浅田次郎のレビュー一覧
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★4.2
怖いのに、美しい。
恐ろしいのに、どこか懐かしい。
代々神官の家系に生きる者として、血肉を通して描き出した連作短編集。
筆者の母系実家は東京都奥多摩の御岳山(みたけさん)の宮司を務めており、怪談や不思議譚が語り継がれてきた。
一つひとつの怪異は派手に恐怖を煽るものではない。
むしろ厳か。やけに静か。
「怖いから忘れたい」ではなく、
「怖いからこそ忘れずに守ってきた」。
日本の山岳信仰や自然への畏怖が、そのまま人の物語と重なっている。
継承される語り、思い出として語られる神域の怪異。
それらが少しずつ地層のように積み重なっていく様は、まるで現代版『遠野物語』のようだ。
完本 -
Posted by ブクログ
東北の交通も不便な過疎の村。そこを舞台に'ふるさと'をテーマにした人間模様が繰り広げられる。
大手会社で勤めあげ社長まで上り詰めた松永。若くしてふるさとを後に上京、独身で過ごし、生活に不自由はないが、心に空虚さが忍び込む。次に純朴なサラリーマンを全うし、定年を迎え、これからの余生を前に、突然妻から離婚を宣言された室田。理由もわからず、復縁を夢見るが叶わず、先行きの人生に虚しさを感じる。最後に女医として数々の他人の死に直面するが、実母の死を契機として来し方人生を振り返る古賀。この三人それぞれのドラマが、ふるさとへの帰郷という共通項で収斂していく。読み進むうちに、物語の全容がわ -
ネタバレ
あの暗い時代のやるせなさ…
子供の頃に学校で聞かされた「自虐史観」による戦争。
大人になり、ある程度色んな角度から物事を見る事ができるようになりました。
「自衛のための聖戦」の側面と「侵略戦争」その両方の側面もあるので、私ごときが語る事はできません。
しかし、一つ言えるのは鬼熊軍曹の言葉の通り「死ねば泣く親もあれば女房もある兵隊」の存在が全てです。
読んでいて率直に鬼熊軍曹の人柄を愛してしまいました。
続編で片岡譲君がどの様な大人となったのか?また他の登場人物がどの様な人生を送ったのかを読みたいと言うのは贅沢でしょうか? -
Posted by ブクログ
浅田次郎さんの短編6作
「母の待つ里」で落胆して以来手にしてこなかった浅田作品だけれど本作の中でも特に「帰郷」と「不寝番」を読んで私がかつて愛した浅田ワールドが蘇ったようで痺れた。
「帰郷」
戦場から故郷長野に戻った主人公はそこで戦場以上に辛い思いをして何かを求めて東京に出る。
そこで出会った娼婦のマリアに自分の居場所を求めた彼は、今まさに「一緒に死んで欲しい」という言葉を待っていたマリアに「一緒に生きてくれ」と頼む。
「不寝番」
まさに私が抱く浅田ワールド。
時を隔てた兵士が2人その時の壁を超えて顔を合わせる。
戦時と平時それぞれの時に立つ2人はそれぞれの日本に思いを馳せる。 -
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浅田次郎の長編時代小説の、下巻です。
多額の借金を抱え、その返済利子だけで歳入を超えてしまっている、丹生山松平家。
立ち行かなくなった藩を“倒産”させて、苦行から解放されようと企む、前藩主。
その前藩主が、藩の倒産に至る責任を背負わせるために、藩主に仕立て上げた、庶子で四男の小四郎。
上巻では、新藩主となった小四郎が、藩の財政事情を知り、なんとか立て直そうと努力する姿が、コミカルに描かれていました。
四十両というわずかな資金で、江戸から越後への参勤交代の旅を終えた小四郎。
初めて国入りした、越後での場面から、下巻は始まります。
米どころで、鮭などの産物にも恵まれている、越後の領地。