川越を舞台にした三日月堂シリーズの3作目。
読み始めてすぐに、シリーズ2の4章「我らの西部劇」の続きだと気づいた。
1章「チケットと昆布巻き」
扉写真:校正機
「月刊めぐりん」編集部のメンバーは、イベント上映会の取材で川越シアターを訪れる。刊行された本『我らの西部劇』が活版で印刷されているのを見た3人は「三日月堂」を訪れて…。
大学のゼミの同期は皆、大手に就職。
「小さな出版社で旅行情報誌の取材、編集に追われる毎日を過ごす自分は、何のために生きているんだろう?」もがく竹野は、三日月堂で一人黙々と働く弓子の姿を見て、仕事への向き合い方を考えるようになる。今、戦っている全ての人に薦めたい一編。
2章「カナコの歌」
扉写真:弓子の亡母カナコが詠んだ歌
月刊めぐりんの「川越特集」に写っていたのはカナコの娘の弓子ちゃんだった。
カナコと裕美、そして私(聡子)の3人は大学時代にバンドを組んでいた仲間。カナコが入院中に、私と裕美は仲違いしてそれから会っていない。
弓子さんから裕美に連絡をとりたいと言われた私は…。
あの夏は愛するものもまだなくてひこうき雲に憧れていた
月野カナコ 二十七回忌
カナコの遺した歌を、娘の弓子が刷る。
カナコの遺した歌が聡子と裕美の心を、懐かしい仲間たちを結びつけるラストに胸がじんわりとした。
3章「庭のアルバム」が良かった。
扉写真:植物が描かれた樹脂凸版
三日月堂の「活版体験」で、高校生の楓はスケッチした萩の絵が綺麗な三色刷りになり驚く。
弓子から活版印刷のイベントに出す植物の絵を頼まれて…。
楓は祖母から万葉集の植物の歌を教わる。
おじいちゃんが祖母の好きな万葉集の草木を選んで庭に植えていたとわかり、祖母が泣く場面は切なくて!
「あんた、世界のすべてを知ってるわけじゃないんだから、楓のやりたいことをたまにはちゃんとみてやりなさい」と息子を叱る祖母もいいなぁ。
楓がすべての植物の絵をカードにして、庭のアルバムにする日が待ち遠しい。
4章「川の合流する場所で」
扉写真:平台
盛岡で活版の職人だった大叔父が活版印刷のイベントを見にやってきた。三日月堂のブースに置かれた『我らの西部劇』が活字を組んで刷られた本であることに気づいた大叔父と僕は…。
活版印刷が贅沢品として若者に受け入れられる時代だが「活字を組んで印刷することはもうない」だろうと思っていた。
盛岡にきた弓子さんに機械の動かし方を教えながら、刷り上がった紙を手にする大叔父の嬉しそうな顔。
祖父が組んでいた八木重吉の第二詩集『貧しき信徒』の中から選んだ詩を弓子さんと二人で刷って冊子を作る。
祖父の思いが残る重吉の版を刷ることでまた歩き出せる!
「思いを文字にして世に出す、その手助けがしたい」と思う二人がこれからどう歩んでいくのか?シリーズ完結編も是非読みたい。