北村薫のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
映画「朽ちない桜」つながりで、この作品に。
短編集の中で、気に入ったのはふたつ。
・泣く猫 柚月裕子
17年音信不通であった母が死んで、真紀は母の住処に訪れる。母の同僚サオリが弔問に訪れる。
母が大切にしていた猫・マキは母のために泣いたという。
P.76
(中略) あっけらかんとした人生じゃなかったと思うよい サオリは俯いたまま、自分のことのように語る。
「男に夢中になると、ほかが見えなくなっちゃう。男と別れたあと、自分がしでかしたことを後悔する。そんときは、もう男なんかいらないって思うけど、好きなやつができ ると、また突っ走る。そして別れて悔いての繰り返し、心底、自分で自分がいやになる。 だから、悪い酒を呑む。そりゃあ身体もダメになるよね」 サオリは顔をあげると、真紀を見た。
「別にあんたに、母親を許せ、なんて 言ってるんじゃないよ。ただ、猫が泣くんだから、あんたが泣いてもおかしくないって言いたいだけ」 じゃあ、そう言って、サオリは部屋を出て行った。
真紀はしばらく、その場から動けずにいた。 やり場のない怒りと、悔しさが胸に渦巻いている。それはサオリに向けられたものではない。自分に対してだった。
テーブルの下で泣く猫を怒鳴った理由は、自分でもわかっていた。あんな母親のため に、泣きたい自分がいることに、気づきたくなかったからだ。 耳の奥で、忘れかけていた母の声がした。ひとつの布団に一緒に入り、後ろから抱き しめられたときの声だ。
「お前は優しいね。ほんとにいい子。」
その声を吹っ切るように頭を振ると、部屋に戻って窓を開けた。忍っぱい風が、頬にあたる。
下を見ると、空き地にマキがいた。前で顔を洗っている。真紀の視線に気づくと、 二階の窓を見上げながら、ひと声ないた。 マキが、ビルの隙間に姿を消す。
真紀は猫が消えた先を、見つめた。 マキが本当に泣いたのかはわからない。だが、真記の頬は濡れていた。
(後略)
猫は人の感情がわかるという。犬もそうだと思うが( 私は今は、とりあえず 犬派)。
・「黒い白猫」 東山彰良
異世界の話のようだ。強烈。 -
Posted by ブクログ
出版社に勤める体育会系の娘と高校の国語教師で本好きの父親による日常の謎解きで、8篇から成る短編集。
父娘の関係性がなんとも言えずほんわかと良好で、こんな父娘関係いいな〜と思えてしまいます。
本文に
『ただの《オヤジ》なんですけどーー謎をレンジに入れてボタンを押したら、たちまち答えが出たみたいで、本当にびっくりしたんです。』
という一文が示すように、娘が持ち込んだ謎をあっけないほどあっという間に推理してしまうので、ちょっと物足りなさも、、、。
お父さんスゴすぎる!なぜこれだけのヒントを元に謎解きできるのか?!
でも日常ミステリー系の短編小説ってそんなものでしょうか。
出品した覚えのない作品が出版社の賞の対象になってしまった『夢の風車』と、はずれた宝くじが盗まれた『数の魔術』が良かったです。 -
Posted by ブクログ
本書の元版は2002年刊行の『はじめて話すけど…』(フリースタイル)で、文庫のボーナストラックとして北村薫との記事が新たに収録されている。聞き手の小森氏は「短編ミステリの二百年」の編著者であるから、そのご縁での創元推理文庫入りだろうか。
〇各務三郎さん、懐かしいお名前。各務さんもミステリマガジンの編集長をされているのか。田村隆一、生島治郎、都筑道夫、常盤新平など錚々たる人たちが早川書房の草創期に働いていたのだな。
〇皆川博子さん、皆川さんには濃いファンが多いと聞いたことはあるが、残念ながらその著作を一冊も読んでいない。子どものころに読んだ本のことをこんなにも覚えているものなのか。巻末付録の「皆川博子になるための136冊の本」は戦前の本から最近の本まで、日本のものから外国のものまでバラエティに富んでいて、タイトルを見ているだけでも楽しい。
〇三谷幸喜さん、「作戦もの」について熱く語っておられる。理想とする作戦ものの条件を占めつつ、具体的に作品の長短を指摘するのだが、中でも「スパイ大作戦」は名作との評価。これまたほとんどの作品を見たことがないのだが、文章からだけでもその言いたいことは伝わってくる。「古畑任三郎」シリーズのことなど自作品の作劇術のことなどを率直に語っているところも興味深い。
〇法月綸太郎さんはアントニー・バークリーについて語る。世界探偵小説全集で『第二の銃声』の新訳、さらに『ジャンピング・ジェニイ』の刊行などでバークリーの再評価が始まった時期に行われたインタビューだったが、まだその全貌は出ていなかった。『殺意』と『レディに捧げる殺人物語』もキモになる作品なのだが、あまりに昔に読んだきりなのでほとんど記憶に残っていない。このインタビューを読んで、バークリーを再読したくなった。
〇石上三登志さん、お名前は知っていたがその評論を読んだことはないので、このインタビューは興味深かった。自らの好き嫌いの評価軸がはっきりしている方のようなので、名作と言われている作品でもはっきり面白くないと言っているところなど面白かった。
〇松岡和子さん、劇団雲に2年弱在籍していとは知らなかった。主にシェイクスピア戯曲の翻訳について、役者さんの疑問から自分の訳語や訳文、解釈の見直しに至ったことなど、深い話が聞ける。
〇和田誠さん、本業のデザインやイラストのことはもちろん、アメリカ映画やミステリーなどバタくさいものが好きとのこと。
〇北村薫さん、イーディス・ウォートン「ローマ熱」を熱く語る。すぐにも読みたくなった。 -
Posted by ブクログ
「編集者」が主人公の小説を探していたところ、ネットで名前が挙がっていたので手に取りました。
実際には編集の(というよりも編集者での勤務の)過程で出会った「謎」についてのミステリという感覚の連作短編集です。
主人公の田川美希が謎に遭遇し、それを中野に暮す父親に相談する。すると、父親がその膨大な文学・芸術についての知識や蔵書を活用して謎を解く、というのが全話に共通する流れで、いわゆる「安楽椅子探偵」モノとも言えるかもしれません。
文学作品につらなる謎を解く、という設定は「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズにも通ずるものがありますが、「ビブリア」シリーズが”本を持ち込んだ/それまで所有していた人”の抱えた謎が中心であるのに対し、”本や作品そのものにまつわる謎”がメインテーマとなっていることが本作の特徴だと思います。
国語教師をしているという美希の父親の豊富な知識やわかりやすい解説は文学史に興味がない読者にとっても「読ませる」文章ですし、これをきっかけに文学の世界に興味を持つ人も増えるのではないかと思います。
気軽に読むことのできる文学ミステリとしてお薦めできます。
一方で、「編集者」の仕事そのものについてフォーカスされている部分は決して多くなく、出版業界のお仕事小説という要素を期待すると肩透かし食らうかもしれません。 -
Posted by ブクログ
「北村薫」の長篇SF作品『スキップ』を読みました。
「北村薫」の作品は2年半前に読んだアンソロジー作品『眠れなくなる 夢十夜』に収録されている『指』以来ですね… 久しぶりです。
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まどろみから覚めたとき、17歳の〈わたし〉は、25年の時空をかるがる飛んで42歳の〈わたし〉に着地した。
昭和40年代の初め。
わたし「一ノ瀬真理子」は17歳、千葉の海近くの女子高二年。
それは九月、大雨で運動会の後半が中止になった夕方、わたしは家の八畳間で一人、レコードをかけ目を閉じた……目覚めたのは「桜木真理子」42歳。
夫と17歳の娘がいる高校の国語教師。
わたしは一体どうなってしまったのか。
独りぼっちだ――でも、わたしは進む。
心が体を歩ませる。
顔をあげ、《わたし》を生きていく。
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1995年(平成7年)8月に「新潮社」より書き下ろしで出版され、第114回直木賞候補となった作品… 時に翻弄される人を描いた「時と人」三部作の第1作目にあたる作品です。
「一ノ瀬真理子」は高校2年の17歳… 雨で運動会が途中で中止になってしまった、、、
翌日にある文化祭では毎年男子校の生徒がやってきてフォークダンスを踊る事になっており、「真理子」は去年踊る事が出来なかったので今年は踊りたいと思っていた… だが、雨が止んだとしても地面が駄目になってしまっているだろう。
「また来年がある」と、諦めるしかなかった… 家に帰り、レコードを聴きながらうたた寝をする、、、
そして目を覚ますと、見知らぬ部屋に居た… 服も全く違うモノになっていた。
玄関の方から音が聞こえてきたので恐る恐る向かうと、自分と同じぐらいの少女「美也子」が家に入ってきた… 状況が呑み込めない「真理子」は「美也子」と話していく内に、自分がつい先程まで居た時から25年も経っている事、「美也子」が自分の実子である事、そして夫「桜木」が居る事を知る事になる、、、
実家はもう既になくなっており、その上両親も亡くなっていたのだ… 時代の変化に翻弄されつつも、このままだと亡くなった両親に顔向けが出来ないと自分を「ロビンソン・クルーソー」に例え、役回りは出来る限り果たそうと決意する。
そんな最中、家にある電話がかかってくる… 相手は桜木真理子が受け持つクラスの生徒で、暴走族に入ってパンチパーマをかけてしまったと言うのだ、、、
突然の事に戸惑った「真理子」は「美也子」の力を借り、生徒の連絡先を調べるべく自分の職場である学校に行く… そこで他の先生から新高3の国語の実力テストの話を聞き、この時代で生きていくためにも「桜木真理子」となって、その実力テストを作ることを決意する。
きっかけにはSF的な仕掛けが取り入れられていますが、内容はSFというよりは、一人の少女が大人の女性として成長する物語… 25年の歳月を飛び越えて、成長せざるを得ない状況に追い込まれながらも前向きに生きようとするヒューマンドラマでしたね、、、
17歳から42歳って、人生の中で本当に重要な25年間がぶっ飛んでしまっているわけで… それを素直に受け止めることなんでできないし、悲観しかできない状況ですが、それを乗り越えようとする「真理子」に感情移入しながら、寄り添いながら読めて、とても愉しめました。
面白かったので… 「時と人」三部作の『ターン』、『リセット』も読んでみたいですね。