あらすじ
岡っ引きの夫に先立たれたおとせ。時を同じくして息子が嫁を迎えたため、手狭な家を出て吉原で住み込みのお針子となった。元町家の女房の目に映る、華やかな遊廓の表裏で繰り広げられる遊女たちの痛切な営みと恋模様、人情劇。めぐる季節の中で、いつしか自身にも仄かな想いが兆し始め――。著者の没後10年を前に4カ月連続で新装版刊行! 第一弾となる本編には、公私にわたり交流のあった諸田玲子氏の書下ろしエッセイを収録。
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Posted by ブクログ
吉原の風雅な情景と色恋の悲哀が見事なコントラストとなり、物語世界に惹き込まれました…!
旦那の死や息子の結婚を機に吉原の遊郭でお針子となった「おとせ」を主人公に、吉原の美しい四季折々のなかで繰り広げられる様々な恋愛模様を描いた短編集。
吉原の年功行事には驚かされると同時に当時の華やかさを感じました。
例えば、巻頭の「仲ノ町•夜桜」では桜の木が葉桜になる前に根こそぎ刈り取り、また季節がきたら植え直すという吉原の習わしが出てきます。
なんて贅沢な…と思ってしまいますが、その絢爛さが作中の悲恋をより際立たせ、それぞれの話を魅力的にしています。
個人的にはそれが極まる「くくり猿」が好きで、江戸の風物詩とも言える火事の無情さと吉原文化の物悲しさがある恋の結末をより彩っているように感じました。
巻末の解説からは物語をより楽しむヒントを得られるます。同時に収録されている諸田さんのエッセイからは作者の宇江佐さんがいかに人物を描く名手であり、同時に宇江佐さんがおとせと同じように人情に厚い人だったかが読み取れ感慨深くなりました。