長野まゆみのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ鳥貝には可哀そうだけれども、百合子の鬱屈に心が向く。
夏目と本当の兄弟のように育って、本当の兄として慕ってしたけれど、夏目には血の繋がった本当の弟がいた。自分には助けられないけれども、本当の弟だったら夏目を助けられるかもしれない。それなのに夏目は、何も知らず幸せな生活を送っている弟のことを思って、彼が成人するまでは心を乱させたくない、とほとんど会ったことがないはずの弟のことを思いやる。だからどんな奴か確かめてやろう、くらいの気持ちで遠巻きに観察してみたら、……ミイラ取りがミイラになった。
鳥貝が東京に来た時点ではすでに好きだったのにそれを悟らせたくなくて、自分は悲しくてあんなに泣いたのに実の兄の死さえ知らずに泣きもしていない鳥貝に腹が立って、小学生のような意地悪をしてしまう。
さらに鳥貝が案外良い奴だったことも災いしたかもしれない。もっと嫌な奴だったら、真正面からののしれるのに。夏目はお前のせいで死んだんだ、って。でも実際の鳥貝はそんなことを言う気が失せるほどに、真っ当に育てられてきたことが分かる人物なのだ。そんな鳥貝の生活を夏目が守ろうとしたように、百合子も守りたくなった。
文庫本になって題名が変わったけれど、手に取ってもらうためには良い題名になったと思う。
でも、この物語の肝はやはり「白いひつじ」だな、と思った。
ポシェットに縫い付けたひつじのアップリケを自慢げに見せる幼い鳥貝。記憶はおぼろげながらも、その白いひつじに安堵や優しさを想う夏目。
鳥貝=白いひつじとしての夏目の想いを、友人たちがふわりと包みこむ。
鳥貝は、いなくなった夏目の代わりではないけれど、自分たちの新たな「弟」として、優しい気持ちや真っ当な生き方、きちんと食事をとること、そんな何気ない生活の真ん中にあるものとして、その象徴として「白いひつじ」があるのだと思う。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ地図に導かれて、あるいはエルヴィラ・モンドに導かれて、リュスの出自が明らかになっていく。
リュスは何も期待せずに、ひっそりと生きる青年。
謎めいた地図にも、不思議なめぐりあわせにも、心を躍らせたりしない。
目立たないように生きることが、彼の処世術なのだ。
そんな彼が本当の家族に出会うまで。
とても良く出来たシンデレラストーリーだ。
珍しく伏線回収もしっかりされている。
でも、その物語自体は小さくまとまっていて、冒険活劇でもなければ、感涙必至でもない。
この物語の魅力は、ストーリーではなく、随所に散りばめられた小道具にある。
イタリアを思わせる異国の街。
日記としての地図。
つつましいプディング。
紅い封蝋(ワックス)つきの封書。
そういう細部が読んでいて楽しいところだ。
だから、文庫版のカバーイラストはとても良かった。
このイラストの鑑賞体験と、本文の小説の読書体験は、とてもよく似ていると思う。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ日常の中の不思議も、意味を知ってしまえば不思議でなくなることがある。
でも、それは時に本当の異界に繋がっているかもしれない。
立彦と熊谷さんは、似たような存在なのだろうか。
子供の頃の立彦は神経質だったのではなく、何かを感じ取っていたのだろう。
初島さんと熊谷さんと立彦、そして逸子も、あちら側に繋がりを持っていて、佐保や佐保の母は鈍感に日常を生きている。その対比が奥行きを持たせる。
本筋に関係がなさそうなのによく登場する髪は神に通じ、逸子の髪は針刺しを作るために売られ、こちらとあちらを繋いでいる。ようにも見える。
蝶は、死者の符号というところか。
でも肝心の蛇が何を指しているのかは分からない。
姉妹は、逸子と咲也のことであり、逸子の曾祖母と菊屋のおばあちゃん(?)の姉妹のことでもある。その二重写し。
そうは言っても、しりとりのことも、宝のことも不明瞭で、確かなことは何もない。あるとすれば、それは佐保の見ている世界だけれど、それさえも八歳の年の差が見えなくしている部分もある。
結局、死者は死にゆき、生者はこれからも生きていくのだ。