あらすじ
川越の街の片隅に佇む印刷所・三日月堂。店主が亡くなり、長らく空き家になっていた三日月堂だが、店主の孫娘・弓子が川越に帰ってきたことで営業を再開する。三日月堂が営むのは昔ながらの活版印刷。活字を拾い、依頼に応じて一枚一枚手作業で言葉を印刷する。そんな三日月堂には色んな悩みを抱えたお客が訪れ、活字と言葉の温かみによって心が解きほぐされていくのだが、弓子もどうやら事情を抱えているようで――
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Posted by ブクログ
蔵造りの街、川越が舞台。
活版印刷「三日月堂」に戻って店を再開した弓子さんと、訪れる客との触れ合いを連作4編に纏めたもの。壁一面の活字の棚や、古めかしい印刷機の写真を見て、活版印刷所に足を運びたくなった。
「世界は森」
来週末、息子が北大の寮に入る。
「母さん、心配しすぎだよ。大丈夫だよ、家事なんてどうとでもなるって!」と言われたハルさん。これまで一人で育ててきた自分は何だったのかと腹立たしくて情けなくなる。母親の寂しい気持ちが手に取るように伝わってきた。
桜色のハルの名が入った便箋で息子に宛てた手紙を書く。三日月堂に頼んだ卒業祝いのレターセットには、森の緑の色で息子の名が刻まれている。亡夫と二人で、「ほかのすべての文字を捨てて、森太郎って名前を選んだ。生まれてきた子を見たとき、ああ、これでよかった」と思えた。
親から子へと手渡される思いに、何度も涙が込み上げ止まらなくなった。
「八月のコースター」
叔父の珈琲店〈桐一葉〉を継いだ僕は、ハルさんの紹介で三日月堂を訪れた。
「前に踏み出すのは怖い」けれど、活版で刷られた高浜虚子の句が僕に…。
『桐一葉日当たりながら落ちにけり』
活字を一つ一つ拾うように時を刻む。
「叔父さんが残したこの店をお客さんといっしょに作って行きたい!」と心が定まるラストに温かみを感じた。
「星たちの栞」
『われの星燃えてをるなり星月夜』
〈桐一葉〉のコースターに刷られた俳句を見て、国語教師の遠田真帆は、すずかけ祭に活版印刷のワークショップを依頼して…。
「どんな言葉も文字の組み合わせでできている。この文字の天の川のなかにある星たちでできている」
『銀河鉄道の夜』をイメージした教室の壁面に、活版で印刷された栞がつけられていく。文芸部員がそれぞれ選んだ一節の中には「『ほんとうのさいわい』ってなんなんでしょうね」の一文も! 教室に広がる宇宙…美しいその光景が見えるように思えた。
「ひとつだけの活字」
すずかけ祭で活版印刷を体験した雪乃は、結婚の招待状に祖母の遺品の活字を使えないかと、弓子さんに相談する。
戦前の銀座には活字店が多かったことを初めて知った。雪乃の曽祖父が営んでいた『平田活字店』の話が明かされていくストーリーにワクワクした。大切な活字でどんな招待状が出来上がるのだろう!
結婚前の雪乃の不安な気持ちや、弓子さんの辛い過去もわかり、またしても涙が止まらなくなった。
シリーズ2も続けて読みたい。
Posted by ブクログ
少ししずかな雰囲気をまとった素敵なお話。
活版印刷を通して登場人物たちが少しずつ繋がって、進んでいくのがすごく良い。
義母から譲り受けた本なのですが、続巻も買って読みたい。
Posted by ブクログ
昔は活字を拾って言葉を組み印刷していたという事実を再認識した。この本を読んでから、印刷博物館(文京区)を訪れると印刷技術の凄さを目で見て感じ取ることができ良かった。
Posted by ブクログ
活版印刷の魅力とともに、人の温かな思いを感じられるストーリー。
著者の「銀河ホテル」シリーズでも感じましたが、作品のもつ優しい雰囲気と言葉にまつわる物語の世界観がとてもとても素敵。
また、追いかけたいシリーズが増えました。
素敵だなぁと感じるフレーズがいくつもあって、そういうときは心の中で繰り返してしまう。
「言葉」がもつ表現力というか力みたいなものを感じることがある。それは違和感なく心にスーッと入ってくることもあれば、ちょっとした衝撃を受けることもある。
そういう読書体験が、著者の作品にはあるような気がしています。
「八月のコースター」がとても良くて、一番好きかも?と思ったのですが、次の「星たちの栞」では深く心に響くシーンがあり涙がほろり…。
噛みしめるように、ゆっくり味わって読みたいと思える素敵な1冊でした。
活版印刷のワークショップとか良いなぁ。
実は活版印刷のレターセットを持ってます。
わずかに感じられる凹凸と温もりある風合いがとても素敵で、使うのがもったいないくらい。
特別な便箋だったので、昨年秋、退職する同僚への手紙に使いました。
ほしおさんの作品は、読破を目指して少しずつ読み進めていこうと思います。
読めば読むほど、ほしおさんが好きになるなぁ。
『人のなかに思いがあって、でもその人の姿を見ていても思いは見えない。句の形、言葉の形になって、はじめて浮き上がる。思いの強さが輪郭みたいに。そして、いつまでも残る。』
『物語というのはすごいものですね。ひとりの人がつむいだものが、こうやってあとの人たちの心になにかを残す。印刷にはそれを助ける力がある。』
Posted by ブクログ
とにかくほっこりしたい時に読みたい本。
大変読みやすくて読後は優しい気持ちになる。
活版印刷に興味が湧きました。私も実物みてみたい。
シリーズ物と知らなかったので続編も読みたい。
Posted by ブクログ
川越の小さな活版印刷屋さんの店主と街の人や依頼主たちとの交流の物語。
活字好きや本好きにはたまらなくわくわくする文字と印刷のお話です。
私は活字と印刷が大好きで、「市谷の杜 本と活字館」で印刷ワークショップに参加し、活版印刷でしおりも作りました。
ちょっとしたかすれ具合も味わい深かったり、活版印刷って素敵ですよね。
そんな活版印刷の温かさと人の温かさが交わり、温かい気持ちになる物語でした。
Posted by ブクログ
◾︎シリーズ一作目
とても良かった。
心の奥から温かい何かが溢れてくるような、包まれるようなじんわりとしたもので涙が溢れた。
誰かを大切に想う気持ちと文字や言葉を通じての温かさ。
古くからあるものを通して感じる、時の流れと活版印刷によって吹き込まれる文字に生命が生まれる感じ。
とても心地よい読後感で大満足の読書になった。
Posted by ブクログ
/_/ 感想 _/_/_/_/_/_/
久々にこのシリーズを読み直そうと思い手にしました。私の大好きな作品です。全シリーズ購入して持っているので、好きなタイミングで読めるのがいいですね。ゆっくり、全巻読んでいきます。
祖父が経営していた印刷所を、孫娘の弓子が継いで再開するお話なんですが、活版印刷と弓子の想いを通じて、皆が前に進んでいきます。
弓子は活版印刷を再開したばかりで、新しいことに挑戦していきますが、「慣れたことだけをしていてはダメ」という言葉に共感します。今までに経験していない新しいことにいつまでも手を出していきたいと思わせてくれます。それこそ、活版印刷をやってみたいという気持ちは、以前この作品を読んだ時から持っています。来年はやってみようと思います。
以前読んだ時は、感想を書いていなかったためか、記憶にない部分が多くて、初めて読んだような感じでした。序盤からジワっと涙が溢れてきて、とても心が動かされました。
とても温かさを感じる作品で、多くの悲しみや迷いの感情の中で、ジワリと幸せを感じることができる作品です。この作品を読むと、静寂に包まれる感じになるとともに、前へ進んでいく気持ちになります。
/_/ あらすじ _/_/_/_/_/_/
連作短編集です。
各話で主人公となる人物と、弓子と活版印刷を通じて、皆が前に進んでいくお話です。
■世界は森 ハル
ハルの息子の森太郎が北海道大学の入学に合わせて、巣立っていきます。
弓子は活版印刷でレターセットをつくります。
■八月のコースター 岡野
喫茶店を経営する岡野、元経営者の叔父さんと自分を比べて苦悩する日々を送っています。
弓子は活版印刷でショップカードとコースターをつくります。
■星たちの栞 遠田
宮沢賢治の作品に関わる思い出を持つ遠田先生と、生徒二人が、活版印刷のワークショップに関わっていく。
弓子は活版印刷のワークショップを開き、栞をつくります。
■ひとつだけの方じゃ 雪乃
結婚を控えた雪乃が祖母が持ってい活字を使って招待状を作りたいと考える。
弓子は活版印刷で結婚式の招待状をつくります。
/_/ 主な登場人物 _/_/_/_/_/_/
■三日月堂
月野弓子 28歳、不器用、気まじめ、職人気質
■ランニング仲間
市倉ハル 川越運送店
市倉森太郎 しんたろう、ハル息子、北海道大学、大学生
大西 観光案内所のバイト、文具フェチ、20代、大学院生
柚原 30代後半、背が高い
葛城 ガラス店兼工房経営、男性
■桐一葉
岡野
■私立鈴懸学園(高校) すずかげ
遠田真帆 おんだ、先生
村崎小枝 文芸部部長、高校2年生
山口侑加 〃
■結婚を控えた2人と友人
雪乃 大西の一年先輩、司書
宮田友明 結婚相手
金子 デザイナー
/_/ 機械 _/_/_/_/_/_/
■手キン
手刷の機械
Posted by ブクログ
活版印刷の店を受け継いだ若い女性。
手作りの小さな印刷物のいとしさ、しっとりした雰囲気の連作短編集です。
川越の町の一角に、ひっそりと「活版印刷三日月堂」があります。
ドアから覗くと、大量の活字が上から下までびっしり並んでいる迫力な店内。
店主の弓子はまだ若い女性だが、もう身内がいないのでした。
祖父から受け継いだ店の、大きな印刷機はもう使えない。
それでも子どもの頃の思い出が懐かしく、小さな印刷機を動かしてみると、活字を一つ一つ選んで並べた仕上がりには、独特な味わいがありました。
そんなお店があることにふと気づいて、やってくる人々。
依頼するお客さん達の視点で描かれ、話を聞いた弓子さんの提案によって、小さな願いや悩みが少しずつ整理されていきます。
巣立つ息子へ送る名前入りのレターセットや、月替わりのコースター、結婚式の招待状など。
本人の好みと、受け取る相手への優しい思い。
微妙に不ぞろいだったりする活字のどこか古風な雰囲気に、気持ちがこもっていて、手に取った人が笑顔になる。
6作を、楽しみに読んだシリーズです。
だいぶ前だし、色々な方がレビューされていたからいいかとも思ってましたが。
やはりこれは好みなので、アップしておきます。
Posted by ブクログ
それぞれのお話の登場人物たちが、活版印刷を選んで、惹かれていく過程がなんだか良かったな。自分も印刷されたコースターが欲しくなった。
最後のお話では、過去や関わってくれた人たちが、自分を守ってくれて、新しい場所に連れて行ってくれるのが感じられてなんだかグッときた。
自分も、今まで選択してきたことは、過去があるから選べたんだろうなと。
そこからの、結婚を船出に例えているのも沁みた。
Posted by ブクログ
活版印刷のこと自体、なーんにも知らないので、大丈夫かなあ?と少し不安になりながら手に取ったけど、とてもよかったです!
活版印刷の繊細さと、登場人物達の繊細な心のヒダがとてもよくマッチしていいい雰囲気です。
店主である弓子さんのミステリアスだけど、どこまでも人に優しい振る舞いに感激しました。
★世界は森
母子家庭の一人息子の進学という旅立ち。
母であるハルさんの喜びと寂しさ。
とても心に染み入りました。
★星たちの栞
多感で繊細な女子学生二人の心のやり取りに涙しました。
活版印刷について、自分でも少し調べました。
私の人生で、これから名刺やショップカードを作ることはないだろうけど、
とても素敵でした☆
Posted by ブクログ
昔ながらの印刷所がある川越が舞台
それぞれの大切なものを尊重し、その柔らかな気持ちが次に繋がっていく…好きだなぁ…
活版印刷にしか表現できない温かみが文章から伝わってきます
シリーズがあるなんて嬉しい また弓子さんたちに会えるんだ
Posted by ブクログ
好きな街、川越。
実在の街に、本当に実在するかのような人たち。
街のありようのように、優しく、あたたかい。
活版印刷の味わいもいい。
全て、ゆっくりと、着実に進んでいく時間が
この作品の中に流れている。
過去を味方にして、出会いを大切にして
日々を生きてゆく。
その時間がまた、改めて愛しく思える作品。
シリーズ全作、読んでみよう。
Posted by ブクログ
川越にある小さい印刷屋さんと街の人たちの物語。
どの話も心温まる結末で、前の章の人の紹介で新しいお客さんがやってくるという構成が街の人のつながりを感じてよかった
活版印刷興味出てきたし、今でも使う改版・絶版が活字の版のセットを取り壊すことだったのを初めて知れた
物語内で作ったものをどれも現実でも見てみたくなった
Posted by ブクログ
別シリーズでほしおさなえ さんにドはまりして
こちら2冊目。
毎度思うが、日本語が本当にうつくしい。
ほしおさんの言葉に対する感覚、センスが文章を通して伝わって来て、他では味わえないような心が満たされる感覚がある。
日ごろ、私は、日ごろそこまで日本語に対して研ぎ澄まされた感覚がない。でも、ほしおさんの文章を通して、いつもは感じない語の海に浸れる。
奇をてらった文章や構成ではないはずなのに、何気ない一語一語が心に染みいってくる。
そして案の定、ラストでは涙ぐみながら読みましたとも。
Posted by ブクログ
はじめての作家さんです。
シリーズもの大好きなので
楽しみにしていました。
活版印刷 三日月堂
名前からして
現実にあれば是非行ってみたい
雰囲気があふれています。
かわいかったり、素敵な文具類を
見るのが大好きな私なので
三日月堂の名前入りの便箋封筒や
カフェの素敵なショップカード
俳句が印刷してあるコースター
など、わくわくするような
お話ばかり…
三日月堂の弓子さんをはじめ
周りにいる温かく、少しだけ
悩みをもつ人たちもみなさん素敵な人たち
センスがよくて温かみのある作品が出来上がっていくたびに三日月堂は愛着のある印刷屋さんになっていきます。
続きが読めると思うとこの街の一員になれたようでとてもうれしくて次がまた楽しみです。
Posted by ブクログ
川越にある架空の活版印刷三日月堂
そこに舞い戻ってきた女店主、弓子さん
1話目は
川越に精通してる女性とその息子の話
2話目は
川越でカフェを営んでいる男性の話
3話目は
文芸部の顧問をしている国語の女の先生の話
4話目は
結婚と海外へ行くことを控えている女性の話
どの話も素敵だったから続きが気になる!
2話目の弓子さんの「人は誰かの代わりにはなれない」っていう言葉が響いたな。
ほんわか温まる物語の集まり。
Posted by ブクログ
ふれる機会のなかった活版印刷というものを知り、
文字の温かさとか、残されていく技術の大切さを感じながら読み進めた。
穏やかな中にも芯を感じる物語で、読んでいてとても心地よかった。
Posted by ブクログ
1話目が特に好き!読んでて活字の良さを感じて読書好きになりそう。どう表現したらいいかわかんないけど、紙の質感インクの匂いとか、見えないし触らないのに読んでて感じることができて好きな作品。まだ2巻までしか見てないのでまた読み続けたい。
Posted by ブクログ
私は活字が大好き❤1話めのお話は数年前に体験した息子との別れを思い出し、気持ちがシンクロしすぎて、なんとも表現し難い気持ちになりました。私の幼い頃、母が和文のタイプライターで内職していたことを思い出した。懐かしい暖かい気持ちになれた。
Posted by ブクログ
活版印刷所「三日月堂」から繋がる人との出会い。
どれも温かく、微笑ましい。
希薄になりがちな人付き合いや、無機質に感じる印刷物からは見出せない大切なことを思い出させてくれた。
Posted by ブクログ
ほしおさなえの活版印刷三日月堂星たちの栞を読みました。
舞台はやはり川越です。
五年前に止めてしまった印刷所に灯りが点いているところから始まります。
活版印刷の良さや思い入れが温かい物語として描かれています。
35年くらい前、マックでDTPが出来るようになり、今ではすっかりパソコンで何でも出来るようになりました。
今また活版印刷が見直されています。
世界は森、八月のコースター、星たちの栞、一つだけの活字の四編から校正されていますが、面白かったです。
星たちの栞は銀河鉄道の夜を扱っていて、また銀河鉄道の夜を読んでみたくなりました。
Posted by ブクログ
東浩紀さんの奥様ってどんな方だろうと思って読んでみた。予想通り、感情豊かで味わい深い物語であり素敵な方なんだろうなと思った。
「舟を編む」のときも思ったけど、言葉を扱う道具って、人の思考や表現やコミュニケーションに直接関わるものなので奥が深いし、それを生み出したり届けたりする人の責任感は予想以上に強いものだなと考えさせられた。
そして、活版印刷を中心に交わる登場人物達の背景や心情の切実さとか純粋さが印象に残る物語だった。特に「まわりから見て個性に映るものって、その人の世界への違和感から生まれるものなんじゃないかな。それが強い人ほど人を惹きつける。でも、本人にとっては苦しいものでしょう? それに耐えられるほど強くはないかもしれない」という言葉は、日頃自分も実感していることであり、思わず唸った。
人の生き様はそれぞれ尊いものだと感じた。
Posted by ブクログ
【活版印刷三日月堂シリーズ01】
活版印刷というものを知らなかったが、ほっこり系のシリーズものと知り読み始めた。
・世界は森
お節介で面倒見のいいハルさん。ハルさんは夫を亡くしており、運送屋で働く。一人息子の森太郎が北海道の大学に進学するので、お祝いのプレゼントを悩んでいた。
その時に、活版印刷の『三日月堂』の孫である弓子さんが、川越に住み、運送屋のバイトをしたいと言ってきた。
そこで学生時代に憧れで、ハルさん自身がお祝いでもらった三日月堂のレターセットを思い出す。
『三日月堂』は祖父母・両親を亡くし、弓子さん一人で住んでいるが、学生時代に祖父と作業をしていたため、小さい機械なら動かせるから、とハルさんのためにレターセットを作る。ハルさんの息子の想い、すごくよかった。
・八月のコースター
伯父から受け継いだ喫茶店「桐一葉」のマスター岡野。
伯父の思いのつまった店で、何か変えたいけど変えたくない。そんな時にハルさんから『三日月堂』を教えてもらい、ショップカードを作ることに。
弓子さんは一緒に何をつくるのがいいか考えてくれ、コースターを作成する。
岡野は岡野らしい「桐一葉」を作っていけているし、弓子さんも活版印刷にのめりこむ。
・星たちの栞
高校教諭が文芸部の生徒と鈴懸学園の学園祭で、弓子さんにお願いして活版印刷のワークショップをすることに。
教諭の友人関係と文芸部の友人関係が、文字を通して和解していくのがいい。
・ひとつだけの活字
結婚式前に、川越に活版印刷のお店があることを知った雪乃。実は雪乃の祖父が銀座で活版印刷の活字店をやっており、すべて戦争で失ってしまったが、祖母がひらがなだけのフォント活字を持っており、雪乃がもらっていたので、それで結婚式の招待状を作ることになる。
弓子さんとともに銀座の活字店を訪れ、雪乃さんの祖父のことも知ることができる。
活版印刷の良さと弓子さんのキャラの良さが、優しい話を紡いでいく。
Posted by ブクログ
アナログでレトロなものや、紙ものの質感が好きな人にはたまらない小説だと思う。
レターセット、ショップカードにコースター、栞、結婚式の招待状。活版印刷ならではの味わいを堪能できるアイテムが各章で登場し、一つ一つの言葉に込められた「想い」が活版印刷により「重み」を与えられてそれらに刻まれる。以下好きな描写の引用を2つ。
くっきりした文字だった。「刻まれている」と感じた。ふつうの印刷だと紙に文字が「張りついている」感じだが、これは凹んでいるわけではないのに「刻まれている」。文字ひとつひとつが息づいているみたいに見える。
コンピュータのなかでは文字に重さがない。厚みもない。「もの」じゃない。だけど、活字には身体がある。重さも、大きさもある「もの」だった。
フォントもレイアウトも自由に組み合わせられて便利になった反面、言葉が本来持っている重量感を感じる機会はめっきり減ってしまっていたのだな、と気付かされた。
ちょっと分類は違うけど、自分が本も手帳も紙派なのは、言葉の重量感がデジタルよりは感じられるからなのかもしれない。
作中で登場したコースター、リアルにあったら喫茶店の常連になってしまうなぁ。
それとは別に、今の自分に対して雪乃さんのおばあちゃんの「仕事はいつだって探せる、でも人の縁はそうそう見つかるものじゃない」という言葉がじんわり沁みた。
たしかに仕事は外からなんとなく見えるから探りやすいけど、人の縁は内側まで踏み込んでいかなきゃなかなか探せないもの。今後の自分の指針として心に留めておきたいフレーズだった。
Posted by ブクログ
ほしおさなえさんの作品が好きで、ずっと気になっていた一冊。
活版印刷という静かで手間のかかる仕事を通して、人と人との心の機微が丁寧に描かれていて、読むたびに穏やかな気持ちになれました。
大きな事件は起きないけれど、そのぶん登場人物たちのちょっとした一言や表情がじんわりと沁みてきます。
自分の心のざわつきも落ち着いていくような、そんな読後感でした。疲れているときや、やさしい物語に包まれたいときに読み返したい一冊です。
Posted by ブクログ
文字に実体があり触感がある
凛とした感じもあり、優しさもあるような
あー、いいなぁ活版印刷
三日月堂で働きたいな
舞台は川越
その街の中で生きる人達の物語