よ、瀬田。殿の幸せそうなお顔を」
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作者の宇江佐真理さんの環境の変化もあり、優しい雰囲気が増しています。
あやめを丹精することが生きがいの老婆が、庭で頭を打って亡くなってしまう。彼女の部屋から高価な持ち物が消えていることを不審に思った息子は、伊三次に調査を依頼する。暗い過去を持つ、花屋の直次郎が疑われるが……。(「あやめ供養」)
伊三次の弟子、九兵衛に縁談が持ち上がる。相手は九兵衛の父親が働く魚屋「魚佐」の娘だが、これがかなり癖のあるお嬢さんだった。(「赤い花」)
浮気性で有名な和菓子屋の若旦那は、何度も女房を替えているが、別れた女房が次々と行方知れずになるとの噂があった。このことを聞いた伊三次は同心の不破友之進に相談する。(「赤いまんまに魚そえて」)
伊三次の息子、伊与太が心惹かれ、絵に描いていた女性が物干し台から落ちて亡くなった。葬式の直後、彼女の夫は浮気相手と遊び歩いていた。一方、不破家の茜は奉公先の松前藩で、若様のお世話をすることになっていた。(明日のことは知らず)
仕えていた藩が改易になった男。知り合いの伝手を辿って再仕官しようとするが、なかなか上手くはいかず、次第に困窮していく。(「やぶ柑子」)
「不老不死の薬」を研究していた医者が亡くなった。彼の家には謎の物体が残されていたが、ひょっとしたらそれが高価なものかもしれないと思った家主は、伊三次に調べてもらうことに。(「ヘイサラバサラ」)
伊三次の周りの人々が、さらに身近に感じられる一冊。 -
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ネタバレ目次
・落ち葉踏み締める
・雪まろげ
・紅唐桟
・こぎん
・鬼
・再びの秋
古手屋というのは、今でいう古着屋。
江戸時代の庶民は、今よりもはるかに古着に対する抵抗がなかったので、それほど儲かる商売ではないにしても、食うには困らなそう。
そして、古手屋のかたわら、同心の手下でもある。
面白いのは、普通の時代小説では、同心、岡っ引き、下っ引きは、心をひとつにして事件の真相解明に奔走するのだけど、この喜十は、っていうか、同心の上遠野(かどの)平蔵が、ケチでしみったれで人の心を逆なでにする発言を多発する男で、喜十は必ずしも上遠野に絶対的な信頼を置いていない。
しょっちゅう心の中で悪態をついている。(ということは、何か後ろ暗い過去の因縁で同心を手伝うことになったのか?)
最初の『落ち葉踏み締める』がとにかく良くて。
14歳の新太は、父親亡き後5人の弟妹を母と二人で食わせて行かなくてはならない。
本当は寺子屋で勉強をするのが好きだったけれど、苦手なしじみ採りをしながら、毎日をなんとか食いつないでいた。
けれど母親が、まだ赤子の捨吉を「どこかにやってくれ。育ててはいけないから」と新太に言ったことから、運命が狂い始める。
新太はとにかく、弟妹を自分が責任もって食わせていかなければと思いつめていたので、捨吉を捨てたりすることなんて考えられなかったのだけれど、子どものいない優しそうな夫婦者を見つけ(それが喜十とおそめ夫婦)、そっと彼らの店の前に捨吉を捨てる。
どこに捨てたかを母に知られたら面倒なことになると、自分ひとりの胸に閉まっては心を痛めていた新太は、今度はすぐ下の妹が売られていったことを知らされる。
多分吉原に娘を売ったのであろう母は、その後昼間から友だちと酒浸りになり、働かなくなる。
一層弟妹に対して責任を感じる新太。
時折り、そっと捨吉がきちんと育てられている姿を見るだけで、満足だったのに…。
もう新太が不憫で不憫で、途中から決して幸せになれないであろう新太の未来を予想しながら、なんとか幸せな未来を祈りながら読んだのに。
短編集なので、一応それぞれの話は独立しているのだけど、最後の話はまた、彼ら兄弟の運命を大きく変える話となっている。
捨吉が回らぬ口で話す言葉がとてもとてもかわいい。
「今朝のお菜は何だ」
「なっと」
「それから?」
「めそしり(味噌汁)」
「味噌汁の実は何よ」
「たふ(とうふ)とあばらえ(油揚げ)」
「よく言えた。捨吉はお利口だ」
「お利口、お利口」
もう得意げに胸を張っている捨吉のつやつやしたほっぺたが目に浮かんでしまう。
「雪まろげ」とは、雪玉のこと。
捨吉の笑顔のためなら、喜十もおそめも、なんだってする。
それは実の兄も姉も同じ事なので。
やっぱり泣けて泣けてしょうがなかった。
でもきっと、彼らの未来には笑顔があふれていると信じている。