吉田修一のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
横道世之介シリーズのファンであり、シンディーローパーの大好きな曲を冠したタイトルだったため、期待して5月に買って、今までなんとなく読まずに飾っていた。飾ってある本を見るたびに、装丁の青が美しくて、吸い込まれるように眺めていた。
眩しい過去の青春と、あまりにも現実的な現代とを行き来する構成になっている。二つの時代の尾崎と久遠の関係性の違いから、二人の間に起きた別れを想像しながら読んでいくことになる。規模は違えど、誰にでも若さゆえの間違いはある。その青さや危うさの全てを丁寧に描き、さらに肯定してくれている。私が心惹かれた装丁の青は、舞台となっている空と海、そして人の取り戻せない青春の日々を表現していたのだ。
度々、何年か前に読んだ「汝、星の如く」が頭をよぎった。また、心理描写がないことで尾崎の人間性やイメージ像があまり浮かばなかったのが残念だった。
タクシーでの出会いのシーンという奇跡一つでこの物語は生まれる。大きな出来事というのはそう何度も起こるものではないが、たった一つの偶然や転機が人々を大きく動かし、未来を作っていく。そんな人生の儚さやおかしさを読みながら感じた。
過去の恋愛を振り返ったとき、なんであんなに好きだったんだろうとか、なんであんな言動をしてしまったんだろうとか思うことがある。冷静さを欠いて傷ついたり、傷つけたりする。そんな日々は苦い思い出でもあるが、なぜかとても愛おしくもある。周りが見えずに無我夢中で誰かのことを想っていられることがどれだけ尊いことか、今ならわかる。人はそうやって成長していくのだから。 -
Posted by ブクログ
読み終えたあと、この小説に関する著者のインタビュー記事を読んだ。「(長崎出身なので)原爆の話をきちんと書きたいと思った」のが執筆のきっかけだと知った。
…という導入だと重苦しい内容だと思うかもしれないけど、そこまで重い物語ではない。雰囲気も暗くないし、ポップさを感じる場面もある。
主人公は大学院生の一心。彼が往年の大女優である石田鈴(芸名は和楽京子)の自宅で資料整理のアルバイトを始めるところから物語はスタートする。
大学生の一心と80歳の鈴の交流…となるとおばあさんと孫ぐらいの年齢だけど、可愛らしくどこか色気のある鈴の、女優として、そして1人の女性としての人生を知るにつけ、一心は鈴に対して恋慕のような想いを抱き始める。
一心と鈴との交流が表側の軸で、裏側の軸は女優として生きてきた鈴の人生や生き様。
長崎に生まれ育ち、戦争を経験したのち女優となり、全盛期にハリウッドに進出した鈴は、「ミス・サンシャイン」と称されるようになる。それは言葉通りの意味だけではなく…
鈴は自身も被爆者で、原爆によって大切な人を亡くした過去を持っていて、その過去を抱えながら女優として生きてきた。
あまり語らないほうが良さそうな物語なのであとは読んでください、と言う方が適切に感じるのだけど、「原爆について今一度考えて、そして忘れないで欲しい」という著者の思いが、直球ではなく物語に織り込まれるかたちになっていて、だからこそ、戦争によって1人の女性が大切な人をなくし自身のその後の人生にもたくさんの影を落とした、という事実を噛み締めることができて、それは現実にもたくさんたくさんあったことなのだろうと考えさせられる。
鈴は大女優であり、そして戦争で傷を負った、ただの1人の女性でもあるということ。
こういう物語から無知であることを知り、無知のままでいてはいけないと思ったりする。
現実的な着地点も私は好きだった。
話中では一心の辛い恋愛の描写もあるのだけど、時に痛い経験をして、時に大女優に恋をして、そうして得たものがごくありふれているもの、であるところに、幸福を感じた。