朝井リョウのレビュー一覧
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―笑いながら、少しだけ寂しくなる。
“ゆとり世代”が、大人になる瞬間を見た。
この本を読み終えてまず思ったのは、「ゆとり」は終わった、という静かな確信だった。かつて“ゆとり”という言葉に振り回され、自虐し、笑い飛ばしてきた世代が、もう“ゆとり”を名乗らなくても生きていけるようになっていた。それは敗北ではなく、成熟のかたちだと思う。
『時をかけるゆとり』と比べると、語りのトーンは明らかに落ち着いている。朝井リョウの筆致には、もう若者特有の「焦り」や「自己嫌悪」よりも、“これまでを見渡す余裕”がある。笑いの中に、年齢を重ねた温度が滲むのだ。特に「腹と修羅」や「ホールケーキの乱」には、かつての勢 -
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秋から冬へ移行するこの時期に、押し合いへし合いする朝の満員電車の中で、これを読んだことが過ちだった。
後悔は先に立たず、である。
読めばわかるが本書は失笑の連続だ。ちなみに言っておくと、失笑は「笑ってはならないような場で、あまりのおかしさに、思わずふき出してしまうこと」である。
察しの良い方はお気付きであろう。そう、この本は読めば唐突な笑いに「ぷっ」と吹き出してしまい、周りに人がいれば「なにあの人、キモチワルイ」と白い目で見られる、そんなオプションがついているのである。
それが文庫なら1,000円以下で手に入る!実にお買い得!!───とはならない。
こちらとしては出会い頭の衝突事故そ -
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5作の短編から構成されている。
どういうテーマで書かれているか知らずに読み始めたからか、1作目の途中からの雲行きの怪しい展開にゾッとした。
そこからはどの作品も最後にはえ!?そういう展開!?という驚きが隠されているのでは?とある程度結末を予想しながら読んでいたが、それを超えてくるゾワっとする後味を残してきた。
何にでも理由を求める風潮があるけれど、なんとなくでやってることの方が多いと思う。ふと思いついたものを文字に起こして共有してくれるのが、小説家のお仕事なので、これからも私のような凡人には想像し得ない独創的な世界や価値観を私に見せてほしい。 -
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話も面白いが、毎回作者の言いたいことがありそのメッセージに痺れる。
【以下本文より】
自分とは何かが必ず違う誰かと共に、この世界で生き続けるしかない、今その方法を考え続けることは考え続けながら生きることは、これまで連綿と続いた分断の歴史という巨大なものに立ち向かうこと、そのものではないだろうか。
それって、結局生きてるだけでいいってやつを言い換えただけじゃないのか?
そうかもしれない。だけど、実際に何も特別なことはしなくていいんだ、自分だけにできることも、世の中への多大な影響力もいらない。自分とは必ず何かが違う誰かとここで暮らし、対立しては、対話をする、それでいい。その繰り返しの先には対立を -
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ネタバレ解像度の高さが、さすが朝井リョウ。
“武道館”を合言葉に活動するアイドルグループ「NEXT YOU」。
主人公はそのメンバーのひとり、愛子。
幼い頃から歌って踊ることが大好きだった愛子と、共に夢を追うメンバーたちが、夢を叶えるために日々活動を続ける物語。
ただ、単純なサクセスストーリーでは決してないのが本作の面白さ。
ファンには見せない裏側が、時にファンにとっては残酷なほど緻密に的確に描かれており、その解像度にただただ感心させられる。
これが10年前に書かれたというのが衝撃。
崩れない前髪、落ちないヘッドドレス。
配信サービスが当たり前になった今だからこそ、その価値が問われるCDと特典商 -
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風見鶏が自分の意思で興味ある方向に首を伸ばしているかのように振る舞う流行も、一応流行とは言われないほどの期間関心を持たれ続けているから風見鶏らしさを意識せずにすむような分野も、似たり寄ったり、五十歩百歩では。
心から気に入っています、と理屈抜きで夢中になれる感覚をくれるものは、アイデンティティというものの不安定さや、もしかしたらそんなもの存在しないのではないかという疑念を感じさせない
世界情勢や社会問題に対して自分の意思を表明する、劣等感から心を守るために自分に対する負荷を適度にして生きる、どれもただの、「こうするといいっぽいよね」っていうどこかしらの誰かに都合よく作り出された考えにすぎない。 -
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カオル(オーディブルで読んだので音しかわからない)が開発したソフトがお披露目されるシーンで、「いやまさかね」と思ったまんまのソフトで笑った。それはやってはダメでしょう。でも2025年の今、アートの世界はAIが作ったものが圧巻している。私はアーティスティックな人間ではないけれど、触れるもの、身の回りに置くものは人間が作り出したオーセンティックなものにしたいので、カオルが目指す世界は理解できない(もちろんAIのお陰で利便性が高まることも理解した上で)。ていうか大学で研究が及ぼす倫理的な影響について触れなかったんかい。そこに盛大にツッコミたくなった。
カオルは、親友の夢がいつの間にか自分の夢になって