ほしおさなえのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
3作目で完結したシリーズの番外編。
3冊の中で登場した人物の背景と弓子が三日月堂を継ぐ決心をするまでが描かれる。
弓子の母が亡くなった時にお葬式にも来られなかった友人の事情や、復活した三日月堂で初めて作った本「ウェスタン」の制作に込められた男たちの想いなど、どれも胸を打つ作品ばかり。
その中でも「引っ越しの日」で描かれる劇団員を目指していたが、挫折して北海道に戻った唯と、あてもなく三日月堂の再建に臨もうとしている弓子との会話が印象的。
生きる目標とか、目的とか、いまのわたしには全然ないの。でも、生きていくだけならできる気がする。人のためになにかするとか、そんなむずかしいこともできそうにない。 -
Posted by ブクログ
三日月堂のお話が、弓子さんの結婚で終わってしまうと思っていたら、待望のスピンオフが出ました。
これまで活版印刷に関わってきた人たちが、主役になり、脇役になり次々登場するのでファンにはたまりません。
それぞれの人生、人物たちがどこかで決心し、前へ向かっていこうとする姿が、作者に選ばれた言葉で表現されています。人生の機微というのかな。その辺りの表現が独特です。もう続編はないのかもしれないけれど(いえ、書いて欲しいですけど!)それぞれの今後をいろいろ想像してしまいました。
初版には限定で、活版印刷による1ページが付いています。この字体、見たことがある。ずっと昔、家にあった教科書で。活版印刷で作られ -
Posted by ブクログ
ネタバレ弓子一人で始めた三日月堂も、今では大勢の人が集まる賑やかな場となった。
機械を動かす音に混じって聴こえる楽しそうな話し声や笑い声。
活版印刷に導かれた人が、また新たな人と繋がり輪を作り、素敵な縁を結んでいく。
活版印刷によって大切な思いが形となり、周囲の人にも伝わる幸せの連鎖に感動した。
静かなようで意外と頑固。
いつも相手のことを思い、寄り添い続ける。
そんな弓子と、弓子に魅了された三日月堂の仲間達のこれからに思いを馳せて。
三日月堂の新たな展開にも期待して。
これが取り敢えずの完結編。
けれど、これでさよならなんてあり得ない。
第5、第6弾で三日月堂の仲間達と再会する日を心待ちにしたい -
Posted by ブクログ
ネタバレ今回は一つの"仕事"として、活版印刷について考えさせられた。
活版印刷で制作された物を、見たり貰ったりする分にはとてもお洒落で素敵な物、で済む。
けれど、これを自分の生業として見た時には…。
正直、手間暇かけた割には効率が悪い。
体力的に楽ではないし、収入も安定していない。
活版印刷機を修理できる職人も少なくなってきているし、活字屋も減っている。
「仕事をするうちに、まだまだ可能性がある、と感じるようになった。やりきった、と感じるまではやめられないですよ」
古くから伝わるものを守る、ということは単に保守的とは言い切れない。
それ自体が新たな挑戦とも受け止められる。
もっとい -
Posted by ブクログ
ネタバレ大好きなシリーズ第2弾。
今回も優しさの連鎖が止まらない。
その優しさにふれる度にまたまた泣かされた。
パソコンで文章を打ち込んでいると、文字はパターン化されているので文章も簡単に作れる。
活版印刷を知れば知るほど、"文字"の無限の可能性と奥深さを思い知る。
壁一面にそびえる活字の棚。
想像を遥かに越えた圧倒的な量には声も出ない。
その莫大な量の活字を積み重ねて出来上がる言葉達。
何から何までが手作業。
作った人の手の温もり、紙の手触り、インクの香り。
印刷物を通してダイレクトに伝わる、その全てが柔らかく優しい。
「印刷物は言葉の仮の姿だと思うんです。『残す』というより -
Posted by ブクログ
人の心は、その人の出会い、言葉、経験、
そこから生まれた想いなど、
幾重にも重なっていて、本人にもわからないところがある。
なぜ、こんなことをしてしまったのか、
こんなことを言ってしまったのか。
ここに辿り着いたのか。
それは、その人の幾重にも積み重ねられた
歴史からくるものなのだろう。
登場人物は、実在ではないし、
当然会ったこともないのに、
なぜか、あぁそんなことがあったんですね。
そんな想いがあったんですね。
と、読みながら語りかけたくなるような
不思議な親近感があった。
自分も、誰かの積み重なる思いの中に
優しさを一枚折り込むことのできるような
そんな人になりたいと思った。 -
Posted by ブクログ
塗師の祖父がいて、今は金継ぎをしている千絵の人生を振り返るとともに、離婚した娘、進路に悩む孫・真緒と三世代の女性が描かれていました。
じんわり温かな気持ちが広がるラスト。
しばらく余韻にひたりました。
千絵のこれまで、そしてまたここからの人生に思いを巡らせ、未来への希望と期待感で爽やかな気持ちにもなりました。
この本は「金継ぎ」の文字に惹かれて手に取りましたが、金継ぎそのものだけではなく、漆器や漆について、漆の森のこと、漆掻きをする人のこと……広くその周りの世界までのぞくことができました。
読んでいて嬉しい、楽しい!
『日本には古来そうして生まれたあたらしい景色を楽しむという伝統がある。 -
Posted by ブクログ
銀河ホテルを巡るオムニバスストーリー。
人生の前の向き方、みたいなのが軸なのかな。手紙を書くためのインクにもたくさんフォーカスされてて少し珍しくて買いたくなった。
第1話
P98の、おじいさまの言葉がとても良かったです。
『与えられるのを待つんじゃなくて、手で触って足で歩いて生きるんだ〜〜』
第2話で、主人公の心理描写に、どこかに行かなくても楽しいことは全部自分の中にある、つらいことは全部濾過されて楽しいことだけが残っている
といったようなことが書いてあって、先日高齢の祖母と久々に会って旅行したときとリンクして、美しい気持ちだなと思い、思わずホロリ。わたしもそんなふうに過去を振り返ったとき