Posted by ブクログ
2020年03月21日
猫ってそっちの猫かーい!というツッコミは他の方のレビューを事前に読んでいたので出なかった。しかしこれまで読んできた長野さんの小説の中ではとりわけ耽美でしっとりしていた気がする。大変好きです。はい。
〈猫飼亭〉という立派な屋敷に住まう美しい兄弟たち。そしてその屋敷に誘われた青年たちに起こる不可思議な出...続きを読む来事を蠱惑的に描いた作品集。それぞれの話は独立しているが、共通して猫飼亭の兄弟たちとの関わりを持っている。長野さんの小説にありがちな、透明な細い糸で登場人物たちが実は繋がりを持っているという構造になっている。
最初と最後のお話では大学生の梓一朗が主人公となっている。一朗は女友達との旅行費を稼ぐために学生課で紹介された猫シッターのアルバイトを引き受ける。同じく雇われた日暮星とともに猫飼亭に訪れると、屋敷の住人である駒形芳白に出会い、「猫になる」という契約を結ぶ。もうこの時点で勘のいい読者は「一朗逃げろ!」と思うが、芳白の使う隠語を理解できていない一朗はすんなりと契約を結んでしまう。しかし「逃げろ!」と思っていても本心ではこのまま溺れてくれ、とさえ願っている自分がいる。悔しいがまんまと長野さんの術中にはまっている。
またこの本のよいところは、長野さんの用いる美しい言葉遣いだ。猫飼亭を装飾する骨董品や芸術作品の数々が丁寧に紹介されていて、想像が膨らむ。また、『鳩の栖』と同じように、今回も桜の季節から始まり、四季折々の物語が展開している。
「桜の季節には、日ごろの無粋者もすこしは景色に心をうばわれ、春らんまんの花吹雪に酔いもする。」
この一文から物語は幕を開け、美酒に酔いしれるかのような心地よさに揺られる。これから一朗が体験する不思議な出来事を予兆するかのような妖しさを含んでいてどきどきしてしまう。